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大忙しのリューク
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朝起きて、約束通りにおはようの挨拶をしたらハインツさんは凄く喜んでくれた。
彼と一緒に支度をして髪を梳かしてもらっていた時、扉をノックする音が聞こえた。
返事をすると勢いよく扉が開き、元気な声が飛び込んでくる。
「サキ!おはよう!!」
「……リューク、早過ぎないか……?」
ハインツさんが苦虫を噛み潰したような表情をする。
「おはよう、リューク。まだ支度が終わってないから少し待ってくれる?」
「うん!手伝おうか?」
「いい、大人しく待ってろ」
髪を梳かし終わり、ハインツさんはひと束をそっと掬い上げ口付けた。
「!」
「サキの髪はやっぱり綺麗だな」
「ありがとうございます……」
朝から甘い言葉をかけられるとなんだかソワソワしてしまう。
「団長……絶対わざとですよね」
「お前が早く来たせいだ」
二人のささやかな言い合いの中、支度が済んだので声をかける。
「じゃあ私は戻るとするよ。今日は外出の予定があるから何かあったらアレクかミスカに言ってくれ」
「分かりました」
「リューク、頼んだぞ」
「了解です!」
ハインツさんを見送り、リュークと食堂に向かうとやっぱり早過ぎたようでまだ誰も居なかった。
「今日は早起きだったの?」
「いつも五時くらいに起きてるよ。たまに寝坊するけど……今日はちゃんと起きれた!」
五時は随分早いなぁ……私は六時くらいなのに。
ふとリュークは私がもう包帯をしていないことに気づいた。
「足首の包帯巻かなくて大丈夫?腕も湿布新しいの持ってこようか?」
足首の擦り傷は毎日薬を塗ったお陰でだいぶ良くなったし、腕は少し青あざになっていて強く押すと痛みがあったが、今はなんともない。
心配そうな顔をするリュークにもう大丈夫だと伝える。
さほど酷くない日常でも普通にあるような怪我で過保護に心配されて少し居た堪れなかったのですぐに治って良かった。
そんなふうに色々話しながら朝食を食べて、そのまま食堂でゆったり過ごていた。
「お昼から何しようか」
「リュークとなら何しても楽しいけどね。こうして話してるだけでも」
「俺も~!へへ、照れちゃうな」
「あ、そうだ、リュー……」
私が言いかけた時、第二番隊の人が慌てた様子でこちらに走ってきた。
「リュークさん!昨日提出した見積もりなんですけど数字が違ったみたいで……」
「あー、まだ確認してないからそれ修正してまた提出して。サキごめんね、ちょっと待っててくれる?」
「うん、大丈夫だよ」
隊員さんと書類を取りにいって、リュークが戻ってきたのは十分後だった。
「遅くなってごめんね!ちょっと手間取って……」
「そんなに待ってないよ、気にしないで」
だいぶ息を切らして戻ってきたのだけれど、リュークが息を切らすほどとはどれだけ速く走ってきたのだろう。
「話遮っちゃったね、何だった?」
「えっとね、トランプって知ってる?」
「とらんぷ?知らないなぁ……食べ物?」
この世界にはないんだ、じゃんけんはあるのにね。
「ふふ……食べないよ。ゲームの一つなんだけど、カードにマークと数字が書いてあって色々な方法で遊べるの」
「サキの世界にあるものなの?」
「そう!凄く有名なの。皆とそういうので遊んだら楽しいかなって思って」
それぞれと過ごすことはあるけど、皆揃ってということはなかなか無い。
全員では難しいかもしれないけど集まる時があったら何かしたいなと、トランプを思いついたわけだ。
「やりたいやりたい!サキと一緒に遊びたい!」
「うん!それでね、カードが無いと出来ないから作りたいの。上手く作れるかは分からないけど……」
全部同じに作らないとどのカードか分かってしまうから勝負にならない……だいぶ難しいよね……。
「材料はいくらでも用意するし、道具も色々あるから大丈夫だよ。今日俺と一緒に作ろう!」
「ありがとう!」
そういうわけで、広い食堂の机でトランプ作りをすることになった。
厚紙やカッターなど諸々用意してもらってひたすら切っていく。
「結構枚数あるんだねー、六人でも遊べる?」
「遊べるよ!人数多いほうが楽しいから、皆でやりたいなぁ」
「団長帰ってきたら聞いてみようか!十六時くらいって言ってたし、サキが出迎えたら団長喜ぶよ」
「そうかな……!」
朝のハインツさんの笑顔を思い心待ちにしながら作業を進めていると、また第二番隊の人が慌ててリュークを呼びに来た。
「最近引き取った馬が暴れてて……」
「え、またあの子!?」
「リュークさんにしか懐いてないんですぅ……助けてください……」
「ちょ、今行くから!サキごめんね!」
「う、うん」
半ば引っ張られる勢いでリュークはお馬さんのヘルプに向かっていった。
今日はトラブルが多いのかな……大変そう……。
だいぶ待って、リュークはやっぱり息を切らして戻ってきた。
「はぁ……ほんとごめんね……」
「ううん。ほら見て、だいぶ進んだよ!」
「サキ……うん、凄い!サキは器用だね!」
「ふふ、ありがと」
私を抱きしめて嬉しそうに顔に軽いキスをいっぱいくれる。
「団長もうすぐかな。門のほう行こっか?」
「うん!」
机を片付けて門に向かうとちょうどハインツさんが帰ってきて、一番乗りで出迎えることが出来た。
「良かったね、団長ったらあんなにデレデレしちゃって」
「デレデレ……いつも通りに見えたけど……」
リュークは分かってないなぁと言うように首を振った。
あれ、誰かこっちに走って来てる?
「リュークさん……!」
またまた隊員の人だ。
これは……。
「武器庫の近くでトラブルが…」
我慢ならないというようにリュークは文句を言う。
「せっかくサキと居るのに!アレク隊長はどうしたの!?」
なんか……ヒヨコがピヨピヨ鳴いてるみたい。
「すみません!隊長は他国の使者の方と対談していまして……」
「来客なんていつも無いのになんで今日なのぉ……」
ガックリと肩を落とすリュークに私は行ってくるように促す。
「でも時間かかっちゃうし……サキ一人に……」
「私もたまには一人で過ごすよ。ほら、行ってきて?」
「うん……」
「頑張って!私、食堂で待ってるから」
「サキぃ……頑張る……」
泣く泣くリュークは頷き、迷いを振り払うように走っていった。
一週間会えないくらいの雰囲気だったな……。
しかし、リュークは夕食の時間になっても戻ってこなくて。
しばらく待ってはいたけど、仕方が無いので一人で食べることにした。
寂しいなぁ……前はたまに一人の時もあったけど、最近はずっと誰かと一緒だったから。
しょんぼりしていると二人の団員に声をかけられた。
「サキさん!今日は恋人と一緒にでは無いんですか?」
「へ!?こ、恋人……」
やっぱり知られてる!いや、隠してはいないけど直接言われると恥ずかしい……。
「ええと、お仕事が立て込んでるみたいで」
「そうなんですね……。あ、あの……良かったら一緒に……」
団員の一人が顔を赤くしながら言いかけた時、後ろからふわっと誰かに抱きしめられた。
「サキさん、遅くなってすみません。一緒にご飯食べましょう」
「ヴェルストリアくん!」
「先輩方、何か彼女に御用でしたか?」
ヴェルストリアくんは団員に目を向けると少し低いトーンで言う。
「い、いやなんでもない……です」
彼らはビクッと怯えたように立ち去って行った。
「ヴェルストリアも付き合ってたの……?知らなかった…」
「俺たち先輩のはずだよな…あの目つきはリュークさんと同じものを感じる」
「ぐすっ……普通他の恋人のことには干渉しないんだろ?あの人たちは執着が過ぎるよ……」
「あんなに美人なんだからしょうがないさ。諦めろ」
