美醜逆転の異世界で騎士様たちに愛される

志季彩夜

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スキップが見たい

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 これは少し前の出来事である。
 サキの夫たちはまた集まっており、その中でハインツは真剣な顔をする。

「なあ、スキップというものを知っているか?」

 突然の問いにリュークは一瞬不思議そうな顔をして頷く。

「知ってますよ。嬉しい時にするやつですよね」
「そうなのか…私は知らなくてな」
「僕も知らないです」

 ヴェルストリアがハインツに同調する。

「え、ミスカとラグトは分かるよね?」
「ああ」「分かります!」

 この3人は町育ちなので見たこともあるだろうが、ハインツとヴェルストリアはそんな環境では無かったのでスキップなど知りもしなかったのである。

「随分前のことにはなるがサキがスキップを教えてくれたんだ。その時の…動きが可愛すぎて…」
「さ、サキのスキップ…!?」

 リュークの驚きの言葉と共に皆勢いよく立ち上がる。
 彼女は嬉しい時は顔に全部出るし腕も振ったりしてとても可愛いのだが、スキップをしているところは見たことが無い。
 ヴェルストリアがスキップを分からないのに立ち上がったのはサキなら何しても可愛いに決まっているから、である。

「足を跳ねるようにぴょこぴょこと」
「ぴょこぴょこ…!」
「手がぴよぴよと」
「ぴよぴよ…!」

 なかなか想像では追いつかないが、擬音のみで可愛いことが理解出来る。

「一瞬しか見れなかったんだ…もう一度見たいのだが断られてしまって…」

 だいぶ根に持つ男だ。

「まあまあ、サキも頼んだら見せてくれますよ」

 軽く言うリュークに続き、全員がサキの元へ向かった。
 団長、リーダー、隊長が揃って歩くものだから周りの団員は一瞬ビクッとするがヴェルストリアとラグトが居るのを見て察し、何事も無かったかのように通り過ぎて行った。



「サキー!」

 廊下の掃除中、夫たちがこちらにやって来た。

「え、皆揃って珍しいね。どうしたの?」
「俺たちサキのスキップが見たい!」

 笑顔で言ったリュークに四人が目を丸くしている。

「めっちゃハッキリ言うんすね!?」

 私は訳も分からずポカンとしていたが、ようやく理解した。

「ハインツさん!なんで皆に言うんですか!」
「いや、サキが可愛かったから」

 開き直ってる…。

「しませんから!」
「そんなぁ…」
「サキさん見たいです…」

 ラグトさんとヴェルくんにシュンとした顔を向けられて心を少し痛めた私は一考する。

「それなら…皆もスキップしてください」
「「え」」
「見せてくれたら私もします!」

 タダでするのは気に食わないし、皆のスキップが見たい。
 双方の要望が一致しているというのに彼らは微妙な顔をする。

「いや…」
「私たちがしても何も面白くないだろう…」

 ミスカさんとハインツさんが特に戸惑っている。

「俺はいいよー?」
「駄目、リュークがしてるのは見たことあるもの」
「えっ!?駄目!?」

 落ち込んだリュークは廊下の隅っこで埃と向き合っている。

「僕やり方分からないです」
「そうなの?こうやって…」

 手本を見せようとしたが、ヴェルくんの笑顔に気づいて止めた。
 危ない…させられるところだった…。

「教えてくれないんですか?」
「っ…リュークに教えて貰おう!」

 いじけているリュークを引っ張って講師役に任命する。

「もー…一回で覚えてね」

 いつも通りリュークはぴょんぴょんと跳ぶ。

「なるほど」
「そういうことですか」

 ハインツさんとヴェルくんは頷く。
 え、本当に今の一回で理解出来たの?
 流石頭も良くて身体能力が高い騎士様。

「ではヴェルストリアに先を譲ろう」
「団長…」

 ハインツさんに促されてヴェルくんは軽やかにスキップをして、私の前で止まった。

「どうですか?」
「ヴェルくん上手!」
「本当ですか!」

 可愛いねーと頭を撫でて褒める。

「俺がやっても褒めて貰えないのに…」

 リュークが少し可哀想だったので頭を撫でてあげた。

「次は団長ですよ」
「ヴェルストリア、急かさないでくれ…」

 羞恥心が消えずようやく覚悟を決めたハインツさんは足を動かす。しかし手をあまり動かさず真顔なものだから、私は思わず吹き出してしまった。

「サキ…そんなに変だったか?」
「いえ…カッコよかったですよ」
「それは絶対に無いだろう…」

 若干からかわれているのが気に食わなかった彼に、頬をムニムニされた。

「俺もやったことないなぁ…出来るかな」

 そう言いながらラグトさんは足元を見て少しずつ跳ねながら前へ進む。
 精一杯足を動かす彼を見てニコニコしていると、足がもつれてしまったみたいで私の方へ倒れてきた。

「わっ!」
「サキっ!」
「大丈夫か!」

 咄嗟にラグトさんが抱きしめて反転してくれたので私は全く痛く無いのだけれど、上に乗った私の胸がちょうど彼の顔に来ていて…。

「…ふわふわ…」

 谷間に顔を埋めたラグトさんが真っ赤になっている。
 慌てて皆が私をラグトさんから離した。

「ラグトさん気をつけてください!」
「サキを危ない目に遭わせといて何で一人だけ特してるの!」
「わざとじゃないんですか」
「ラッキースケベ反対!」
「すみません!」

 ヴェルくんとリュークに迫られている。

「最後はミスカだな」
「いや、俺は…」

 困った顔で渋っていたミスカさんはため息をついた。

「…分かった」

 そうしてやって見せてくれたのだけれど…。
 体の力が抜けていないようで、背筋が綺麗に伸びているから余計に違和感が凄い。動きとしては正しいのにカクカクして見える。

「あはは!ミスカ何それ!」
「笑うな」
「ふふ…ミスカさん…動きが…」
「……」

 リュークと私だけで無く他の三人も笑いを堪えていて、ミスカさんは凄く気まずそうだった。

「…サキが喜んでくれたならそれで良い」
「はい…ふふ、ありがとうございます」

 愛おしくて大きい体をギュッと抱きしめた。

「サキ…」

 ハインツさんに期待の目を向けられる。

「ちゃんとやりますから…」

 対価は払わなければいけない。
 私は少し離れてスキップを始めた。

「か、可愛いぃ…!」
「手がパタパタ動いちゃってる…」
「サキさん好き…」

 リュークとラグトさんとヴェルくんの声と二人の熱い視線を受けながら私は彼らの元へ到着した。

「ま、満足ですか!」
「えー足りない~」
「もう一回…」
「しません!」

 リュークとハインツさんに懇願されたがそっぽを向いて皆を追い返した。
 急に何かと思えば変なお願いをしてくる夫たち。
 しかし呆れながらもスキップを頑張る彼らを思い出してにやけてしまう。
 …また理由を付けて見せてもらおう。
 その時彼らが同じことを考えているということを私は知らなかった。
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