美醜逆転の異世界で騎士様たちに愛される

志季彩夜

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隠したい跡

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 昨日は体力が尽きてしまったが、午後は家で休んで夜もぐっすり眠ったら意外とすぐに回復した。
 でも今日はえっちお休みしよう……ミスカさんにまた心配かけちゃったら悪いし。
 そう思いながらパジャマのままリビングへ向かう。

「おはようございます」
「ああ、サキおはよう。昨日は……」

 朝の鍛錬が済んで一度戻ってきたのであろうハインツさんは、こちらを見ると慌てて傍に来た。

「その跡どうしたんだ!?虫刺されにしては多すぎだろう」
「え、あ!」

 昨日二人に散々付けられたキスマークを忘れていた。首元の大きく開いた夏用ワンピースだとほぼ丸見えである。

「あの……してる時に……その……」
「あいつら……」

 彼は部下二人の顔を思い出しため息をついた。

「上手く隠せるか?」
「ワイシャツだったら襟があるので……」

 とりあえず着替えてみる。

「……まだ少し見えているな」
「ですよね……」

 髪下ろしたら隠せるかもしれないけど、こんな暑い夏の日には無理がある。

「あぁ、もう時間が……。サキ、絶対に人に見せたら駄目だよ。今日は一日休んでもいいから」
「は、はい……いってらっしゃい……」

 流石にこれで休むのはなぁ……。


「サキさん、お疲れ様!なんか首に巻いてるの……怪我とか!?」
「いえ!これは……後ろに保冷剤を入れてるんです。首の後ろを冷やすと全身の体温が下がるのでオススメですよ」
「えっ、そうなんだ!俺たちもやろうぜ!」
「ああ!マジで今日暑いからな……。サキさんありがとう!」
「お仕事頑張ってください」

 ……言い訳は完璧である。
 これで乗り切ろうと思ったのだが、この方法が団員たちに知れ渡り保冷剤が足りなくなるという事態が起きてしまった。
 途中で替えようと思ったのにもう無くなってる……。
 結局保冷剤作戦は上手くいかず、首にただバンダナを巻いて暑い時間を過ごした。

「暑かったぁ……」

 本末転倒というか……これ以上上手い方法は無いと思っていたのだが、そう易々とはいかないものである。
 家用の保冷剤も買おう……これは必要だ……。

「サキさん、どうしました?具合悪いですか?」
「ヴェルくんのせいだよ!跡隠すので精一杯だったんだから!」

 怒って文句を言ったのだが彼はケロッとしている。

「見せびらかして良いですよ」
「良くない!」
「見られたくない気持ちもありますが僕がサキさんを愛していることを周囲に知らしめることが出来ますから。僕のサキさんが……」

 ツラツラと嬉しそうに話すヴェルくんの頬を両手で挟む。

「ごめんなさいは?」
「……ごめんなさい」

 手を離し、ふんっとそっぽを向いて汗を流す為浴室に向かった。


 サキがソファに座り無言でお菓子を食べている時、部屋の外では夫たちが集まって彼女の様子を伺っていた。

「お前たちサキを怒らせたのか?」
「「すみません……」」

 ミスカに圧をかけられほんの少し反省しているヴェルストリアと、とても反省しているラグト。

「二人とも酷いよ!俺だって付けたいのに怒られちゃったら出来ないじゃん!」
「リューク、そうじゃないだろう……」

 言っているハインツも実は付けたいと思っているが口には出さない。

「わざわざ見えるようなところに付けるからだろう。サキの気持ちも考えろ」

 ミスカの言葉がもっともである。見えないところならサキもそこまで怒らないだろう。そういう事を人に見られたり知られたくないから怒っているのだ。

「でも……」

 チラリと全員で目を合わせリビングに入る。

「ねぇ、サキ」
「?」

 リュークの呼び掛けにサキは夫たちの方を向く。

「今日し……」
「しない」

 ムッとして顔を逸らした。

 怒ってるの可愛い…!

 結果辿り着くのはそこである。

「サキぃ……ぷんぷんしてるの可愛いねぇ……」
「ぷんぷん……してないもん」
「サキちゃんごめんね?つい夢中になっちゃって……」
「別に怒ってないですってば」

 夫たちに囲まれむくれる態度も疲れたのか、サキはため息をついた。

「ヴェルくんとラグトさんだけじゃなくて皆も、こういうのは困るのでやめてくださいね」

 五人が頷いたのを見てサキはホッとする。
 一件落着のように思えたがリュークがまた空気を読まない発言をした。

「見えないところだったら付けていい?」
「「……」」
「今は聞かなくていいだろ」
「時を考えろ」

 リュークがミスカとハインツに小声で咎められていると、サキは少し顔を赤くして俯いた。

「ちょっとだけなら……」

 パタパタと部屋に逃げた妻を目で追いながら五人は思った。

「可愛い……」
「好き……」

 本日も家庭の平和は守られた。
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