美醜逆転の異世界で騎士様たちに愛される

志季彩夜

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匂いに誘われて

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「髪だいぶ伸びたなぁ……」

 朝の支度中、櫛を通しながらそう思う。
 この世界に来てから半年以上経ち、その間一度も切っていない。
 肩に当たるくらいだったのが今はしっかり背中にかかるまでになっている。やはり手入れはしていても傷んできてしまうものだ。

「……そろそろ切ろうかな」

 そう思い立ち朝食中、夫たちに相談してみた。

「あのね、私、髪切りたいんだけど」
「「!?」」

 驚いた顔で皆食事の手が止まる。

「サキの髪切っちゃうの!?」
「うん、傷んできたから」
「なんで!?」
「…傷んできたから……」

 リュークに二度同じことを言わされ、珍しくご飯を食べにたった今来たばかりのハインツさんに肩を掴まれる。

「サキ、髪を切るのか!?」
「ハインツさん、おはようございます」
「おはよう……いや、そのままのサキも魅力的だと思うが…切ってしまうのか……?」

 どうやら皆、私に髪を切って欲しくないみたい。

「長い方が好きですか?」
「好き……嫌いというか……サキの綺麗な黒い髪を切ってしまうのが勿体ない気がして……」

 ハインツさんの言葉に皆頷いている。

「そんな減るものじゃない……減るけど、またすぐ伸びますから」

 彼らはまだ渋い顔をしているが、髪を切るのは私の中の決定事項なので一旦無視する。

「美容院とかある?皆はどこで切ってるの?」

 前髪は自分で切れるけど、後ろは流石に無理だから。

「美容院は確か王都にあった気がするな」

 ぼんやりとハインツが教えてくれた。
 ここで言う美容院は髪だけで無く化粧など、女性の美容ケアを行う貴族向けの場所らしい。
 そう聞くと私が行っていい所なのか不安になる。身分的には貴族なんだけど、あくまで仮だから。中身が伴って無いから。

「俺たちはお互いで切ってるよ」
「えっ、そうなの!?」
「ヘアサロンとかは入りづらいからさ……」

 リュークが苦い顔で言う「ヘアサロン」が男女関係なく髪を整える場所だそうだ。
 町にあるから、そこに行けば良いのだけれど…。

「私も切ってもらいたい!」
「え!?いや、それは…」
「お互いと言っても俺たちじゃなくて、髪を切る上手い人が居るんだ。ほとんどの団員はその人に任せてる」
「俺もその先輩にお願いしてるよー」

 ミスカさんの説明にラグトさんも乗っかる。

「え!とっても上手なんですね!じゃあ私もその人にお願いし…」
「駄目です!他の男に貴女の髪を触らせるなんて!」

 ヴェルくんに強く止められた。

「そんなこと言ったらお店でも同じだよ?」
「うっ……」
「ヴェルくんも髪伸びてきたでしょ?一緒に切ってもらおうよ!」
「ぼ、僕も……?いや……」

 戸惑うヴェルくんにリュークが声をかける。

「ヴェルストリア、今まで誰にも頼んでなかったでしょ」
「ヴェルくん自分で切ってたの?」
「……はい」

 後ろの髪も自分で……だから少し長めだったんだ。不格好にならない程度に手が届くところで何とかしていたのだろう。

「髪の色は気にしなくて良いから。その人も嫌がったりしてないし。サキはともかく……ヴェルストリアも気分変えてバッサリ切っちゃえば?」

 ヴェルくんが短髪に……!絶対似合う!

「……でも、長くないと髪留めが使えないので……」
「ヴェルくん……無理に使わなくても持っててくれるだけで凄く嬉しいよ」
「サキさん……」
「あと、短い髪のヴェルくん見てみたいな……なんて」

 私の勝手な欲を正直に伝えると、ヴェルくんの躊躇いは一瞬で無くなったみたいだった。

「僕、髪切ります!」
「わー、単純な奴」

 ラグトさんがペパーっと乾いた笑いをこぼす。

「じゃあ早速……」
「ちょっとリューク!私も髪切りたいの!」

 ヴェルくんが本題みたいになってしまって私が忘れられている。

「その人に私も切ってもらって良いの?」
「駄目!」
「ヘアサロンで切ってもらうのは?」
「もっと駄目!」

「素性も分からない奴にサキを触れさせたら危なすぎる」と過剰防衛に徹している。
 全く話が進まない……。

「じゃあ僕が切りましょうか?自分のも切っていましたし、他の人にやらせるよりは……」
「いや、だったら俺が切る!」

 言葉を遮りリュークが出しゃばる。

「ミスカの髪は俺が切ってるし!」
「そうなんだ!リュークは?」
「俺は毛先だけだから自分で出来るもん」
「ハインツさんは?」
「私はアレクに頼んでいるよ」
「アレクさん上手そう!」

 駄目だ、話が逸れてきた。

「ヴェルくんは切ってもらう訳だし、リュークに任せるね」
「やったー!」
「前と同じ肩くらいだからちょっと失敗しても大丈夫だよ」
「あれ、あんまり信用されて無い……?」

 私とヴェルくんは今日同時に切る事になり、朝食後別れて部屋に向かった。

「ふふ、ヴェルくんどれくらい切るのかな。楽しみだなぁ」
「今まで気づいてはいたんだけど髪色の事は触れずらくてさ。正直団員の中には避けてる人も居たしね」

 それはどうしても仕方の無いこと。人の見た目をどう思うか、その人にどう接するかは自由だもの。

「でもサキが来て全員に平等に接してくれて、見た目での偏見っていうのがだいぶ無くなったんだ。自分たちの容姿の受け入れ方も良い方に変わっていったと思うし」
「そっか……良かった。私は気の利いた言葉とか言えなくて、ただ普通で居ることしか出来なかったから」
「俺たちはそれが何より嬉しくて特別なんだよ。サキ、本当にありがとう」
「リューク……私こそ……」
「あ、前向いててね」
「ごめんなさい」

 三十分くらいかけて丁寧に揃えて切ってくれた。

「どう?」
「うん、綺麗!ありがとう!」
「どういたしまして!ヴェルストリアも終わってるかな、行ってみよ!」

 ヴェルくんの部屋に着き、扉をノックする。

「入るねー」
「あ、リューク。ちょうど仕上がったよ」

 団員さんがヴェルくんの髪を払い見せてくれる。

「どう……ですか?」
「カッコいい……!」

 サラサラな髪質を生かした軽めのマッシュヘア。
 首元がスッキリして爽やかな雰囲気になっている。

「わ~全然印象が違う!」
「こんなに短いのは久しぶりなので少し違和感がありますね」

 照れながらも嬉しそうなヴェルくん。
 私は彼の周りをグルグル回って何度も見る。

「凄く似合ってる!」
「ありがとうございます。サキさんもその長さは懐かしいですね。とても素敵です」
「ありがとう!」

 お互いさっぱりして清々しい気分だ。

「また切りたくなったらいつでも呼んでよ」
「はい!ありがとうございました」

 笑顔で団員さんは戻って行く。

「あの人入団してから十年ずっと皆の切ってるんだよ。もうプロみたいなものだよね」
「凄い……流石こんなに上手なわけだ……」

 ヴェルくんの髪を撫でながら感嘆する。

「じゃあ俺、仕事戻るね!」
「うん!リュークもありがとう」

 私をギューッと長いこと抱きしめて、リュークは部屋を出ていった。
 その後は二人で床を綺麗にする。
 綺麗な髪……なんか勿体ないなぁ……。
 私も先程の彼らと同じことを思っていた。

「これくらいで大丈夫かな」
「手伝わせてしまってすみません」
「ううん、全然!」

 そしてまたヴェルくんの髪を撫でてしまう。
 カッコいい……。
 今までの指を通る感覚が無い寂しさもあるのは欲張りすぎだろう。

「そういえば以前、僕がいい匂いだと言っていましたよね」
「え、うん」

 お祝いの後、連行された時の……。

「自分では全く分からなかったんですけど……そんなに匂いますか」

 若干気にしているみたいで、私がいい匂いだと言っても他の人からは思われ方が違うかもしれないということだろう。

「そういう訳じゃないよ。この部屋に居てもそんなに感じないし」

 私はそのまま彼の頭を引き寄せ、首元に顔を埋める。

「このくらい近いと分かるの。だから私だけだよ」
「っ……」

 ふと、彼のベッドが目に入る。

「ちょっとだけ良い?」
「……サキさんが良いなら良いですよ」

 彼のベッドに腰掛け、横になる。枕に頭を預けると大好きな彼の匂いがした。

「ヴェルくんだ……!」
「枕は僕じゃないですよ」
「ふふ……」

 枕を抱きしめて体を揺らす。

「僕の匂いってどんな感じなんですか」
「なんかね……シュッ、フワッ、みたいな」
「……分かりませんね」

 そう言いながらヴェルくんは私の靴を脱がす。両足をきっちりベッドに乗せ、私の上に覆いかぶさってきた。

「えっと……どうしたの?」
「男の部屋でベッドに上がるのはそういうことですよね」
「ち、違うと思うなぁ……」
「違いません」

 問答無用でキスをされ服が脱がされていく。

「まだ午前中だよ!?」
「朝も昼もするって言ったじゃないですか」

 まさかあれが本当になるとは思わず慌てて言い訳を考える。

「し、仕事は?」
「午後からで間に合います」
「せめて部屋で……」
「ここでも声を我慢すればバレませんよ」

 声出したらバレるってことじゃん……!
 しかし流されてしまうのはいつもの事で。
 私は顔を枕に埋め声を押し殺しながら、ヴェルくんの手つきに翻弄されていた。

「ふ……んん……」
「サキさん、どこが気持ちいいですか?」
「う……」

 中の気持ちいいところから少しずらして指で擦られる。焦れったいのに今少しでも口を開いたら声が抑えられなくなりそうで、ただひたすらに首を横に振る。

「ここ?」
「…ん……」
「じゃあここですか?」
「っ……ぁ…!」

 急にそこを強く押され声が出そうになりながらもコクコクと頷く。

「ふふ、必死で可愛いですね」

 ヴェルくんはそう言って微笑む。今までより爽やかさが増してまるでえっちとは無関係みたいに見えるのに、彼の手は私の中を容赦なく弄る。

「ん……ふ…ぁっ……んん」
「イケますか」
「んっ………っ!!」

 枕を全身で抱えるようにギュっと体が丸まった。

「っ……は…はぁ……」

 ようやく詰まった息を吐くと、持っていた枕が取り上げられてしまった。

「あ……」
「目の前に本人が居るでしょう」
「……うん…」

 シャツがはだけたヴェルくんの首に腕を回し抱きしめると、ゆっくり中に挿入される。

「ぁ……ん」

 私は彼の首元に顔を押し付け堪えるけれど、ヴェルくんは逆に声を出させようとするみたいに弱いところをいっぱい虐めてくる。

「っ……あ、んっ!」
「!」

 思わず彼の肌をはむっと唇で挟み吸い付く。
 ヴェルくんの容易にさらけ出された肌と彼の匂い、声を出さないようにというこの状況も、全部が私を刺激していてどうしようも無かった。

「はぁ……可愛い……」
「んんっ!は……ぁん!」

 急に動きが激しくなり二人同時に果てた。
 首から顔を離すと目が合いキスをする。

「……苦しかった……ぁ」
「我慢出来て偉かったですね」
「もうここでしないから……!」

 体を離し、ふと彼の首元を見ると私が口付けたところが赤くなっている。

「ご、ごめん!痕付いちゃった……」
「え、本当ですか」

 ヴェルくんは鏡を取り出し確認する。

「すぐ消えるかなぁ……ごめんね……」
「ふふ、全然良いですよ。嬉しいです」

 私を抱きしめて耳元で囁く。

「他の人がこれを見たら貴女が付けたって分かりますね」 
「っ……ちゃんと隠して!」
「風呂場では無理かもしれません」
「~!」

 うぅ……どうかバレませんように……。
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