美醜逆転の異世界で騎士様たちに愛される

志季彩夜

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黒騎士団入団試験

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 本日は4月1日。
 黒騎士団の一大イベントが行われる。
 それは…新規入団希望者の入団試験!

「今年は何人来るんだろう」
「去年は三人来て全員落ちたんだったよな…」

 毎年受ける人数もさほど多くはなく、筆記、武術の厳しい試練に合格するものもほんの僅かだという。
 しかし今年訓練場に集まった希望者たちを見て団員全員が驚愕した。

「え!?三十人くらい居ないか!?」
「いや、もっと居る気がする。こりゃだいぶ時間かかりそうだな…」
「これってもしかしなくても…」

 団員たちがザワザワと話す中、現れたのは私の夫たち。

「ミスカさん、リューク、ヴェルくん!」
「ああ、サキ。すまないが今日は建物の中に居てくれ」
「分かりました。でも、どうしてですか?」
「アイツら…サキ目当てだよ」
「え?」

 怒りを隠しきれていない…隠す気のないリュークは木刀片手に戦闘態勢に入っている。

「サキさんが黒騎士団に居るのは世間に知られていますから、少しでも繋がりを得たいんでしょう」

 そう言うヴェルくんも鋭い目付きで睨んでいる。

「サキを一目だって見させる訳ないでしょ。俺が全員ぶっ倒して…」
「リューク、真面目に受けに来た奴もいるかもしれないだろ。お前は手を出すな」

 ミスカさんになだめられたリュークは渋々木刀を腰に仕舞う。

「ミスカ、ちょっといいか」
「はい」

 ハインツさんも来て、ミスカさんと話を進める。

「今年は人数が多いから、武術の相手をお前にも頼みたい」
「了解です」
「筆記は十人ずつ行う。同時に武術の方も進めるから、すぐに準備しておいてくれ」

 指示されてミスカさんは急いで向かって行った。

「今年はミスカさんにもってことは去年までは誰が相手をしていたの?」
「全部団長がしてたよ。俺も入団試験で相手して貰ったんだ。その年に団長が団長に…紛らわしいけど、なったから実際は団長が隊長だった時になるかな」
「4月1日に団長とか隊長も変わるの?」
「うん、毎年更新されるんだ。試験が終わった後に発表されるよ」

「ほとんど変わらないけどね」とリュークは言う。

「僕も同じ試験を受けさせて貰ったので…ほんの少し前なのに懐かしい感じがします」
「そっか!ヴェルくんは受かったんだもんね!凄いなぁ」
「いえ、僕は…手加減されていたと思うので…実力では無いかと」

 申し訳なさそうに言うヴェルくんに後ろから声がかけられた。

「そんなことは無いよ」
「!隊長」

 ヴェルくんの上司、一番隊隊長であるファーレンさんはにっこり微笑んだ。
 彼は騎士にしては細身で戦闘などが似合わなそうなほんわかした雰囲気の人だ。しかし知識が豊富で情報処理に長けているためそのような仕事が多い一番隊の隊長を任されている、という話を聞いた。

「君は政治について詳しくて計算も得意だろう」
「それは…昔、勉強していたので少しは…」

 王になるはずだった姉の裏で政務などをする為に勉強を強いられていたと彼がこぼしたのを覚えている。
 でもそれも無駄じゃなかったってことだよね。

「武術も伸びしろがあるから試験を合格出来たんだよ。素晴らしい人材だ。一つ欠点を上げるとするならば、少し卑屈なところかな」
「ありがとうございます…!」
「さて、そろそろ試験が始まるよ。仕事は普通にあるから、皆持ち場に戻りなさい」
「「はい!」」

 団員たちが窓から離れ散っていく。

「ヴェルくん、良かったね」

 凄く嬉しそうに口を噤み、コクコクと頷く彼をギュッと抱きしめる。

「今日もお仕事頑張って!」
「はい…っ!」

 素敵な朝を迎え、私は楽しくお掃除に励んでいた。
 西館の一階で筆記試験を行っている為下には降りないようにし、たまに窓からチラッと様子を伺っていた。
 二人ともカッコいいなぁ…。
 ハインツさんは剣術、ミスカさんは弓術を見ていて、手本を行っているだけでもこんなにカッコいい。
 勿論剣も弓も触ったことの無い人たちばかりなのだが、その筋や判断能力、性格などを見極めて判断するらしい。
 それは確かに団長が見るべきだよね。任されているミスカさんも凄いけど。
 ちなみにアレクさんは体術を見ている。彼は物を使うよりも体を使う方法が強いらしい。
 体柔らかかったもんね…。剣も凄かったけどな。
 筆記は例年通りファーレンさんだそうだ。
 隊長、団長揃っての行いということで、やはり最初が肝心ということなのだろう。
 新しい人が入ってくるの、楽しみだなぁ。

 サキが見守る中、ハインツは素早く試験を進めていた。

「終わりだ。次」
「くそ…ムズすぎる…」

 サキのこともあり、昨年までより判断基準が高くなっているのは誰にも言っていない。
 まぁ、途中で辞められても困るし少しは良いだろうという言い訳がある。

「お願いします!」
「ああ、まずは…」

 中盤に差し掛かり、ようやく剣術の合格者が現れた。

「君はアルデンでは無く南部の出身だろう」
「え、分かるんですか」
「剣の持ち方が違う。教わったことがあるようだな、筋がいい」
「あ、ありがとうございます!」

 彼が他の試験も受かれば良いのだが。
 一応不合格でも試験は全て受ける。突出して良いものがあれば例外に入団も有り得るから。
 紙に書き込み、また次の相手を始めた。

 午後過ぎになり、ようやく全員の試験が終わったようだ。訓練場で結果が知らされ、希望者たちはトボトボと門へ向かって行く。
 その中で、一人だけが残っていた。両手を上げて喜んでいる。
 合格した人いたんだ!
 どうしても気になってしまって下へ降りる。

「サキさん」
「ファーレンさん!」
「今年は一人入ってきてくれました。この後全員で集まりますから、是非サキさんも」
「はい!」

 訓練場に団員たちが並ぶ中、私はお邪魔にならないよう階段のところから話を聞いていた。

「今年は一人入団者がいる」
「ヨルアノです!よろしくお願いします!」
「彼の配属と共と役職の変更を行う。まず団長は変わらず私が務める。副団長は同じくアレクだ」

 全員が静かにハインツさんに耳を傾ける。新人のヨルアノさんは緊張のせいかカチコチに固まっていた。

「第一番隊隊長はファーレン、第二番隊隊長はリューク」
「えぇ!?」

 リュークが厳粛な雰囲気を壊した。

「リューク、静かに」
「はい…」
「第三番隊隊長はカリルだ」

 え…ミスカさんじゃない…?
 その事に団員たちもザワザワし始める。

「そして新たな役職として全部隊統括、チームリーダーとしてミスカに就いてもらう」

 つまり、隊長よりもう一つ上に昇進したって事だよね…!

「今回の判断は個々の負担軽減の為だ。アレクには今までリュークにも任せていた補佐も軽く担ってもらい、リュークには二番隊に専念してもらう。ミスカについては昨年の戦争での統率力を評価して、私と隊長との間を取り持ってもらう事とする」

 ハインツさんの負担もだいぶ減るのかな!ふふ、ミスカさんちょっと嬉しそうにしてる。

「部隊内での編成は隊長に任せる。そしてヨルアノの配属は第二番隊だ。あの列の後ろに並んで」
「はい!」

 ヨルアノさんがリュークの列の後ろに行く。

「また昨年は敷地内全域の防衛強化工事を実施した。続いて屋内訓練場と寮の新設も現在行われている。危険な為なるべく近づかないように」
「「はい」」
「これにて発表を終わる。それぞれ話し合いを始めてくれ」

 前に立つカッコいいハインツさんに拍手をしていると、彼とアレクさんが私の元へ来る。

「ミスカさんもリュークも昇進だなんて…凄いですね!」
「ああ、今とあまり仕事内容は変わらないが量は減るから」
「団長がサキさんとの時間を増やしたいからでしょう」

 しれっと発言したアレクさんにハインツさんは慌てる。

「いや、そんなことは…」
「ハインツさん…!嬉しいです!」
「…そんなことはあるな。ミスカたちも時間に余裕が出来るだろう」
「あと新しい人が入ってきてくれて良かったです!後でご挨拶に行っても良いですか?」
「そうだね。どうせ会うのだから早い方が良い」

 アレクさんはファーレンさんと建物の中へ戻って行った。
 そういえば、とハインツさんは懐かしむように話す。

「リュークが入団した時のこと、聞いたかい?」
「いえ、ミスカさんと一緒に入ったんですよね」
「ああ、十四歳で試験を受けにくる人は初めてでだいぶ戸惑ったよ」

 十四歳!?そ、そっか、ミスカさんと同じだから…そうなるよね。若い…というか子供なのにもう騎士…?

「当時は隊長が試験監督だったから私がリュークの剣を見ていたのだけど、子供ながらに滅法強くてね。ミスカもだったけれど」

 ハインツさんがそんなに驚くくらいだったんだ。

「試験中に打ち合いしてみたいと言うから相手をしたんだ。勿論私が勝ってしまったけど、入団が決まった後に私の補佐になりたいとも言ったんだ」
「えっ、そんなすぐのことだったんですか?」
「ああ、「もっと強くなりたいから団長を近くで見る」と。補佐はどちらかというと事務作業だから違うと言ったのにね」

 面白そうに笑うハインツさんに釣られて私も笑ってしまった。
 その頃のリュークがピヨピヨ言っているのが安易に想像出来る。

「結局三年目から任せることになったんだ。そのうち隊長になるだろうと思っていたからそれまでと決めていたけど」

 今年がその時なんだね。
 ずっと期待に応え続けていたからハインツさんも安心してリュークに隊長を任せられるのだろう。
 嬉しい昔話を聞いていると部隊ごとの話し合いも終わり、私はハインツさんと二番隊のところ行く。

「あ、サキ!俺隊長になっちゃった!」
「おめでとう!リュークずっと頑張ってたもんね、凄いよ!」
「へへ、サキのお陰だよ~!」
「あのね、新人さんにご挨拶しようと思って」
「えっ」

 リュークから離れヨルアノさんに話しかける。

「すみません、今大丈夫ですか?」
「はい!………え、あ、え、ほんとや…」

 こちらを向いた彼は淡赤色の瞳で、紺色の短髪の後ろだけ伸ばして括っている。

「私、黒騎士団で働かせて貰ってるサキと言います。これからよろしくお願いします」
「ヨルアノです!よ、よろしくお願いします!」

 初々しい元気な好青年といった感じでとてもハキハキ話してくれる。少し方言が混じっている話し方でイントネーションも違うかな。
周りの団員たちより身長が低めなので顔が見やすく目がしっかり合う。
 握手をしようと手を差し出した時、ヨルアノさんの表情が一瞬変わった気がした。
 しかしそれを気にする間もなくリュークに抱きしめ止められた。

「無闇に男の手なんか触れちゃ駄目だよ!」
「アレクさんとも普通にしたじゃない」
「隊長と!?あ、もう隊長じゃなかった」

 その時リュークは居なかったっけ?

「あー、えっと握手はせんで良いですよ。というか本当びっくりしました!今日周りが凄い美人がここにおるって言ってたから、なんの事やろと思って」

 笑ってそう言うヨルアノさんにハインツさんとリュークが顔を見合わせる。

「サキのこと知らなかったの?」
「?はい。俺、アルデンのことはあんまり詳しく無くて」

 違う国の人なんだ。国によって話し方も特色があるのかな。

「敬語とかも気にせんで下さい!新人ですから」
「じゃあヨルアノくんって呼んでもいい?」
「はい!」

 ハインツさんが建物を案内すると言ってヨルアノくんを連れて行く。

「とっても良い人じゃない!リュークは気にしすぎだよ」
「だってぇ…」
「でも、心配してくれてありがとう」
「サキ…!」

 リュークに抱きつかれているとラグトさんとヴェルくんも来てくれた。

「ヨルアノくん凄く明るい人だったよ」
「ほんと!俺もそのうち話せるかな」

 ラグトさんは思いついたようにヴェルくんに向く。

「ヴェルストリア、初めての後輩じゃん!」
「本当ですね。…僕が先輩…」
「はは、緊張してる」
「してませんよ」

 ラグトさんに言われ否定するヴェルくんだが少しソワソワしているようにも見える。

「歳も同じらしいし、仲良くしなよ」
「…善処します」

 その後同い年の二人は食堂で対面した。

「あの、ヴェルストリアだよね!俺と同い年だって聞いたよ。よろしく!」
「よ、よろしく」
「隣座っても良い?」
「うん…」

 私もヴェルくんと座って居たので、二人を微笑ましく見る。

「十六歳で入ったん!凄いね!」
「ちょっと色々あって。ヨルアノはどこの出身なの」
「俺は南のほうにあるイヤマって国なんよ」
「ああ、知ってる。果物が有名だよね」
「え!めっちゃ小さい国やのに…嬉しいなぁ」

 ニコニコ笑顔のヨルアノくんにヴェルくんも慣れてきたようで話が弾んでいる。

「ヴェルストリアとサキさんはいつも一緒に食べてるん?」

 こちらを見て不思議そうに聞く。

「時間が合う時は一緒だよね」
「はい、サキさんとは夫婦だから」
「えっ、そうなんや!じゃあサキさんがここで働いとるっていうのは…なんか関係ある?」
「ううん、ここで働くってなってヴェルくんがお手伝い申し出てくれたんだよね」
「改めて言われると恥ずかしいですね…」

 照れるヴェルくんを見て頬が緩む。

「二人は…仲良いんやね」
「勿論ですよね」
「ふふ、うん。言って貰えると嬉しいな」

 ご飯を食べ終えて、ヴェルくんはヨルアノくんと寮に戻って行った。
 やっぱり歳が同じだと気が許せるのかな。すっかり仲良しになれたみたいで良かった。

 仲間が加わり、新しい黒騎士団の一年が始まった。
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