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第一章 主人公にはなれないからね
望む未来に羅針盤を示せ
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「そのこと蒸し返すなよな……もう、俺には無理だよ……‼︎」
「そんな清々しく現実逃避決め込むなよ、リーダー」
「リク、リーダー変わってくれ……俺はもうダメだ、完全に終わった! やっちまった、嫌われた……明日からどう生きればいいのか教えてくれ……‼︎」
「……やっと落ち着いたと思ったのに、またか。あー、何度も言うけど、手加減はしたんだろ? チラッと見たけど、ノラのほっぺたは腫れてなかったっぽいし、あとで死ぬほど謝れば、きっと平気だって」
「それでもよ……もう、叩いたって事実は取り返しつかないだろ⁉︎」
今の感想を言うならばこんなに弱ってるアニキを見たのは人生で二度目だったので、あたしはなかなかの衝撃を覚えるのと同時に、すごく寂しかった……リクくんには弱音吐けるんだね。
アニキの隣で見るからに困った表情を浮かべながら必死に慰めているリクくんは、この世界でアニキにとって一番の理解者であり、唯一無二の相棒だ。
アニキとは同い年ということもあってか初めから気が合っていた気がするけど、リクくんとアニキは間違いなくタイプは正反対だと思う。
黒い瞳に黒くて男にしては長い肩につくほどの髪という転移者の中では一番日本人らしさを残しているが、なぜかまったく日本人らしさを感じさせないのは、本人から溢れまくるその色気のせいだろう。
実際にあたしも第一印象はチャラそうだなんて失礼な印象を持っていたし、リクくん自身もそういう立ち振る舞いをするからシナコちゃんからよく追い回されており、その二人の姿は最早日常だが、実際は一本筋が通った人で、しかも頭の回転が早くて今では人類側の頼れる参謀である。
おまけに保有する魔法スキルは空気魔法と、これもかなり強力な攻撃力だし、仲間達のサポートにも向いている一石二鳥なもの。
頼り頼られなアニキとリクくん……あたしはアニキにとって妹で、当然のように庇護の対象で、アニキがあたしに頼ることなんてあるわけないとわかってるし、リクくんは実際頼りになり、あたしにもすごく気にかけてくれる尊敬できるもう一人の兄のような人だけど、時々リクくんに嫉妬している自分がいるんだ。
「はあ……けどよ、ノラの気持ちも察してやれって。あいつがずっと戦えないことを誰よりも気にして、せめてもって思ってシナコとかに剣術と体術を習ってたの知ってるだろ? おかげで、すごい強くなったじゃんよ。素手で戦ったら、仲間の中でも上位に入ると思うぞ?」
「それは当然だ。ノラは両親が死ぬまで空手を習ってて、その実力は全国レベルだったんだ。元々、そういうことに関しては筋がいいんだよ。俺なんかより、ずっと強いんだ……」
「はいはい、お前のノラ自慢は聞き飽きた! とにかく、俺が言いたいのはそんな風に必死に頑張ってきたノラに対して、タービュランスを見たことがないだろなんてことは禁句だろ? まあ、あのクソ野郎を目にしたらノラの純粋な目が腐るから断固反対だけど……自分だけが戦況を知らないっていうのはノラが一番に気にしてることだって、お前が一番わかってたんじゃねえのか?」
「……知ってる。知ってたよ、そんなこと」
「そうだよな? そこは反省した方がいいと思うぞ? まあ、あの時のノラを見て仲間の大多数がビビっただろうけどな。天使ほど怒ると怖いんだな?」
リクくんの話を聞いて、そして隣のシナコちゃんと目が合って……ああ、やっぱり隠してたけど引け目とか罪悪感とかバレバレだったよなと、あたしは情けなくて苦笑いが零れた。
この世界に来て一か月ぐらい経った頃に無い物ねだりで悩むのは時間の無駄だと、せめて自分の身ぐらいは守れるようになろと思って、あたしはシナコちゃんやリクくんをはじめとした仲間達から空いた時間に剣術や体術を習っていた。
何もしないよりはマシだし、現代でまだ両親が生きていた頃に空手を習っていたこともあるから、ある程度は形になるだろうなと思ったのだ……まあ、そんなの魔法で攻撃されたら何の意味もないんだけどね?
