153 / 184
絵本
しおりを挟む
お腹も随分大きくて、ゆったりした服を着ていてもすぐに分かるくらいになっていた。
そうなるとやっぱり重くて歩きづらい。
なるべく移動は夫の手を借りて、仕事を待つ間は大人しく座っているのだった。
ミスカさんが育ててくれている裏庭の花壇は今は可愛らしいマリーゴールドの黄色で染まり、それを眺めながら暖かく心地よい空気を感じていると、また彼が声をかけてくれる。
「ヨルアノくん、お疲れ様!」
「お疲れ様です!サキさん良かったらこれ」
あまり動けない私の為に飲み物を持ってきてくれた。
「え!ありがとう!」
「何が良いか分からんくって……水出しの紅茶なんですけど」
「紅茶大好きだよ!嬉しい……。ヨルアノくんが作ったの?」
「そうなんです!これ俺めっちゃ好きで昔からよう作っとって」
早速一口飲んでみると、爽やかでほんのり果実風味のする無糖のアイスティー。
苦みもなくゴクゴクといくらでも飲めそうな美味しさだ。
「美味しい……!こんなの初めて!」
「この辺やと売っとらんくて、俺の故郷の物なんです」
「そういえば果物が有名なんだよね」
「……覚えとってんですか……?」
「勿論!」
ヴェルくんと最初話してたから。やっぱりこういう特産品もあるんだなぁ。
「ねえ、他の種類もあるの?」
「あ、ありますよ!これは柑橘系で、あとは桃と苺のとか」
「絶対美味しい組み合わせ!」
ヨルアノくんの故郷の国にも行ってみたいな。
「あの!俺沢山作るんで、飲みたい時あったらいつでも言ってください!」
「ありがとう、じゃあまたお願いするね!」
何か少し顔を赤くしていたヨルアノくんは気を取り直すように私の隣に座る。
「最近なんですけど……」
「うん!」
「この本を最後まで読めたんですよ!」
読書嫌いな彼が最後までとは。とても成長したらしい。
彼が自慢げに取り出したのは子供用の絵本だった。
「……?これを読んだの?」
「はい!」
中を見てみると一ページに一文。十ページ。
「読み物……なのかなぁ……?」
「……やっぱ駄目ですかね」
「これはカウントされないと思う」
顔を見合わせクスクス笑う。
「イラストでほとんど意味分かるし」
「本当ですね……」
「私でも半分読めるよ?」
「それはサキさんが凄いからです!」
二人でページを捲り一通り読む。
内容結構面白くてちゃんと読んじゃった。
「それ貰ってくれませんか?」
「え、要らないの?」
「一回読み終わってん、また開くこと無いと思うんで」
もしかして……この子の為に用意してくれたのかな。
「ふふ、ありがとう。ヨルアノくんも読み聞かせしてくれる?」
「はい……!頑張って練習しときます!」
絵本を持ち帰ってその夜、リュークに見せてみた。
「ヨルアノくんに貰ったの」
「えっ、ヨルアノに?」
リュークは一瞬苦い顔をしたがすぐに閉まって絵本を手に取る。
「そういえばおもちゃは買ったけど絵本は無かったね。色々あったほうがいいかな」
「あったほうがいいとは思うけど……あんなには要らないからね?」
私は部屋の隅に積まれた箱たちを指差す。
「子供一人分のおもちゃの量じゃないでしょう。私だって見て決めたかったのに、これ以上増やせないじゃない」
「ごめん……楽しくてつい……」
絵本は私も選ぶから、と念を押した。
「!」
「サキ、どうしたの!?」
「今動いた!」
「マジ!」
慌ててお腹に触れるリュークはその胎動を感じたようで嬉しそうに耳を当てる。
「動いてる……!なんか……トクトクしてる!」
「話しかけたら返事してくれるかも」
「えっ、と、父さんだよー……?」
「ふふ……」
意味も無くお腹の前で手を振るリュークが可愛くてつい笑ってしまう。
「名前が決まってないから呼べないよ……」
「そうだね……性別が分かればまだ良かったかもだけど」
夫たちが「自分の子だったら……」って名前考えてるから結局産まれてくるまでは決めれないんだけど。
「サキの居た世界だとそういうの分かるの?」
「うん、お腹の中が見れる機械があるんだって」
「お腹の中!?」
私も経験が無いので詳しいことは説明出来ないけれど、本当に現代って技術が発展してたんだなぁと改めて思う。
「男の子でも女の子でも用意はバッチリだから!」
「服もいっぱい買ったもんね」
「ごめんってば……」
謝りながら頬にいっぱいキスをくれる。
私はそのくすぐったい愛に笑いながら、彼と手を繋いだ。
「絵本も服も、今度一緒に見に行こうね」
「うん!」
これからの楽しみを語り合い、夜は更けていく……。
そうなるとやっぱり重くて歩きづらい。
なるべく移動は夫の手を借りて、仕事を待つ間は大人しく座っているのだった。
ミスカさんが育ててくれている裏庭の花壇は今は可愛らしいマリーゴールドの黄色で染まり、それを眺めながら暖かく心地よい空気を感じていると、また彼が声をかけてくれる。
「ヨルアノくん、お疲れ様!」
「お疲れ様です!サキさん良かったらこれ」
あまり動けない私の為に飲み物を持ってきてくれた。
「え!ありがとう!」
「何が良いか分からんくって……水出しの紅茶なんですけど」
「紅茶大好きだよ!嬉しい……。ヨルアノくんが作ったの?」
「そうなんです!これ俺めっちゃ好きで昔からよう作っとって」
早速一口飲んでみると、爽やかでほんのり果実風味のする無糖のアイスティー。
苦みもなくゴクゴクといくらでも飲めそうな美味しさだ。
「美味しい……!こんなの初めて!」
「この辺やと売っとらんくて、俺の故郷の物なんです」
「そういえば果物が有名なんだよね」
「……覚えとってんですか……?」
「勿論!」
ヴェルくんと最初話してたから。やっぱりこういう特産品もあるんだなぁ。
「ねえ、他の種類もあるの?」
「あ、ありますよ!これは柑橘系で、あとは桃と苺のとか」
「絶対美味しい組み合わせ!」
ヨルアノくんの故郷の国にも行ってみたいな。
「あの!俺沢山作るんで、飲みたい時あったらいつでも言ってください!」
「ありがとう、じゃあまたお願いするね!」
何か少し顔を赤くしていたヨルアノくんは気を取り直すように私の隣に座る。
「最近なんですけど……」
「うん!」
「この本を最後まで読めたんですよ!」
読書嫌いな彼が最後までとは。とても成長したらしい。
彼が自慢げに取り出したのは子供用の絵本だった。
「……?これを読んだの?」
「はい!」
中を見てみると一ページに一文。十ページ。
「読み物……なのかなぁ……?」
「……やっぱ駄目ですかね」
「これはカウントされないと思う」
顔を見合わせクスクス笑う。
「イラストでほとんど意味分かるし」
「本当ですね……」
「私でも半分読めるよ?」
「それはサキさんが凄いからです!」
二人でページを捲り一通り読む。
内容結構面白くてちゃんと読んじゃった。
「それ貰ってくれませんか?」
「え、要らないの?」
「一回読み終わってん、また開くこと無いと思うんで」
もしかして……この子の為に用意してくれたのかな。
「ふふ、ありがとう。ヨルアノくんも読み聞かせしてくれる?」
「はい……!頑張って練習しときます!」
絵本を持ち帰ってその夜、リュークに見せてみた。
「ヨルアノくんに貰ったの」
「えっ、ヨルアノに?」
リュークは一瞬苦い顔をしたがすぐに閉まって絵本を手に取る。
「そういえばおもちゃは買ったけど絵本は無かったね。色々あったほうがいいかな」
「あったほうがいいとは思うけど……あんなには要らないからね?」
私は部屋の隅に積まれた箱たちを指差す。
「子供一人分のおもちゃの量じゃないでしょう。私だって見て決めたかったのに、これ以上増やせないじゃない」
「ごめん……楽しくてつい……」
絵本は私も選ぶから、と念を押した。
「!」
「サキ、どうしたの!?」
「今動いた!」
「マジ!」
慌ててお腹に触れるリュークはその胎動を感じたようで嬉しそうに耳を当てる。
「動いてる……!なんか……トクトクしてる!」
「話しかけたら返事してくれるかも」
「えっ、と、父さんだよー……?」
「ふふ……」
意味も無くお腹の前で手を振るリュークが可愛くてつい笑ってしまう。
「名前が決まってないから呼べないよ……」
「そうだね……性別が分かればまだ良かったかもだけど」
夫たちが「自分の子だったら……」って名前考えてるから結局産まれてくるまでは決めれないんだけど。
「サキの居た世界だとそういうの分かるの?」
「うん、お腹の中が見れる機械があるんだって」
「お腹の中!?」
私も経験が無いので詳しいことは説明出来ないけれど、本当に現代って技術が発展してたんだなぁと改めて思う。
「男の子でも女の子でも用意はバッチリだから!」
「服もいっぱい買ったもんね」
「ごめんってば……」
謝りながら頬にいっぱいキスをくれる。
私はそのくすぐったい愛に笑いながら、彼と手を繋いだ。
「絵本も服も、今度一緒に見に行こうね」
「うん!」
これからの楽しみを語り合い、夜は更けていく……。
62
お気に入りに追加
1,121
あなたにおすすめの小説

