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青い月
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無事にエマさんとの出会いも果たし、転移したのは私だけでは無いのだということが分かった。
帰路についてすぐ空も暗くなり、近くの宿に泊まることになった。
「もしかしたら他にも居るかもしれないよね」
「そうですね…エマさんみたいに不便があるかもしれませんし」
町で買い物をしたりする分には大丈夫だけれど、身分が無いことが国に知れたら色々と大変だろう。
「皆良い人たちに助けて貰えてるかな…」
「またどこかで会えたら良いね」
「はい…」
他の国にも居るかもしれないその人たちの安全を願うことしか私は出来ない。
そしてどうしても気がかりなのが…
「青い月…か…」
今窓から見える月はいつもと変わらず黄金の光を放っている。
帰る方法の唯一の手がかりとも言えるけど、結局これ以上は分からないと思う。他の人には見えないのだから調べようが無い。
「サキ、何か不安か?」
「ミスカさん……ううん、なんでもないです」
ソファに座っていた私をミスカさんは抱えベッドに下ろす。
「今日も長いこと馬に乗っていたから疲れたか」
「休憩取ってくれてたからそんなにですよ。あそこの町で食べたお肉美味しかったですね」
「ああ、この国の名産らしい」
「また違う国にも行きた……んっ…」
唇を塞がれ押し倒される。
「サキの望むところへ、どこでも行こう」
「はい…」
「今日はしてもいいか」
「えっ、昨日してなかったんすか!?」
昨夜はアレクさんと同じ部屋に泊まっていたラグトさんが声を上げる。
「疲れてて、私自分で気づかないうちに寝ちゃったんです…」
「ごめん、そうだよね…」
私は手を伸ばしミスカさんの頭を抱き寄せる。
「今日は…したいです」
「ありがとう」
「俺も…いい?」
「一回ずつでお願いします…」
「了解!」
程よい疲労でぐっすり眠り、黒騎士団寮を出てから四日目に予定通り帰ってくることが出来た。
「サキ会いたかったぁ…」
「サキさん…」
二人にべったりくっつかれながら執務室へ向かう。
六人集まって今回のことについて報告をした。
「まさか本当に居たとは…」
「その方は黒い髪と瞳では無いから周りに知られることも無かったんですね」
ヴェルくんの言葉に頷く。
文字が書けなくても言葉は通じるから疑われることもよっぽど無い。
「あと、青い月っていうのも聞いて…」
「俺たちがサキを森で見つけた時に月が青く光っていたそうだ。俺は見ていないが一応聞いておきたい」
ハインツさんとリュークは顔を見合わせ首を横に振る。
「ヴェルストリアも心当たりないよね」
「ないですね」
ヴェルくんもラグトさんに同意する。
これに関しては聞いてもしょうがない…よね。
「サキはそのエマさんと会って、何か…心境の変化はあったのか…?」
ハインツさんがそう聞いた時、空気が少し固くなった。
「…エマさんと会えて凄く嬉しかったです。向こうの世界のことも沢山話せて」
「…ああ」
「でも心境の変化というのは全くありません。この世界で長く過ごしたエマさんを羨ましいなと思ったくらいです」
「そうか…」
皆はホッと胸を撫で下ろす。
「本当にありがとうございました」
「サキが納得出来たのなら良かったよ」
私を一番に想い助けてくれる彼らに感謝しながら、三日ぶりの黒騎士団で和やかに過ごした。
またいつも通りの毎日で、その日のことも良い思い出となった頃だった。
最近、不思議な…奇妙な感じを覚える。
それがどうも胸騒ぎと言えるような悪いものでは無い気もして、余計に複雑な気持ちになる。
「何か考え事かい?」
「いえ…少し風に当たってきます」
「今夜は寒いから長居は駄目だよ」
ハインツさんに声をかけられながらリビングを出て玄関の扉を開ける。
「寒い…もう長袖かな…」
夏の終わりだとは思えない夜の冷たい空気に思わず両腕を摩る。
私の左手の薬指にずっとはめられている指輪はシルバーの中に青い輝きを秘めている。
今日はいつもより綺麗に見える…?
ふと手を上げ月にかざすと…
その月は青く光っていた。
透き通った海のように美しい青は、あの時と同じように私を照らす。
気づいた瞬間、急いで家の中に駆け込んだ。
見間違いだ、そんな訳無い。
青い月だなんて、話を聞いたからそう見えてしまったんだ。
そう思っても振り返る余裕は全く無かった。
「ハインツさん!!」
リビングの扉を開けそこに居る彼の名を呼ぶ。
「サキ!どうしたんだ!」
触れて、抱きしめて貰えば大丈夫。
私はここに居るんだから。
「月が……」
伸ばした手は、届かなかった。
帰路についてすぐ空も暗くなり、近くの宿に泊まることになった。
「もしかしたら他にも居るかもしれないよね」
「そうですね…エマさんみたいに不便があるかもしれませんし」
町で買い物をしたりする分には大丈夫だけれど、身分が無いことが国に知れたら色々と大変だろう。
「皆良い人たちに助けて貰えてるかな…」
「またどこかで会えたら良いね」
「はい…」
他の国にも居るかもしれないその人たちの安全を願うことしか私は出来ない。
そしてどうしても気がかりなのが…
「青い月…か…」
今窓から見える月はいつもと変わらず黄金の光を放っている。
帰る方法の唯一の手がかりとも言えるけど、結局これ以上は分からないと思う。他の人には見えないのだから調べようが無い。
「サキ、何か不安か?」
「ミスカさん……ううん、なんでもないです」
ソファに座っていた私をミスカさんは抱えベッドに下ろす。
「今日も長いこと馬に乗っていたから疲れたか」
「休憩取ってくれてたからそんなにですよ。あそこの町で食べたお肉美味しかったですね」
「ああ、この国の名産らしい」
「また違う国にも行きた……んっ…」
唇を塞がれ押し倒される。
「サキの望むところへ、どこでも行こう」
「はい…」
「今日はしてもいいか」
「えっ、昨日してなかったんすか!?」
昨夜はアレクさんと同じ部屋に泊まっていたラグトさんが声を上げる。
「疲れてて、私自分で気づかないうちに寝ちゃったんです…」
「ごめん、そうだよね…」
私は手を伸ばしミスカさんの頭を抱き寄せる。
「今日は…したいです」
「ありがとう」
「俺も…いい?」
「一回ずつでお願いします…」
「了解!」
程よい疲労でぐっすり眠り、黒騎士団寮を出てから四日目に予定通り帰ってくることが出来た。
「サキ会いたかったぁ…」
「サキさん…」
二人にべったりくっつかれながら執務室へ向かう。
六人集まって今回のことについて報告をした。
「まさか本当に居たとは…」
「その方は黒い髪と瞳では無いから周りに知られることも無かったんですね」
ヴェルくんの言葉に頷く。
文字が書けなくても言葉は通じるから疑われることもよっぽど無い。
「あと、青い月っていうのも聞いて…」
「俺たちがサキを森で見つけた時に月が青く光っていたそうだ。俺は見ていないが一応聞いておきたい」
ハインツさんとリュークは顔を見合わせ首を横に振る。
「ヴェルストリアも心当たりないよね」
「ないですね」
ヴェルくんもラグトさんに同意する。
これに関しては聞いてもしょうがない…よね。
「サキはそのエマさんと会って、何か…心境の変化はあったのか…?」
ハインツさんがそう聞いた時、空気が少し固くなった。
「…エマさんと会えて凄く嬉しかったです。向こうの世界のことも沢山話せて」
「…ああ」
「でも心境の変化というのは全くありません。この世界で長く過ごしたエマさんを羨ましいなと思ったくらいです」
「そうか…」
皆はホッと胸を撫で下ろす。
「本当にありがとうございました」
「サキが納得出来たのなら良かったよ」
私を一番に想い助けてくれる彼らに感謝しながら、三日ぶりの黒騎士団で和やかに過ごした。
またいつも通りの毎日で、その日のことも良い思い出となった頃だった。
最近、不思議な…奇妙な感じを覚える。
それがどうも胸騒ぎと言えるような悪いものでは無い気もして、余計に複雑な気持ちになる。
「何か考え事かい?」
「いえ…少し風に当たってきます」
「今夜は寒いから長居は駄目だよ」
ハインツさんに声をかけられながらリビングを出て玄関の扉を開ける。
「寒い…もう長袖かな…」
夏の終わりだとは思えない夜の冷たい空気に思わず両腕を摩る。
私の左手の薬指にずっとはめられている指輪はシルバーの中に青い輝きを秘めている。
今日はいつもより綺麗に見える…?
ふと手を上げ月にかざすと…
その月は青く光っていた。
透き通った海のように美しい青は、あの時と同じように私を照らす。
気づいた瞬間、急いで家の中に駆け込んだ。
見間違いだ、そんな訳無い。
青い月だなんて、話を聞いたからそう見えてしまったんだ。
そう思っても振り返る余裕は全く無かった。
「ハインツさん!!」
リビングの扉を開けそこに居る彼の名を呼ぶ。
「サキ!どうしたんだ!」
触れて、抱きしめて貰えば大丈夫。
私はここに居るんだから。
「月が……」
伸ばした手は、届かなかった。
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