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叶わなくても(ヨルアノ)
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俺の生まれ育った村は他の所より見た目の差別が少ないというか、俺はそんなに酷い扱いを受けることも無く暮らしていた。
普通に友達も居て、村の人たちも皆優しくて俺は恵まれていた。
しかし母にだけは受け入れて貰えることは無かった。
兄弟たちと違って一人だけ醜い俺を避けて極力関わらないようにしていた。それを幼いながらに俺は分かっていたが不意に一度だけ触れてしまったことがあった。
勢いよく手が弾かれ母の爪により一筋の傷が与えられた。
母も故意の行動ではなく反射的なものだったのだろう。俺を怒るでもなく青ざめた顔で去っていった。
ヒリヒリと痛む手のひらと後からジワジワと血のにじむ切り傷の光景がどうしても頭から離れない。たったそれだけのことだけれど俺は本当に母から愛されていないのだと確信した瞬間だったから。
そこから女性に触れるということの抵抗が大きくなっていき、考えるだけで胸が苦しくなった。
初めてサキさんと会った時、まさか黒騎士団に女性が居るなんて、周りのその話が本当だとは思っておらずただただ驚いた。
とても綺麗な人で敬語で愛想良く、今まで出会った女性たちとは全然違う雰囲気を纏っていた。
しかしやっぱり触れることには戸惑ってしまって。初対面で握手を拒むなんて出来ない、でも…と失礼にも悩んでしまった。
結局その時は握手はせずに何も気にしていないように話すことが出来た。
普段関わる分には接触も無く、サキさんと話すのはとても楽しかった。
黒騎士団の人たちは皆優しいなぁ。俺も頑張ってラグトさんみたいに人を助けられるようになりたい…。
純粋に最初はそれだけを思っていたのだったのだが、ある日廊下でサキさんとぶつかってしまった。
当たり前に彼女の腰に手を回すくらい出来たのに、俺の体がそれを拒否し手を引っ込めた。
俺は人を助けるどころか傷つけ守ることも出来ない。
その動揺と後悔と…色々感情が混ざりいっぱいいっぱいで、俺は手を差し伸べることすらしなかった。
せっかく仲間として受け入れて貰えてきたのにこんなことで信頼を失わせてしまうなんて。
どうしようも無くなった俺にサキさんはいつもと変わらない柔らかい声で言う。
「そんなに気にしないで、誰にだって苦手なことはあるんだから」
幻滅され怒るだろうと思っていたが、彼女は本当に心から優しい人なのだった。
「そんな見た目のくせに私に近づくのを拒むなんて」と何度も言われ悪化していった俺の情けない部分を笑って受け入れてくれた。
それからだった。
サキさんを見かければつい目で追ってしまう。
皆から慕われている彼女は誰にでも笑顔で、その様子を見かける度、胸がドキドキして同時にモヤモヤと何とも言い難い気持ちに襲われていた。
しかし遠征に行く前日、リーダーとサキさんが手を繋いだところを見て驚く。
二人とも幸せそう…あんな優しい笑顔見たことない…。
先程までカッコいい雰囲気を纏っていた上司はまるで別人のように見えて、サキさんは人を変える力があるのではないかと思った。
俺も…サキさんとなら…。
このモヤモヤした気持ちが何か、きっかけがあれば分かるかもしれないと、あの時不躾ながらもお願いしに行ったのだった。
「ヴェルストリア!どうしたん」
突然部屋に訪ねてきた彼を中に入れる。
「あのさ…この前サキさんと食堂で話してなかった?」
「あ、うん!ちょっとお願いしとって」
「お願い?」
「サキさんと握手させて貰ったんよ」
「!?」
椅子から立ち上がったヴェルストリアはピタリと止まり、大人しくなったかと思うとまた座った。
「な、なんで…握手を…」
俺はあれからずっと考え、ようやく気づいた結論を彼に伝えた。
「俺、サキさんのことが好きなんやと思う」
「っ…」
立ち上がり拳を握りしめたヴェルストリアはまた大人しく座った。
「さっきからどうしたん」
「いや…なんでもない」
何かはあるやろ、と不思議に思いながらも促されて俺は経緯を話した。
「女性に触れられないって言っても、そもそもほとんど関わりないやろ?まあ言わんでも良いかなって。あ、団長には一応伝えたよ」
「うん…それは大変だったね」
同情するような言葉を口にしながらヴェルストリアは他のことにショックを受けている。
人が長年悩んどることなんに…こいつサキさん以外にはさっぱりやな。
関わって約二ヶ月だが、この友達がサキさん馬鹿なのだということはすぐ理解した。
「それで、俺サキさんに告白しようと思って」
「それは駄目!!」
「なんで?」
「なんでって…」
今から理由を考えようとしとるな、ヴェルストリア。
「彼氏とか夫は妻が自由に決めるもんやろ? 」
「サキさんが…他の男を選ぶ…?」
「そうは言っとらん」
話しとると調子くるうで訛りが酷くなるな…。
アルデンに来る前に少しは練習したのだがどうも気が抜けるといけない。
皆と普通に話出来とるからもう良いか…結構疲れるんよ…。
と、そんなことは置いて心にダメージをおったヴェルストリアを落ち着かせる。
「大丈夫や。俺がサキさんと付き合うことは無いから」
サキさんから望む返事が貰えることが無いのは分かっている。
「ただ伝えたいだけ。同じ気持ちが返ってくるなんて思っとらんから安心して」
「ヨルアノ…。ごめん、僕も同じだった…サキさんにどうしても伝えたくてあの時決めたんだ」
ヴェルストリアも頑張って告白したんやな…。
その時の気持ちを思い出してくれたのか覚悟を決めたように頷いた。
「ヨルアノなら許すよ」
告白するのに夫の許可が必要ってどういうこっちゃ。
「お前先輩たちに対してもそやったん?」
「余計に気を持たせるより早めに諦めて貰った方が良い」
「怖いわぁ…」
サキさんの夫は皆なんでこんな執着心強いん?ラグトさんはそうでもなさそうやけど。流石俺が一番に尊敬する人やわ。
「…サキさんは誰にでも優しいやろ?俺に対しても」
「…うん」
「でもやっぱり違うんよ、ヴェルストリアとか夫に向ける視線…目っていうん?あんなに恋してるって分かりやすいもんなんやな」
「そっか…」
ヴェルストリアは凄く嬉しそうに、何かを噛み締めて笑顔になった。
「俺が好きになったんは夫たちが大好きなサキさんなのかもなーと思って。でもやっぱり好きやから想い伝えるわ!」
「うん」
「もう怒らんな?」
「怒らない。我慢する」
「なら、行ってくる!」
「えっ、今から!?」
「早めに玉砕したほうが良いんやろ!」
ヴェルストリアを部屋に置いて、俺はサキさんの元へ向かった。
普通に友達も居て、村の人たちも皆優しくて俺は恵まれていた。
しかし母にだけは受け入れて貰えることは無かった。
兄弟たちと違って一人だけ醜い俺を避けて極力関わらないようにしていた。それを幼いながらに俺は分かっていたが不意に一度だけ触れてしまったことがあった。
勢いよく手が弾かれ母の爪により一筋の傷が与えられた。
母も故意の行動ではなく反射的なものだったのだろう。俺を怒るでもなく青ざめた顔で去っていった。
ヒリヒリと痛む手のひらと後からジワジワと血のにじむ切り傷の光景がどうしても頭から離れない。たったそれだけのことだけれど俺は本当に母から愛されていないのだと確信した瞬間だったから。
そこから女性に触れるということの抵抗が大きくなっていき、考えるだけで胸が苦しくなった。
初めてサキさんと会った時、まさか黒騎士団に女性が居るなんて、周りのその話が本当だとは思っておらずただただ驚いた。
とても綺麗な人で敬語で愛想良く、今まで出会った女性たちとは全然違う雰囲気を纏っていた。
しかしやっぱり触れることには戸惑ってしまって。初対面で握手を拒むなんて出来ない、でも…と失礼にも悩んでしまった。
結局その時は握手はせずに何も気にしていないように話すことが出来た。
普段関わる分には接触も無く、サキさんと話すのはとても楽しかった。
黒騎士団の人たちは皆優しいなぁ。俺も頑張ってラグトさんみたいに人を助けられるようになりたい…。
純粋に最初はそれだけを思っていたのだったのだが、ある日廊下でサキさんとぶつかってしまった。
当たり前に彼女の腰に手を回すくらい出来たのに、俺の体がそれを拒否し手を引っ込めた。
俺は人を助けるどころか傷つけ守ることも出来ない。
その動揺と後悔と…色々感情が混ざりいっぱいいっぱいで、俺は手を差し伸べることすらしなかった。
せっかく仲間として受け入れて貰えてきたのにこんなことで信頼を失わせてしまうなんて。
どうしようも無くなった俺にサキさんはいつもと変わらない柔らかい声で言う。
「そんなに気にしないで、誰にだって苦手なことはあるんだから」
幻滅され怒るだろうと思っていたが、彼女は本当に心から優しい人なのだった。
「そんな見た目のくせに私に近づくのを拒むなんて」と何度も言われ悪化していった俺の情けない部分を笑って受け入れてくれた。
それからだった。
サキさんを見かければつい目で追ってしまう。
皆から慕われている彼女は誰にでも笑顔で、その様子を見かける度、胸がドキドキして同時にモヤモヤと何とも言い難い気持ちに襲われていた。
しかし遠征に行く前日、リーダーとサキさんが手を繋いだところを見て驚く。
二人とも幸せそう…あんな優しい笑顔見たことない…。
先程までカッコいい雰囲気を纏っていた上司はまるで別人のように見えて、サキさんは人を変える力があるのではないかと思った。
俺も…サキさんとなら…。
このモヤモヤした気持ちが何か、きっかけがあれば分かるかもしれないと、あの時不躾ながらもお願いしに行ったのだった。
「ヴェルストリア!どうしたん」
突然部屋に訪ねてきた彼を中に入れる。
「あのさ…この前サキさんと食堂で話してなかった?」
「あ、うん!ちょっとお願いしとって」
「お願い?」
「サキさんと握手させて貰ったんよ」
「!?」
椅子から立ち上がったヴェルストリアはピタリと止まり、大人しくなったかと思うとまた座った。
「な、なんで…握手を…」
俺はあれからずっと考え、ようやく気づいた結論を彼に伝えた。
「俺、サキさんのことが好きなんやと思う」
「っ…」
立ち上がり拳を握りしめたヴェルストリアはまた大人しく座った。
「さっきからどうしたん」
「いや…なんでもない」
何かはあるやろ、と不思議に思いながらも促されて俺は経緯を話した。
「女性に触れられないって言っても、そもそもほとんど関わりないやろ?まあ言わんでも良いかなって。あ、団長には一応伝えたよ」
「うん…それは大変だったね」
同情するような言葉を口にしながらヴェルストリアは他のことにショックを受けている。
人が長年悩んどることなんに…こいつサキさん以外にはさっぱりやな。
関わって約二ヶ月だが、この友達がサキさん馬鹿なのだということはすぐ理解した。
「それで、俺サキさんに告白しようと思って」
「それは駄目!!」
「なんで?」
「なんでって…」
今から理由を考えようとしとるな、ヴェルストリア。
「彼氏とか夫は妻が自由に決めるもんやろ? 」
「サキさんが…他の男を選ぶ…?」
「そうは言っとらん」
話しとると調子くるうで訛りが酷くなるな…。
アルデンに来る前に少しは練習したのだがどうも気が抜けるといけない。
皆と普通に話出来とるからもう良いか…結構疲れるんよ…。
と、そんなことは置いて心にダメージをおったヴェルストリアを落ち着かせる。
「大丈夫や。俺がサキさんと付き合うことは無いから」
サキさんから望む返事が貰えることが無いのは分かっている。
「ただ伝えたいだけ。同じ気持ちが返ってくるなんて思っとらんから安心して」
「ヨルアノ…。ごめん、僕も同じだった…サキさんにどうしても伝えたくてあの時決めたんだ」
ヴェルストリアも頑張って告白したんやな…。
その時の気持ちを思い出してくれたのか覚悟を決めたように頷いた。
「ヨルアノなら許すよ」
告白するのに夫の許可が必要ってどういうこっちゃ。
「お前先輩たちに対してもそやったん?」
「余計に気を持たせるより早めに諦めて貰った方が良い」
「怖いわぁ…」
サキさんの夫は皆なんでこんな執着心強いん?ラグトさんはそうでもなさそうやけど。流石俺が一番に尊敬する人やわ。
「…サキさんは誰にでも優しいやろ?俺に対しても」
「…うん」
「でもやっぱり違うんよ、ヴェルストリアとか夫に向ける視線…目っていうん?あんなに恋してるって分かりやすいもんなんやな」
「そっか…」
ヴェルストリアは凄く嬉しそうに、何かを噛み締めて笑顔になった。
「俺が好きになったんは夫たちが大好きなサキさんなのかもなーと思って。でもやっぱり好きやから想い伝えるわ!」
「うん」
「もう怒らんな?」
「怒らない。我慢する」
「なら、行ってくる!」
「えっ、今から!?」
「早めに玉砕したほうが良いんやろ!」
ヴェルストリアを部屋に置いて、俺はサキさんの元へ向かった。
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