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第三章 戦争なんて真っ平御免だ
労働基準法が機能しろよ
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「パトリック様とグレース様……⁉︎ こんな朝早くから何をしているんですか⁉︎」
「おはよう。ノラ」
「お、おはよう……!」
「え? あ、おはようございます……じゃなくてですね! あたしが言っているのはどうしてお二人がこんなところにいるのかと聞いてるんです! ここは厨房ですよねって……本当にここ厨房か⁉︎」
あたしが魔王城に来て初めての朝を迎え、朝食を作ろうと朝日が昇るのを合図にベットから起き上がり昨日案内された厨房へ向かうと、そこにはなぜかすでに爽やかに挨拶をしてくるパトリック様と野菜を切ることに格闘しながら緊張した面持ちで挨拶をしてくるグレース様がいた。
条件反射で挨拶を返してしまうが、あたしは改めて二人に詰め寄りつつ、昨日の慌ただしさでしっかりと現状を把握できなかった厨房の有様にビビることも忘れなかった……何この、見るも無残な汚さの厨房は⁉︎ 絶対に何か出るよってか、住んでるよ⁉︎
壁は火事でもあったのかと思うほど真っ黒で、洗い場には山のように積まれた手付かずの皿の数々、さらに床には様々な食材の切れ端が落ちていて……どうして、こんなになるまで放っておいた⁉︎
昨日は自分の魔法スキルが発覚し、これで自分も心配をかけずにあのクソボケ大魔王に立ち向かえると興奮のあまりに久しぶりに好き放題言いたいことを言いまくったせいと、緊張が解けたせいで、あたしはいつの間にか眠ってしまっていたようだった。
けど、あたしの役目がパトリック様とグレース様のお世話であることは変わらないわけで、それ故になぜにその二人がこんな大惨事な厨房で野菜を切っているのかを把握しなければならないわけで……
「えっと、タービュランス達が起きてくる前に朝食の準備をしてて……」
「朝食⁉︎ グレース様が……もしかしてパトリック様もですか⁉︎」
すると、おずおずとあたしの質問に答えてくれたグレース様の言葉は衝撃的なもので……確認のためにパトリック様にも視線を移すが、そこには悔しそうに頷くパトリック様がいるだけだった。
「それってつまりは……グレース様には婚約者だからと、パトリック様には勝手に馬車に乗り込んでやって来た侵入者だからと、日頃の炊事家事全般をやることを強要されていると……? 待って、そんな勝手なことがあります⁉︎ まるで召使いだし、お二人はこの王国の王子と姫なんですよ⁉︎」
「ああ、まったく情けないよ……」
「さしでがましいとはわかっているんですが……どうして、抵抗なさらないんですか⁉︎」
すぐに二人の手を止めさせて事情を聞くと、二人はここに来てからずっと理不尽な理由で召使のようにこの無駄に広い趣味の悪い労働を強制されているのだとか……
王子と姫がモンスター達の朝食を用意するなんて前代未聞、それは完全なる侮辱でしかなく、あたしは昨日に引き続き今日も、大声を出すことになってしまった。
けど、あたしには一つ疑問があった……グレース様はともかくとして、昨日あたしを守るために危うく大火傷まで負いそうになりながらタービュランスに立ち向かったパトリック様がこんな屈辱を許すのにはどうしても納得できず、あたしは俯いて小さく言葉を吐き出すパトリック様に言葉を投げかけたのだが……
「絶対服従のせいだ……」
「絶対服従?」
「その呪いのせいで、タービュランスの許しがなくてはこの魔王城を出ることすらできないというわけだ」
それに返ってきた答えは、聞いたこともない言葉だった……けど、あたしの聞き返した言葉へのパトリック様の呪いの単語と、直訳した時の意味とで、それがいいことでないことだけは容易に想像ができた。
「けど、ノラ! あなたは違うわ!」
「え……?」
「あなたは無効化だから、絶対服従をかけられることはないわ! ここから抜け出せる!」
「そうだ、君まで僕達と同じ運命をたどる必要はないよ! 持たざる者だと悩んでいたであろうその原因も解決した。無効化は本当に強力な盾であり武器だ。訓練をすれば、自分だけでなく、他者をも守れるようになるはず……君は戻るべきだ!」
「あ、あの……! それはどういうことなんですか⁉︎」
すると、それまでずっと俯いて暗い顔をしていたグレース様が、急にあたしの両肩を掴んで大声でそう訴えてくる……わけもわからず声が漏れるあたしに、さらにグレース様は言葉を続け、それにパトリック様も加わる。
あまりの情報量と二人の必死な形相に、一旦落ち着かせようとあたしが声を張り上げると、二人はポツポツと話してくれた。
絶対服従は、その名の通り絶対服従の呪いであり、対象者が死ぬまで強要される恐ろしい禁断の呪いで、二人はこの魔王城へ来たその日にその呪いをかけられたのだとか。
タービュランスからは少しでも命令に逆らえば国を滅ぼすと脅され、外の世界との交流を遮断され、二人で耐え抜いてきたという。
そして、タービュランスはあたしにも同じ呪いを強要するつもりだったというが、あたしは無効化を保有しているから呪いに縛られることはないし、ここから抜け出して元の世界に帰れると。
そのチカラで、多くの人間を救ってほしいと……あたしと同い年で、何万人という人間の命を背負った王子と姫はそうあたしに言うのだ、より一層あたしの心が決まった瞬間だった。
「おはよう。ノラ」
「お、おはよう……!」
「え? あ、おはようございます……じゃなくてですね! あたしが言っているのはどうしてお二人がこんなところにいるのかと聞いてるんです! ここは厨房ですよねって……本当にここ厨房か⁉︎」
あたしが魔王城に来て初めての朝を迎え、朝食を作ろうと朝日が昇るのを合図にベットから起き上がり昨日案内された厨房へ向かうと、そこにはなぜかすでに爽やかに挨拶をしてくるパトリック様と野菜を切ることに格闘しながら緊張した面持ちで挨拶をしてくるグレース様がいた。
条件反射で挨拶を返してしまうが、あたしは改めて二人に詰め寄りつつ、昨日の慌ただしさでしっかりと現状を把握できなかった厨房の有様にビビることも忘れなかった……何この、見るも無残な汚さの厨房は⁉︎ 絶対に何か出るよってか、住んでるよ⁉︎
壁は火事でもあったのかと思うほど真っ黒で、洗い場には山のように積まれた手付かずの皿の数々、さらに床には様々な食材の切れ端が落ちていて……どうして、こんなになるまで放っておいた⁉︎
昨日は自分の魔法スキルが発覚し、これで自分も心配をかけずにあのクソボケ大魔王に立ち向かえると興奮のあまりに久しぶりに好き放題言いたいことを言いまくったせいと、緊張が解けたせいで、あたしはいつの間にか眠ってしまっていたようだった。
けど、あたしの役目がパトリック様とグレース様のお世話であることは変わらないわけで、それ故になぜにその二人がこんな大惨事な厨房で野菜を切っているのかを把握しなければならないわけで……
「えっと、タービュランス達が起きてくる前に朝食の準備をしてて……」
「朝食⁉︎ グレース様が……もしかしてパトリック様もですか⁉︎」
すると、おずおずとあたしの質問に答えてくれたグレース様の言葉は衝撃的なもので……確認のためにパトリック様にも視線を移すが、そこには悔しそうに頷くパトリック様がいるだけだった。
「それってつまりは……グレース様には婚約者だからと、パトリック様には勝手に馬車に乗り込んでやって来た侵入者だからと、日頃の炊事家事全般をやることを強要されていると……? 待って、そんな勝手なことがあります⁉︎ まるで召使いだし、お二人はこの王国の王子と姫なんですよ⁉︎」
「ああ、まったく情けないよ……」
「さしでがましいとはわかっているんですが……どうして、抵抗なさらないんですか⁉︎」
すぐに二人の手を止めさせて事情を聞くと、二人はここに来てからずっと理不尽な理由で召使のようにこの無駄に広い趣味の悪い労働を強制されているのだとか……
王子と姫がモンスター達の朝食を用意するなんて前代未聞、それは完全なる侮辱でしかなく、あたしは昨日に引き続き今日も、大声を出すことになってしまった。
けど、あたしには一つ疑問があった……グレース様はともかくとして、昨日あたしを守るために危うく大火傷まで負いそうになりながらタービュランスに立ち向かったパトリック様がこんな屈辱を許すのにはどうしても納得できず、あたしは俯いて小さく言葉を吐き出すパトリック様に言葉を投げかけたのだが……
「絶対服従のせいだ……」
「絶対服従?」
「その呪いのせいで、タービュランスの許しがなくてはこの魔王城を出ることすらできないというわけだ」
それに返ってきた答えは、聞いたこともない言葉だった……けど、あたしの聞き返した言葉へのパトリック様の呪いの単語と、直訳した時の意味とで、それがいいことでないことだけは容易に想像ができた。
「けど、ノラ! あなたは違うわ!」
「え……?」
「あなたは無効化だから、絶対服従をかけられることはないわ! ここから抜け出せる!」
「そうだ、君まで僕達と同じ運命をたどる必要はないよ! 持たざる者だと悩んでいたであろうその原因も解決した。無効化は本当に強力な盾であり武器だ。訓練をすれば、自分だけでなく、他者をも守れるようになるはず……君は戻るべきだ!」
「あ、あの……! それはどういうことなんですか⁉︎」
すると、それまでずっと俯いて暗い顔をしていたグレース様が、急にあたしの両肩を掴んで大声でそう訴えてくる……わけもわからず声が漏れるあたしに、さらにグレース様は言葉を続け、それにパトリック様も加わる。
あまりの情報量と二人の必死な形相に、一旦落ち着かせようとあたしが声を張り上げると、二人はポツポツと話してくれた。
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そして、タービュランスはあたしにも同じ呪いを強要するつもりだったというが、あたしは無効化を保有しているから呪いに縛られることはないし、ここから抜け出して元の世界に帰れると。
そのチカラで、多くの人間を救ってほしいと……あたしと同い年で、何万人という人間の命を背負った王子と姫はそうあたしに言うのだ、より一層あたしの心が決まった瞬間だった。
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