転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~
月
恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん)
は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。
しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!?
(もしかして、私、転生してる!!?)
そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!!
そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?
異世界の美醜と私の認識について
佐藤 ちな
恋愛
ある日気づくと、美玲は異世界に落ちた。
そこまでならラノベなら良くある話だが、更にその世界は女性が少ない上に、美醜感覚が美玲とは激しく異なるという不思議な世界だった。
そんな世界で稀人として特別扱いされる醜女(この世界では超美人)の美玲と、咎人として忌み嫌われる醜男(美玲がいた世界では超美青年)のルークが出会う。
不遇の扱いを受けるルークを、幸せにしてあげたい!そして出来ることなら、私も幸せに!
美醜逆転・一妻多夫の異世界で、美玲の迷走が始まる。
* 話の展開に伴い、あらすじを変更させて頂きました。
旦那様が多すぎて困っています!? 〜逆ハー異世界ラブコメ〜
ことりとりとん
恋愛
男女比8:1の逆ハーレム異世界に転移してしまった女子大生・大森泉
転移早々旦那さんが6人もできて、しかも魔力無限チートがあると教えられて!?
のんびりまったり暮らしたいのにいつの間にか国を救うハメになりました……
イケメン山盛りの逆ハーです
前半はラブラブまったりの予定。後半で主人公が頑張ります
小説家になろう、カクヨムに転載しています

美醜逆転異世界で、非モテなのに前向きな騎士様が素敵です
花野はる
恋愛
先祖返りで醜い容貌に生まれてしまったセドリック・ローランド、18歳は非モテの騎士副団長。
けれども曽祖父が同じ醜さでありながら、愛する人と幸せな一生を送ったと祖父から聞いて育ったセドリックは、顔を隠すことなく前向きに希望を持って生きている。けれどやはりこの世界の女性からは忌み嫌われ、中身を見ようとしてくれる人はいない。
そんな中、セドリックの元に異世界の稀人がやって来た!外見はこんなでも、中身で勝負し、専属護衛になりたいと頑張るセドリックだが……。
醜いイケメン騎士とぽっちゃり喪女のラブストーリーです。
多分短い話になると思われます。
サクサク読めるように、一話ずつを短めにしてみました。
訳ありな家庭教師と公爵の執着
ゆきむらさり
恋愛
〔あらすじ〕📝名門ブライアン公爵家の美貌の当主ギルバートに雇われることになった一人の家庭教師(ガヴァネス)リディア。きっちりと衣装を着こなし、隙のない身形の家庭教師リディアは素顔を隠し、秘密にしたい過去をも隠す。おまけに美貌の公爵ギルバートには目もくれず、五歳になる公爵令嬢エヴリンの家庭教師としての態度を崩さない。過去に悲惨なめに遭った今の家庭教師リディアは、愛など求めない。そんなリディアに公爵ギルバートの方が興味を抱き……。
※設定などは独自の世界観でご都合主義。ハピエン🩷 さらりと読んで下さい。
※稚拙ながらも投稿初日(2025.1.26)から、HOTランキングに入れて頂き、ありがとうございます🙂 最高で26位(2025.2.4)。

女性の少ない異世界に生まれ変わったら
Azuki
恋愛
高校に登校している途中、道路に飛び出した子供を助ける形でトラックに轢かれてそのまま意識を失った私。
目を覚ますと、私はベッドに寝ていて、目の前にも周りにもイケメン、イケメン、イケメンだらけーーー!?
なんと私は幼女に生まれ変わっており、しかもお嬢様だった!!
ーーやった〜!勝ち組人生来た〜〜〜!!!
そう、心の中で思いっきり歓喜していた私だけど、この世界はとんでもない世界で・・・!?
これは、女性が圧倒的に少ない異世界に転生した私が、家族や周りから溺愛されながら様々な問題を解決して、更に溺愛されていく物語。

転生したら美醜逆転世界だったので、人生イージーモードです
狼蝶
恋愛
転生したらそこは、美醜が逆転していて顔が良ければ待遇最高の世界だった!?侯爵令嬢と婚約し人生イージーモードじゃんと思っていたら、人生はそれほど甘くはない・・・・?
学校に入ったら、ここはまさかの美醜逆転世界の乙女ゲームの中だということがわかり、さらに自分の婚約者はなんとそのゲームの悪役令嬢で!!!?

異世界から来た娘が、たまらなく可愛いのだが(同感)〜こっちにきてから何故かイケメンに囲まれています〜
京
恋愛
普通の女子高生、朱璃はいつのまにか異世界に迷い込んでいた。
右も左もわからない状態で偶然出会った青年にしがみついた結果、なんとかお世話になることになる。一宿一飯の恩義を返そうと懸命に生きているうちに、国の一大事に巻き込まれたり巻き込んだり。気付くと個性豊かなイケメンたちに大切に大切にされていた。
そんな乙女ゲームのようなお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる