美醜逆転の異世界で騎士様たちに愛される

志季彩夜

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結婚記念日

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「サキさん、おはようございます」
「おはよう……ヴェルストリアくん」

 彼はいつも私より先に起きて美しい笑顔で私を見ている。

「ヴェルとは呼んでくれないんですか?」
「ずっとヴェルストリアくんだったもの……しばらく慣れるまで待ってて……」
「ふふ、分かりました」

 今日はいつもよりヴェルくんの笑顔が輝かしい気がする。朝日の角度のせいだけでは無いだろう。喜んでくれたなら良かった。

「体は大丈夫ですか?」
「うん、全然平気だよ」
「それなら良かったです。これからは大変だと思うので、その時は言ってくださいね」
「……」

 何故大変だと分かっていることをしようとしているのかと訝しげな目で見る。

「僕だけじゃなくて先輩方もです。総合的に考えてのことですよ」

 ご丁寧な言い返し。というかするのは否定しないんだね。うーん、やっぱり不安だ……。
 今日はラグトさんが代わりに朝食を作ってくれているそうなので、部屋でゆっくりしてから食堂へ向かった。

「サキちゃん大丈夫だった!?こいつに変なことされてない!?」
「あ、あはは……それなりに……大丈夫です」

 私を守るように抱きしめヴェルくんから距離を置くラグトさん。

「ラグトさん、僕がサキさんを傷つけるわけありません。もっと後輩を信用してください」
「信用出来ないから言ってんの!」

 私を取り返し取られの攻防を繰り広げる二人に揉みくちゃにされて、乾いた笑いをこぼすしかなかった。
 ちょうどそこへミスカさんがやって来た。私が彼へ救いの目を向けるとすぐに状況を察してくれたらしい。二人の首根っこを掴み私から引き離す。

「お前たち、サキが困ってる」
「え」「あ」

 二人は同時にこちらを見る。

「……私、朝ご飯食べたいなぁ……」

 そう小声で伝えるとラグトさんとヴェルくんはさっと顔を青ざめ、急いでキッチンへ向かって行った。

「ミスカさん、ありがとうございます」
「いや、構わない。しかし、サキはもっと強く言ってもいいんだぞ」
「喧嘩するのも仲が良いってことですし、なかなか間に入りづらいんです……」

 犬と猫が戯れているみたいで可愛いし……。

「あんまり酷いようなら俺に言ってくれ。あいつらサキのことになると歯止めが効かないから」
「気持ちは嬉しいんですけどね……その時はお願いします」

 なんて話しているうちに二人の連携で素早く朝食が用意された。やっぱり仲良いな。

「一緒に食べましょう!」

 そう笑いかけると二人の顔があからさまに明るくなり、いそいそと席に着く。

「ラグトさん、凄く美味しいです!」
「ええ、いつもと違う味付けで新鮮です」
「本当!良かったぁ……」
「意外とこういうのも得意だよな」
「意外は要らないっすよ!」

 無事に朝食を終えたところでミスカさんから、この後会議室に全員集まるようにと言われた。

「何かあったのかな」
「ねー、なんだろ」

 大して深く考えずのんびり花に水やりしたりして、時間になったら早速会議室に向かった。

「サキ、おはよう」
「おはようございます!ハインツさん、何だか嬉しそうですね」
「顔に出てるかな?全員揃ってから話すよ」

 遅れてリュークが到着し全員が席に着く。

「昨日これが届いたんだ」

 ハインツさんが机に置いたのは判子が押された六枚の紙。

「結婚届が受理された」
「え!それって」
「ああ、サキと正式に夫婦になったということだ」
「「!!」」

 皆と顔を見合わせ笑顔になる。

「やったー!!」
「サキさんっ!」
「ようやくだな」
「マジで良かったぁ!」

 夫婦……!本当に私たち結婚出来たんだ……!
 嬉しさのあまり思わず涙が出てしまった。

「嬉しい……皆ありがとう……」
「俺たちこそありがとうだよ!結婚なんて……出来るわけないって思ってた」

 噛み締めるように呟くラグトさんにリュークも深く頷く。

「うん……ずっと夢見てたけど……無理だって。でもサキが叶えてくれたんだ。ありがとう……!」

 皆が抱きしめて、頭を撫でて、涙を一緒に流して掬ってくれる。

「これで誰も私たちを引き裂けない」
「サキさんが離れたくても無理ですよ」
「ふふ、そうだね」
「法が無くても、もう絶対に離さない」

 ふとミスカさんにキスをされて周りから大声が上がる。

「ミスカずるい!」

 リュークが飛びついてきてキスをする。

「ん!?」
「サキさん、僕を見てくれないと嫌です」

 ヴェルくんが無理やり自分のほうに向けた私の唇を奪う。

「ヴェルストリア長い!俺もしたい!」

 ヴェルくんを押しのけたラグトさんがちゅっと軽くキスをした。

「ラグトは人前耐性がないから」
「うるさいっすよリュークさん!」

 私もないよ……今凄く恥ずかしいよ……。
 私を後ろから抱きしめたハインツさんが優しいキスをくれた。

「サキ、ありがとう」
「はい……っありがとうございます……!」

 この世界で明確な繋がりとして、私たちは夫婦になった。


「せっかく夫婦になったのでこの話もしておくが」
「団長、その前にサキを離してくださいよ」

 私がハインツさんの膝の上に乗っていることに抗議の声を上げるリュークを無視してハインツさんは言葉を続けた。

「家を建てることにした」
「えぇ!?」

 私は驚いて思わず後ろのハインツさんを振り返る。

「ずっと騎士団寮にサキを住まわせておくわけにもいかないからな」

 ミスカさんが納得したように頷く。

「確かにそうですね、俺たちはいいですけど」
「え、私だけ住むってこと……?」

 そんなの寂しすぎる……。

「はは、そんなことはしないよ。私たちは皆一緒に住むから」
「良かった……。でも結局ここに来なくちゃ行けないのに別のところに住むのは不便ですよね……」
「問題ない。ここに建てるから」
「……へ?」

 周りの皆を見ても何の反応も無い。リュークが「何かあった?」みたいな笑顔を向けてくるだけだ。

「ここ……というのは……」
「そこの森を切り開いて隣に建てるよ。敷地はいくらでも増やせるから気にしないで」
「そ、そうなんですね……」

 隣は確かに一番良い方法だ。この中に建てるのかと思って焦った、訓練場が狭くなってしまう。

「楽しみです!」
「ああ、どうしたいかとか希望があったら言ってくれ」
「はい、考えておきますね」

 お家……マイホーム……この歳にしてそんな大人みたいなことが出来るなんて……!あ、でも待って

「お金……今更ですけど私何も出せないです……」

 今まで散々用意して貰ってなんだけれど、流石に家は……人生最大の買い物って誰かが言ってたし……。

「サキはそんな心配しなくて良いよ!俺たち皆で買うんだし、ね」
「ああ、これでも騎士の給料は良いんだ」
「僕の分は毎月給料から引いてください」
「俺もお願いします……」
「ヴェルストリアもラグトも追追で大丈夫だよ」

 皆そう言ってくれてもやっぱり申し訳ないな……。

「サキは結婚してもまだ騎士団で働いてくれるかい?」
「え、はい!勿論です!」
「ありがとう。前も言ったけれどサキは充分給料を貰うに値する仕事をしてくれている。形として私たちが代わりに物を買っているだけで、サキの物はサキが買っていると思っていい」
「ハインツさん……」
「これからのサキの給料からも少し出して貰おうかな」
「はい……!お願いします!」

 働いてお金を貰うのは生きていく為でもあるけどそこに喜びも感じるものだ。やり甲斐を見つけて、頑張った分が返ってくる。
 必要とされて役に立てるのは凄く嬉しい。

「サキは変わってるね」
「でもサキさんらしいです」

 微笑ましく見守る皆も納得してくれたようで、お金の問題は解決した。
 ずっとハインツさんの膝に座っていた私をリュークが取り上げ自分の膝に乗せる。

「今日から夫婦ってことはさ!俺とがサキの初夜ってことでしょ?」
「「!」」
「いや、書類は昨日届いたと言っていましたから昨夜が初夜では?」

 ヴェルくんがちょっとムッとして言うとリュークも言い返す。

「結婚発表したの今日だもん!」
「くっ……サキさんの初夜……」

 そんなに大事なの……?

「ヴェルくん、初夜……?じゃなくてもヴェルくんとの初めてだったんだからずっと特別だよ」
「サキさん……大好きです」
「あ、ヴェルストリア!サキを取らないで!」

 あれ、朝と同じことが起こっている。

「サキちゃん、ヴェルストリアのことヴェルって呼んでるの?」
「はい。なんやかんやあって」
「へぇ、じゃあ俺も……」
「駄目です!サキさんだけの特別なんですから」
「えぇ……」

 わちゃわちゃした雰囲気の中からミスカさんが私を取り出してくれた。

「ミスカさん、その……今日が結婚記念日ってことですよね?」
「ああ、そうだな」
「ふふ……嬉しい……」

 結婚が嬉しすぎて何度もにやけてしまう私をミスカさんは抱きしめる。

「俺も嬉しい」
「サキの夫になったと考えると、何だかこそばゆいな」
「ハインツさんが私の夫……」

 言葉の響きが現実味を帯びていない。

「そのうち慣れるかな……」
「今は違和感があるけれど、これから何年も一緒に居て当たり前になっていくんだろうね」

 そう言い笑い合う。
 幸せだなぁ…。
 今日は人生の中で何よりも特別な日になった。
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