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ヴェルストリアとのデート
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デート当日、朝早くに出発するということでヴェルくんが部屋に迎えに来てくれた。
「サキさん、おは…よ……………」
「おはよう!…どうかした?」
扉を開けたままヴェルくんは固まっていた。
「……綺麗です…」
「本当!新しい服着てみたんだ」
先日注文した沢山の服の中から選んだのはマーメイドスカート。女の子らしい服ばっかりだったから大人っぽい物が欲しかったのだ。
これで彼もドキドキしてくれるかな…なんて、ちょっぴり期待したりして……。
顔を赤らめたヴェルくんはこちらに来て私を抱きしめる。
急に脚から腰までをそっと撫でられてビクッとした。
「体のラインを見せる服だなんて…誘ってるんですか?」
「えっ、誘う…とかでは無くて…」
「他の男に見せられる訳ないでしょう。駄目です」
いつしかのようにまた却下されてしまった。
「せっかく買ったのに!」
「駄目です」
「これ着てヴェルくんとデートしたい!」
「駄目…です」
「喜んで貰えると思ったのにな…」
「……」
許す許さないで葛藤しているヴェルくんにムッとして私も抱きしめ返してキスをした。
「他の人の視線なんか気にするの?私はヴェルくんしか見ないのに、ヴェルくんは私だけを見てくれないの?」
「サキさんしか見ません…貴女しか見えない…」
「じゃあ良いでしょ?」
「はい…」
権利を勝ち取り、私は彼の手にある物に気づいた。
「持ってきてくれてありがとう!今日だけ借りるね」
「良ければ僕に付けさせてください」
「じゃあお願いしようかな」
髪を切ったヴェルくんに代わり、髪飾りは私が付けることになった。
「準備完了!行こっか!」
「はい!」
近くの町の警備にあたる団員さんに御者をお願いして早速町へ向かう。
「サキさんとデート出来る日が来るだなんて夢みたいです。今まで外に出ること自体が辛かったですけど…貴女となら何処へでも行ける」
「うん…人目なんか気にしないで。今日は二人きりなんだから、余所見しちゃ駄目だよ」
「ふふ…分かりました」
隣に座りながら笑い合い、軽いキス…と思ったらどんどん深くなっていき、ガッツリ舌を絡められていた。
「はぁ…ん…」
「今、凄くしたいです」
「無理だよ…」
朝からそんな気分になってしまった二人はキスだけで何とか欲を抑えた。
到着した町は門から中まで沢山の花の飾りで彩られていた。
「わぁ…綺麗…!」
「エーテルは赤と黄色の花なんです。実から取れる繊維がアルデンの特産だそうですよ」
「あの飾りもエーテルがモチーフなの?」
「はい、花弁が四枚と少ないのが特徴です」
博識なヴェルくんに祭りについて聞き、知識も得たところで入口を通る。
「サキさん」
「!」
エスコートするように腰を抱かれる。
「人が多くて危ないですから、離れないでくださいね」
「うん、ありがとう!」
紳士な彼にキュンとしながら私も寄り添い、二人で歩き始めた。
「やっぱり黒騎士団の制服カッコいいね!」
「そうですか?あまり着る機会が無いので久しぶりです」
デートだけれど一応黒騎士団の制服を着て見回りも兼ねてということで許可を得たらしい。
いつものシャツとズボンの上から、紋章を付けカッチリとしたコート。
いわゆる騎士らしくてとても様になっている。
「騎士様とデートだなんて、小説みたいだなぁ…」
「騎士である前に、貴女の夫ですよ」
「ふふ、そうだね。大切な旦那さんとの初デート」
「旦那…さん…」
聞きなれないからか受け入れるのに時間がかかっているようだったがとても嬉しそう。
大きな通りに着くと出店が左右に並び、上には造花とアルデンの国章が描かれた旗がまた飾られている。
「出店も…色々あるんですね。まずは何か食べますか?」
「そうだね!ヴェルくんは何が食べたい?」
「普段食べないような物があれば…」
見つけたのはフルーツ飴の店。
日本でも定番だったよね。
「苺、オレンジ、キウイ、メロン……僕はオレンジにします」
「私は苺かな!一つずつください」
「あ、ああ…銅貨二枚だよ」
ヴェルくんが串を受け取り渡してくれる。
「二つずつありますね。分けましょうか」
「じゃあはい、あーん」
「…美味しいですね!初めて食べました…。僕のもどうぞ」
「ん…オレンジ美味しい!サイズ小さめで食べやすいね」
「確かに大きいと食べにくそうです」
外でのイチャイチャも慣れてきた私はヴェルくんと食べさせ合いっこして他にも色々食べ歩きをしていた。
「このジュース美味しい~」
「他の味も気になりましたね。あ、サキさん、髪に花弁が」
「え、どこ?」
「少しじっとしていてください」
ヴェルくんが私の腰から手を離し髪に手を伸ばした時、後ろから歩いてきた男の体がヴェルくんに当たりそうになる。
彼は見もせずに避けたのに、その男はむしろこちらに寄ってわざとらしく当たってきた。
「っ…」
バランスを崩したヴェルくんは何とか踏みとどまったが、手に持っていた彼のジュースが私のスカートに飛び跳ねてしまった。
「っ、すみません!」
「ううん、ヴェルくん怪我は…」
「あれ、服汚れちゃってるじゃん」
先程当たってきた男が笑って寄ってくる。
「女性の服汚すとか有り得ないでしょ。早く洗わないといけないですよね?俺の家すぐそこだから、行きましょう?」
つまりヴェルくんに私の服を汚させて、幻滅させた上で理由を付けて誘おうという事らしい。
この様子を見た周囲の人たちの声が聞こえてくる。
「服を汚すなんて…」
「あの二人…夫婦なのか?まあ絶対離婚されるな」
「噂のあの女性は貴族らしいぞ。黒騎士団からも解雇されるんじゃないか」
たかが服で離婚なんて馬鹿げているのにそう考える人が居るのは他の女性がそうだからだろうか。恋愛結婚では無いから夫を大切だと思っていない、いつでも切り捨てられる、そんな風にも聞こえる。
勿論私は違うからそんな話に耳を貸すこともない。というかこんな手に引っかかる人が居るのだろうか。
「ヴェルくん、行こう」
「サキさん…」
「えっ、まっ…」
男は無視してヴェルくんの手を取ったら、また違う人が割り込んできた。
「ちょっと!あんた!」
「…なんですか?」
今度は一人の女性が私に向かって話しかけ…怒鳴りかけてきた。ヴェルくんが咄嗟に私の前へ出る。
「さっき私の夫に色目使ったでしょう!」
「…?」
「私より少し…ほんの少し可愛いからって調子乗らないで!」
「えぇ…」
これに関してはただの誹謗中傷だ。私たちが注目されているこの場に乗じて思っていた文句をぶつけたいだけ。
女性の後ろに居る夫と思われる人たちは皆目を逸らしている。
この町だいぶ治安が良くないかもしれない。
「サキさんと貴女を一緒にしないでください。次元が違いますから」
世界は違うけど次元は一緒だと思う…。
「っなによ!それにこんな男を連れてるなんて…当てつけ?」
当てつけ…?つまり…。
私は慌てて、前に立つヴェルくんを抱きしめる。
「っ…ヴェルくんは渡しません!」
「え?」
「サキさん?何か勘違いを…」
「こんなカッコいい人が夫だからって…嫉妬は良くないです!」
まさかこんな所にライバルが居るだなんて…。
「私は夫以外の人に色目は使いません。貴女も後ろにいらっしゃる旦那さんを大切にされては?」
「え、ええ…」
「あと、彼にぶつかってきたのは貴方のほうですよね。謝って頂けますか」
「いや…それは…」
そう言い向き直ると男はオロオロと後ずさる。
「今日は楽しいお祭りの日でしょう?ただの夫婦に構っていないで大切な人と過ごしてください」
ヴェルくんを少しでも不快な思いにさせたのが許せなくて余計に口が回ってしまった。
「ヴェルくん、ごめんね。どうでもいいのについ熱が入っちゃって…」
「いえ…本当に嬉しいです…。いつもはあんなに可愛いのに凛々しい姿も見られるなんて」
「凛々しい…」
横暴だとか思われてなくて良かった…。
「僕には色目を使ってくれるんですか?」
「……このスカート、意識してくれるかな…とは思ったけど…。……っ!」
強くギュッと抱きしめ返される。
「大好きです…」
「…うん、大好きだよ」
「僕は貴女の隣に居ても良いですか?」
「ヴェルくんが隣に居てくれなきゃ嫌だよ。ずっと一緒って言ったじゃない」
体を離したヴェルくんの美しい瞳と見つめ合う。
「…キスしたいです」
「ふふ、あとでね」
「サキさんに焦らさる日が来るなんて…」
「そんな言い方しないでよ…」
抱きしめ合っていたらやっぱりキスしたくなってしまって、少しずつ唇が近づいたその時…
「なんの騒ぎ…って、ヴェルストリア!?サキさん!?」
「わぁっ!!ごめんなさい!」
驚きすぎてヴェルくんを突き飛ばしてしまった。
「さ、サキさん…」
「ごめん、つい…」
「今日のサキさんは衝動的ですね…」
「二人とも何してるんですか!」
町中で騒ぎを起こしてイチャついていたので怒られてしまった。
「仮にも制服着ているんだからしっかりして!」
「すみませんでした…」
「サキさんは……服可愛いですね…」
「あ、ありがとうございます…」
「見ないでください先輩」
「お前ちゃんと反省してる!?」
何とかハインツさんには言わないでと頼み込み、ようやく解放された。
「怒られちゃったね…」
「はい…。いえ、それよりスカートを早く拭かないと」
近くのベンチに私を座らせ、彼は屈んでハンカチで拭いてくれるが染みになってしまって跡は消えない。
「本当にすみません…僕の不注意で…」
「ヴェルくんのせいじゃないよ!」
「いえ、騎士でありながらあれくらいの対応出来ないなんて…。初めてのデートなのに格好もつかず貴女に助けて貰ってばかりです」
悔しそうな、苦しそうな表情のヴェルくんの頭をそっと撫でる。
「せっかくのお誕生日なんだからそんな顔しないで。少しくらいハプニングがあっても、ヴェルくんとならいい思い出だよ」
「っ…ありがとうございます…。代わりになるスカートがあるか探してみましょう」
「うん、でも普通のお洋服だと合わないから…」
どうしようかと思いながら立ち上がると目の前には子供用の洋服店。
ヴェルくんと顔を見合わせる。
「まさか、ね…」
指輪のことを思い出しながら恐る恐る中へ入った。
「ウエスト合ってるかも…」
「…本当ですね…」
まさかのまさか。とりあえず試着してみることにした。
「ヴェルくん、何してるの?」
「誰かが覗ける場所が無いか確認を…」
「大丈夫だよ!」
着てみて彼に見せると…。
「駄目です」
「なんで!?ほら、ぴったりだよ。心境としては複雑だけど」
「丈が短いので脚が見えています」
「ちょっぴりじゃない!」
膝下までしっかりあるのに、脹脛すら見えてはいけないのか。
「もう少し長い物にしましょう」
「えー…」
流石に子供用で私が着られる物も限られているのでなかなか見つからず、結局膝下の物でヴェルくんは妥協した。
「ヴェルくん、買ってくれてありがとう」
「僕のせいですから当然です。…サキさんは毎回お礼を言ってくれますね」
「ヴェルくんがお仕事を頑張って得たものを使って貰うんだから当然だよ」
「…貴女のそういうところが大好きです」
今度は手を繋いで、またデートを再会した。
「サキさん、おは…よ……………」
「おはよう!…どうかした?」
扉を開けたままヴェルくんは固まっていた。
「……綺麗です…」
「本当!新しい服着てみたんだ」
先日注文した沢山の服の中から選んだのはマーメイドスカート。女の子らしい服ばっかりだったから大人っぽい物が欲しかったのだ。
これで彼もドキドキしてくれるかな…なんて、ちょっぴり期待したりして……。
顔を赤らめたヴェルくんはこちらに来て私を抱きしめる。
急に脚から腰までをそっと撫でられてビクッとした。
「体のラインを見せる服だなんて…誘ってるんですか?」
「えっ、誘う…とかでは無くて…」
「他の男に見せられる訳ないでしょう。駄目です」
いつしかのようにまた却下されてしまった。
「せっかく買ったのに!」
「駄目です」
「これ着てヴェルくんとデートしたい!」
「駄目…です」
「喜んで貰えると思ったのにな…」
「……」
許す許さないで葛藤しているヴェルくんにムッとして私も抱きしめ返してキスをした。
「他の人の視線なんか気にするの?私はヴェルくんしか見ないのに、ヴェルくんは私だけを見てくれないの?」
「サキさんしか見ません…貴女しか見えない…」
「じゃあ良いでしょ?」
「はい…」
権利を勝ち取り、私は彼の手にある物に気づいた。
「持ってきてくれてありがとう!今日だけ借りるね」
「良ければ僕に付けさせてください」
「じゃあお願いしようかな」
髪を切ったヴェルくんに代わり、髪飾りは私が付けることになった。
「準備完了!行こっか!」
「はい!」
近くの町の警備にあたる団員さんに御者をお願いして早速町へ向かう。
「サキさんとデート出来る日が来るだなんて夢みたいです。今まで外に出ること自体が辛かったですけど…貴女となら何処へでも行ける」
「うん…人目なんか気にしないで。今日は二人きりなんだから、余所見しちゃ駄目だよ」
「ふふ…分かりました」
隣に座りながら笑い合い、軽いキス…と思ったらどんどん深くなっていき、ガッツリ舌を絡められていた。
「はぁ…ん…」
「今、凄くしたいです」
「無理だよ…」
朝からそんな気分になってしまった二人はキスだけで何とか欲を抑えた。
到着した町は門から中まで沢山の花の飾りで彩られていた。
「わぁ…綺麗…!」
「エーテルは赤と黄色の花なんです。実から取れる繊維がアルデンの特産だそうですよ」
「あの飾りもエーテルがモチーフなの?」
「はい、花弁が四枚と少ないのが特徴です」
博識なヴェルくんに祭りについて聞き、知識も得たところで入口を通る。
「サキさん」
「!」
エスコートするように腰を抱かれる。
「人が多くて危ないですから、離れないでくださいね」
「うん、ありがとう!」
紳士な彼にキュンとしながら私も寄り添い、二人で歩き始めた。
「やっぱり黒騎士団の制服カッコいいね!」
「そうですか?あまり着る機会が無いので久しぶりです」
デートだけれど一応黒騎士団の制服を着て見回りも兼ねてということで許可を得たらしい。
いつものシャツとズボンの上から、紋章を付けカッチリとしたコート。
いわゆる騎士らしくてとても様になっている。
「騎士様とデートだなんて、小説みたいだなぁ…」
「騎士である前に、貴女の夫ですよ」
「ふふ、そうだね。大切な旦那さんとの初デート」
「旦那…さん…」
聞きなれないからか受け入れるのに時間がかかっているようだったがとても嬉しそう。
大きな通りに着くと出店が左右に並び、上には造花とアルデンの国章が描かれた旗がまた飾られている。
「出店も…色々あるんですね。まずは何か食べますか?」
「そうだね!ヴェルくんは何が食べたい?」
「普段食べないような物があれば…」
見つけたのはフルーツ飴の店。
日本でも定番だったよね。
「苺、オレンジ、キウイ、メロン……僕はオレンジにします」
「私は苺かな!一つずつください」
「あ、ああ…銅貨二枚だよ」
ヴェルくんが串を受け取り渡してくれる。
「二つずつありますね。分けましょうか」
「じゃあはい、あーん」
「…美味しいですね!初めて食べました…。僕のもどうぞ」
「ん…オレンジ美味しい!サイズ小さめで食べやすいね」
「確かに大きいと食べにくそうです」
外でのイチャイチャも慣れてきた私はヴェルくんと食べさせ合いっこして他にも色々食べ歩きをしていた。
「このジュース美味しい~」
「他の味も気になりましたね。あ、サキさん、髪に花弁が」
「え、どこ?」
「少しじっとしていてください」
ヴェルくんが私の腰から手を離し髪に手を伸ばした時、後ろから歩いてきた男の体がヴェルくんに当たりそうになる。
彼は見もせずに避けたのに、その男はむしろこちらに寄ってわざとらしく当たってきた。
「っ…」
バランスを崩したヴェルくんは何とか踏みとどまったが、手に持っていた彼のジュースが私のスカートに飛び跳ねてしまった。
「っ、すみません!」
「ううん、ヴェルくん怪我は…」
「あれ、服汚れちゃってるじゃん」
先程当たってきた男が笑って寄ってくる。
「女性の服汚すとか有り得ないでしょ。早く洗わないといけないですよね?俺の家すぐそこだから、行きましょう?」
つまりヴェルくんに私の服を汚させて、幻滅させた上で理由を付けて誘おうという事らしい。
この様子を見た周囲の人たちの声が聞こえてくる。
「服を汚すなんて…」
「あの二人…夫婦なのか?まあ絶対離婚されるな」
「噂のあの女性は貴族らしいぞ。黒騎士団からも解雇されるんじゃないか」
たかが服で離婚なんて馬鹿げているのにそう考える人が居るのは他の女性がそうだからだろうか。恋愛結婚では無いから夫を大切だと思っていない、いつでも切り捨てられる、そんな風にも聞こえる。
勿論私は違うからそんな話に耳を貸すこともない。というかこんな手に引っかかる人が居るのだろうか。
「ヴェルくん、行こう」
「サキさん…」
「えっ、まっ…」
男は無視してヴェルくんの手を取ったら、また違う人が割り込んできた。
「ちょっと!あんた!」
「…なんですか?」
今度は一人の女性が私に向かって話しかけ…怒鳴りかけてきた。ヴェルくんが咄嗟に私の前へ出る。
「さっき私の夫に色目使ったでしょう!」
「…?」
「私より少し…ほんの少し可愛いからって調子乗らないで!」
「えぇ…」
これに関してはただの誹謗中傷だ。私たちが注目されているこの場に乗じて思っていた文句をぶつけたいだけ。
女性の後ろに居る夫と思われる人たちは皆目を逸らしている。
この町だいぶ治安が良くないかもしれない。
「サキさんと貴女を一緒にしないでください。次元が違いますから」
世界は違うけど次元は一緒だと思う…。
「っなによ!それにこんな男を連れてるなんて…当てつけ?」
当てつけ…?つまり…。
私は慌てて、前に立つヴェルくんを抱きしめる。
「っ…ヴェルくんは渡しません!」
「え?」
「サキさん?何か勘違いを…」
「こんなカッコいい人が夫だからって…嫉妬は良くないです!」
まさかこんな所にライバルが居るだなんて…。
「私は夫以外の人に色目は使いません。貴女も後ろにいらっしゃる旦那さんを大切にされては?」
「え、ええ…」
「あと、彼にぶつかってきたのは貴方のほうですよね。謝って頂けますか」
「いや…それは…」
そう言い向き直ると男はオロオロと後ずさる。
「今日は楽しいお祭りの日でしょう?ただの夫婦に構っていないで大切な人と過ごしてください」
ヴェルくんを少しでも不快な思いにさせたのが許せなくて余計に口が回ってしまった。
「ヴェルくん、ごめんね。どうでもいいのについ熱が入っちゃって…」
「いえ…本当に嬉しいです…。いつもはあんなに可愛いのに凛々しい姿も見られるなんて」
「凛々しい…」
横暴だとか思われてなくて良かった…。
「僕には色目を使ってくれるんですか?」
「……このスカート、意識してくれるかな…とは思ったけど…。……っ!」
強くギュッと抱きしめ返される。
「大好きです…」
「…うん、大好きだよ」
「僕は貴女の隣に居ても良いですか?」
「ヴェルくんが隣に居てくれなきゃ嫌だよ。ずっと一緒って言ったじゃない」
体を離したヴェルくんの美しい瞳と見つめ合う。
「…キスしたいです」
「ふふ、あとでね」
「サキさんに焦らさる日が来るなんて…」
「そんな言い方しないでよ…」
抱きしめ合っていたらやっぱりキスしたくなってしまって、少しずつ唇が近づいたその時…
「なんの騒ぎ…って、ヴェルストリア!?サキさん!?」
「わぁっ!!ごめんなさい!」
驚きすぎてヴェルくんを突き飛ばしてしまった。
「さ、サキさん…」
「ごめん、つい…」
「今日のサキさんは衝動的ですね…」
「二人とも何してるんですか!」
町中で騒ぎを起こしてイチャついていたので怒られてしまった。
「仮にも制服着ているんだからしっかりして!」
「すみませんでした…」
「サキさんは……服可愛いですね…」
「あ、ありがとうございます…」
「見ないでください先輩」
「お前ちゃんと反省してる!?」
何とかハインツさんには言わないでと頼み込み、ようやく解放された。
「怒られちゃったね…」
「はい…。いえ、それよりスカートを早く拭かないと」
近くのベンチに私を座らせ、彼は屈んでハンカチで拭いてくれるが染みになってしまって跡は消えない。
「本当にすみません…僕の不注意で…」
「ヴェルくんのせいじゃないよ!」
「いえ、騎士でありながらあれくらいの対応出来ないなんて…。初めてのデートなのに格好もつかず貴女に助けて貰ってばかりです」
悔しそうな、苦しそうな表情のヴェルくんの頭をそっと撫でる。
「せっかくのお誕生日なんだからそんな顔しないで。少しくらいハプニングがあっても、ヴェルくんとならいい思い出だよ」
「っ…ありがとうございます…。代わりになるスカートがあるか探してみましょう」
「うん、でも普通のお洋服だと合わないから…」
どうしようかと思いながら立ち上がると目の前には子供用の洋服店。
ヴェルくんと顔を見合わせる。
「まさか、ね…」
指輪のことを思い出しながら恐る恐る中へ入った。
「ウエスト合ってるかも…」
「…本当ですね…」
まさかのまさか。とりあえず試着してみることにした。
「ヴェルくん、何してるの?」
「誰かが覗ける場所が無いか確認を…」
「大丈夫だよ!」
着てみて彼に見せると…。
「駄目です」
「なんで!?ほら、ぴったりだよ。心境としては複雑だけど」
「丈が短いので脚が見えています」
「ちょっぴりじゃない!」
膝下までしっかりあるのに、脹脛すら見えてはいけないのか。
「もう少し長い物にしましょう」
「えー…」
流石に子供用で私が着られる物も限られているのでなかなか見つからず、結局膝下の物でヴェルくんは妥協した。
「ヴェルくん、買ってくれてありがとう」
「僕のせいですから当然です。…サキさんは毎回お礼を言ってくれますね」
「ヴェルくんがお仕事を頑張って得たものを使って貰うんだから当然だよ」
「…貴女のそういうところが大好きです」
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