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ヒューズ宅へ 1
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「お爺様!」
「サキ、よく来てくれた。体は辛くないか」
「今は大丈夫ですよ」
今日から一週間程、リフレッシュも兼ねてお爺様のお家に滞在する予定になっていた。
騎士団寮から馬車で片道三時間かかるので、夫たちには心配と寂しさで引き留められながらも許可をもらった。
「また迎えにくるから。何かあればすぐ連絡をくれ」
「はい!ありがとうございます、ハインツさん」
「ミスカ、任せたぞ」
「はい」
私に付いてきてくれたミスカさんはハインツさんの厳しい表情を受け止める。
ハインツさんは名残惜しそうに私に一つキスを残して寮に戻って行った。
「夫たちは随分心配性だな」
「少し前まで大変だったので…」
あの状態を見た後は流石にそうもなるだろう。
「ミスカは久しぶりだな。仕事はどうだ」
「はい、隣国での争いも減っているため国内での警備を主に任されています」
「そうか。アルデン国内も盗賊などの被害が無くなった訳では無いからな」
お爺様の邸宅には妊娠前にハインツさんと一度来たのみでとても久しぶりだ。
そして相変わらず思うのが…。
「立派だなぁ……」
我が家も相当大きいのだけれど、この建物はもっと大きい。
元公爵という地位の凄さが分かるものだ。
「中に入ろうか。皆が待っている」
「はい!」
勿論お爺様だけが居るのではなく、使用人として働いている人たちもここで生活している。
二人に手を繋いでもらいながら玄関に入ると皆が出迎えてくれた。
「サキ様!お久しぶりですー!」
「ずっと待ってましたよ!」
「皆……!久しぶり!」
以前お邪魔した時に皆とはすぐに仲良しになったのだ。
昔から長いことお爺様に仕えているという人たちばかりで、最初会うまでは突然孫となった私を受け入れてもらえるか心配していたのだが全くの杞憂だった。
「食事の準備もバッチリです!こちらへ……」
「ロウル、まずは部屋にご案内しないと」
「サキ様、お荷物お運びしますね!」
だいぶわちゃわちゃした様子の使用人たちにお爺様はため息をつく。
「すまない、一週間前に伝えてからずっと楽しみにしていたようでな」
「こんなに歓迎してもらえるのは本当に嬉しいです!私も皆に会いたかったから」
「ありがとう。しばらく相手してやってくれ」
ミスカさんと泊まれる大きな部屋を貸してもらった。
沢山の荷物を運んでもらい、久しぶりの彼の姿を見つける。
「イーベル!一週間よろしくね」
「はい!よろしくお願いします!」
ここで働いている中で一番若い彼は以前特に話していた。
「サキ様!実はなんですけど」
「うん、何かあったの?」
「俺もうすぐ結婚することになったんです!」
「え!おめでとう……!」
五か月前からお付き合いしている人がいるというのをこの前聞いたばかりで、もう結婚の報告を聞くことになるとは。
「でもそうしたらここには住めないよね。お仕事はどうするの?」
「ここから一番近い町なんで、通おうかなって」
「そっか!会えなくなっちゃうのは寂しいから良かった!」
「これからもサキ様にお仕えしますよ!」
とても嬉しそうな彼を見て私も笑顔になる。
もうすぐ夕方なので早速夕食を頂くことになった。
「サキ様がお好きだと言っていたシチューをご用意させて頂きました」
「わぁ…!ありがとう!今日は寒いからピッタリだね」
まだ若干冬の寒さが残るこの時期には嬉しいメニューだ。
「サキ」
ミスカさんが私の口元にスプーンを差し出す。
「い、今は一人で食べれますよ」
「……」
「分かりました……」
お爺様たちの前で恥ずかしく思いながらも、彼にご飯を食べさせてもらった。
「サキ様は本当に夫の方と仲がよろしいですね!」
