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指輪と我儘
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その日、夫たち全員と応接室に集まったのは例の指輪を作ってもらう為だ。
「俺たちも自分の分くらい払うのにね」
「まあ団長が言うならお願いしよう」
リュークとミスカさんの言う通り、結局皆の分纏めてハインツさんが買ってくれることになった。本当に頭が上がらない。
「またリングのお揃いだね!」
「ほんとですね!意識してなくて……すみません」
「ううん、めっちゃ嬉しい!お洒落だし!」
ラグトさんと話しているとリュークがむくれたように言う。
「俺のスイカのキーホルダー部分もリングだよ!」
「ふふ……それはちょっとこじつけ…」
少し待って、ハインツさんに連れられて来たのはだいぶお年を召したおじいさんだった。
「こんにちは、よろしくお願いします」
「あ、ああ……どうも。モウロと申します」
挨拶をした私をだいぶ驚いた目で見て頭を下げる。
モウロさんは王都で指輪職人として有名な人だそうだ。そんな凄い人にわざわざ作って貰うことになるなんて、何だか過分なお願いをしてしまったかな。
「女性用が一つと男性用が五つ、同じデザインでということでしたね」
いくつかのリングを取り出して机に並べる。
「サイズを決めますので一度はめて確かめてみてください」
夫たちはそれぞれ手に取り試している。
「俺はこれかな!」
「僕もリュークさんと同じサイズですね」
私もはめてみるが、どれも大きくてちょうどいい物が無い。
「もう少し小さいサイズってありますか?」
「それより小さい……と子供用になりますが」
子供用!?
差し出された物を試すとなんとピッタリだった。
「私……子供……」
「いえ……お嬢さんほど指が細い方は今までいらっしゃらなかったので……それでも問題無く作れますよ」
「あ、それなら良かったです!」
サイズが決まったところでまたお話を聞く。
「指輪を常に付けていたいということで、材質はプラチナか金が良いかと思いますが」
「鍛錬とか……剣持ってても傷つかないですか?」
リュークの質問にモウロさんは難しい顔をする。
「私は剣のことは分かりませんが強く握り擦れたりするならば劣化はしてしまうでしょう」
「えぇ……じゃあ指には付けれないか…」
正直騎士という職業では難しいかもしれないとは考えていた。
無理に付けなくても持っててくれるだけで嬉しい、とは言ったけど皆もちゃんと指にはめたいと思ってくれている。
落ち込んだ雰囲気の私たちを見てモウロさんはおずおずと声をかける。
「耐久性を求めるなら一つ良い鉱石があります。それなら騎士の皆さんでも問題無く付けれると思います」
「「おお!」」
一気に皆の顔が明るくなった。
「ただ、単価が高い上に加工も難しくお値段が相当張ってしまいますので……」
「いや、それは構わないが……一ついくらになる?」
「指輪一つで金貨百枚にはなるかと…」
「なら大丈夫だ。六つともそれにしよう」
ハインツさんはあっさり決めて話を進めようとしたけれど、今なんて言ってた?金貨百枚?
「は、ハインツさん!それはちょっと……!」
百万が六個で六百万円!?
そんなにハインツさんに負担させる訳には……。
「私の分だけでも通常のに……」
「揃いで無いと意味無いだろう?このくらい普通に払えるから気にしないでくれ」
「サキ、別に俺でも全然買えるくらいだ。団長なんて給料の……」
「ミスカ、言わなくていい」
結局私が貧乏性なのが問題であって、ハインツさんには屁でもなかったということ。
大きい数字を前にすると怖気付いてしまって……。
「ルーシャで採れる月下青石という物です」
「!」
「その名の通り夜の月明かりにだけ青く反射して見えるのが特徴です。普段は銀色で、青くと言っても薄らとですのでデザインはお好きな様で良いかと」
ヴェルくんと目が合うと、彼は優しく微笑んだ。
何だか不思議な繋がりを感じるよね。
「うーん、鍛錬中も付けるからシンプルなのが良いっすよね……」
ラグトさんに続いて私もデザインの見本を見る。
装飾の無いもの、捻れたデザインのもの、宝石を付けれるもの。他にも何種類かあるようだ。
「サキさんはどれが良いですか?」
「何も無いのが良いとは思うけど……せっかくなら装飾が付いてたら嬉しいな」
「じゃあこれはどう?形はそのままだけど、宝石が埋め込んであるやつ!」
リュークに渡されたものはリングの外側に小さな宝石がフラットに埋め込まれたデザインのもの。
「可愛い!皆はどうかな?」
「うん!めっちゃ良いと思う!」
ラグトさんに続き皆も頷いてくれる。
「では、この中から宝石を選んで下さい」
順番に見本を見ていく中、ミスカさんが私を向く。
「前、俺のイメージが青だと言ってくれただろう。俺はそれにしたい」
「ミスカさん……!」
そのことを覚えていてくれたのが凄く嬉しい。
「え、何それ!俺もサキに色決めて欲しい!」
「僕のも決めて欲しいです」
「えっと……リュークはこの黄色で、ヴェルくんはやっぱり白かな」
「俺も!」
「ラグトさんはオレンジとか」
「私は……何色だろうか」
「ハインツさんは赤……あ、こっちの明るいほうが良いかもです」
皆の分はサクッと私が決めてしまったのだけれど、自分のイメージカラーはよく分からない。
「サキは……髪が黒でも黒い宝石はなんか違うよね……イメージじゃないし」
リュークの意見には私も同意したい。結婚指輪に黒はちょっとね。
ハインツさんが銀色っぽい宝石を指差す。
「シンプルにこのダイヤモンドが良いんじゃないか」
「だ、ダイヤモンド!?」
そういえば下に表記されている宝石の名前、読めないから全然意識してなかった…。
宝石も付けたら高く……。
またお金のことを考え出してしまったが、全くに気にしていないハインツさんの様子を見て止めた。彼の財力を信じていないのは失礼だ。
「私、ダイヤモンド似合うと思う……?」
「勿論です。サキさんは何でも似合います」
ヴェルくんに答えになっているのか分からない返答を貰い、私はダイヤモンドにすることになった。
ようやく全部決まり、モウロさんにお願いする。数も多いので出来上がるのは数ヶ月後になるそうだ。
モウロさんを送り戻ってきたハインツさんに寄る。
「ハインツさん、本当にありがとうございます。我儘言ってしまってすみません」
結局私一人じゃ買えない値段だったし、よく調べもせず欲しいだなんて言ってしまったから申し訳ない。
「これくらい我儘に入らないよ。サキにただ喜んで欲しいんだ」
六百万のお買い物が我儘じゃないのなら、何が我儘か分からない。
「そうだよ!俺だってサキの為に色々したいんだから!」
リュークに毎度言われても、頼み事しずらいのは根からの性格なのでなんとも……。
ミスカさんも真剣な顔で言う。
「欲しいものは何でも言ってくれ」
「でも……」
「誕生日でも無い日にそんな頼めない、とか言いそう」
今言おうとしたことをリュークにまんまと当てられ思わず顔を背ける。
「ほらサキ、やっぱり……」
「ご、ごめんなさい…」
「特別な日じゃなくてもプレゼントはしていいんだからね」
「確かに……そうかもだけど」
プレゼントは誕生日ってイメージで決めつけてたから余計に頼みづらいのかなぁ…。
「これからは……もっと我儘言うの頑張るね……」
「サキさん偉いです」
「ありがとう……」
微妙な気持ちだけど皆が喜んでくれるならそうしたいよね。私も彼らに欲しいものがあるから買ってと頼まれたらきっと嬉しいから(言われたことないけど)気持ちは理解出来なくも無い。
「でも私が一番欲しいのは……」
「うん……!」
「皆との時間かな!」
「「……」」
夫たちは顔を見合わせる。
「俺、今日仕事無いから一緒に居よ!」
「待て、リュークは本当に仕事あるだろう。明日までだぞ」
「なんでミスカが知ってるの!?」
「サキさん、でしたらずっと僕の部屋にと……」
「ヴェルストリア、それ以上言うな!」
純粋に好意を伝えたくて言ったのだけれど、ここまでごちゃごちゃになると思っていなかったので、どうしたものかと迷う。
「まあ話し合うことがまだあるし、もう少し全員で居ようか」
ハインツさんの声かけで皆大人しく席についた。
「俺たちも自分の分くらい払うのにね」
「まあ団長が言うならお願いしよう」
リュークとミスカさんの言う通り、結局皆の分纏めてハインツさんが買ってくれることになった。本当に頭が上がらない。
「またリングのお揃いだね!」
「ほんとですね!意識してなくて……すみません」
「ううん、めっちゃ嬉しい!お洒落だし!」
ラグトさんと話しているとリュークがむくれたように言う。
「俺のスイカのキーホルダー部分もリングだよ!」
「ふふ……それはちょっとこじつけ…」
少し待って、ハインツさんに連れられて来たのはだいぶお年を召したおじいさんだった。
「こんにちは、よろしくお願いします」
「あ、ああ……どうも。モウロと申します」
挨拶をした私をだいぶ驚いた目で見て頭を下げる。
モウロさんは王都で指輪職人として有名な人だそうだ。そんな凄い人にわざわざ作って貰うことになるなんて、何だか過分なお願いをしてしまったかな。
「女性用が一つと男性用が五つ、同じデザインでということでしたね」
いくつかのリングを取り出して机に並べる。
「サイズを決めますので一度はめて確かめてみてください」
夫たちはそれぞれ手に取り試している。
「俺はこれかな!」
「僕もリュークさんと同じサイズですね」
私もはめてみるが、どれも大きくてちょうどいい物が無い。
「もう少し小さいサイズってありますか?」
「それより小さい……と子供用になりますが」
子供用!?
差し出された物を試すとなんとピッタリだった。
「私……子供……」
「いえ……お嬢さんほど指が細い方は今までいらっしゃらなかったので……それでも問題無く作れますよ」
「あ、それなら良かったです!」
サイズが決まったところでまたお話を聞く。
「指輪を常に付けていたいということで、材質はプラチナか金が良いかと思いますが」
「鍛錬とか……剣持ってても傷つかないですか?」
リュークの質問にモウロさんは難しい顔をする。
「私は剣のことは分かりませんが強く握り擦れたりするならば劣化はしてしまうでしょう」
「えぇ……じゃあ指には付けれないか…」
正直騎士という職業では難しいかもしれないとは考えていた。
無理に付けなくても持っててくれるだけで嬉しい、とは言ったけど皆もちゃんと指にはめたいと思ってくれている。
落ち込んだ雰囲気の私たちを見てモウロさんはおずおずと声をかける。
「耐久性を求めるなら一つ良い鉱石があります。それなら騎士の皆さんでも問題無く付けれると思います」
「「おお!」」
一気に皆の顔が明るくなった。
「ただ、単価が高い上に加工も難しくお値段が相当張ってしまいますので……」
「いや、それは構わないが……一ついくらになる?」
「指輪一つで金貨百枚にはなるかと…」
「なら大丈夫だ。六つともそれにしよう」
ハインツさんはあっさり決めて話を進めようとしたけれど、今なんて言ってた?金貨百枚?
「は、ハインツさん!それはちょっと……!」
百万が六個で六百万円!?
そんなにハインツさんに負担させる訳には……。
「私の分だけでも通常のに……」
「揃いで無いと意味無いだろう?このくらい普通に払えるから気にしないでくれ」
「サキ、別に俺でも全然買えるくらいだ。団長なんて給料の……」
「ミスカ、言わなくていい」
結局私が貧乏性なのが問題であって、ハインツさんには屁でもなかったということ。
大きい数字を前にすると怖気付いてしまって……。
「ルーシャで採れる月下青石という物です」
「!」
「その名の通り夜の月明かりにだけ青く反射して見えるのが特徴です。普段は銀色で、青くと言っても薄らとですのでデザインはお好きな様で良いかと」
ヴェルくんと目が合うと、彼は優しく微笑んだ。
何だか不思議な繋がりを感じるよね。
「うーん、鍛錬中も付けるからシンプルなのが良いっすよね……」
ラグトさんに続いて私もデザインの見本を見る。
装飾の無いもの、捻れたデザインのもの、宝石を付けれるもの。他にも何種類かあるようだ。
「サキさんはどれが良いですか?」
「何も無いのが良いとは思うけど……せっかくなら装飾が付いてたら嬉しいな」
「じゃあこれはどう?形はそのままだけど、宝石が埋め込んであるやつ!」
リュークに渡されたものはリングの外側に小さな宝石がフラットに埋め込まれたデザインのもの。
「可愛い!皆はどうかな?」
「うん!めっちゃ良いと思う!」
ラグトさんに続き皆も頷いてくれる。
「では、この中から宝石を選んで下さい」
順番に見本を見ていく中、ミスカさんが私を向く。
「前、俺のイメージが青だと言ってくれただろう。俺はそれにしたい」
「ミスカさん……!」
そのことを覚えていてくれたのが凄く嬉しい。
「え、何それ!俺もサキに色決めて欲しい!」
「僕のも決めて欲しいです」
「えっと……リュークはこの黄色で、ヴェルくんはやっぱり白かな」
「俺も!」
「ラグトさんはオレンジとか」
「私は……何色だろうか」
「ハインツさんは赤……あ、こっちの明るいほうが良いかもです」
皆の分はサクッと私が決めてしまったのだけれど、自分のイメージカラーはよく分からない。
「サキは……髪が黒でも黒い宝石はなんか違うよね……イメージじゃないし」
リュークの意見には私も同意したい。結婚指輪に黒はちょっとね。
ハインツさんが銀色っぽい宝石を指差す。
「シンプルにこのダイヤモンドが良いんじゃないか」
「だ、ダイヤモンド!?」
そういえば下に表記されている宝石の名前、読めないから全然意識してなかった…。
宝石も付けたら高く……。
またお金のことを考え出してしまったが、全くに気にしていないハインツさんの様子を見て止めた。彼の財力を信じていないのは失礼だ。
「私、ダイヤモンド似合うと思う……?」
「勿論です。サキさんは何でも似合います」
ヴェルくんに答えになっているのか分からない返答を貰い、私はダイヤモンドにすることになった。
ようやく全部決まり、モウロさんにお願いする。数も多いので出来上がるのは数ヶ月後になるそうだ。
モウロさんを送り戻ってきたハインツさんに寄る。
「ハインツさん、本当にありがとうございます。我儘言ってしまってすみません」
結局私一人じゃ買えない値段だったし、よく調べもせず欲しいだなんて言ってしまったから申し訳ない。
「これくらい我儘に入らないよ。サキにただ喜んで欲しいんだ」
六百万のお買い物が我儘じゃないのなら、何が我儘か分からない。
「そうだよ!俺だってサキの為に色々したいんだから!」
リュークに毎度言われても、頼み事しずらいのは根からの性格なのでなんとも……。
ミスカさんも真剣な顔で言う。
「欲しいものは何でも言ってくれ」
「でも……」
「誕生日でも無い日にそんな頼めない、とか言いそう」
今言おうとしたことをリュークにまんまと当てられ思わず顔を背ける。
「ほらサキ、やっぱり……」
「ご、ごめんなさい…」
「特別な日じゃなくてもプレゼントはしていいんだからね」
「確かに……そうかもだけど」
プレゼントは誕生日ってイメージで決めつけてたから余計に頼みづらいのかなぁ…。
「これからは……もっと我儘言うの頑張るね……」
「サキさん偉いです」
「ありがとう……」
微妙な気持ちだけど皆が喜んでくれるならそうしたいよね。私も彼らに欲しいものがあるから買ってと頼まれたらきっと嬉しいから(言われたことないけど)気持ちは理解出来なくも無い。
「でも私が一番欲しいのは……」
「うん……!」
「皆との時間かな!」
「「……」」
夫たちは顔を見合わせる。
「俺、今日仕事無いから一緒に居よ!」
「待て、リュークは本当に仕事あるだろう。明日までだぞ」
「なんでミスカが知ってるの!?」
「サキさん、でしたらずっと僕の部屋にと……」
「ヴェルストリア、それ以上言うな!」
純粋に好意を伝えたくて言ったのだけれど、ここまでごちゃごちゃになると思っていなかったので、どうしたものかと迷う。
「まあ話し合うことがまだあるし、もう少し全員で居ようか」
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