サキを独り占めしたい彼氏たちによって団員何人かの恋は儚く散ってゆくのだった。
「ヴェルストリアくん、ご飯もう食べたんじゃ……」
「ええ、なので隣でサキさんが食べる姿を見てますね」
「ちょっと食べづらいなぁ……」
本当にずっと見られながらもお喋りして、ヴェルストリアくんのお陰で楽しく夕食の時間を過ごせた。
「リュークさんまだ戻ってきませんね」
「何かあったのかな……」
「多少のトラブルは良くあることですから、リュークさんなら大丈夫ですよ」
彼は私の頭をそっと撫でた。
「すみません。僕も少し用事があって、行かないといけないんです」
名残惜しそうに唇にキスをする。
「ん……」
「おやすみなさい、サキさん」
「うん、おやすみなさい」
ヴェルストリアくんも去って、食堂には私一人になってしまった。
今日いっぱい切った四角い紙を手に取り眺める。リュークが切ってくれたものは正直、少し歪になっている。
不器用なのかな、なんて。そんな小さな発見が愛おしくて堪らない。
今、凄く会いたい。
「リューク……」
無意識に口から出た彼を呼ぶ声に応えるかのように、食堂の扉が開いた。
「サキ!!」
リュークは私の姿を捉えるとこちらに走ってきて勢いよく抱きついてきた。
「!」
「サキごめん…こんなに遅くなるなんて思ってなくて……ほんとにごめんね」
「ううん、だ……」
「大丈夫だよ」と言おうとしたけど、違う気がして言葉を止めた。
「会いたかった」
「!……サキ……」
彼の背に手を回した私を、また強く抱きしめた。
「もう……帰っちゃったかと思って……」
「リュークのためならいくらでも待つよ」
「っ……俺も……会いたかった」
眉を下げて、嬉しそうな顔でリュークはキスをした。
「ごめんね。待っててくれてありがとう」
「うん、お仕事お疲れさま」
「んー!サキがいい奥さん過ぎる……!」
「まだ早いよ」
二人で笑いながら部屋に戻る。
リュークは「夜は邪魔されずに過ごす!」と言って、一緒に寝てくれることになった。
「サキの手小さくて可愛い……」
私の手を指でふにふに触りながらぼんやり呟くリューク。
「リュークの手は大きくてカッコいいよ」
「ん……サキ……だいすきー」
ベッドで横になってしばらくしたらリュークは眠くなってしまったみたいで半分目が閉じている。
今日は色々あったし疲れちゃったよね。
リュークの頭に手を伸ばしゆっくり撫でる。彼は寝る時も髪は緩めに結ぶそうで、後ろに金色の髪が流れている。
「おやすみ」
寝息を立てたリュークの手を握り直して、私もそっと目を閉じた。
彼と一緒に支度をして髪を梳かしてもらっていた時、扉をノックする音が聞こえた。
返事をすると勢いよく扉が開き、元気な声が飛び込んでくる。
「サキ!おはよう!!」
「……リューク、早過ぎないか……?」
ハインツさんが苦虫を噛み潰したような表情をする。
「おはよう、リューク。まだ支度が終わってないから少し待ってくれる?」
「うん!手伝おうか?」
「いい、大人しく待ってろ」
髪を梳かし終わり、ハインツさんはひと束をそっと掬い上げ口付けた。
「!」
「サキの髪はやっぱり綺麗だな」
「ありがとうございます……」
朝から甘い言葉をかけられるとなんだかソワソワしてしまう。
「団長……絶対わざとですよね」
「お前が早く来たせいだ」
二人のささやかな言い合いの中、支度が済んだので声をかける。
「じゃあ私は戻るとするよ。今日は外出の予定があるから何かあったらアレクかミスカに言ってくれ」
「分かりました」
「リューク、頼んだぞ」
「了解です!」
ハインツさんを見送り、リュークと食堂に向かうとやっぱり早過ぎたようでまだ誰も居なかった。
「今日は早起きだったの?」
「いつも五時くらいに起きてるよ。たまに寝坊するけど……今日はちゃんと起きれた!」
五時は随分早いなぁ……私は六時くらいなのに。
ふとリュークは私がもう包帯をしていないことに気づいた。
「足首の包帯巻かなくて大丈夫?腕も湿布新しいの持ってこようか?」
足首の擦り傷は毎日薬を塗ったお陰でだいぶ良くなったし、腕は少し青あざになっていて強く押すと痛みがあったが、今はなんともない。
心配そうな顔をするリュークにもう大丈夫だと伝える。
さほど酷くない日常でも普通にあるような怪我で過保護に心配されて少し居た堪れなかったのですぐに治って良かった。
そんなふうに色々話しながら朝食を食べて、そのまま食堂でゆったり過ごていた。
「お昼から何しようか」
「リュークとなら何しても楽しいけどね。こうして話してるだけでも」
「俺も~!へへ、照れちゃうな」
「あ、そうだ、リュー……」
私が言いかけた時、第二番隊の人が慌てた様子でこちらに走ってきた。
「リュークさん!昨日提出した見積もりなんですけど数字が違ったみたいで……」
「あー、まだ確認してないからそれ修正してまた提出して。サキごめんね、ちょっと待っててくれる?」
「うん、大丈夫だよ」
隊員さんと書類を取りにいって、リュークが戻ってきたのは十分後だった。
「遅くなってごめんね!ちょっと手間取って……」
「そんなに待ってないよ、気にしないで」
だいぶ息を切らして戻ってきたのだけれど、リュークが息を切らすほどとはどれだけ速く走ってきたのだろう。
「話遮っちゃったね、何だった?」
「えっとね、トランプって知ってる?」
「とらんぷ?知らないなぁ……食べ物?」
この世界にはないんだ、じゃんけんはあるのにね。
「ふふ……食べないよ。ゲームの一つなんだけど、カードにマークと数字が書いてあって色々な方法で遊べるの」
「サキの世界にあるものなの?」
「そう!凄く有名なの。皆とそういうので遊んだら楽しいかなって思って」
それぞれと過ごすことはあるけど、皆揃ってということはなかなか無い。
全員では難しいかもしれないけど集まる時があったら何かしたいなと、トランプを思いついたわけだ。
「やりたいやりたい!サキと一緒に遊びたい!」
「うん!それでね、カードが無いと出来ないから作りたいの。上手く作れるかは分からないけど……」
全部同じに作らないとどのカードか分かってしまうから勝負にならない……だいぶ難しいよね……。
「材料はいくらでも用意するし、道具も色々あるから大丈夫だよ。今日俺と一緒に作ろう!」
「ありがとう!」
そういうわけで、広い食堂の机でトランプ作りをすることになった。
厚紙やカッターなど諸々用意してもらってひたすら切っていく。
「結構枚数あるんだねー、六人でも遊べる?」
「遊べるよ!人数多いほうが楽しいから、皆でやりたいなぁ」
「団長帰ってきたら聞いてみようか!十六時くらいって言ってたし、サキが出迎えたら団長喜ぶよ」
「そうかな……!」
朝のハインツさんの笑顔を思い心待ちにしながら作業を進めていると、また第二番隊の人が慌ててリュークを呼びに来た。
「最近引き取った馬が暴れてて……」
「え、またあの子!?」
「リュークさんにしか懐いてないんですぅ……助けてください……」
「ちょ、今行くから!サキごめんね!」
「う、うん」
半ば引っ張られる勢いでリュークはお馬さんのヘルプに向かっていった。
今日はトラブルが多いのかな……大変そう……。
だいぶ待って、リュークはやっぱり息を切らして戻ってきた。
「はぁ……ほんとごめんね……」
「ううん。ほら見て、だいぶ進んだよ!」
「サキ……うん、凄い!サキは器用だね!」
「ふふ、ありがと」
私を抱きしめて嬉しそうに顔に軽いキスをいっぱいくれる。
「団長もうすぐかな。門のほう行こっか?」
「うん!」
机を片付けて門に向かうとちょうどハインツさんが帰ってきて、一番乗りで出迎えることが出来た。
「良かったね、団長ったらあんなにデレデレしちゃって」
「デレデレ……いつも通りに見えたけど……」
リュークは分かってないなぁと言うように首を振った。
あれ、誰かこっちに走って来てる?
