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意味ある戦争
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出征の日から四週間が経った。もう12月の始め。
短い秋の季節はとっくに過ぎ去り、冬の寒さが身に染みる毎日となっていた。
私は暖かい部屋の中に居ても、戦地では常に冷たい外気に晒されることになる。毛布なども物資として送られるが、今の私の体感だとそれだけで凌げるものでは無い気がする。
「寒いな……皆風邪とかひいてないかな……」
一日中心配をして定期的に来る近況報告を聞いて安心する。以前よりはきちんと眠れているけれど、朝目覚めた時の「今日も会えない」という切なさは無くなりはしない。
そんな日々の中でもお腹は空くものだ。寂しく一人分のご飯を作っていたが、たまに食事を頼まれることもあった。
「サキさん、ありがとうございます!」
「いえ、自分の分も作りますから」
ようやく休憩が取れたという一番隊の隊員さんの話を聞く。
「今はヒューマリンとデリアノアの国境付近に皆居るそうですよ。あそこは山の中ですから夜はお互い手が出せないので安全と言えば安全ですね」
今起こっている戦争はヒューマリンという国とその隣にあるデリアノアという国の争いらしい。
私が今居るアルデンはヒューマリンと同盟関係なので共にデリアノアに対抗している。
「実のところ言うと……」
「え、な、なにか……」
厳しい状況……だったり……皆に何か……。
「圧倒的に強いんですよ、こっちが」
「……それなら……良かったです」
少し詰まりかけた息を吐く。
「デリアノアはヒューマリンよりも武力があります。それで戦争しかけても勝てると思ったんでしょうね、アルデンが加勢しても大した事ないだろうと」
つまり、アルデンの武力を見誤っていた。
「黒騎士団が戦争に出征したのは二十七年ぶりです。その頃に比べて黒騎士団は格段に力を付けていますから、一緒にされては困りますね」
「なるほど……。あの、皆の様子とかは……」
「ああ、昨日聞いた段階では大きな怪我は一つも無く順調だそうです。しかし……最後が大変ですから……」
「最後?」
戦争の終盤に黒騎士団が任された任務があると言って、その続いた言葉に驚いた。
「ルーシャの城を攻め落とすんです。あの国が元凶ですから」
「え……」
そろそろ仕事に戻らなければと彼は急いでご飯をかきこむ。
「長々と話してしまってすみません!またお願いします!」
「はい、ありがとうございました……」
ルーシャ……聞き覚えのある名前。
「ヴェルくんの……国……?」
仕事をしている彼に話しかけない方がいいとは分かっていたけれど、どうしても落ち着いていられなかった。
「ハインツさん、あの……」
「どうかしたか?」
「……ルーシャって……」
「!」
ハインツさんは驚き、少し困ったように笑った。
「ヴェルストリアから聞いていたか」
「はい、さっきも一番隊の方から名前を聞いて……」
私が知ってもどうにもなりはしないけど、出征前のヴェルくんの様子と関係あるのだと確信があったから。
「ヴェルくんの故郷の国と今敵対しているってことですよね……?」
「そうだ。実際はルーシャを奪い合っているというのが分かりやすいかもしれない」
「デリアノアとヒューマリンで、ですか」
「ああ。難しい話になるが……」
ハインツさんは今回の戦争についてざっくり説明してくれた。
デリアノア、ヒューマリンはどちらも工業国で競い合っていた為もともと仲が悪かった。
ルーシャは小さい国ながらも希少な鉱物資源が豊富でデリアノア、ヒューマリン両国にそれぞれ輸出をしていた。
しかし突然、ヒューマリンへの輸出量が大きく減りその分がデリアノア渡るようになった。
それに不満を抱いたヒューマリンがアルデンに協力を仰ぎ戦うことになった。
「デリアノアは高く資源を買うとルーシャに話を持ちかけてヒューマリンに喧嘩を売ったんだ」
