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リュークとミスカとのデート
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待ちに待ったお出かけの日。
今回もまた馬に乗って行くのだが……。
「俺がサキと一緒に乗る!」
「リュークは飛ばすだろ、サキが危ない」
「ゆっくり行くからぁ!前はミスカが一緒だったじゃん!」
そんなやり取りが数分続き、ミスカさんが折れて私はリュークと乗ることになった。
「サキ、そこに足掛けて」
「はい!」
「跨いで」
「はい!」
リューク先生に教えてもらって一人で乗れるようになった。台を使ってだけど。
後ろに乗ったリュークが私を抱きしめる。
「サキは何でも上手だねー!可愛い!」
「あ、ありがとう……?」
上手と可愛いは一致するのかが気になる。
準備も整い早速出発する。
今回お花も見て買いたいと私が言って、サロディーアのシオンさんの所には帰りに行くことになった。まずは隣町エストロに向かう。
やっぱり馬に乗って走るのはとても気持ちがいい。
前の夏の爽やかな感じも良かったけれど、今は秋の冷たい風で寒く感じるなかで赤く色づく葉や重ねて着た上着の温かさもあって、その対比がまた楽しかった。
「ようやく着いたな」
サロディーアからまた五分くらい先を行ったところにそれなりに大きな町があった。
馬から降りて町に入る。
「トイレはあそこだよ。俺たち馬置いてくるから」
「うん!ありがとう」
なんとこの世界にも公衆便所のようなものがあるのだ。
馬に乗る時はズボンを履かなくては行けないけど、今回は大事なご挨拶の日だからワンピースを持ってきた。襟とボタンがついた白の生地で、ロング丈のスカートの下には黄色のお花模様が付いている。その上には水色の上着を羽織る。
可愛い服も何着か貰ったんだけど寮にいる時には着る必要無かったし、見せるの初めてなんだよね……。
彼らがどう思ってくれるかドキドキしながら、既に入口で待ってくれていた二人に声をかける。
「お待たせ……ど、どうかな……?」
なかなか反応が帰ってこない。どこか着方を間違えたかと思って見ていると、二人に路地の方へ連れて行かれた。
「ちょっ、可愛すぎる!!」
「天使か……」
「どこか変じゃない?」
「変じゃないよぉぉ!」
「良かった!あのね、水色と黄色のコーデにしたの!二人との……デートだから」
プレゼントを買うのとご挨拶が目的ではあるけれど、リュークとミスカさんとお出かけ出来るのが嬉しくてついはしゃいでしまった。
「ぐっ……は……」
「心臓が……」
「だ、大丈夫?休憩してから行こうか?」
二人は首を横に振る。
「行けない……」
「え?」
「こんな可愛い姿周りに見せれないよ!」
「絶対駄目だ」
褒めてくれてるのは分かるけど、駄目って言われても…。
「これしか持ってきてないもの。というか、これ着て二人と歩きたいから持って来たのに」
「「……」」
渋々頷いてくれたのでようやく路地を出て通りを歩いていく。
二人は私の後ろを歩いていてなんだかボディーガードみたいだけど、納得してくれたならまあいっか。
「さっきのトイレね、今の王様が考えたんだよ。つい最近出来たばっかりで」
「え!そうなの」
ここだと最先端ってことだよね。
「そういう設備があると他の所からも人が来てくれるから町の中だけじゃなく外との交流も増える」
ミスカさんの言葉に納得する。
日本はトイレが綺麗でいい国って言われてたよね。そういうのやっぱり大事なんだ。
少し歩いて雑貨屋さんを見つけたので入ってみる。
「いらっしゃ……わっ!」
急に大声が聞こえたものだからびっくりしてしまった。
