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プロローグ 転移先はゲームオーバー後
突然な普通の日々からの転落
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「あー、大魔王様とやら? あたしはあなた様の命を脅かすなんて野暮なことはしないから、安心しなよ」
「……何だと?」
あたしの目の前にはしつこいほどの宝石やら装飾やらが施された玉座と、そして、それに座るこの世界の……あたしが転移したゲームの、ゲームオーバー後の世界の支配者が、今のあたしの宥めるような言葉を訝しげに、明らかな警戒を見せながら聞いている。
本当に、その姿に思わず吹き出さなかったあたしを誰か拍手喝采とともに褒めてほしいもんよ。
その目の前の、この世界の誰もがひれ伏して恐れる大魔王様の今の姿は、さっきまでの絶対的な自信を持った傲慢さが溢れて出ていた姿からは打って変わって、警戒心丸出しの子猫のようだ。
まさか、こんなあたしみたいな小娘に自分の立場を脅かされることになろうとは、この大魔王様は数秒前までは夢にも思っていなかっただろう。
まあ、それはあたしも同じだ……今までずっと持たざる者のあたしは役立たずで、必死に戦う兄や仲間達に罪悪感を忘れた日なんてなかった。
せめてもと、それがこの大魔王様を喜ばせることだとわかっていても、あたしで役に立てるならとあたしはこの大魔王様の人質として、ここにやって来たのだが……本当に嬉しい誤算だわね。
「当たり前じゃないの。それだとさっさとテメーが楽になるってだけで、あたし達人間の苦しみの十分の一も味合わすことができないじゃん?」
「……は?」
「え? まさか、この後に及んでテメーの天下が続くと思ってんの?」
今のあたしはきっと、愉快でしょうがないという感情だだ漏れの情けない顔を、クソボケ大魔王、モンスター三匹、双子の王子様と姫様、共に戦ってきた仲間達、とにかくこの場にいる全員に対して惜しみなく晒していることであろう。
まず、あたしの口調の変わりようにクソボケ大魔王が見事な間抜け面を見せてくれてる時点でなかなかの優越感だけど……ああ、それ以上に、これから始まるこのクソボケ大魔王との日々を思い描くと、心の底からこみ上げてくる高揚感が止まらないのよね!
「あたしを人質に指名したのは、あんたじゃんよ? 大魔王、タービュランス様?」
***
「ほら、やっぱり! 初めから言ったじゃん、クリアできるわけないって!」
何の変哲もない昨日の続きの今日というその日に、現代の東京のアパートの一室で、あたし蓮実望羅は、兄の蓮実朔也に促されるままにとあるRPGゲームをやらされ、見事にゲームオーバーとなっていた。
「あー、ダメだったか! もしかして望羅になら、ビギナーズラック的なことが起こってクリアできるかもと思ってたんだけどな」
「そんな起こるかどうかもわからない奇跡に賭けたわけ? 呆れた……もうクリアできないって諦めて、このゲーム売って他のやつ買えば?」
「おっ、お前……何てこと言うんだよ⁉︎ 俺はな、この難攻不落と言われる最終ステージをクリアして、一躍時の人となるんだよ! 少しは兄のことを応援しろ!」
「……働きすぎでゲームじゃなくて、アニキの頭がバグったんじゃないの?」
これ以上は時間の無駄だとあたしはスマホに視線を移して、いまだにギャーギャーと騒ぎ立てるアニキのことをこれでもかと無視し続ける。
本当ならば、ここにはこのやり取りを止める母の声と、それを大声で笑いながら見守る父の声が聞こえていたはずだった……はずだったんだ。
三年前に両親が揃って交通事故で逝ってしまった時、あたしはまだ中学生になったばかりの十三歳で、八歳上のアニキは大学を卒業し、新卒として働き始めたばかりだった。
当時、親戚の大人達はまだ子どもだったあたしの引き取り先の押し付け合いで、これでもかと揉めていた。
全部聞こえてんだよ、さっさと施設に預けようって誰かが言えばいいじゃねえかと、その時は突然、谷底に突き落とされたような受け入れられない現実に絶望して、我ながら自暴自棄になっていたと思う。
