美醜逆転の異世界で騎士様たちに愛される

志季彩夜

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彼らからのお祝い 1

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 いつも通りの六時に目が覚める。冬の日の出は遅く、まだ窓の外は暗い。
 今日は……皆が居る!
 あまりの嬉しさに飛び起きて急いで服に着替える。急いだところですぐ会える訳じゃないけれど、美味しい朝ごはんを作らねばと気合いを入れて小走りで食堂へ向かった。
 あれ、誰かいる?
 キッチンで物音がして、ちょっと怖かったのでチラッと覗いてみるとそこにはヴェルくんが居た。

「ヴェルくん!」
「さ、サキさん!おはようございます…」
「おはよう。こんな早くにどうしたの、ご飯は私がやるよ?」
「いえ……目が覚めてしまって、僕もやっぱり手伝います!」

 どことなく不自然だけど、朝から彼に会えたのが嬉しかったので気にすること無くお願いした。
 ヴェルくんにレタスをちぎってもらっている間に調味料を合わせる。

「サキさん、今日はいつもより早いですね」
「やっと皆が居る一日なんだって思ったらいてもたっても居られなくて」

「はしゃぎすぎだよね」と笑うと彼は眉を下げる。

「そう……ですよね。すみませんでした、僕自分のことばかり考えて、サキさんにろくに言葉をかけることもせずに行ってしまって」

 あの時本当に苦しそうだったヴェルくんを思い出す。

「ううん…ヴェルくんのことハインツさんから聞いたよ。辛いことに正面から向き合うのはとても難しいことだと思う。記憶って美化されていくでしょ、嫌なことも都合のいいように変えられる」
「…はい」
「そうやって逃げることも忘れることも出来るけど、ヴェルくんは立ち向かって乗り越えたんだよ」
「!……」

 彼と手を重ね優しく撫でる。

「私、勿論寂しかったけど……それよりも、ヴェルくんを支えたいってずっと思ってた。自分のことに精一杯で良いんだよ。その時は私が助けたいし、逆にヴェルくんに助けられる時もあるから」
「サキさん……」
「本当にお疲れ様!よく頑張ったね」

 涙を堪えたヴェルくんは私の肩に顔を押し付ける。

「貴女は……いつも僕が欲しい言葉をくれる」
「これが私に出来ることだと思うから。その為にもヴェルくんのことは全部知りたい」
「はい……ありがとうございます」

 ヴェルくんは顔を上げると嬉しそうに微笑んだ。

「父に会って話が出来たんです」
「そっか……!」
「結婚したことも報告出来ました。いつか父に会ってもらえますか?」
「勿論!ヴェルくんの大切な人だもの。私からもお礼したいな」

 お父さんのこともずっと気がかりだっただろうし、直接会えて良かったよね。ルーシャに行かなければその機会も無かったから。
 見つめ合い、彼から優しいキスを受ける。
 二人で肩を並べて朝食を作る穏やかな時間が流れていた。


「結局いっぱい手伝ってもらっちゃってごめんね」
「いえ、サキさんと過ごせるのは何よりも癒されますから」

 出来上がったご飯を並べていると、続々と団員たちがやって来た。

「あ、サキちゃん!おはよう!」
「ラグトさん、おはようございます!」

 夫たちも早速来てくれたので一緒に朝食を頂く。

「サキ、今日夜に時間を貰ってもいいか」
「それまでに準備するから!」

 ミスカさんとリュークに頷く。
 今日は彼らが私の誕生日をお祝いしてくれるそうだ。なんだか張り切って生き生きしているのを見ると微笑ましく思う。

「夕食の後……二十時くらいに応接室に来てね」

 ラグトさんに言われ一瞬考える。
 応接室は確か、食堂の向かいにある部屋だよね。たまに掃除に入るけど、改めて応接室だということを意識していなかった。

「分かりました!」

 ふふ、楽しみだなぁ……。
 皆と一緒に過ごせるのが嬉しくて、夜までずっと浮き足立って過ごしていた。

 夕食もヴェルくんに手伝ってもらって、食べ終わった後は部屋でゆっくりしていた。
 ……もう行ってもいいかな?
 そわそわしてしまって何度も時計を見る。
 もうすぐ五分前、というところで応接室に向かう。扉をノックするとリュークが出迎えてくれた。

「もう大丈夫だった?」
「うん!入って入って!」

 促され中に入ると……。

「わぁ……!」

 部屋全体がキラキラの装飾で飾り付けられ、机には沢山のお菓子。

「サキはここの席ね!」

 長テーブルを挟み両側のソファに彼らが座り、私は端に置かれたソファに案内される。
 正面で皆の顔が見れる、とっても素敵な位置だ。

「団長は仕事が終わったら来るそうだ。先に始めてしまおう」

 ミスカさんに頷いてリュークが咳払いをする。

「では改めて、サキ、お誕生日おめでとう!これ俺からのプレゼント!」
「ありがとう!開けてもいい?」
「うん!じゃんじゃん開けちゃって!」

 大きい袋のリボンを解き中から取り出す。
 なんかもふもふしてる…?

「わ!クマのぬいぐるみ!」
「この前町行った時欲しそうにしてたから」
「え、見てたの…?」

 通りがかったおもちゃ屋さんで店頭に並んでいたぬいぐるみに心惹かれていたことが普通にバレている。

「子供っぽいって笑わない…?」
「…可愛すぎて笑っちゃう…かも」

 既にニヤニヤされていて恥ずかしくてムッとしたが、クマちゃんの愛らしさに口元が緩む。
 毛並みは王道の茶色だが、瞳が金色になっている。ギュッとするのにちょうど良いサイズだ。

「ありがとうリューク、大事にするね!」
「うん!」

 袋のリボンを外しクマちゃんの首に付ける。誕生日の特別仕様。
 ふふ、可愛い…もふもふ…。

「俺からはこれを」

 ミスカさんは大きめの箱を持ってくる。

「少し重いから隣に置いてもいいか」

 私の座るソファの上に乗せ、ミスカさんと一緒に開ける。

「これ…じょうろですね!」
「ああ、ここに置いたあった古い物を使っていただろう。少し割れていたし替え時かと思ってな」

 そんなところまで見ていてくれてたんだ…。
 丸い筒型でアンティークなブリキのじょうろ。

「あ!横にお花と葉っぱの模様が付いてる!」
「可愛い…ものを選んだつもりだ」
「凄く可愛いです…!ありがとうございます!」

 ミスカさんは屈み、私の目線に合わせる。

「サキ、誕生日おめでとう。これからもずっとサキの傍に居させてくれ」
「はい…!ずっと傍に居てください」

 頬にキスを貰い笑みが零れる。
 お花の手入れがもっと楽しくなるなぁ…!

「サキちゃん、誕生日おめでとう!」

 ラグトさんに渡された小さな箱を開けてみると、輝くゴールドのイヤリング。

「これ貰ったの凄く嬉しかったから、お返ししたかったんだ」

 彼の左耳には渡した時からずっと付けてくれているイヤーカフ。

「ありがとうございます!お揃いのリング状だ…!」
「へへ、見つけた時に即決しちゃった。サキちゃんはゴールドかなって思ったんだけど」
「はい!ゴールドのものを身につけることが多かったので嬉しいです!」

 そっと手に取り耳に付ける。

「どうですか?」
「うん!誰よりも似合ってる!」
「ふふ、覚えててくれたんですね」

 手の甲にキスしただけで恥ずかしがっていたあの頃が懐かしい…。まさか結婚することになるとは思いもしてなかったな。

「サキちゃんとの大事な思い出だからね。ずっとは付けられないと思うから、付けたい時に?」
「じゃあ、今度このイヤリング付けて一緒にお出かけしたいです」
「勿論!いっぱいお出かけしよ!」

 無くさないようにと、イヤリングを箱にしまう。イヤーカフを渡したあの時の彼の笑顔と共に、私の大切な宝物になった。
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