美醜逆転の異世界で騎士様たちに愛される

志季彩夜

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絵本

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 お腹も随分大きくて、ゆったりした服を着ていてもすぐに分かるくらいになっていた。
 そうなるとやっぱり重くて歩きづらい。
 なるべく移動は夫の手を借りて、仕事を待つ間は大人しく座っているのだった。
 ミスカさんが育ててくれている裏庭の花壇は今は可愛らしいマリーゴールドの黄色で染まり、それを眺めながら暖かく心地よい空気を感じていると、また彼が声をかけてくれる。

「ヨルアノくん、お疲れ様!」
「お疲れ様です!サキさん良かったらこれ」

 あまり動けない私の為に飲み物を持ってきてくれた。

「え!ありがとう!」
「何が良いか分からんくって……水出しの紅茶なんですけど」
「紅茶大好きだよ!嬉しい……。ヨルアノくんが作ったの?」
「そうなんです!これ俺めっちゃ好きで昔からよう作っとって」

 早速一口飲んでみると、爽やかでほんのり果実風味のする無糖のアイスティー。
 苦みもなくゴクゴクといくらでも飲めそうな美味しさだ。

「美味しい……!こんなの初めて!」
「この辺やと売っとらんくて、俺の故郷の物なんです」
「そういえば果物が有名なんだよね」
「……覚えとってんですか……?」
「勿論!」

 ヴェルくんと最初話してたから。やっぱりこういう特産品もあるんだなぁ。

「ねえ、他の種類もあるの?」
「あ、ありますよ!これは柑橘系で、あとは桃と苺のとか」
「絶対美味しい組み合わせ!」

 ヨルアノくんの故郷の国にも行ってみたいな。

「あの!俺沢山作るんで、飲みたい時あったらいつでも言ってください!」
「ありがとう、じゃあまたお願いするね!」

 何か少し顔を赤くしていたヨルアノくんは気を取り直すように私の隣に座る。

「最近なんですけど……」
「うん!」
「この本を最後まで読めたんですよ!」

 読書嫌いな彼が最後までとは。とても成長したらしい。
 彼が自慢げに取り出したのは子供用の絵本だった。

「……?これを読んだの?」
「はい!」

 中を見てみると一ページに一文。十ページ。

「読み物……なのかなぁ……?」
「……やっぱ駄目ですかね」
「これはカウントされないと思う」

 顔を見合わせクスクス笑う。

「イラストでほとんど意味分かるし」
「本当ですね……」
「私でも半分読めるよ?」
「それはサキさんが凄いからです!」

 二人でページを捲り一通り読む。
 内容結構面白くてちゃんと読んじゃった。

「それ貰ってくれませんか?」
「え、要らないの?」
「一回読み終わってん、また開くこと無いと思うんで」

 もしかして……この子の為に用意してくれたのかな。

「ふふ、ありがとう。ヨルアノくんも読み聞かせしてくれる?」
「はい……!頑張って練習しときます!」

 絵本を持ち帰ってその夜、リュークに見せてみた。

「ヨルアノくんに貰ったの」
「えっ、ヨルアノに?」

 リュークは一瞬苦い顔をしたがすぐに閉まって絵本を手に取る。

「そういえばおもちゃは買ったけど絵本は無かったね。色々あったほうがいいかな」
「あったほうがいいとは思うけど……あんなには要らないからね?」

 私は部屋の隅に積まれた箱たちを指差す。

「子供一人分のおもちゃの量じゃないでしょう。私だって見て決めたかったのに、これ以上増やせないじゃない」
「ごめん……楽しくてつい……」

 絵本は私も選ぶから、と念を押した。

「!」
「サキ、どうしたの!?」
「今動いた!」
「マジ!」

 慌ててお腹に触れるリュークはその胎動を感じたようで嬉しそうに耳を当てる。

「動いてる……!なんか……トクトクしてる!」
「話しかけたら返事してくれるかも」
「えっ、と、父さんだよー……?」
「ふふ……」

 意味も無くお腹の前で手を振るリュークが可愛くてつい笑ってしまう。

「名前が決まってないから呼べないよ……」
「そうだね……性別が分かればまだ良かったかもだけど」

 夫たちが「自分の子だったら……」って名前考えてるから結局産まれてくるまでは決めれないんだけど。

「サキの居た世界だとそういうの分かるの?」
「うん、お腹の中が見れる機械があるんだって」
「お腹の中!?」

 私も経験が無いので詳しいことは説明出来ないけれど、本当に現代って技術が発展してたんだなぁと改めて思う。

「男の子でも女の子でも用意はバッチリだから!」
「服もいっぱい買ったもんね」
「ごめんってば……」

 謝りながら頬にいっぱいキスをくれる。
 私はそのくすぐったい愛に笑いながら、彼と手を繋いだ。

「絵本も服も、今度一緒に見に行こうね」
「うん!」

 これからの楽しみを語り合い、夜は更けていく……。
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