「うん…そ、そうなの……」
私が照れながら肯定すると皆はニコニコして私たちを見守る。
やっぱり恥ずかしい……。
「浴室は部屋に設備されております。何かお困りごとがございましたらいつでもお呼びください」
「ありがとう!おやすみ」
「おやすみなさいませ」
その日は早めに皆との賑やかな時間を終えてミスカさんと部屋で二人きり。
「あの……ミスカさん」
「どうかしたか?」
「付いてきてくださってありがとうございます。一週間もお仕事お休みしてもらってまで…すみません」
騎士という職業でそんなに纏まった休みを取ることなんてほとんど無いだろう。団員の皆にも理解は得ているけれど出来るだけ迷惑はかけたくない。
私の考えを理解したミスカさんはそっと抱きしめながら話してくれる。
「最近も気分が落ち込むことがあっただろう」
「…はい……」
少しだけれど気持ちの上下があり、部屋に引きこもる日もあった。
「俺の仕事は団長が持ってくれた。サキが笑顔でいてくれることが俺たちの望むことだから、少しでもいいきっかけになればと思ったんだ」
ハインツさんも……。
自分でも難しい気持ちの変化に皆も考えて対応してくれている。私のことを深く知って想ってくれている彼らだからこそ。
「ありがとうございます……」
「ああ。黒騎士団の中にサキのことを心配しないやつは居ない。仕事よりもサキを優先するだろう」
「そんなに……」
「そんなにだ。誰も迷惑なんて思わない」
「……はい」
彼の腕の中であの温かい場所に居る皆の笑顔を想った。
「それにしても……サキ」
「はい?」
「この邸宅の人たちと仲がいいのは分かるが、少し距離が近すぎる」
「えっ」
不満そうに零す彼は屈んで私の顔を覗き込む。
「物理的な距離は充分に取って」
「はい」
「ここに居る間は必ず俺と一緒に行動してくれ」
「はい」
ミスカさんからのご指摘を受け「明日からは気を付けます」と言った。
あれでも駄目なんだ……やっぱり難しいな。
私も夫たちの気持ちをちゃんと理解しなければと気を入れなおした。
「サキ、よく来てくれた。体は辛くないか」
「今は大丈夫ですよ」
今日から一週間程、リフレッシュも兼ねてお爺様のお家に滞在する予定になっていた。
騎士団寮から馬車で片道三時間かかるので、夫たちには心配と寂しさで引き留められながらも許可をもらった。
「また迎えにくるから。何かあればすぐ連絡をくれ」
「はい!ありがとうございます、ハインツさん」
「ミスカ、任せたぞ」
「はい」
私に付いてきてくれたミスカさんはハインツさんの厳しい表情を受け止める。
ハインツさんは名残惜しそうに私に一つキスを残して寮に戻って行った。
「夫たちは随分心配性だな」
「少し前まで大変だったので…」
あの状態を見た後は流石にそうもなるだろう。
「ミスカは久しぶりだな。仕事はどうだ」
「はい、隣国での争いも減っているため国内での警備を主に任されています」
「そうか。アルデン国内も盗賊などの被害が無くなった訳では無いからな」
お爺様の邸宅には妊娠前にハインツさんと一度来たのみでとても久しぶりだ。
そして相変わらず思うのが…。
「立派だなぁ……」
我が家も相当大きいのだけれど、この建物はもっと大きい。
元公爵という地位の凄さが分かるものだ。
「中に入ろうか。皆が待っている」
「はい!」
勿論お爺様だけが居るのではなく、使用人として働いている人たちもここで生活している。
二人に手を繋いでもらいながら玄関に入ると皆が出迎えてくれた。
「サキ様!お久しぶりですー!」
「ずっと待ってましたよ!」
「皆……!久しぶり!」
以前お邪魔した時に皆とはすぐに仲良しになったのだ。
昔から長いことお爺様に仕えているという人たちばかりで、最初会うまでは突然孫となった私を受け入れてもらえるか心配していたのだが全くの杞憂だった。
「食事の準備もバッチリです!こちらへ……」
