美醜逆転の異世界で騎士様たちに愛される

志季彩夜

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僅かな可能性でも

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 夕食の時間になり食堂に団員たちが集まる。

「サキさん!今日はカレーですか?」
「うん!キーマカレーだよ」
「めっちゃいい匂いしとって、つい走ってきちゃいました!」

 そう言いながらヨルアノくんは私の後ろに居るリュークを見る。

「今日は隊長、突っかかってこうへんのですね」
「……ふん」
「あれはこの前サキに叱られて我慢を覚えている最中なんだ。気にするな」

 ミスカさんに教えられ「へぇー」とヨルアノくんはコクコク頷く。

「ほんならサキさん、今日は一緒にご飯食べましょ!」
「やっぱ駄目!よくも抜け抜けとサキを誘って……」
「あはは!隊長顔怖いですよー」

 リュークに迫られご飯を持って逃げたヨルアノくんは他の先輩たちと一緒に食べていた。

「リューク……まだ成長が感じられないよ」
「こ、これからだもん!伸び代しかないもん……」

 ごにょごにょと言い訳を呟く彼の肩をミスカさんがポンポンと叩いて励ましている。

 先日アレクさんから「私と同じ世界から来た人が居るかもしれない」という情報を貰い、その日すぐに皆にも共有して話し合っていた。

「誕生日を祝う人って確かにサキちゃん以外見たことないけど……」

 ただそれだけの事でと思う気持ちもある。アレクさんもすぐに言わなかったのは同じ考えだったからだろう。
 そんな些細なことを気にすることも無いのに、彼はわざわざ私に伝えてくれた。自分一人の考えで物事の重要性を決めつけない柔軟な対応に尊敬の念を抱く。

「本当かどうかは行ってみないと分からないだろう」
「そうっすね……行くか行かないか……。サキちゃんは行きたいと思ってるんだよね?」

 ミスカさんに頷いたラグトさんに聞かれて私はハッキリと答える。

「はい、せっかくアレクさんが教えてくださって、その可能性を無駄に潰したくは無いです」

 純粋にその人に会ってみたいというのが一番だ。何の情報が得られなくても会うことに意味がある。

「知ったからには何か行動したいです。このまま分からずに気にする方が嫌だから」
「……ああ、私はサキの考えを尊重したい。皆はどうだ?」

 全員、勿論リュークも賛同した。
 ちなみにまだしょんぼりして私の手を握っている。

「しかし場所がだいぶ遠いから、その心配はある。誰が一緒に行くかだが……ミスカとラグトに任せる」

 ヴェルくんとリュークがだいぶショックを受けている。

「お前たちはサキのことに過干渉になりやすい。今回はサキが考え行動しなければならない。私たちでは分からないことが多いから余計な口は出さない方が良いだろう」

 ハインツさんは二人にキッパリ伝えると私を向く。

「そうは言っても一人で抱え込んでは駄目だよ。困ったことは何でも相談してくれ。困っていなくても人に話せば楽になることもあるから」
「ハインツさん……ありがとうございます……!」


 そうして一週間後の今日、アレクさん案内の元、ミスカさんとラグトさんと共に出立することになった。
 三泊四日の予定で隣国を超えてその先まで向かう。
 馬に乗っての移動なので、出来る限り少なくした荷物を持って門の前で彼らを待つ。
 ちょうど通りがかったのかヨルアノくんが私に気づき駆け寄って来た。

「サキさん、今日はどっか行くんですか?」
「うん、ちょっと遠出するの。三日くらい居ないから」
「えっ、そうなんですか……。……気をつけてくださいね!ヴェルストリアの面倒は俺がちゃんと見ときます!」
「ふふ、ありがとう。頼りにしてるね」

 ちょうど三人も用意を済まし馬を連れて来て、ヨルアノくんに見送られながら私たちは寮を出た。


「サキさんに会えへんと思うだけでこんなに苦しいなぁ……。なんでやろか」

 彼はその理由を知っていながら、わざとそう呟いた。
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