美醜逆転の異世界で騎士様たちに愛される

志季彩夜

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青春

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 すっかり寮内スポーツになったバスケットボールは一部の団員たちが既にマスターし、訓練場が空いている時には積極的に試合が行われていた。

「頑張れー!」

 夫たち以外とやっては駄目と禁止令を出された私は、簡易作成した得点表をペラペラと捲っていた。

「サキさん今どっちを応援してるんだ!?」
「俺たちだろ!」
「いや、こういう時は負けてる方を応援するんだよ!」

 隊関係なく接する機会が増えた為、皆の仲も深まっているようだ。
 私の隣で一緒に見ていたヴェルくんはこちらを見る。

「ちなみにサキさん、どっちを応援しているんですか?」
「勿論皆だよ!」
「……先輩たちも気の毒ですね」

 私はそそっと彼に寄る。

「私もやりたいなぁ…」
「駄目です」
「ちょっとだけ!大人数でやりたいの!」
「接触が多いじゃないですか!必ず手には触れるし体も当たるし」
「うぅ……」

 こればっかりはどれだけ口説いても無理そうだ。

「代わりに僕が出てきましょうか」
「本当!」
「ええ、見ていてくださいね」

 試合に入ったヴェルくんを目で追いかける。

「ヴェルくんー!頑張って!」
「スリーポイント流石!」
「きゃー!カッコいい!!」

 得点表のことも忘れて立ち上がり手を振る私に、ヴェルくんは爽やかに微笑み手を振り返す。

「くっ……ヴェルストリアが入った途端に……」
「同じチームなのに応援されてるの一人だけ……」
「あいつ一人勝ちじゃん……」

 一時的に活躍したヴェルくんは追い出されてしまったみたいで私の元へ戻ってきた。

「満足出来ましたか?」
「うん!」

 見るのとやるのは違うはずなのに気持ち的には満たされていて、私はヴェルくんにしっかり丸め込まれていた。
 試合も終盤に差し掛かった頃、突然大きな音がした。

「あー!」
「カゴ壊れた!」
「またかよ……もう何個目だ?」

 上の柵にしっかり縄で固定しているカゴは取れはしないが壊れる。
 絶対こうなるだろうと思ってダンクは教えていないが、それでも駄目だったようだ。
 こんなに沢山やることにはなるとはねぇ……。
 二人の用意してくれたカゴたちもまさかバスケに使われるとは思いもよらなかっただろう。
 ヴェルくんが替えを持ってこようと倉庫に向かったが……。

「すみません、もう新しいの無いです」

 ヴェルくんの言葉に皆ガックリと肩を落とす。

「マジか……あとちょっとだったのにな」
「今何点だ?え、同じじゃん」
「余計に悔しい!」

 出来ないものは仕方がないと今日は解散になった。

「お疲れ様です」
「サキさん、得点とってくれてありがとうございます!」
「いえ!見てても凄く楽しかったです。食堂にジュースあるので良かったら自由に飲んでください」
「マジか!」
「やったー!」

 無くなる前にと競争しながら出ていく団員たちを見送る。

「いつまでもカゴだと不便ですかね……」
「そうだね……他にあればいいんだけど」

 こういう困った時はハインツさん頼りだ。
 私は早速執務室へ向かう。

「サキ、また屋内訓練場で皆やっていたかい?」
「はい、ちょっとその事で……」

 事情を説明するとすぐに頷いて専用の物を用意すると言ってくれた。

「お仕事と関係ないことなのにすみません……。私が言い出したことで……」
「いや、謝らないでくれ。むしろ感謝しているのだから」
「感謝?」

 その意味が分からず首を傾げる。

「あのバスケというのは私も見させてもらったが、相手の動きを観察しそれに対応して動くこと、場の全体を把握して動くことなど色々な力が鍛えられる」

 確かに……。

「一番はチームワークだな。一人でやろうとせず味方を頼ることが戦う上でも特に重要だから」

 スポーツも騎士としての鍛錬の一つになってるってことだよね。

「とは言っても仕事とは別だし鍛錬に組み込むことはしない。本人たちが空き時間にやってくれるのなら良い事だ。その為の費用は出すよ」

 利益を考えて判断出来る理性的なハインツさん、カッコいい……!
 理性無くすとそれはそれでアレで……カッコいい。
 そんなことを考えて目を輝かせながら見つめる私にハインツさんは不思議そうにしながらも微笑んでいた。

「ハインツさんもバスケしませんか?」
「私もかい?」
「団員の皆さんとやるの私禁止されてるんです…。仲間が少ないと寂しくて、ハインツさんと一緒にやりたいなぁって……」
「ああ、じゃあ今度一緒にやろうか」
「はい!」

 ハインツさんも誘って後日、ゴールが完成した試しも含めてミスカさんとラグトさんと一緒に四人でやることになった。

「ミスカもやったことが無いのか」
「はい」
「楽しいっすよ!」

 正直私よりも上手くなってしまったラグトさんに教わって貰って、やっぱり覚えるのは速かった。

「こうか」
「そうっす!後は慣れれば!」

 皆身長が高いからバスケ向きだよね。もっと背の高い選手とか居たし、ミスカさんびっくりするかも。
 早速四人でチーム対決。

「サキと一緒が良いな」
「どうぞ」
「良いっすよ」

 ヴェルくんとリュークが居ないと穏やかだ……。
 そして揉めることなく始まり試合中。
 
 ハインツさんの投げたボールが綺麗にゴールに入る。

「ハインツさん!」

 私が駆け寄り手を出すと合わせてハイタッチしてくれた。

「楽しいね、サキと一緒だから余計にかな」

 少し無邪気に笑った彼にキュンとなった。

 ミスカさんは圧倒的に背が高いので上にボールを持たれると手が届かない。
 私がせめてもの努力でジャンプしていると、フッと微笑んだ彼がその場から片手でボールを投げシュートを決めた。

「頑張ったな」

 頭にポンと手が置かれ、去っていくミスカさんの背を見つめる。悔しいけれどそれよりも胸の高鳴りが私の中を占めていた。

 ラグトさんからボールを取ろうとした時、解けた靴紐を踏んで後ろに転びそうになってしまった。

「おっと」

 力強い腕が私を優しく受け止める。

「大丈夫?」

 下から覗く彼の顔がキラキラとして見えた。

「ありがとうございます…」


 試合が終わり息を切らしながらも思い出すのは彼らの名シーンばかりで。
 カッコよすぎる…もし同じ学校で男子バスケ部にこんな人たちが居たら絶対恋しちゃう……。

「ハインツさん、ミスカさん、ラグトさん、好き……!付き合ってください!」
「はは、もう結婚しているよ」

 学生時代に味わえなかった恋愛という青春を今取り戻すことが出来たのだった。
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