92 / 184
欲しいもの
しおりを挟む
ラグトさんのお陰でぐっすり眠れた私は体の調子もすっかり良くなっていた。
「料理任せちゃってごめんね。昨日ご飯持ってきてくれてありがとう」
「いえ、少し無理させてしまいましたから、こういう時は気にせず任せてください」
「言った通りでしょう?」とヴェルくんは微笑む。
うん、総合的に大変だ。でも先輩方よりヴェルくんが一番責めてきた気がする。
言い返しは胸に秘め、彼と朝食を作る。
「今日はちょっと雨降ってるね。外の鍛錬は無し?」
「はい、書類仕事が溜まっていたのでちょうど良かったです」
しかし外が使えないと鍛錬出来る場所が無いので困っているそう。
「屋内があったら良いね」
「屋内……ですか、そうですね。実戦は外だからっていう感覚でやっていました」
「やっぱり中だと違うから駄目なのかな」
「出来ないよりは全然良いと思います。自室だとだいぶ限られてしまって……」
部屋でもやってるんだ、偉いなぁ……。
そんな話をして、その後ハインツさんに用事が会ったので執務室にお邪魔した。
そして仕事中なのに当たり前のように彼の膝の上に乗せられていた。ちょっと申し訳ない……。
「今日は雨だな。サキ、寒くはない?」
「着込んでいるので大丈夫ですよ。さっきもヴェルくんと話してて」
何気なくそのことを言うとハインツさんも頷く。
「この国は雨が比較的少ないが、それでも鍛錬が出来ないというのは不利益が大きいな」
一日鍛錬しないだけでだいぶ体が鈍ってしまうそう。
「前から考えてはいたが、屋内訓練場も作るか」
「え!作れるんですか!」
「今回の戦争で褒賞金が出されるから、許可を貰えば可能だと思う。それだけ大きい物となると今までの黒騎士団の予算では後回しにしてしまっていたから」
皆の頑張りがちゃんと還元されるってことだもんね。正直言うと建物一つなんかじゃ足りないけど。
「ちょうど私たちの家も建てるし、一緒に土地を整えてもらうか」
ハインツさんもとても嬉しそうだ。
「ふふ、楽しみですね」
「ああ!しかし……今の訓練場の半分の広さにはなってしまうな。屋内で真剣は使えないから木刀で……だいぶ限られてはしまうものだな。せっかく建てるのなら何か活用出来たら良いのだけれど」
雨の日に使うだけじゃ勿体ないよね。
「スポーツとかはしませんか?屋内でしか出来ないものもいっぱいありますし」
ハインツさんはスポーツにあまりピンときていないようだった。どうやらこの世界に競技などは無いらしい。
よく考えてみれば動くのを嫌いそうな人たちばかりなのだった、この世界は。
道具が無いと何も出来ないしなぁ……。
屋内訓練場の話は一旦保留になった。
「褒賞金が決まったらまた考えるとするよ」
「そうですね」
急いても仕方ない事だし。
そういえば私の本題を忘れていた。
「ハインツさん、この世界には結婚式ってありますか?」
「結婚式?」
「ええと……家族とか友達とか知り合いを呼んで、その中で夫婦になったことを誓うっていう」
「なるほど、儀式か。そういうものは無いな……サキはそれがしたかったのか?遅くはなったが今からでも……」
「いえ!特別したい訳では無くて」
この世界で私が呼べる人が誰も居ないのであんまり意味無いと思う。
「実は……指輪が欲しいなって……」
「指輪は何か関係があるのかな」
「式の中で夫婦がお互い相手に指輪をはめてその後キスをするんです」
結婚指輪はその後も日常で付けるものだから私も結婚した証のようなものがあったら嬉しい、と彼に伝えると一も二も無く同意してくれた。
「サキの居た世界は面白い文化が色々あるな。サキと揃いなら皆も喜ぶだろう」
「でも、その指輪が結構お高いと思うんです。一つで十万……金貨十枚は普通にするから…」
水に濡れたりしても大丈夫な、確かプラチナとかゴールドだった気がする。人生の中で指輪でしか縁の無さそうな金属だ。