というか、リクくんに天使とか柄じゃないからやめてって言ったのに……全然聞いてくれてないじゃねえか。
おこがましいことこの上ないが、どうやらアニキをはじめとして仲間達の世話をするあたしの姿を、誰かが天使みたいだと言ったことから、気付いたらあたしのあだ名が天使となってしまっていた。
小っ恥ずかしいから早急にやめてほしいし、あたしが圧倒的に年下だから子どもっぽいってことだきっと。
そもそも、あたしがみんなの世話をするなんて、そんなの当然なんだよ……あたしだけ、安全なところでずっと帰りを待っているだけなんだから、何の役にも立てないんだから。
「ノラが自分から危ないとこに突っ込んでいくのは、昔からなんだよ。そして、それはいつも大切な誰かのための行為でしかなくて……正直、あのタービュランスからの要求を聞いた瞬間、ノラが行くって言い出すことは目に見えてた」
「え、そうなのか? それはちょっと、意外だったわ……」
「そうだろな……ノラの本来の漢字って望むに羅針盤って書くんだけどさ、両親がーー自分の望む未来に正しく羅針盤を示せるようにって願いを込めたのが、ノラの名前の由来なんだ。この世界に来て自分にチカラがないことが原因で萎縮してるけど、本来のノラはまさにその願い通り、自分で一度その未来が正しいと思ったら、もう止まらないし、止められないんだよ」
すると、また勝手にあたしがどん底モードに突入しようとしていた時、落ち込んでいたアニキが顔を上げて話を再開していた……それはあたしの名前の話。
深く考えたことなんてなかったけど、あたしはすごくいい名前をもらったなと両親には感謝だ。
けど、お父さん、お母さん? 今のあたしはね、行きたい方向に羅針盤を示せてないし、自分で道を作ってそれを歩くこともできないや……
「そんな清々しく現実逃避決め込むなよ、リーダー」
「リク、リーダー変わってくれ……俺はもうダメだ、完全に終わった! やっちまった、嫌われた……明日からどう生きればいいのか教えてくれ……‼︎」
「……やっと落ち着いたと思ったのに、またか。あー、何度も言うけど、手加減はしたんだろ? チラッと見たけど、ノラのほっぺたは腫れてなかったっぽいし、あとで死ぬほど謝れば、きっと平気だって」
「それでもよ……もう、叩いたって事実は取り返しつかないだろ⁉︎」
今の感想を言うならばこんなに弱ってるアニキを見たのは人生で二度目だったので、あたしはなかなかの衝撃を覚えるのと同時に、すごく寂しかった……リクくんには弱音吐けるんだね。
アニキの隣で見るからに困った表情を浮かべながら必死に慰めているリクくんは、この世界でアニキにとって一番の理解者であり、唯一無二の相棒だ。
アニキとは同い年ということもあってか初めから気が合っていた気がするけど、リクくんとアニキは間違いなくタイプは正反対だと思う。
黒い瞳に黒くて男にしては長い肩につくほどの髪という転移者の中では一番日本人らしさを残しているが、なぜかまったく日本人らしさを感じさせないのは、本人から溢れまくるその色気のせいだろう。
実際にあたしも第一印象はチャラそうだなんて失礼な印象を持っていたし、リクくん自身もそういう立ち振る舞いをするからシナコちゃんからよく追い回されており、その二人の姿は最早日常だが、実際は一本筋が通った人で、しかも頭の回転が早くて今では人類側の頼れる参謀である。
おまけに保有する魔法スキルは空気魔法と、これもかなり強力な攻撃力だし、仲間達のサポートにも向いている一石二鳥なもの。
頼り頼られなアニキとリクくん……あたしはアニキにとって妹で、当然のように庇護の対象で、アニキがあたしに頼ることなんてあるわけないとわかってるし、リクくんは実際頼りになり、あたしにもすごく気にかけてくれる尊敬できるもう一人の兄のような人だけど、時々リクくんに嫉妬している自分がいるんだ。
