117 / 185
叶わなくても(ヨルアノ)
しおりを挟む
俺の生まれ育った村は他の所より見た目の差別が少ないというか、俺はそんなに酷い扱いを受けることも無く暮らしていた。
普通に友達も居て、村の人たちも皆優しくて俺は恵まれていた。
しかし母にだけは受け入れて貰えることは無かった。
兄弟たちと違って一人だけ醜い俺を避けて極力関わらないようにしていた。それを幼いながらに俺は分かっていたが不意に一度だけ触れてしまったことがあった。
勢いよく手が弾かれ母の爪により一筋の傷が与えられた。
母も故意の行動ではなく反射的なものだったのだろう。俺を怒るでもなく青ざめた顔で去っていった。
ヒリヒリと痛む手のひらと後からジワジワと血のにじむ切り傷の光景がどうしても頭から離れない。たったそれだけのことだけれど俺は本当に母から愛されていないのだと確信した瞬間だったから。
そこから女性に触れるということの抵抗が大きくなっていき、考えるだけで胸が苦しくなった。
初めてサキさんと会った時、まさか黒騎士団に女性が居るなんて、周りのその話が本当だとは思っておらずただただ驚いた。
とても綺麗な人で敬語で愛想良く、今まで出会った女性たちとは全然違う雰囲気を纏っていた。
しかしやっぱり触れることには戸惑ってしまって。初対面で握手を拒むなんて出来ない、でも…と失礼にも悩んでしまった。
結局その時は握手はせずに何も気にしていないように話すことが出来た。
普段関わる分には接触も無く、サキさんと話すのはとても楽しかった。
黒騎士団の人たちは皆優しいなぁ。俺も頑張ってラグトさんみたいに人を助けられるようになりたい…。
純粋に最初はそれだけを思っていたのだったのだが、ある日廊下でサキさんとぶつかってしまった。
当たり前に彼女の腰に手を回すくらい出来たのに、俺の体がそれを拒否し手を引っ込めた。
俺は人を助けるどころか傷つけ守ることも出来ない。
その動揺と後悔と…色々感情が混ざりいっぱいいっぱいで、俺は手を差し伸べることすらしなかった。
せっかく仲間として受け入れて貰えてきたのにこんなことで信頼を失わせてしまうなんて。
どうしようも無くなった俺にサキさんはいつもと変わらない柔らかい声で言う。
「そんなに気にしないで、誰にだって苦手なことはあるんだから」
幻滅され怒るだろうと思っていたが、彼女は本当に心から優しい人なのだった。
「そんな見た目のくせに私に近づくのを拒むなんて」と何度も言われ悪化していった俺の情けない部分を笑って受け入れてくれた。
それからだった。
サキさんを見かければつい目で追ってしまう。
皆から慕われている彼女は誰にでも笑顔で、その様子を見かける度、胸がドキドキして同時にモヤモヤと何とも言い難い気持ちに襲われていた。
しかし遠征に行く前日、リーダーとサキさんが手を繋いだところを見て驚く。
二人とも幸せそう…あんな優しい笑顔見たことない…。
先程までカッコいい雰囲気を纏っていた上司はまるで別人のように見えて、サキさんは人を変える力があるのではないかと思った。
俺も…サキさんとなら…。
このモヤモヤした気持ちが何か、きっかけがあれば分かるかもしれないと、あの時不躾ながらもお願いしに行ったのだった。
「ヴェルストリア!どうしたん」
突然部屋に訪ねてきた彼を中に入れる。
「あのさ…この前サキさんと食堂で話してなかった?」
「あ、うん!ちょっとお願いしとって」
「お願い?」
「サキさんと握手させて貰ったんよ」
「!?」
椅子から立ち上がったヴェルストリアはピタリと止まり、大人しくなったかと思うとまた座った。
「な、なんで…握手を…」
俺はあれからずっと考え、ようやく気づいた結論を彼に伝えた。
「俺、サキさんのことが好きなんやと思う」
「っ…」
立ち上がり拳を握りしめたヴェルストリアはまた大人しく座った。
「さっきからどうしたん」
「いや…なんでもない」
何かはあるやろ、と不思議に思いながらも促されて俺は経緯を話した。
「女性に触れられないって言っても、そもそもほとんど関わりないやろ?まあ言わんでも良いかなって。あ、団長には一応伝えたよ」
「うん…それは大変だったね」
同情するような言葉を口にしながらヴェルストリアは他のことにショックを受けている。
人が長年悩んどることなんに…こいつサキさん以外にはさっぱりやな。
関わって約二ヶ月だが、この友達がサキさん馬鹿なのだということはすぐ理解した。
「それで、俺サキさんに告白しようと思って」
「それは駄目!!」
「なんで?」
「なんでって…」
今から理由を考えようとしとるな、ヴェルストリア。
「彼氏とか夫は妻が自由に決めるもんやろ? 」
「サキさんが…他の男を選ぶ…?」
「そうは言っとらん」
話しとると調子くるうで訛りが酷くなるな…。
アルデンに来る前に少しは練習したのだがどうも気が抜けるといけない。
皆と普通に話出来とるからもう良いか…結構疲れるんよ…。
と、そんなことは置いて心にダメージをおったヴェルストリアを落ち着かせる。
「大丈夫や。俺がサキさんと付き合うことは無いから」
サキさんから望む返事が貰えることが無いのは分かっている。
「ただ伝えたいだけ。同じ気持ちが返ってくるなんて思っとらんから安心して」
「ヨルアノ…。ごめん、僕も同じだった…サキさんにどうしても伝えたくてあの時決めたんだ」
ヴェルストリアも頑張って告白したんやな…。
その時の気持ちを思い出してくれたのか覚悟を決めたように頷いた。
「ヨルアノなら許すよ」
告白するのに夫の許可が必要ってどういうこっちゃ。
「お前先輩たちに対してもそやったん?」
「余計に気を持たせるより早めに諦めて貰った方が良い」
「怖いわぁ…」
サキさんの夫は皆なんでこんな執着心強いん?ラグトさんはそうでもなさそうやけど。流石俺が一番に尊敬する人やわ。
「…サキさんは誰にでも優しいやろ?俺に対しても」
「…うん」
「でもやっぱり違うんよ、ヴェルストリアとか夫に向ける視線…目っていうん?あんなに恋してるって分かりやすいもんなんやな」
「そっか…」
ヴェルストリアは凄く嬉しそうに、何かを噛み締めて笑顔になった。
「俺が好きになったんは夫たちが大好きなサキさんなのかもなーと思って。でもやっぱり好きやから想い伝えるわ!」
「うん」
「もう怒らんな?」
「怒らない。我慢する」
「なら、行ってくる!」
「えっ、今から!?」
「早めに玉砕したほうが良いんやろ!」
ヴェルストリアを部屋に置いて、俺はサキさんの元へ向かった。
普通に友達も居て、村の人たちも皆優しくて俺は恵まれていた。
しかし母にだけは受け入れて貰えることは無かった。
兄弟たちと違って一人だけ醜い俺を避けて極力関わらないようにしていた。それを幼いながらに俺は分かっていたが不意に一度だけ触れてしまったことがあった。
勢いよく手が弾かれ母の爪により一筋の傷が与えられた。
母も故意の行動ではなく反射的なものだったのだろう。俺を怒るでもなく青ざめた顔で去っていった。
ヒリヒリと痛む手のひらと後からジワジワと血のにじむ切り傷の光景がどうしても頭から離れない。たったそれだけのことだけれど俺は本当に母から愛されていないのだと確信した瞬間だったから。
そこから女性に触れるということの抵抗が大きくなっていき、考えるだけで胸が苦しくなった。
初めてサキさんと会った時、まさか黒騎士団に女性が居るなんて、周りのその話が本当だとは思っておらずただただ驚いた。
とても綺麗な人で敬語で愛想良く、今まで出会った女性たちとは全然違う雰囲気を纏っていた。
しかしやっぱり触れることには戸惑ってしまって。初対面で握手を拒むなんて出来ない、でも…と失礼にも悩んでしまった。
結局その時は握手はせずに何も気にしていないように話すことが出来た。
普段関わる分には接触も無く、サキさんと話すのはとても楽しかった。
黒騎士団の人たちは皆優しいなぁ。俺も頑張ってラグトさんみたいに人を助けられるようになりたい…。
純粋に最初はそれだけを思っていたのだったのだが、ある日廊下でサキさんとぶつかってしまった。
当たり前に彼女の腰に手を回すくらい出来たのに、俺の体がそれを拒否し手を引っ込めた。
俺は人を助けるどころか傷つけ守ることも出来ない。
その動揺と後悔と…色々感情が混ざりいっぱいいっぱいで、俺は手を差し伸べることすらしなかった。
せっかく仲間として受け入れて貰えてきたのにこんなことで信頼を失わせてしまうなんて。
どうしようも無くなった俺にサキさんはいつもと変わらない柔らかい声で言う。
「そんなに気にしないで、誰にだって苦手なことはあるんだから」
幻滅され怒るだろうと思っていたが、彼女は本当に心から優しい人なのだった。
「そんな見た目のくせに私に近づくのを拒むなんて」と何度も言われ悪化していった俺の情けない部分を笑って受け入れてくれた。
それからだった。
サキさんを見かければつい目で追ってしまう。
皆から慕われている彼女は誰にでも笑顔で、その様子を見かける度、胸がドキドキして同時にモヤモヤと何とも言い難い気持ちに襲われていた。
しかし遠征に行く前日、リーダーとサキさんが手を繋いだところを見て驚く。
二人とも幸せそう…あんな優しい笑顔見たことない…。
先程までカッコいい雰囲気を纏っていた上司はまるで別人のように見えて、サキさんは人を変える力があるのではないかと思った。
俺も…サキさんとなら…。
このモヤモヤした気持ちが何か、きっかけがあれば分かるかもしれないと、あの時不躾ながらもお願いしに行ったのだった。
「ヴェルストリア!どうしたん」
突然部屋に訪ねてきた彼を中に入れる。
「あのさ…この前サキさんと食堂で話してなかった?」
「あ、うん!ちょっとお願いしとって」
「お願い?」
「サキさんと握手させて貰ったんよ」
「!?」
椅子から立ち上がったヴェルストリアはピタリと止まり、大人しくなったかと思うとまた座った。
「な、なんで…握手を…」
俺はあれからずっと考え、ようやく気づいた結論を彼に伝えた。
「俺、サキさんのことが好きなんやと思う」
「っ…」
立ち上がり拳を握りしめたヴェルストリアはまた大人しく座った。
「さっきからどうしたん」
「いや…なんでもない」
何かはあるやろ、と不思議に思いながらも促されて俺は経緯を話した。
「女性に触れられないって言っても、そもそもほとんど関わりないやろ?まあ言わんでも良いかなって。あ、団長には一応伝えたよ」
「うん…それは大変だったね」
同情するような言葉を口にしながらヴェルストリアは他のことにショックを受けている。
人が長年悩んどることなんに…こいつサキさん以外にはさっぱりやな。
関わって約二ヶ月だが、この友達がサキさん馬鹿なのだということはすぐ理解した。
「それで、俺サキさんに告白しようと思って」
「それは駄目!!」
「なんで?」
「なんでって…」
今から理由を考えようとしとるな、ヴェルストリア。
「彼氏とか夫は妻が自由に決めるもんやろ? 」
「サキさんが…他の男を選ぶ…?」
「そうは言っとらん」
話しとると調子くるうで訛りが酷くなるな…。
アルデンに来る前に少しは練習したのだがどうも気が抜けるといけない。
皆と普通に話出来とるからもう良いか…結構疲れるんよ…。
と、そんなことは置いて心にダメージをおったヴェルストリアを落ち着かせる。
「大丈夫や。俺がサキさんと付き合うことは無いから」
サキさんから望む返事が貰えることが無いのは分かっている。
「ただ伝えたいだけ。同じ気持ちが返ってくるなんて思っとらんから安心して」
「ヨルアノ…。ごめん、僕も同じだった…サキさんにどうしても伝えたくてあの時決めたんだ」
ヴェルストリアも頑張って告白したんやな…。
その時の気持ちを思い出してくれたのか覚悟を決めたように頷いた。
「ヨルアノなら許すよ」
告白するのに夫の許可が必要ってどういうこっちゃ。
「お前先輩たちに対してもそやったん?」
「余計に気を持たせるより早めに諦めて貰った方が良い」
「怖いわぁ…」
サキさんの夫は皆なんでこんな執着心強いん?ラグトさんはそうでもなさそうやけど。流石俺が一番に尊敬する人やわ。
「…サキさんは誰にでも優しいやろ?俺に対しても」
「…うん」
「でもやっぱり違うんよ、ヴェルストリアとか夫に向ける視線…目っていうん?あんなに恋してるって分かりやすいもんなんやな」
「そっか…」
ヴェルストリアは凄く嬉しそうに、何かを噛み締めて笑顔になった。
「俺が好きになったんは夫たちが大好きなサキさんなのかもなーと思って。でもやっぱり好きやから想い伝えるわ!」
「うん」
「もう怒らんな?」
「怒らない。我慢する」
「なら、行ってくる!」
「えっ、今から!?」
「早めに玉砕したほうが良いんやろ!」
ヴェルストリアを部屋に置いて、俺はサキさんの元へ向かった。
131
お気に入りに追加
1,138
あなたにおすすめの小説

転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~
月
恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん)
は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。
しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!?
(もしかして、私、転生してる!!?)
そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!!
そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?

女性の少ない異世界に生まれ変わったら
Azuki
恋愛
高校に登校している途中、道路に飛び出した子供を助ける形でトラックに轢かれてそのまま意識を失った私。
目を覚ますと、私はベッドに寝ていて、目の前にも周りにもイケメン、イケメン、イケメンだらけーーー!?
なんと私は幼女に生まれ変わっており、しかもお嬢様だった!!
ーーやった〜!勝ち組人生来た〜〜〜!!!
そう、心の中で思いっきり歓喜していた私だけど、この世界はとんでもない世界で・・・!?
これは、女性が圧倒的に少ない異世界に転生した私が、家族や周りから溺愛されながら様々な問題を解決して、更に溺愛されていく物語。
旦那様が多すぎて困っています!? 〜逆ハー異世界ラブコメ〜
ことりとりとん
恋愛
男女比8:1の逆ハーレム異世界に転移してしまった女子大生・大森泉
転移早々旦那さんが6人もできて、しかも魔力無限チートがあると教えられて!?
のんびりまったり暮らしたいのにいつの間にか国を救うハメになりました……
イケメン山盛りの逆ハーです
前半はラブラブまったりの予定。後半で主人公が頑張ります
小説家になろう、カクヨムに転載しています
異世界は『一妻多夫制』!?溺愛にすら免疫がない私にたくさんの夫は無理です!?
すずなり。
恋愛
ひょんなことから異世界で赤ちゃんに生まれ変わった私。
一人の男の人に拾われて育ててもらうけど・・・成人するくらいから回りがなんだかおかしなことに・・・。
「俺とデートしない?」
「僕と一緒にいようよ。」
「俺だけがお前を守れる。」
(なんでそんなことを私にばっかり言うの!?)
そんなことを思ってる時、父親である『シャガ』が口を開いた。
「何言ってんだ?この世界は男が多くて女が少ない。たくさん子供を産んでもらうために、何人とでも結婚していいんだぞ?」
「・・・・へ!?」
『一妻多夫制』の世界で私はどうなるの!?
※お話は全て想像の世界になります。現実世界とはなんの関係もありません。
※誤字脱字・表現不足は重々承知しております。日々精進いたしますのでご容赦ください。
ただただ暇つぶしに楽しんでいただけると幸いです。すずなり。

【R18】幼馴染がイケメン過ぎる
ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。
幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。
幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。
関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。

義兄に甘えまくっていたらいつの間にか執着されまくっていた話
よしゆき
恋愛
乙女ゲームのヒロインに意地悪をする攻略対象者のユリウスの義妹、マリナに転生した。大好きな推しであるユリウスと自分が結ばれることはない。ならば義妹として目一杯甘えまくって楽しもうと考えたのだが、気づけばユリウスにめちゃくちゃ執着されていた話。
「義兄に嫌われようとした行動が裏目に出て逆に執着されることになった話」のifストーリーですが繋がりはなにもありません。

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)
かのん
恋愛
気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。
わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・
これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。
あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ!
本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。
完結しておりますので、安心してお読みください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる