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欲しいもの
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ラグトさんのお陰でぐっすり眠れた私は体の調子もすっかり良くなっていた。
「料理任せちゃってごめんね。昨日ご飯持ってきてくれてありがとう」
「いえ、少し無理させてしまいましたから、こういう時は気にせず任せてください」
「言った通りでしょう?」とヴェルくんは微笑む。
うん、総合的に大変だ。でも先輩方よりヴェルくんが一番責めてきた気がする。
言い返しは胸に秘め、彼と朝食を作る。
「今日はちょっと雨降ってるね。外の鍛錬は無し?」
「はい、書類仕事が溜まっていたのでちょうど良かったです」
しかし外が使えないと鍛錬出来る場所が無いので困っているそう。
「屋内があったら良いね」
「屋内……ですか、そうですね。実戦は外だからっていう感覚でやっていました」
「やっぱり中だと違うから駄目なのかな」
「出来ないよりは全然良いと思います。自室だとだいぶ限られてしまって……」
部屋でもやってるんだ、偉いなぁ……。
そんな話をして、その後ハインツさんに用事が会ったので執務室にお邪魔した。
そして仕事中なのに当たり前のように彼の膝の上に乗せられていた。ちょっと申し訳ない……。
「今日は雨だな。サキ、寒くはない?」
「着込んでいるので大丈夫ですよ。さっきもヴェルくんと話してて」
何気なくそのことを言うとハインツさんも頷く。
「この国は雨が比較的少ないが、それでも鍛錬が出来ないというのは不利益が大きいな」
一日鍛錬しないだけでだいぶ体が鈍ってしまうそう。
「前から考えてはいたが、屋内訓練場も作るか」
「え!作れるんですか!」
「今回の戦争で褒賞金が出されるから、許可を貰えば可能だと思う。それだけ大きい物となると今までの黒騎士団の予算では後回しにしてしまっていたから」
皆の頑張りがちゃんと還元されるってことだもんね。正直言うと建物一つなんかじゃ足りないけど。
「ちょうど私たちの家も建てるし、一緒に土地を整えてもらうか」
ハインツさんもとても嬉しそうだ。
「ふふ、楽しみですね」
「ああ!しかし……今の訓練場の半分の広さにはなってしまうな。屋内で真剣は使えないから木刀で……だいぶ限られてはしまうものだな。せっかく建てるのなら何か活用出来たら良いのだけれど」
雨の日に使うだけじゃ勿体ないよね。
「スポーツとかはしませんか?屋内でしか出来ないものもいっぱいありますし」
ハインツさんはスポーツにあまりピンときていないようだった。どうやらこの世界に競技などは無いらしい。
よく考えてみれば動くのを嫌いそうな人たちばかりなのだった、この世界は。
道具が無いと何も出来ないしなぁ……。
屋内訓練場の話は一旦保留になった。
「褒賞金が決まったらまた考えるとするよ」
「そうですね」
急いても仕方ない事だし。
そういえば私の本題を忘れていた。
「ハインツさん、この世界には結婚式ってありますか?」
「結婚式?」
「ええと……家族とか友達とか知り合いを呼んで、その中で夫婦になったことを誓うっていう」
「なるほど、儀式か。そういうものは無いな……サキはそれがしたかったのか?遅くはなったが今からでも……」
「いえ!特別したい訳では無くて」
この世界で私が呼べる人が誰も居ないのであんまり意味無いと思う。
「実は……指輪が欲しいなって……」
「指輪は何か関係があるのかな」
「式の中で夫婦がお互い相手に指輪をはめてその後キスをするんです」
結婚指輪はその後も日常で付けるものだから私も結婚した証のようなものがあったら嬉しい、と彼に伝えると一も二も無く同意してくれた。
「サキの居た世界は面白い文化が色々あるな。サキと揃いなら皆も喜ぶだろう」
「でも、その指輪が結構お高いと思うんです。一つで十万……金貨十枚は普通にするから…」
水に濡れたりしても大丈夫な、確かプラチナとかゴールドだった気がする。人生の中で指輪でしか縁の無さそうな金属だ。
「それくらいなら……」
「私が使えるお金ってどれくらいありますか?」
「え?」
「……え?」
少し間が空いた。
「あの……皆の分買うのにお金が足りるか心配で……」
「……私たちの分を全部サキが買うのか?」
「お互いのを買ったら良いんじゃないかと思いまして」
「サキは五個指輪を付けるのか?」
「私の分は皆で買って欲しいなって……」
ハインツさんはため息を吐いて私の頭を撫でる。
「サキ……その気持ちは嬉しいし謙虚なのが悪いとは言わないが、私たちにも格好つけさせてくれ」
うーん……「ここは俺が払うよ!」ってシチュエーションなのかな。
「というか結婚したのだから、私たちのお金は全部サキのものだよ」
「……そう、なんですかね……?」
全部…ではないと思うけど。
女性は働かないのが普通なのだから、妻が欲しいものは夫が全部買うのか。
「私も今までほとんどお金を使う機会が無かったから、サキの為に使わせて欲しい。サキはお金のことなんて気にせず欲しいものを買えば良いんだ」
この世界ではそれが普通なのだろう。あまり食い下がるのも良くないし、夫の面子も大切だ。ちゃんとお願いすることにしよう。
「じゃあ……」
ハインツさんの手を握る。
「ハインツさん、指輪買って欲しいです」
「うっ……」
彼は歯を食いしばり何かを堪えた後、私を優しく抱きしめた。
「ああ、好きな物を頼むといい。今度王都の彫金師に来てもらおう」
「ありがとうございます!」
それにしても皆が私とお揃いだと夫たちもそれぞれお揃いになってしまう。それは良かったかな……。
でも皆仲良いし、いっか!
左手の薬指に五連の指輪は流石に重過ぎるので許してね、と心の中で謝っておいた。
「料理任せちゃってごめんね。昨日ご飯持ってきてくれてありがとう」
「いえ、少し無理させてしまいましたから、こういう時は気にせず任せてください」
「言った通りでしょう?」とヴェルくんは微笑む。
うん、総合的に大変だ。でも先輩方よりヴェルくんが一番責めてきた気がする。
言い返しは胸に秘め、彼と朝食を作る。
「今日はちょっと雨降ってるね。外の鍛錬は無し?」
「はい、書類仕事が溜まっていたのでちょうど良かったです」
しかし外が使えないと鍛錬出来る場所が無いので困っているそう。
「屋内があったら良いね」
「屋内……ですか、そうですね。実戦は外だからっていう感覚でやっていました」
「やっぱり中だと違うから駄目なのかな」
「出来ないよりは全然良いと思います。自室だとだいぶ限られてしまって……」
部屋でもやってるんだ、偉いなぁ……。
そんな話をして、その後ハインツさんに用事が会ったので執務室にお邪魔した。
そして仕事中なのに当たり前のように彼の膝の上に乗せられていた。ちょっと申し訳ない……。
「今日は雨だな。サキ、寒くはない?」
「着込んでいるので大丈夫ですよ。さっきもヴェルくんと話してて」
何気なくそのことを言うとハインツさんも頷く。
「この国は雨が比較的少ないが、それでも鍛錬が出来ないというのは不利益が大きいな」
一日鍛錬しないだけでだいぶ体が鈍ってしまうそう。
「前から考えてはいたが、屋内訓練場も作るか」
「え!作れるんですか!」
「今回の戦争で褒賞金が出されるから、許可を貰えば可能だと思う。それだけ大きい物となると今までの黒騎士団の予算では後回しにしてしまっていたから」
皆の頑張りがちゃんと還元されるってことだもんね。正直言うと建物一つなんかじゃ足りないけど。
