美醜逆転の異世界で騎士様たちに愛される

志季彩夜

文字の大きさ
上 下
129 / 184

隠したい跡

しおりを挟む
 昨日は体力が尽きてしまったが、午後は家で休んで夜もぐっすり眠ったら意外とすぐに回復した。
 でも今日はえっちお休みしよう……ミスカさんにまた心配かけちゃったら悪いし。
 そう思いながらパジャマのままリビングへ向かう。

「おはようございます」
「ああ、サキおはよう。昨日は……」

 朝の鍛錬が済んで一度戻ってきたのであろうハインツさんは、こちらを見ると慌てて傍に来た。

「その跡どうしたんだ!?虫刺されにしては多すぎだろう」
「え、あ!」

 昨日二人に散々付けられたキスマークを忘れていた。首元の大きく開いた夏用ワンピースだとほぼ丸見えである。

「あの……してる時に……その……」
「あいつら……」

 彼は部下二人の顔を思い出しため息をついた。

「上手く隠せるか?」
「ワイシャツだったら襟があるので……」

 とりあえず着替えてみる。

「……まだ少し見えているな」
「ですよね……」

 髪下ろしたら隠せるかもしれないけど、こんな暑い夏の日には無理がある。

「あぁ、もう時間が……。サキ、絶対に人に見せたら駄目だよ。今日は一日休んでもいいから」
「は、はい……いってらっしゃい……」

 流石にこれで休むのはなぁ……。


「サキさん、お疲れ様!なんか首に巻いてるの……怪我とか!?」
「いえ!これは……後ろに保冷剤を入れてるんです。首の後ろを冷やすと全身の体温が下がるのでオススメですよ」
「えっ、そうなんだ!俺たちもやろうぜ!」
「ああ!マジで今日暑いからな……。サキさんありがとう!」
「お仕事頑張ってください」

 ……言い訳は完璧である。
 これで乗り切ろうと思ったのだが、この方法が団員たちに知れ渡り保冷剤が足りなくなるという事態が起きてしまった。
 途中で替えようと思ったのにもう無くなってる……。
 結局保冷剤作戦は上手くいかず、首にただバンダナを巻いて暑い時間を過ごした。

「暑かったぁ……」

 本末転倒というか……これ以上上手い方法は無いと思っていたのだが、そう易々とはいかないものである。
 家用の保冷剤も買おう……これは必要だ……。

「サキさん、どうしました?具合悪いですか?」
「ヴェルくんのせいだよ!跡隠すので精一杯だったんだから!」

 怒って文句を言ったのだが彼はケロッとしている。

「見せびらかして良いですよ」
「良くない!」
「見られたくない気持ちもありますが僕がサキさんを愛していることを周囲に知らしめることが出来ますから。僕のサキさんが……」

 ツラツラと嬉しそうに話すヴェルくんの頬を両手で挟む。

「ごめんなさいは?」
「……ごめんなさい」

 手を離し、ふんっとそっぽを向いて汗を流す為浴室に向かった。


 サキがソファに座り無言でお菓子を食べている時、部屋の外では夫たちが集まって彼女の様子を伺っていた。

「お前たちサキを怒らせたのか?」
「「すみません……」」

 ミスカに圧をかけられほんの少し反省しているヴェルストリアと、とても反省しているラグト。

「二人とも酷いよ!俺だって付けたいのに怒られちゃったら出来ないじゃん!」
「リューク、そうじゃないだろう……」

 言っているハインツも実は付けたいと思っているが口には出さない。

「わざわざ見えるようなところに付けるからだろう。サキの気持ちも考えろ」

 ミスカの言葉がもっともである。見えないところならサキもそこまで怒らないだろう。そういう事を人に見られたり知られたくないから怒っているのだ。

「でも……」

 チラリと全員で目を合わせリビングに入る。

「ねぇ、サキ」
「?」

 リュークの呼び掛けにサキは夫たちの方を向く。

「今日し……」
「しない」

 ムッとして顔を逸らした。

 怒ってるの可愛い…!

 結果辿り着くのはそこである。

「サキぃ……ぷんぷんしてるの可愛いねぇ……」
「ぷんぷん……してないもん」
「サキちゃんごめんね?つい夢中になっちゃって……」
「別に怒ってないですってば」

 夫たちに囲まれむくれる態度も疲れたのか、サキはため息をついた。

「ヴェルくんとラグトさんだけじゃなくて皆も、こういうのは困るのでやめてくださいね」

 五人が頷いたのを見てサキはホッとする。
 一件落着のように思えたがリュークがまた空気を読まない発言をした。

「見えないところだったら付けていい?」
「「……」」
「今は聞かなくていいだろ」
「時を考えろ」

 リュークがミスカとハインツに小声で咎められていると、サキは少し顔を赤くして俯いた。

「ちょっとだけなら……」

 パタパタと部屋に逃げた妻を目で追いながら五人は思った。

「可愛い……」
「好き……」

 本日も家庭の平和は守られた。
しおりを挟む
感想 56

あなたにおすすめの小説

異世界の美醜と私の認識について

佐藤 ちな
恋愛
 ある日気づくと、美玲は異世界に落ちた。  そこまでならラノベなら良くある話だが、更にその世界は女性が少ない上に、美醜感覚が美玲とは激しく異なるという不思議な世界だった。  そんな世界で稀人として特別扱いされる醜女(この世界では超美人)の美玲と、咎人として忌み嫌われる醜男(美玲がいた世界では超美青年)のルークが出会う。  不遇の扱いを受けるルークを、幸せにしてあげたい!そして出来ることなら、私も幸せに!  美醜逆転・一妻多夫の異世界で、美玲の迷走が始まる。 * 話の展開に伴い、あらすじを変更させて頂きました。

美醜逆転異世界で、非モテなのに前向きな騎士様が素敵です

花野はる
恋愛
先祖返りで醜い容貌に生まれてしまったセドリック・ローランド、18歳は非モテの騎士副団長。 けれども曽祖父が同じ醜さでありながら、愛する人と幸せな一生を送ったと祖父から聞いて育ったセドリックは、顔を隠すことなく前向きに希望を持って生きている。けれどやはりこの世界の女性からは忌み嫌われ、中身を見ようとしてくれる人はいない。 そんな中、セドリックの元に異世界の稀人がやって来た!外見はこんなでも、中身で勝負し、専属護衛になりたいと頑張るセドリックだが……。 醜いイケメン騎士とぽっちゃり喪女のラブストーリーです。 多分短い話になると思われます。 サクサク読めるように、一話ずつを短めにしてみました。

転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~

恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん) は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。 しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!? (もしかして、私、転生してる!!?) そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!! そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?

旦那様が多すぎて困っています!? 〜逆ハー異世界ラブコメ〜

ことりとりとん
恋愛
男女比8:1の逆ハーレム異世界に転移してしまった女子大生・大森泉 転移早々旦那さんが6人もできて、しかも魔力無限チートがあると教えられて!? のんびりまったり暮らしたいのにいつの間にか国を救うハメになりました…… イケメン山盛りの逆ハーです 前半はラブラブまったりの予定。後半で主人公が頑張ります 小説家になろう、カクヨムに転載しています

ただ貴方の傍にいたい〜醜いイケメン騎士と異世界の稀人

花野はる
恋愛
日本で暮らす相川花純は、成人の思い出として、振袖姿を残そうと写真館へやって来た。 そこで着飾り、いざ撮影室へ足を踏み入れたら異世界へ転移した。 森の中で困っていると、仮面の騎士が助けてくれた。その騎士は騎士団の団長様で、すごく素敵なのに醜くて仮面を被っていると言う。 孤独な騎士と異世界でひとりぼっちになった花純の一途な恋愛ストーリー。 初投稿です。よろしくお願いします。

異世界転生〜色いろあって世界最強!?〜

野の木
恋愛
気付いたら、見知らぬ場所に。 生まれ変わった?ここって異世界!? しかも家族全員美男美女…なのになんで私だけ黒髪黒眼平凡顔の前世の姿のままなの!? えっ、絶世の美女?黒は美人の証? いやいや、この世界の人って目悪いの? 前世の記憶を持ったまま異世界転生した主人公。 しかもそこは、色により全てが決まる世界だった!?

私は女神じゃありません!!〜この世界の美的感覚はおかしい〜

朝比奈
恋愛
年齢=彼氏いない歴な平凡かつ地味顔な私はある日突然美的感覚がおかしい異世界にトリップしてしまったようでして・・・。 (この世界で私はめっちゃ美人ってどゆこと??) これは主人公が美的感覚が違う世界で醜い男(私にとってイケメン)に恋に落ちる物語。 所々、意味が違うのに使っちゃってる言葉とかあれば教えて下さると幸いです。 暇つぶしにでも呼んでくれると嬉しいです。 ※休載中 (4月5日前後から投稿再開予定です)

公爵様のバッドエンドを回避したいだけだったのに、なぜか溺愛されています

六花心碧
恋愛
お気に入り小説の世界で名前すら出てこないモブキャラに転生してしまった! 『推しのバッドエンドを阻止したい』 そう思っただけなのに、悪女からは脅されるし、小説の展開はどんどん変わっていっちゃうし……。 推しキャラである公爵様の反逆を防いで、見事バッドエンドを回避できるのか……?! ゆるくて、甘くて、ふわっとした溺愛ストーリーです➴⡱ (外部URLで登録していたものを改めて登録しました! ◇他サイト様でも公開中です)

処理中です...