「それくらいなら……」
「私が使えるお金ってどれくらいありますか?」
「え?」
「……え?」
少し間が空いた。
「あの……皆の分買うのにお金が足りるか心配で……」
「……私たちの分を全部サキが買うのか?」
「お互いのを買ったら良いんじゃないかと思いまして」
「サキは五個指輪を付けるのか?」
「私の分は皆で買って欲しいなって……」
ハインツさんはため息を吐いて私の頭を撫でる。
「サキ……その気持ちは嬉しいし謙虚なのが悪いとは言わないが、私たちにも格好つけさせてくれ」
うーん……「ここは俺が払うよ!」ってシチュエーションなのかな。
「というか結婚したのだから、私たちのお金は全部サキのものだよ」
「……そう、なんですかね……?」
全部…ではないと思うけど。
女性は働かないのが普通なのだから、妻が欲しいものは夫が全部買うのか。
「私も今までほとんどお金を使う機会が無かったから、サキの為に使わせて欲しい。サキはお金のことなんて気にせず欲しいものを買えば良いんだ」
この世界ではそれが普通なのだろう。あまり食い下がるのも良くないし、夫の面子も大切だ。ちゃんとお願いすることにしよう。
「じゃあ……」
ハインツさんの手を握る。
「ハインツさん、指輪買って欲しいです」
「うっ……」
彼は歯を食いしばり何かを堪えた後、私を優しく抱きしめた。
「ああ、好きな物を頼むといい。今度王都の彫金師に来てもらおう」
「ありがとうございます!」
それにしても皆が私とお揃いだと夫たちもそれぞれお揃いになってしまう。それは良かったかな……。
でも皆仲良いし、いっか!
左手の薬指に五連の指輪は流石に重過ぎるので許してね、と心の中で謝っておいた。
「料理任せちゃってごめんね。昨日ご飯持ってきてくれてありがとう」
「いえ、少し無理させてしまいましたから、こういう時は気にせず任せてください」
「言った通りでしょう?」とヴェルくんは微笑む。
うん、総合的に大変だ。でも先輩方よりヴェルくんが一番責めてきた気がする。
言い返しは胸に秘め、彼と朝食を作る。
「今日はちょっと雨降ってるね。外の鍛錬は無し?」
「はい、書類仕事が溜まっていたのでちょうど良かったです」
しかし外が使えないと鍛錬出来る場所が無いので困っているそう。
「屋内があったら良いね」
「屋内……ですか、そうですね。実戦は外だからっていう感覚でやっていました」
「やっぱり中だと違うから駄目なのかな」
「出来ないよりは全然良いと思います。自室だとだいぶ限られてしまって……」
部屋でもやってるんだ、偉いなぁ……。
そんな話をして、その後ハインツさんに用事が会ったので執務室にお邪魔した。
そして仕事中なのに当たり前のように彼の膝の上に乗せられていた。ちょっと申し訳ない……。
「今日は雨だな。サキ、寒くはない?」
「着込んでいるので大丈夫ですよ。さっきもヴェルくんと話してて」
何気なくそのことを言うとハインツさんも頷く。
「この国は雨が比較的少ないが、それでも鍛錬が出来ないというのは不利益が大きいな」
一日鍛錬しないだけでだいぶ体が鈍ってしまうそう。
「前から考えてはいたが、屋内訓練場も作るか」
「え!作れるんですか!」
「今回の戦争で褒賞金が出されるから、許可を貰えば可能だと思う。それだけ大きい物となると今までの黒騎士団の予算では後回しにしてしまっていたから」
皆の頑張りがちゃんと還元されるってことだもんね。正直言うと建物一つなんかじゃ足りないけど。
「ちょうど私たちの家も建てるし、一緒に土地を整えてもらうか」
ハインツさんもとても嬉しそうだ。
「ふふ、楽しみですね」
「ああ!しかし……今の訓練場の半分の広さにはなってしまうな。屋内で真剣は使えないから木刀で……だいぶ限られてはしまうものだな。せっかく建てるのなら何か活用出来たら良いのだけれど」
雨の日に使うだけじゃ勿体ないよね。