「ちょうど私たちの家も建てるし、一緒に土地を整えてもらうか」
ハインツさんもとても嬉しそうだ。
「ふふ、楽しみですね」
「ああ!しかし……今の訓練場の半分の広さにはなってしまうな。屋内で真剣は使えないから木刀で……だいぶ限られてはしまうものだな。せっかく建てるのなら何か活用出来たら良いのだけれど」
雨の日に使うだけじゃ勿体ないよね。
「スポーツとかはしませんか?屋内でしか出来ないものもいっぱいありますし」
ハインツさんはスポーツにあまりピンときていないようだった。どうやらこの世界に競技などは無いらしい。
よく考えてみれば動くのを嫌いそうな人たちばかりなのだった、この世界は。
道具が無いと何も出来ないしなぁ……。
屋内訓練場の話は一旦保留になった。
「褒賞金が決まったらまた考えるとするよ」
「そうですね」
急いても仕方ない事だし。
そういえば私の本題を忘れていた。
「ハインツさん、この世界には結婚式ってありますか?」
「結婚式?」
「ええと……家族とか友達とか知り合いを呼んで、その中で夫婦になったことを誓うっていう」
「なるほど、儀式か。そういうものは無いな……サキはそれがしたかったのか?遅くはなったが今からでも……」
「いえ!特別したい訳では無くて」
この世界で私が呼べる人が誰も居ないのであんまり意味無いと思う。
「実は……指輪が欲しいなって……」
「指輪は何か関係があるのかな」
「式の中で夫婦がお互い相手に指輪をはめてその後キスをするんです」
結婚指輪はその後も日常で付けるものだから私も結婚した証のようなものがあったら嬉しい、と彼に伝えると一も二も無く同意してくれた。
「サキの居た世界は面白い文化が色々あるな。サキと揃いなら皆も喜ぶだろう」
「でも、その指輪が結構お高いと思うんです。一つで十万……金貨十枚は普通にするから…」
水に濡れたりしても大丈夫な、確かプラチナとかゴールドだった気がする。人生の中で指輪でしか縁の無さそうな金属だ。
「それくらいなら……」
「私が使えるお金ってどれくらいありますか?」
「え?」
「……え?」
少し間が空いた。
「あの……皆の分買うのにお金が足りるか心配で……」
「……私たちの分を全部サキが買うのか?」
「お互いのを買ったら良いんじゃないかと思いまして」
「サキは五個指輪を付けるのか?」
「私の分は皆で買って欲しいなって……」
ハインツさんはため息を吐いて私の頭を撫でる。
「サキ……その気持ちは嬉しいし謙虚なのが悪いとは言わないが、私たちにも格好つけさせてくれ」
うーん……「ここは俺が払うよ!」ってシチュエーションなのかな。
「というか結婚したのだから、私たちのお金は全部サキのものだよ」
「……そう、なんですかね……?」
全部…ではないと思うけど。
女性は働かないのが普通なのだから、妻が欲しいものは夫が全部買うのか。
「私も今までほとんどお金を使う機会が無かったから、サキの為に使わせて欲しい。サキはお金のことなんて気にせず欲しいものを買えば良いんだ」
この世界ではそれが普通なのだろう。あまり食い下がるのも良くないし、夫の面子も大切だ。ちゃんとお願いすることにしよう。
「じゃあ……」
ハインツさんの手を握る。
「ハインツさん、指輪買って欲しいです」
「うっ……」
彼は歯を食いしばり何かを堪えた後、私を優しく抱きしめた。
「ああ、好きな物を頼むといい。今度王都の彫金師に来てもらおう」
「ありがとうございます!」
それにしても皆が私とお揃いだと夫たちもそれぞれお揃いになってしまう。それは良かったかな……。
でも皆仲良いし、いっか!
左手の薬指に五連の指輪は流石に重過ぎるので許してね、と心の中で謝っておいた。
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