しかし、その時に空気を一変させたのはアニキだった……あたしのことはどこにもやらないと、自分が責任を持って育てると、わずか二十二歳の背中にとんでもない覚悟を、今目の前でグズグズといじける兄の朔也は背負ってくれたのだ……
まだまだ同世代と遊びたい盛りだろうに、アニキは自分のための浪費はほとんどせず、あたしのためにお金を使ってくれていた。
それがどうにももどかしくて、あたしは高校生になると同時に事後報告でアルバイトを始めた。
予想通りにアニキには猛反対されたが、どうにか説得し、アルバイトを続け、初めての給料で今さっきまさにゲームオーバーとなったそのゲーム『バーストグリーンファンタジー あの未知の先に』を買って、アニキにプレゼントしたのだ。
プレゼントした時に、アニキはバイト代は自分のために使えと、変な気を遣うなと口調は怒っているのに、その顔が涙でぐちゃぐちゃだったのを今でも覚えている、本当に大げさだ。
暇さえあればネットでそのゲームのことを検索していたのは気付いていた、妹を舐めるなと言いたいね。
しかし、後で検索して気付いたのだが、何とこのゲーム、通常のゲームがクリア率約四十パーセントなのに対して、この『バーストグリーンファンタジー あの未知の先に』はクリア率十パーセントを切るのだとか……
それほとんどクリアさせる気なくねえかと、こんなゲームのどこがいいのかと思ったが、その難関さがゲーマー達の間では話題で売り上げは上々らしい……わからねえ。
まあ、現にアニキもコツコツとステージを進めては、ようやっと今日ラストステージにこぎつけたようで、文字通りに朝から晩までやっていた。
「それにしても、そのラスボスの大魔王が強すぎじゃない? 無駄にイケメンなのもムカつくんだけど」
「そこにムカつくのはお前ぐらいなもんだろうけどな……まあ、確かにチートだよな」
そんな何でもない会話を最後に、あたしはアニキに早く寝なよと一方的に呆れながら吐き捨て、いつも通りに眠りについたのだった。
そして、翌日に目覚めた時、あたしと兄の朔也は『バーストグリーンファンタジー あの未知の先に』のゲームオーバー後の世界に転移していたのだったーー
「……何だと?」
あたしの目の前にはしつこいほどの宝石やら装飾やらが施された玉座と、そして、それに座るこの世界の……あたしが転移したゲームの、ゲームオーバー後の世界の支配者が、今のあたしの宥めるような言葉を訝しげに、明らかな警戒を見せながら聞いている。
本当に、その姿に思わず吹き出さなかったあたしを誰か拍手喝采とともに褒めてほしいもんよ。
その目の前の、この世界の誰もがひれ伏して恐れる大魔王様の今の姿は、さっきまでの絶対的な自信を持った傲慢さが溢れて出ていた姿からは打って変わって、警戒心丸出しの子猫のようだ。
まさか、こんなあたしみたいな小娘に自分の立場を脅かされることになろうとは、この大魔王様は数秒前までは夢にも思っていなかっただろう。
まあ、それはあたしも同じだ……今までずっと持たざる者のあたしは役立たずで、必死に戦う兄や仲間達に罪悪感を忘れた日なんてなかった。
せめてもと、それがこの大魔王様を喜ばせることだとわかっていても、あたしで役に立てるならとあたしはこの大魔王様の人質として、ここにやって来たのだが……本当に嬉しい誤算だわね。
「当たり前じゃないの。それだとさっさとテメーが楽になるってだけで、あたし達人間の苦しみの十分の一も味合わすことができないじゃん?」
「……は?」
「え? まさか、この後に及んでテメーの天下が続くと思ってんの?」
今のあたしはきっと、愉快でしょうがないという感情だだ漏れの情けない顔を、クソボケ大魔王、モンスター三匹、双子の王子様と姫様、共に戦ってきた仲間達、とにかくこの場にいる全員に対して惜しみなく晒していることであろう。
まず、あたしの口調の変わりようにクソボケ大魔王が見事な間抜け面を見せてくれてる時点でなかなかの優越感だけど……ああ、それ以上に、これから始まるこのクソボケ大魔王との日々を思い描くと、心の底からこみ上げてくる高揚感が止まらないのよね!
「あたしを人質に指名したのは、あんたじゃんよ? 大魔王、タービュランス様?」
***
「ほら、やっぱり! 初めから言ったじゃん、クリアできるわけないって!」
何の変哲もない昨日の続きの今日というその日に、現代の東京のアパートの一室で、あたし蓮実望羅は、兄の蓮実朔也に促されるままにとあるRPGゲームをやらされ、見事にゲームオーバーとなっていた。
「あー、ダメだったか! もしかして望羅になら、ビギナーズラック的なことが起こってクリアできるかもと思ってたんだけどな」
「そんな起こるかどうかもわからない奇跡に賭けたわけ? 呆れた……もうクリアできないって諦めて、このゲーム売って他のやつ買えば?」
「おっ、お前……何てこと言うんだよ⁉︎ 俺はな、この難攻不落と言われる最終ステージをクリアして、一躍時の人となるんだよ! 少しは兄のことを応援しろ!」
「……働きすぎでゲームじゃなくて、アニキの頭がバグったんじゃないの?」
これ以上は時間の無駄だとあたしはスマホに視線を移して、いまだにギャーギャーと騒ぎ立てるアニキのことをこれでもかと無視し続ける。
本当ならば、ここにはこのやり取りを止める母の声と、それを大声で笑いながら見守る父の声が聞こえていたはずだった……はずだったんだ。
三年前に両親が揃って交通事故で逝ってしまった時、あたしはまだ中学生になったばかりの十三歳で、八歳上のアニキは大学を卒業し、新卒として働き始めたばかりだった。
当時、親戚の大人達はまだ子どもだったあたしの引き取り先の押し付け合いで、これでもかと揉めていた。
全部聞こえてんだよ、さっさと施設に預けようって誰かが言えばいいじゃねえかと、その時は突然、谷底に突き落とされたような受け入れられない現実に絶望して、我ながら自暴自棄になっていたと思う。
しかし、その時に空気を一変させたのはアニキだった……あたしのことはどこにもやらないと、自分が責任を持って育てると、わずか二十二歳の背中にとんでもない覚悟を、今目の前でグズグズといじける兄の朔也は背負ってくれたのだ……
まだまだ同世代と遊びたい盛りだろうに、アニキは自分のための浪費はほとんどせず、あたしのためにお金を使ってくれていた。
それがどうにももどかしくて、あたしは高校生になると同時に事後報告でアルバイトを始めた。
予想通りにアニキには猛反対されたが、どうにか説得し、アルバイトを続け、初めての給料で今さっきまさにゲームオーバーとなったそのゲーム『バーストグリーンファンタジー あの未知の先に』を買って、アニキにプレゼントしたのだ。
プレゼントした時に、アニキはバイト代は自分のために使えと、変な気を遣うなと口調は怒っているのに、その顔が涙でぐちゃぐちゃだったのを今でも覚えている、本当に大げさだ。
暇さえあればネットでそのゲームのことを検索していたのは気付いていた、妹を舐めるなと言いたいね。
しかし、後で検索して気付いたのだが、何とこのゲーム、通常のゲームがクリア率約四十パーセントなのに対して、この『バーストグリーンファンタジー あの未知の先に』はクリア率十パーセントを切るのだとか……
それほとんどクリアさせる気なくねえかと、こんなゲームのどこがいいのかと思ったが、その難関さがゲーマー達の間では話題で売り上げは上々らしい……わからねえ。
まあ、現にアニキもコツコツとステージを進めては、ようやっと今日ラストステージにこぎつけたようで、文字通りに朝から晩までやっていた。
「それにしても、そのラスボスの大魔王が強すぎじゃない? 無駄にイケメンなのもムカつくんだけど」
「そこにムカつくのはお前ぐらいなもんだろうけどな……まあ、確かにチートだよな」
そんな何でもない会話を最後に、あたしはアニキに早く寝なよと一方的に呆れながら吐き捨て、いつも通りに眠りについたのだった。
そして、翌日に目覚めた時、あたしと兄の朔也は『バーストグリーンファンタジー あの未知の先に』のゲームオーバー後の世界に転移していたのだったーー
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