「スポーツとかはしませんか?屋内でしか出来ないものもいっぱいありますし」
ハインツさんはスポーツにあまりピンときていないようだった。どうやらこの世界に競技などは無いらしい。
よく考えてみれば動くのを嫌いそうな人たちばかりなのだった、この世界は。
道具が無いと何も出来ないしなぁ……。
屋内訓練場の話は一旦保留になった。
「褒賞金が決まったらまた考えるとするよ」
「そうですね」
急いても仕方ない事だし。
そういえば私の本題を忘れていた。
「ハインツさん、この世界には結婚式ってありますか?」
「結婚式?」
「ええと……家族とか友達とか知り合いを呼んで、その中で夫婦になったことを誓うっていう」
「なるほど、儀式か。そういうものは無いな……サキはそれがしたかったのか?遅くはなったが今からでも……」
「いえ!特別したい訳では無くて」
この世界で私が呼べる人が誰も居ないのであんまり意味無いと思う。
「実は……指輪が欲しいなって……」
「指輪は何か関係があるのかな」
「式の中で夫婦がお互い相手に指輪をはめてその後キスをするんです」
結婚指輪はその後も日常で付けるものだから私も結婚した証のようなものがあったら嬉しい、と彼に伝えると一も二も無く同意してくれた。
「サキの居た世界は面白い文化が色々あるな。サキと揃いなら皆も喜ぶだろう」
「でも、その指輪が結構お高いと思うんです。一つで十万……金貨十枚は普通にするから…」
水に濡れたりしても大丈夫な、確かプラチナとかゴールドだった気がする。人生の中で指輪でしか縁の無さそうな金属だ。
「それくらいなら……」
「私が使えるお金ってどれくらいありますか?」
「え?」
「……え?」
少し間が空いた。
「あの……皆の分買うのにお金が足りるか心配で……」
「……私たちの分を全部サキが買うのか?」
「お互いのを買ったら良いんじゃないかと思いまして」
「サキは五個指輪を付けるのか?」
「私の分は皆で買って欲しいなって……」
ハインツさんはため息を吐いて私の頭を撫でる。
「サキ……その気持ちは嬉しいし謙虚なのが悪いとは言わないが、私たちにも格好つけさせてくれ」
うーん……「ここは俺が払うよ!」ってシチュエーションなのかな。
「というか結婚したのだから、私たちのお金は全部サキのものだよ」
「……そう、なんですかね……?」
全部…ではないと思うけど。
女性は働かないのが普通なのだから、妻が欲しいものは夫が全部買うのか。
「私も今までほとんどお金を使う機会が無かったから、サキの為に使わせて欲しい。サキはお金のことなんて気にせず欲しいものを買えば良いんだ」
この世界ではそれが普通なのだろう。あまり食い下がるのも良くないし、夫の面子も大切だ。ちゃんとお願いすることにしよう。
「じゃあ……」
ハインツさんの手を握る。
「ハインツさん、指輪買って欲しいです」
「うっ……」
彼は歯を食いしばり何かを堪えた後、私を優しく抱きしめた。
「ああ、好きな物を頼むといい。今度王都の彫金師に来てもらおう」
「ありがとうございます!」
それにしても皆が私とお揃いだと夫たちもそれぞれお揃いになってしまう。それは良かったかな……。
でも皆仲良いし、いっか!
左手の薬指に五連の指輪は流石に重過ぎるので許してね、と心の中で謝っておいた。
105
お気に入りに追加
1,120
あなたにおすすめの小説
異世界の美醜と私の認識について
佐藤 ちな
恋愛
ある日気づくと、美玲は異世界に落ちた。
そこまでならラノベなら良くある話だが、更にその世界は女性が少ない上に、美醜感覚が美玲とは激しく異なるという不思議な世界だった。
そんな世界で稀人として特別扱いされる醜女(この世界では超美人)の美玲と、咎人として忌み嫌われる醜男(美玲がいた世界では超美青年)のルークが出会う。
不遇の扱いを受けるルークを、幸せにしてあげたい!そして出来ることなら、私も幸せに!
美醜逆転・一妻多夫の異世界で、美玲の迷走が始まる。
* 話の展開に伴い、あらすじを変更させて頂きました。

美醜逆転異世界で、非モテなのに前向きな騎士様が素敵です
花野はる
恋愛
先祖返りで醜い容貌に生まれてしまったセドリック・ローランド、18歳は非モテの騎士副団長。
けれども曽祖父が同じ醜さでありながら、愛する人と幸せな一生を送ったと祖父から聞いて育ったセドリックは、顔を隠すことなく前向きに希望を持って生きている。けれどやはりこの世界の女性からは忌み嫌われ、中身を見ようとしてくれる人はいない。
そんな中、セドリックの元に異世界の稀人がやって来た!外見はこんなでも、中身で勝負し、専属護衛になりたいと頑張るセドリックだが……。
醜いイケメン騎士とぽっちゃり喪女のラブストーリーです。
多分短い話になると思われます。
サクサク読めるように、一話ずつを短めにしてみました。

転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~
月
恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん)
は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。
しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!?
(もしかして、私、転生してる!!?)
そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!!
そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?
旦那様が多すぎて困っています!? 〜逆ハー異世界ラブコメ〜
ことりとりとん
恋愛
男女比8:1の逆ハーレム異世界に転移してしまった女子大生・大森泉
転移早々旦那さんが6人もできて、しかも魔力無限チートがあると教えられて!?
のんびりまったり暮らしたいのにいつの間にか国を救うハメになりました……
イケメン山盛りの逆ハーです
前半はラブラブまったりの予定。後半で主人公が頑張ります
小説家になろう、カクヨムに転載しています

ただ貴方の傍にいたい〜醜いイケメン騎士と異世界の稀人
花野はる
恋愛
日本で暮らす相川花純は、成人の思い出として、振袖姿を残そうと写真館へやって来た。
そこで着飾り、いざ撮影室へ足を踏み入れたら異世界へ転移した。
森の中で困っていると、仮面の騎士が助けてくれた。その騎士は騎士団の団長様で、すごく素敵なのに醜くて仮面を被っていると言う。
孤独な騎士と異世界でひとりぼっちになった花純の一途な恋愛ストーリー。
初投稿です。よろしくお願いします。

異世界転生〜色いろあって世界最強!?〜
野の木
恋愛
気付いたら、見知らぬ場所に。
生まれ変わった?ここって異世界!?
しかも家族全員美男美女…なのになんで私だけ黒髪黒眼平凡顔の前世の姿のままなの!?
えっ、絶世の美女?黒は美人の証?
いやいや、この世界の人って目悪いの?
前世の記憶を持ったまま異世界転生した主人公。
しかもそこは、色により全てが決まる世界だった!?

私は女神じゃありません!!〜この世界の美的感覚はおかしい〜
朝比奈
恋愛
年齢=彼氏いない歴な平凡かつ地味顔な私はある日突然美的感覚がおかしい異世界にトリップしてしまったようでして・・・。
(この世界で私はめっちゃ美人ってどゆこと??)
これは主人公が美的感覚が違う世界で醜い男(私にとってイケメン)に恋に落ちる物語。
所々、意味が違うのに使っちゃってる言葉とかあれば教えて下さると幸いです。
暇つぶしにでも呼んでくれると嬉しいです。
※休載中
(4月5日前後から投稿再開予定です)

公爵様のバッドエンドを回避したいだけだったのに、なぜか溺愛されています
六花心碧
恋愛
お気に入り小説の世界で名前すら出てこないモブキャラに転生してしまった!
『推しのバッドエンドを阻止したい』
そう思っただけなのに、悪女からは脅されるし、小説の展開はどんどん変わっていっちゃうし……。
推しキャラである公爵様の反逆を防いで、見事バッドエンドを回避できるのか……?!
ゆるくて、甘くて、ふわっとした溺愛ストーリーです➴⡱
(外部URLで登録していたものを改めて登録しました! ◇他サイト様でも公開中です)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる