美醜逆転の異世界で騎士様たちに愛される

志季彩夜

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祖父との対面

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 私は朝からずっとドキドキしていて、団員たちもソワソワしていた。
 三日前にハインツさんから聞いたのは本日、あのヒューズ・ザナディアさんがいらっしゃるということ。
 黒騎士団の設立者で初代団長。そして私の戸籍上の祖父に当たる人だ。

「ヒューズさんはどんな方何ですか?」

 ヴェルくんがミスカさんに聞く。
 ミスカさんとリュークは一度会ったことがあるらしい。

「会話はしていないから遠目から見てだが……威圧感がある人だと思ったのを覚えている」
「こ、怖いんすかね……」

 ラグトさんと同じように怯える団員が幾人か居るのは先輩からそういう印象を聞いたからだろう。
 私もそのせいで余計に緊張感が高まり、ドキドキが止まらないままだった。

 もうすぐ到着されるということで出迎える為ハインツさんと門で待っていた。

「大丈夫だよ。厳しい人ではあるけれど、怒ったりはしないから」
「は、はい……」

 そうしているとすぐに馬車が到着した。
 中から降りてきたその人は、青みグレーの髪を撫で付けきっちりとしたスーツを身にまとったとてもカッコいいおじさんだった。
 え、年齢的には絶対六十は越してるはずなのに……おじいさん……じゃない……。
 他に降りてくる人がいるかと思ったが気配すら無かった。

「ヒューズさん、こちらが私の妻となったサキです」

 驚き過ぎて一瞬固まってた。危ない危ない……。

「初めまして。お世話になっております、サキと申します」
「初めまして、ヒューズ・ザナディアだ。君の話は聞いている。会えて嬉しいよ」
「こちらこそ、ご挨拶が遅くなってしまい申し訳ありません」

 差し出された手を取り握手をする。
 こちらを真っ直ぐ見る瞳は金色だ。リュークより黄色味が強いな……と呑気なことを考えてしまった。

「中へどうぞ。団員たちは通常の仕事をさせていますので……」
「ああ。気にしなくていい」

 応接間に向かう途中、通る団員全員が慌てて敬礼して固まっていた。
 ヒューズさんの顔を知らなくても分かるのだろう。とても威厳が感じられる人だから。

「まずは……二人とも、結婚おめでとう」
「「ありがとうございます」」

 横に座ったハインツさんとお辞儀をする。

「他の夫たちも黒騎士団の団員だったか」
「はい!ヒューズさんのお陰で無事結婚することが出来ました。本当にありがとうございます」
「隠居した私がこんなことでも役に立てたのなら良かった。まあ戸籍は結婚よりもだいぶ前に作っていたが」

 結婚を決める前だと……ハインツさんと付き合う前にもう用意してたの!?

「一時的にだとか言っていたのにな」
「はは、お陰様で」

 何かあった時の為に、または私を想って……。
 そう考えると胸がキュンとして照れてしまう。ヒューズさんの前だから何とか顔には出さないようにした。

「しかし、君は……聞いていた以上に礼儀正しい。外見も内面も……そうだな。異世界から来たというのがようやく信じられた」

 ヒューズさんには話してるよね。流石に事情話さず戸籍に入れてくれは無理だし。

「私の見目も怖がらないな」
「怖がるなんてそんな!格好良くてあまりに若々しくて驚きはありましたけど……。その、失礼ですがご年齢をお聞きしても良いですか?」
「確か今年で六十六だ」

 六十六歳!?四十代って言ってもバレなさそう……。

「君はいくつだったか」
「二十一歳です」
「そうか……息子と同じくらいだな」

 彼はそう呟いた。
 ヒューズさんの奥さんは一人子供を産んですぐに病気で亡くなってしまい、その息子さん夫婦も子供が産まれる前に事故に遭った。
 貴族の公爵であり黒騎士団の設立者。
 とても凄い肩書きと功績を持っていても、家族と呼べる人を皆失った彼にとっては悲しく寂しい人生だったのかもしれない。

「……私は、戸籍上であってもヒューズさんの孫になれて本当に嬉しいです。私の大好きなこの場所を作ってくださった方だから」
「私はただ王の指示に従っただけだ」
「それでも、黒騎士団がこんなにも素敵で温かい場所なのはきっとヒューズさんが基盤を整えてくださったからだと思います」

 初めからそうでは無くても、現在の黒騎士団にある優しさやチームワークは先輩から後輩へ繋がり少しずつ積み重ねられてきたものだろう。

「……そうか」
「勝手なことを言ってすみません。でも、ヒューズさんとは家族のように、これからも親交を深めていきたいと私は思っています。不束者ですが……是非よろしくお願いします!」

 せっかく繋がった縁なのだから大事にしたい。この世界でこれからもお世話になる人だから。

「ヒューズさんと呼ばれるのは好ましくないな」
「え……」
「もう家族なのだから」

 ヒューズさんは厳しい顔を緩めて目尻に皺を寄せ微笑んだ。

「ありがとうございます……!」

 何て呼んだらいいのかな…祖父と孫として……。

「お、お爺様……?」
「ああ、ありがとう。サキ」
「はい!」

 私のお爺様……ふふ、若く見えるからお父さんみたいだけどね。
 ハインツさんを見ると彼も笑って頭を撫でてくれた。

「そうなるとハインツも私の孫だな」
「そう……ですね」

 若干気まずそうな顔をする二人。

「なら他の孫たちにも会いに行くか。ついでに様子も見て回ろう」
「分かりました」

 立ち上がったお爺様は私を見る。

「サキ、実は孫を甘やかすのが夢だったんだ」
「!」
「手を繋いでも良いかい」
「勿論です!」
「こんな可愛い孫が私に出来るとは。長生きはするものだな」
「お爺様はまだ全然若いですよ」

 すっかり打ち解けた私たちにハインツさんは凄く驚いて、少し悔しそうだった。

 急遽団員たちも初代団長に見られることとなり皆鍛錬もあまり身に入っていない様子。

「以前見た時とだいぶ変わったな」
「人数が増えましたので隊ごとの鍛錬を中心にさせています」

 ハインツさんは訓練場に居た三番隊の中から二人を呼ぶ。

「私の夫のミスカさんとラグトさんです」
「第三番隊隊長を務めています、ミスカです」
「だ、第三番隊所属のラグトです!」

 二人とも挨拶しながら私とお爺様の繋いだ手に気づいた。仲良くなれたよ!と目で言うと笑顔で頷いてくれる。

「君たちも私の孫となった訳だから、しっかり名前と顔は覚えなければな」
「孫……ですか。確かにそうですね」
「俺がヒューズさんの孫……?」
「そう気にしなくても大丈夫だ。サキのように甘やかしたりはしない」
「「え」」

 予想外の方へ気を遣われた二人は固まる。

「ラグト、君は剣の振りが適当だ。基本的な素振りが足りない」
「は、はい!」
「ミスカは自分の中の決まった型があるのだろうが、柔軟性が無いと言える。他の者を手本にして見つめ直せ」
「……ありがとうございます」

 ビシッと指摘され、トボトボと訓練場へ戻って行った。

「お爺様、私にも厳しくして下さって良いですよ?」
「こんな良く出来た子なのに叱る部分が無いだろう」

 そう褒められるといい気になってしまう。
 その後リュークとヴェルくんにも会って挨拶を終えた。
 ちなみに二人は私たちが繋いだ手について、手と口を出したいようだった。頑張って我慢していた。
 ハインツさんが「二人で話しておいで」と言ってくれたのでお爺様と寮を歩く。

「この建物もだいぶ綺麗になっている気がする。サキが掃除などをしていると聞いたが」
「時間がある時はさせてもらっています」
「無理はしていないか?」
「全然していないですよ!私からお願いしていることですし、少しでも皆の役に立てることが嬉しいんです。そうだ!お爺様、見てもらいたい物があって」

 彼の手を引き裏庭へ向かった。

「これは……凄いな」
「皆に手伝って貰って花壇も綺麗にしたんです。今はチューリップを植えているのでまだ芽が出たばかりですが」

 お爺様はしゃがみ、懐かしそうに花壇の縁を撫でた。

「妻もよく家で花を眺めていたな」
「奥さんは……お祖母様はどんな方だったんですか?」
「とても明るくて……聡明な人だった。許嫁として私の容姿も受け入れてくれた」

 貴族だから結婚相手というのはよっぽどの事が無い限り選べないのだろう。

「彼女とは恋は無かったが絆はあった。家族としての」
「……はい」
「妻が居なくなって、その後息子も居なくなって……跡取りのことがあっても私はもう結婚する気にはなれなかった」

「そもそも年老いた男に付く相手は居ないが」と少し笑いながら続く。お爺様の跡は弟さんが継ぎ、その後は黒騎士団の仕事に専念していたそうだ。

「お孫さんが居たら……私と同じくらいですかね。お友達になれたかも」
「そうだな。男だったらサキと結婚させたかったが」
「ふふ、やっぱりお爺様の孫になれますね」

 この後用事があるということで、お爺様は二時間程滞在して出発することになった。

「本日は足をお運び頂きありがとうございました」
「仕事中に邪魔をしてすまなかったな。これからはサキに会いに来るからハインツは大丈夫だ」
「……いえ、出迎えくらいはしますので」
「是非いつでもいらしてください!私もお爺様のお家に行きたいです!」
「ああ、迎えを寄越すから連絡してくれ」
「……私もついていきますから」

 馬車に乗り込んだお爺様を見送ると、ハインツさんは一気にため息をついた。

「まさかここまでサキのことを気に入るとは……。あのヒューズさんが……」
「とっても優しい方でしたね」
「いや……彼の笑顔を私は初めて見たよ」

 そうなんだ……騎士では無いからちょっぴり贔屓されてるかもしれない。でも家族として認めてもらえて良かった。

「ところでサキ」
「何ですか?」
「私も手を繋ぎたいのだけど……」

 気恥ずかしそうに言った彼の手を取りギュッと握った。

「ふふ、良いですよ。家族ですから」
「ありがとう。夫婦としてもだが、恋人としても」
「!……はい、ずっとハインツさんに恋しています」
「私もだ」

 手を繋ぎ笑いあって寮へ戻る。
 この世界での大切な人がまた一人増えた日だった。
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