「サキ、ペンはあっちじゃないか」
「あ、うん!」
ミスカさんに言われて、既にリュークがそこでブンブン手を振って私を呼んでいる。
「いっぱいあるよ!どんなのが良いかな」
「結構しっかりしてる……折れなさそうなやつが良いかな」
「……?そうそう折れるものでは無いだろう」
あ、やっぱり?じゃあどれも同じか。
大人っぽいデザインで、使いやすくて……。
「赤茶色があればなぁ……」
「あ、団長の髪色?」
「うん。赤だと子供っぽくなりそうだから、ちょっとシックな色味が良いかなって」
色々見てみたけれどここには無さそうだ。
他の店を見ることにする。
「ありがとうございました」
「え、はい、またお願いします……」
店主に会釈をして店を出るとリュークはニコニコして言う。
「サキはいつでも丁寧だね」
「何も買わないでお店出るの申し訳なく思っちゃうんだよね」
「そっかぁ……優しすぎるのも大変だ…」
私が特別優しいというより日本人の性だよね。
二人は顔を見合わせため息をつく。
「俺たちは逆に声掛けないほうが良いよね……」
「そうだな……」
「無理に言う必要は無いんだから。ただの自己満足みたいな部分もあるし」
二軒目は高級そうなお店。プレゼントだから出来れば良いもの買いたいよね。
「いらっ……しゃいませ」
凄い間を感じた。
ここには財布やネクタイなど男性用の物が色々置いてある。ペンも奥の棚にいっぱい並んでいた。
「わぁ!これ凄くカッコいい!」
「こういう形は使いやすいな」
二人のアドバイスを参考に良いものを選ぶことが出来た。
「せっかくだから他のも見てみようよ」
「うん、良いよー!」
ネクタイのところへ行き、リュークを鏡の前に立たせて胸元に当ててみる。
「これどうかな!」
「え、俺たちの?」
「勿論!リュークは金髪だから、黒とか引き締まって良いんじゃないかな!」
ネクタイのことはよく分からないけど、二人が付けてたら絶対カッコいいもの!
「ミスカさんはやっぱり青かなぁ……」
「……サキ、俺たちはネクタイはあまりしないから」
「そう……ですか?」
「う、うん。買っても着ける機会が無かったら勿体ないからさ」
そっか……確かにネクタイしてたら邪魔だしね。
「じゃあこれだけ買ってくるね」
「あ、だったら俺が……」
店員さんのところへ行きお支払いをする。
「金貨一枚になります……」
「はい、お願いします」
こちらをチラリと見た店員さんが金貨を受け取ろうとした時、私の手がミスカさんに取られた。
「え、ミスカさん?どうかしました?」
「なんでもない」
私の持っていた金貨を店員に渡し、さっさと店の外に連れて行かれた。
「ふぅ……危ないところだった」
まるで大事が起こったかのように胸を撫で下ろすリューク。
「気軽に男に近づいては駄目だ」
「え、えぇ……?お支払いだけでしたけど……」
「あいつ、両手でサキの手握ろうとしてたよ!」
なんとも過保護な夫たちだ。気にしてくれているのは嬉しいけれど、どこまでが良くて悪いのかが分からない。
プレゼントを無事買えてしばらくゆったり歩きながら町の景色と会話を楽しんでいると、通りすがった男が驚いたように私たちを呼び止める。
「お前らリュークとミスカだよな」
「……そうだが」
ミスカさんが無表情のまま答える。
「はは、相変わらず酷い見た目だな。まだ黒騎士団なんかでやってるのか?」
どうやら昔の知人らしいが会って早々こんなこと言うというのは友達なんかでは無いだろう。
「前の事件の後だいぶ黒騎士団のこと知れたんじゃ無かったの?」
「まだ町の方までは話が来ていないんだろう」
二人は何かコソコソ話している。
馬鹿にしたように笑っていた男はようやく私の存在に気づいて驚愕する。
「は……黒髪?な、なんだその……美しい人は……。もしかして噂の……何でお前らなんかと一緒に居るんだ……?」
途切れ途切れに疑問をぶつけてくるのに対し、リュークは興味無いというように言い放つ。
「誰だか知らないけど、あんたには関係ない」
あ、知らない人なんだ。勝手に認知されてるって……ミスカさんとリューク、やっぱり目立ってたのかな……。
見目が悪ければ誰からも酷いことを言われて当たり前だなんて、そんな道理は無い。
「な、なぁ、そんな奴らより俺と一緒に居ようよ。恥ずかしい思いもしなくていいしさ」
赤い顔でへらへら笑いながら私に声をかけてくるが、彼らを侮辱したその男は私にとっては既に嫌な存在となっていた
「結構です。大事な夫たちとのデート中なので」
当てつけのようにそう言うと、男はあんぐりと口を開けて呆然とする。
「夫?こいつらが?」
「サキ……!」
「……ありがとう」
二人は凄く嬉しそうに私を抱き締めてくれる。
「え、いや、普通に嘘だろ。……そんな美人なのに男の見る目は無いってか?……どうかして……」
冗談だろと半笑いで言いかけた男の首にいつの間にか剣先が向けられていた。一気に周りの人たちの悲鳴やざわつきが聞こえる。
「今サキのこと侮辱した?」
「ひっ……」
氷点下まで行きそうな空気を放つリュークに、男は後ずさりすらも出来ない。
今まで見た事ないような冷たい表情。その中で瞳だけが怒りを燃やしていた。
「サキ、あんな奴の言うことなんて気にしないでいい」
ミスカさんが心配してくれたが、私は我慢出来なかった。
「リュークカッコいい~!」
「「え」」
「クールな表情も似合うというか……ギャップがあって凄く良い……」
「ほんと!俺もギャップ手に入れちゃった!」
わーいわーいと跳ねるリュークと手を取って私も喜ぶ。その様子を見てミスカさんも微笑んだ。
「は、いや……何して……」
「…チッ……まだ居たの?」
さっきの男にあからさまな舌打ちをしてまた剣を抜こうとしたリュークをミスカさんが止め、私も彼をそっと宥める。
「私の為に怒ってくれたんでしょ?」
「うん、サキに酷いこと言う奴は許せない」
「でもあの人、美人って言ってくれたよ?」
「サキのことそういう目で見る奴も許せない」
ムッとして嫌がる彼が可愛すぎる。
「私も同じだよ、皆のこと他の女の子が好きになっちゃったらって」
「それは無いでしょ」
「だって皆こんなにイケメンで優しくて理想の夫だから……」
見目についての価値観が私と似ている人も居るだろう。そうなったら彼らはあまりにも魅力的過ぎる。
皆が目移りしないにしても誰かが近づいてくるのも嫌だ。私だってその時は全力で追い返す。
「言い寄られたら私に言ってね!」
「サキ、それは本当に無いと思う」
ミスカさんが躊躇いながらも冷静に否定した。
そんなことを話しながら歩き出した私たちにあの男はついては来なかった。
「ねぇ、さっきの表情もう一回見たいな」
「うーん……自分じゃ分からないけど……こんな感じ?」
目を細めて無表情になったリュークに私は思わず吹き出す。ミスカさんも若干笑いを堪えていた。
「え、良かったの?悪かったの?」
「サキが笑ってくれたから良いんじゃないか」
「そっか!」
ニコニコと満足気なリュークがふと思いついたように言う。
「あのさ、サキ」
「うん?」
「もっとイチャイチャして周りにアピールしたら良いと思わない?」
「えぇ!?」
イチャイチャ……!?町中で!?
ミスカさんを見るとなんと彼も頷いていた。
「夫だと言わなくても雰囲気で分かれば近づいて来ないかもしれない」
「俺たちがいるから絶対に安全だけど、やっぱり可愛すぎて狙われちゃうから……」
そ、そうかなぁ……?
「でも、イチャイチャ…したいな」
「ほんと!」
「実は……ずっと触れたかったの。外だから我慢してた……」
恥ずかしかったけどそう白状して、ミスカさんとリュークの手を取る。
「ほ、ほら!遅くなっちゃうし、もう行こ!」
照れてしまって思わず早足になって二人を引っ張った。
「……ミスカぁ……どうしよ……」
「……ヤバいな」
顔を赤くして手で抑える彼らに私は気づかなかった。
今回もまた馬に乗って行くのだが……。
「俺がサキと一緒に乗る!」
「リュークは飛ばすだろ、サキが危ない」
「ゆっくり行くからぁ!前はミスカが一緒だったじゃん!」
そんなやり取りが数分続き、ミスカさんが折れて私はリュークと乗ることになった。
「サキ、そこに足掛けて」
「はい!」
「跨いで」
「はい!」
リューク先生に教えてもらって一人で乗れるようになった。台を使ってだけど。
後ろに乗ったリュークが私を抱きしめる。
「サキは何でも上手だねー!可愛い!」
「あ、ありがとう……?」
上手と可愛いは一致するのかが気になる。
準備も整い早速出発する。
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やっぱり馬に乗って走るのはとても気持ちがいい。
前の夏の爽やかな感じも良かったけれど、今は秋の冷たい風で寒く感じるなかで赤く色づく葉や重ねて着た上着の温かさもあって、その対比がまた楽しかった。
「ようやく着いたな」
サロディーアからまた五分くらい先を行ったところにそれなりに大きな町があった。
馬から降りて町に入る。
「トイレはあそこだよ。俺たち馬置いてくるから」
「うん!ありがとう」
なんとこの世界にも公衆便所のようなものがあるのだ。
馬に乗る時はズボンを履かなくては行けないけど、今回は大事なご挨拶の日だからワンピースを持ってきた。襟とボタンがついた白の生地で、ロング丈のスカートの下には黄色のお花模様が付いている。その上には水色の上着を羽織る。
可愛い服も何着か貰ったんだけど寮にいる時には着る必要無かったし、見せるの初めてなんだよね……。
彼らがどう思ってくれるかドキドキしながら、既に入口で待ってくれていた二人に声をかける。
「お待たせ……ど、どうかな……?」
なかなか反応が帰ってこない。どこか着方を間違えたかと思って見ていると、二人に路地の方へ連れて行かれた。
「ちょっ、可愛すぎる!!」
「天使か……」
「どこか変じゃない?」
「変じゃないよぉぉ!」
「良かった!あのね、水色と黄色のコーデにしたの!二人との……デートだから」
プレゼントを買うのとご挨拶が目的ではあるけれど、リュークとミスカさんとお出かけ出来るのが嬉しくてついはしゃいでしまった。
「ぐっ……は……」
「心臓が……」
「だ、大丈夫?休憩してから行こうか?」
二人は首を横に振る。
「行けない……」
「え?」
「こんな可愛い姿周りに見せれないよ!」
「絶対駄目だ」
褒めてくれてるのは分かるけど、駄目って言われても…。
「これしか持ってきてないもの。というか、これ着て二人と歩きたいから持って来たのに」
「「……」」
渋々頷いてくれたのでようやく路地を出て通りを歩いていく。
二人は私の後ろを歩いていてなんだかボディーガードみたいだけど、納得してくれたならまあいっか。
「さっきのトイレね、今の王様が考えたんだよ。つい最近出来たばっかりで」
「え!そうなの」
ここだと最先端ってことだよね。
「そういう設備があると他の所からも人が来てくれるから町の中だけじゃなく外との交流も増える」
ミスカさんの言葉に納得する。
日本はトイレが綺麗でいい国って言われてたよね。そういうのやっぱり大事なんだ。
少し歩いて雑貨屋さんを見つけたので入ってみる。
「いらっしゃ……わっ!」
急に大声が聞こえたものだからびっくりしてしまった。
「サキ、ペンはあっちじゃないか」
「あ、うん!」
ミスカさんに言われて、既にリュークがそこでブンブン手を振って私を呼んでいる。
「いっぱいあるよ!どんなのが良いかな」
「結構しっかりしてる……折れなさそうなやつが良いかな」
「……?そうそう折れるものでは無いだろう」
あ、やっぱり?じゃあどれも同じか。
大人っぽいデザインで、使いやすくて……。
「赤茶色があればなぁ……」
「あ、団長の髪色?」
「うん。赤だと子供っぽくなりそうだから、ちょっとシックな色味が良いかなって」
色々見てみたけれどここには無さそうだ。
他の店を見ることにする。
「ありがとうございました」
「え、はい、またお願いします……」
店主に会釈をして店を出るとリュークはニコニコして言う。
「サキはいつでも丁寧だね」
「何も買わないでお店出るの申し訳なく思っちゃうんだよね」
「そっかぁ……優しすぎるのも大変だ…」
私が特別優しいというより日本人の性だよね。
二人は顔を見合わせため息をつく。
「俺たちは逆に声掛けないほうが良いよね……」
「そうだな……」
「無理に言う必要は無いんだから。ただの自己満足みたいな部分もあるし」
二軒目は高級そうなお店。プレゼントだから出来れば良いもの買いたいよね。
「いらっ……しゃいませ」
凄い間を感じた。
ここには財布やネクタイなど男性用の物が色々置いてある。ペンも奥の棚にいっぱい並んでいた。
「わぁ!これ凄くカッコいい!」
「こういう形は使いやすいな」
二人のアドバイスを参考に良いものを選ぶことが出来た。
「せっかくだから他のも見てみようよ」
「うん、良いよー!」
ネクタイのところへ行き、リュークを鏡の前に立たせて胸元に当ててみる。
「これどうかな!」
「え、俺たちの?」
「勿論!リュークは金髪だから、黒とか引き締まって良いんじゃないかな!」
ネクタイのことはよく分からないけど、二人が付けてたら絶対カッコいいもの!
「ミスカさんはやっぱり青かなぁ……」
「……サキ、俺たちはネクタイはあまりしないから」
「そう……ですか?」
「う、うん。買っても着ける機会が無かったら勿体ないからさ」
そっか……確かにネクタイしてたら邪魔だしね。
「じゃあこれだけ買ってくるね」
「あ、だったら俺が……」
店員さんのところへ行きお支払いをする。
「金貨一枚になります……」
「はい、お願いします」
こちらをチラリと見た店員さんが金貨を受け取ろうとした時、私の手がミスカさんに取られた。
「え、ミスカさん?どうかしました?」
「なんでもない」
私の持っていた金貨を店員に渡し、さっさと店の外に連れて行かれた。
「ふぅ……危ないところだった」
まるで大事が起こったかのように胸を撫で下ろすリューク。
「気軽に男に近づいては駄目だ」
「え、えぇ……?お支払いだけでしたけど……」
「あいつ、両手でサキの手握ろうとしてたよ!」
なんとも過保護な夫たちだ。気にしてくれているのは嬉しいけれど、どこまでが良くて悪いのかが分からない。
プレゼントを無事買えてしばらくゆったり歩きながら町の景色と会話を楽しんでいると、通りすがった男が驚いたように私たちを呼び止める。
「お前らリュークとミスカだよな」
「……そうだが」
ミスカさんが無表情のまま答える。
「はは、相変わらず酷い見た目だな。まだ黒騎士団なんかでやってるのか?」
どうやら昔の知人らしいが会って早々こんなこと言うというのは友達なんかでは無いだろう。
「前の事件の後だいぶ黒騎士団のこと知れたんじゃ無かったの?」
「まだ町の方までは話が来ていないんだろう」
二人は何かコソコソ話している。
馬鹿にしたように笑っていた男はようやく私の存在に気づいて驚愕する。
「は……黒髪?な、なんだその……美しい人は……。もしかして噂の……何でお前らなんかと一緒に居るんだ……?」
途切れ途切れに疑問をぶつけてくるのに対し、リュークは興味無いというように言い放つ。
「誰だか知らないけど、あんたには関係ない」