「それだったら…ルーシャを攻める必要は無いんじゃないですか?」
「ルーシャはこちらからの話し合いに応じなかった。何年か前からあそこの国政は荒れて各国から批難されている。王の話では、この機会にアルデンの手中に収めて改革したいそうだ」
戦争について私は全然分からないけれど、自国の利益とかその他の国との貿易とか全てを踏まえて戦う意味があるから起こるってことだよね。
その指示を出している王様は凄いな、と単純な感想を浮かべてしまった。
「ヴェルストリアは私が指示を出して共に行かせた。以前のように辛い過去を忘れたいというのならそうはしなかったが、彼はサキに出会って変わった。自身で手を下さないにしてもその目で見てキリをつけたほうがいいだろう。場に立ち会って何かあるかもしれないからな」
「……そうですね……ヴェルくんはきっと、強くなって帰ってきます」
ヴェルくんは真面目で努力家で、それで思い詰めてしまう時もあるけれど、その今までの努力は全部彼の糧となっていく。
今回ルーシャに行くことになったのは悪いことでは無く、むしろ大きな成長のきっかけになるのだろう。
「ありがとうございます。ヴェルくんのことをここまで考えてくださって」
「彼がより強くなって戦果を上げてくれれば黒騎士団の利益になる。私はただその為に環境を作っただけだ。それが仕事だからね」
上司から見てヴェルくんに伸び代があると分かっているからそうした、という言葉が隠されている。
ハインツさんは団員一人一人を大切にしている。
本当に……尊敬する。この人の元で働く一員として、ヴェルくんの仲間として嬉しく思う。
「お仕事中に聞いてしまってすみませんでした。でも、ヴェルくんのことは全部知って受け止めたい、彼の役に立ちたいから。教えてくださってありがとうございます」
「ああ。ヴェルストリアを一番支えてやれるのはサキだから、よろしく頼むよ」
「はい……!」
微笑む彼の言葉に精一杯頷く。
この戦いは彼らにとっても意味のあるもの。それを乗り越えてここに帰ってくるその日を待ちわびた。
短い秋の季節はとっくに過ぎ去り、冬の寒さが身に染みる毎日となっていた。
私は暖かい部屋の中に居ても、戦地では常に冷たい外気に晒されることになる。毛布なども物資として送られるが、今の私の体感だとそれだけで凌げるものでは無い気がする。
「寒いな……皆風邪とかひいてないかな……」
一日中心配をして定期的に来る近況報告を聞いて安心する。以前よりはきちんと眠れているけれど、朝目覚めた時の「今日も会えない」という切なさは無くなりはしない。
そんな日々の中でもお腹は空くものだ。寂しく一人分のご飯を作っていたが、たまに食事を頼まれることもあった。
「サキさん、ありがとうございます!」
「いえ、自分の分も作りますから」
ようやく休憩が取れたという一番隊の隊員さんの話を聞く。
「今はヒューマリンとデリアノアの国境付近に皆居るそうですよ。あそこは山の中ですから夜はお互い手が出せないので安全と言えば安全ですね」
今起こっている戦争はヒューマリンという国とその隣にあるデリアノアという国の争いらしい。
私が今居るアルデンはヒューマリンと同盟関係なので共にデリアノアに対抗している。
「実のところ言うと……」
「え、な、なにか……」
厳しい状況……だったり……皆に何か……。
「圧倒的に強いんですよ、こっちが」
「……それなら……良かったです」
少し詰まりかけた息を吐く。
「デリアノアはヒューマリンよりも武力があります。それで戦争しかけても勝てると思ったんでしょうね、アルデンが加勢しても大した事ないだろうと」
つまり、アルデンの武力を見誤っていた。
「黒騎士団が戦争に出征したのは二十七年ぶりです。その頃に比べて黒騎士団は格段に力を付けていますから、一緒にされては困りますね」
「なるほど……。あの、皆の様子とかは……」
「ああ、昨日聞いた段階では大きな怪我は一つも無く順調だそうです。しかし……最後が大変ですから……」