「ロウル、まずは部屋にご案内しないと」
「サキ様、お荷物お運びしますね!」
だいぶわちゃわちゃした様子の使用人たちにお爺様はため息をつく。
「すまない、一週間前に伝えてからずっと楽しみにしていたようでな」
「こんなに歓迎してもらえるのは本当に嬉しいです!私も皆に会いたかったから」
「ありがとう。しばらく相手してやってくれ」
ミスカさんと泊まれる大きな部屋を貸してもらった。
沢山の荷物を運んでもらい、久しぶりの彼の姿を見つける。
「イーベル!一週間よろしくね」
「はい!よろしくお願いします!」
ここで働いている中で一番若い彼は以前特に話していた。
「サキ様!実はなんですけど」
「うん、何かあったの?」
「俺もうすぐ結婚することになったんです!」
「え!おめでとう……!」
五か月前からお付き合いしている人がいるというのをこの前聞いたばかりで、もう結婚の報告を聞くことになるとは。
「でもそうしたらここには住めないよね。お仕事はどうするの?」
「ここから一番近い町なんで、通おうかなって」
「そっか!会えなくなっちゃうのは寂しいから良かった!」
「これからもサキ様にお仕えしますよ!」
とても嬉しそうな彼を見て私も笑顔になる。
もうすぐ夕方なので早速夕食を頂くことになった。
「サキ様がお好きだと言っていたシチューをご用意させて頂きました」
「わぁ…!ありがとう!今日は寒いからピッタリだね」
まだ若干冬の寒さが残るこの時期には嬉しいメニューだ。
「サキ」
ミスカさんが私の口元にスプーンを差し出す。
「い、今は一人で食べれますよ」
「……」
「分かりました……」
お爺様たちの前で恥ずかしく思いながらも、彼にご飯を食べさせてもらった。
「サキ様は本当に夫の方と仲がよろしいですね!」
「うん…そ、そうなの……」
私が照れながら肯定すると皆はニコニコして私たちを見守る。
やっぱり恥ずかしい……。
「浴室は部屋に設備されております。何かお困りごとがございましたらいつでもお呼びください」
「ありがとう!おやすみ」
「おやすみなさいませ」
その日は早めに皆との賑やかな時間を終えてミスカさんと部屋で二人きり。
「あの……ミスカさん」
「どうかしたか?」
「付いてきてくださってありがとうございます。一週間もお仕事お休みしてもらってまで…すみません」
騎士という職業でそんなに纏まった休みを取ることなんてほとんど無いだろう。団員の皆にも理解は得ているけれど出来るだけ迷惑はかけたくない。
私の考えを理解したミスカさんはそっと抱きしめながら話してくれる。
「最近も気分が落ち込むことがあっただろう」
「…はい……」
少しだけれど気持ちの上下があり、部屋に引きこもる日もあった。
「俺の仕事は団長が持ってくれた。サキが笑顔でいてくれることが俺たちの望むことだから、少しでもいいきっかけになればと思ったんだ」
ハインツさんも……。
自分でも難しい気持ちの変化に皆も考えて対応してくれている。私のことを深く知って想ってくれている彼らだからこそ。
「ありがとうございます……」
「ああ。黒騎士団の中にサキのことを心配しないやつは居ない。仕事よりもサキを優先するだろう」
「そんなに……」
「そんなにだ。誰も迷惑なんて思わない」
「……はい」
彼の腕の中であの温かい場所に居る皆の笑顔を想った。
「それにしても……サキ」
「はい?」
「この邸宅の人たちと仲がいいのは分かるが、少し距離が近すぎる」
「えっ」
不満そうに零す彼は屈んで私の顔を覗き込む。
「物理的な距離は充分に取って」
「はい」
「ここに居る間は必ず俺と一緒に行動してくれ」
「はい」
ミスカさんからのご指摘を受け「明日からは気を付けます」と言った。
あれでも駄目なんだ……やっぱり難しいな。
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