あ、知らない人なんだ。勝手に認知されてるって……ミスカさんとリューク、やっぱり目立ってたのかな……。
見目が悪ければ誰からも酷いことを言われて当たり前だなんて、そんな道理は無い。
「な、なぁ、そんな奴らより俺と一緒に居ようよ。恥ずかしい思いもしなくていいしさ」
赤い顔でへらへら笑いながら私に声をかけてくるが、彼らを侮辱したその男は私にとっては既に嫌な存在となっていた
「結構です。大事な夫たちとのデート中なので」
当てつけのようにそう言うと、男はあんぐりと口を開けて呆然とする。
「夫?こいつらが?」
「サキ……!」
「……ありがとう」
二人は凄く嬉しそうに私を抱き締めてくれる。
「え、いや、普通に嘘だろ。……そんな美人なのに男の見る目は無いってか?……どうかして……」
冗談だろと半笑いで言いかけた男の首にいつの間にか剣先が向けられていた。一気に周りの人たちの悲鳴やざわつきが聞こえる。
「今サキのこと侮辱した?」
「ひっ……」
氷点下まで行きそうな空気を放つリュークに、男は後ずさりすらも出来ない。
今まで見た事ないような冷たい表情。その中で瞳だけが怒りを燃やしていた。
「サキ、あんな奴の言うことなんて気にしないでいい」
ミスカさんが心配してくれたが、私は我慢出来なかった。
「リュークカッコいい~!」
「「え」」
「クールな表情も似合うというか……ギャップがあって凄く良い……」
「ほんと!俺もギャップ手に入れちゃった!」
わーいわーいと跳ねるリュークと手を取って私も喜ぶ。その様子を見てミスカさんも微笑んだ。
「は、いや……何して……」
「…チッ……まだ居たの?」
さっきの男にあからさまな舌打ちをしてまた剣を抜こうとしたリュークをミスカさんが止め、私も彼をそっと宥める。
「私の為に怒ってくれたんでしょ?」
「うん、サキに酷いこと言う奴は許せない」
「でもあの人、美人って言ってくれたよ?」
「サキのことそういう目で見る奴も許せない」
ムッとして嫌がる彼が可愛すぎる。
「私も同じだよ、皆のこと他の女の子が好きになっちゃったらって」
「それは無いでしょ」
「だって皆こんなにイケメンで優しくて理想の夫だから……」
見目についての価値観が私と似ている人も居るだろう。そうなったら彼らはあまりにも魅力的過ぎる。
皆が目移りしないにしても誰かが近づいてくるのも嫌だ。私だってその時は全力で追い返す。
「言い寄られたら私に言ってね!」
「サキ、それは本当に無いと思う」
ミスカさんが躊躇いながらも冷静に否定した。
そんなことを話しながら歩き出した私たちにあの男はついては来なかった。
「ねぇ、さっきの表情もう一回見たいな」
「うーん……自分じゃ分からないけど……こんな感じ?」
目を細めて無表情になったリュークに私は思わず吹き出す。ミスカさんも若干笑いを堪えていた。
「え、良かったの?悪かったの?」
「サキが笑ってくれたから良いんじゃないか」
「そっか!」
ニコニコと満足気なリュークがふと思いついたように言う。
「あのさ、サキ」
「うん?」
「もっとイチャイチャして周りにアピールしたら良いと思わない?」
「えぇ!?」
イチャイチャ……!?町中で!?
ミスカさんを見るとなんと彼も頷いていた。
「夫だと言わなくても雰囲気で分かれば近づいて来ないかもしれない」
「俺たちがいるから絶対に安全だけど、やっぱり可愛すぎて狙われちゃうから……」
そ、そうかなぁ……?
「でも、イチャイチャ…したいな」
「ほんと!」
「実は……ずっと触れたかったの。外だから我慢してた……」
恥ずかしかったけどそう白状して、ミスカさんとリュークの手を取る。
「ほ、ほら!遅くなっちゃうし、もう行こ!」
照れてしまって思わず早足になって二人を引っ張った。
「……ミスカぁ……どうしよ……」
「……ヤバいな」
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