「最後?」
戦争の終盤に黒騎士団が任された任務があると言って、その続いた言葉に驚いた。
「ルーシャの城を攻め落とすんです。あの国が元凶ですから」
「え……」
そろそろ仕事に戻らなければと彼は急いでご飯をかきこむ。
「長々と話してしまってすみません!またお願いします!」
「はい、ありがとうございました……」
ルーシャ……聞き覚えのある名前。
「ヴェルくんの……国……?」
仕事をしている彼に話しかけない方がいいとは分かっていたけれど、どうしても落ち着いていられなかった。
「ハインツさん、あの……」
「どうかしたか?」
「……ルーシャって……」
「!」
ハインツさんは驚き、少し困ったように笑った。
「ヴェルストリアから聞いていたか」
「はい、さっきも一番隊の方から名前を聞いて……」
私が知ってもどうにもなりはしないけど、出征前のヴェルくんの様子と関係あるのだと確信があったから。
「ヴェルくんの故郷の国と今敵対しているってことですよね……?」
「そうだ。実際はルーシャを奪い合っているというのが分かりやすいかもしれない」
「デリアノアとヒューマリンで、ですか」
「ああ。難しい話になるが……」
ハインツさんは今回の戦争についてざっくり説明してくれた。
デリアノア、ヒューマリンはどちらも工業国で競い合っていた為もともと仲が悪かった。
ルーシャは小さい国ながらも希少な鉱物資源が豊富でデリアノア、ヒューマリン両国にそれぞれ輸出をしていた。
しかし突然、ヒューマリンへの輸出量が大きく減りその分がデリアノア渡るようになった。
それに不満を抱いたヒューマリンがアルデンに協力を仰ぎ戦うことになった。
「デリアノアは高く資源を買うとルーシャに話を持ちかけてヒューマリンに喧嘩を売ったんだ」
「それだったら…ルーシャを攻める必要は無いんじゃないですか?」
「ルーシャはこちらからの話し合いに応じなかった。何年か前からあそこの国政は荒れて各国から批難されている。王の話では、この機会にアルデンの手中に収めて改革したいそうだ」
戦争について私は全然分からないけれど、自国の利益とかその他の国との貿易とか全てを踏まえて戦う意味があるから起こるってことだよね。
その指示を出している王様は凄いな、と単純な感想を浮かべてしまった。
「ヴェルストリアは私が指示を出して共に行かせた。以前のように辛い過去を忘れたいというのならそうはしなかったが、彼はサキに出会って変わった。自身で手を下さないにしてもその目で見てキリをつけたほうがいいだろう。場に立ち会って何かあるかもしれないからな」
「……そうですね……ヴェルくんはきっと、強くなって帰ってきます」
ヴェルくんは真面目で努力家で、それで思い詰めてしまう時もあるけれど、その今までの努力は全部彼の糧となっていく。
今回ルーシャに行くことになったのは悪いことでは無く、むしろ大きな成長のきっかけになるのだろう。
「ありがとうございます。ヴェルくんのことをここまで考えてくださって」
「彼がより強くなって戦果を上げてくれれば黒騎士団の利益になる。私はただその為に環境を作っただけだ。それが仕事だからね」
上司から見てヴェルくんに伸び代があると分かっているからそうした、という言葉が隠されている。
ハインツさんは団員一人一人を大切にしている。
本当に……尊敬する。この人の元で働く一員として、ヴェルくんの仲間として嬉しく思う。
「お仕事中に聞いてしまってすみませんでした。でも、ヴェルくんのことは全部知って受け止めたい、彼の役に立ちたいから。教えてくださってありがとうございます」
「ああ。ヴェルストリアを一番支えてやれるのはサキだから、よろしく頼むよ」
「はい……!」
微笑む彼の言葉に精一杯頷く。
この戦いは彼らにとっても意味のあるもの。それを乗り越えてここに帰ってくるその日を待ちわびた。
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