「はあ……けどよ、ノラの気持ちも察してやれって。あいつがずっと戦えないことを誰よりも気にして、せめてもって思ってシナコとかに剣術と体術を習ってたの知ってるだろ? おかげで、すごい強くなったじゃんよ。素手で戦ったら、仲間の中でも上位に入ると思うぞ?」
「それは当然だ。ノラは両親が死ぬまで空手を習ってて、その実力は全国レベルだったんだ。元々、そういうことに関しては筋がいいんだよ。俺なんかより、ずっと強いんだ……」
「はいはい、お前のノラ自慢は聞き飽きた! とにかく、俺が言いたいのはそんな風に必死に頑張ってきたノラに対して、タービュランスを見たことがないだろなんてことは禁句だろ? まあ、あのクソ野郎を目にしたらノラの純粋な目が腐るから断固反対だけど……自分だけが戦況を知らないっていうのはノラが一番に気にしてることだって、お前が一番わかってたんじゃねえのか?」
「……知ってる。知ってたよ、そんなこと」
「そうだよな? そこは反省した方がいいと思うぞ? まあ、あの時のノラを見て仲間の大多数がビビっただろうけどな。天使ほど怒ると怖いんだな?」
リクくんの話を聞いて、そして隣のシナコちゃんと目が合って……ああ、やっぱり隠してたけど引け目とか罪悪感とかバレバレだったよなと、あたしは情けなくて苦笑いが零れた。
この世界に来て一か月ぐらい経った頃に無い物ねだりで悩むのは時間の無駄だと、せめて自分の身ぐらいは守れるようになろと思って、あたしはシナコちゃんやリクくんをはじめとした仲間達から空いた時間に剣術や体術を習っていた。
何もしないよりはマシだし、現代でまだ両親が生きていた頃に空手を習っていたこともあるから、ある程度は形になるだろうなと思ったのだ……まあ、そんなの魔法で攻撃されたら何の意味もないんだけどね?
というか、リクくんに天使とか柄じゃないからやめてって言ったのに……全然聞いてくれてないじゃねえか。
おこがましいことこの上ないが、どうやらアニキをはじめとして仲間達の世話をするあたしの姿を、誰かが天使みたいだと言ったことから、気付いたらあたしのあだ名が天使となってしまっていた。
小っ恥ずかしいから早急にやめてほしいし、あたしが圧倒的に年下だから子どもっぽいってことだきっと。
そもそも、あたしがみんなの世話をするなんて、そんなの当然なんだよ……あたしだけ、安全なところでずっと帰りを待っているだけなんだから、何の役にも立てないんだから。
「ノラが自分から危ないとこに突っ込んでいくのは、昔からなんだよ。そして、それはいつも大切な誰かのための行為でしかなくて……正直、あのタービュランスからの要求を聞いた瞬間、ノラが行くって言い出すことは目に見えてた」
「え、そうなのか? それはちょっと、意外だったわ……」
「そうだろな……ノラの本来の漢字って望むに羅針盤って書くんだけどさ、両親がーー自分の望む未来に正しく羅針盤を示せるようにって願いを込めたのが、ノラの名前の由来なんだ。この世界に来て自分にチカラがないことが原因で萎縮してるけど、本来のノラはまさにその願い通り、自分で一度その未来が正しいと思ったら、もう止まらないし、止められないんだよ」
すると、また勝手にあたしがどん底モードに突入しようとしていた時、落ち込んでいたアニキが顔を上げて話を再開していた……それはあたしの名前の話。
深く考えたことなんてなかったけど、あたしはすごくいい名前をもらったなと両親には感謝だ。
けど、お父さん、お母さん? 今のあたしはね、行きたい方向に羅針盤を示せてないし、自分で道を作ってそれを歩くこともできないや……
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