「リュークさん……!」
またまた隊員の人だ。
これは……。
「武器庫の近くでトラブルが…」
我慢ならないというようにリュークは文句を言う。
「せっかくサキと居るのに!アレク隊長はどうしたの!?」
なんか……ヒヨコがピヨピヨ鳴いてるみたい。
「すみません!隊長は他国の使者の方と対談していまして……」
「来客なんていつも無いのになんで今日なのぉ……」
ガックリと肩を落とすリュークに私は行ってくるように促す。
「でも時間かかっちゃうし……サキ一人に……」
「私もたまには一人で過ごすよ。ほら、行ってきて?」
「うん……」
「頑張って!私、食堂で待ってるから」
「サキぃ……頑張る……」
泣く泣くリュークは頷き、迷いを振り払うように走っていった。
一週間会えないくらいの雰囲気だったな……。
しかし、リュークは夕食の時間になっても戻ってこなくて。
しばらく待ってはいたけど、仕方が無いので一人で食べることにした。
寂しいなぁ……前はたまに一人の時もあったけど、最近はずっと誰かと一緒だったから。
しょんぼりしていると二人の団員に声をかけられた。
「サキさん!今日は恋人と一緒にでは無いんですか?」
「へ!?こ、恋人……」
やっぱり知られてる!いや、隠してはいないけど直接言われると恥ずかしい……。
「ええと、お仕事が立て込んでるみたいで」
「そうなんですね……。あ、あの……良かったら一緒に……」
団員の一人が顔を赤くしながら言いかけた時、後ろからふわっと誰かに抱きしめられた。
「サキさん、遅くなってすみません。一緒にご飯食べましょう」
「ヴェルストリアくん!」
「先輩方、何か彼女に御用でしたか?」
ヴェルストリアくんは団員に目を向けると少し低いトーンで言う。
「い、いやなんでもない……です」
彼らはビクッと怯えたように立ち去って行った。
「ヴェルストリアも付き合ってたの……?知らなかった…」
「俺たち先輩のはずだよな…あの目つきはリュークさんと同じものを感じる」
「ぐすっ……普通他の恋人のことには干渉しないんだろ?あの人たちは執着が過ぎるよ……」
「あんなに美人なんだからしょうがないさ。諦めろ」
サキを独り占めしたい彼氏たちによって団員何人かの恋は儚く散ってゆくのだった。
「ヴェルストリアくん、ご飯もう食べたんじゃ……」
「ええ、なので隣でサキさんが食べる姿を見てますね」
「ちょっと食べづらいなぁ……」
本当にずっと見られながらもお喋りして、ヴェルストリアくんのお陰で楽しく夕食の時間を過ごせた。
「リュークさんまだ戻ってきませんね」
「何かあったのかな……」
「多少のトラブルは良くあることですから、リュークさんなら大丈夫ですよ」
彼は私の頭をそっと撫でた。
「すみません。僕も少し用事があって、行かないといけないんです」
名残惜しそうに唇にキスをする。
「ん……」
「おやすみなさい、サキさん」
「うん、おやすみなさい」
ヴェルストリアくんも去って、食堂には私一人になってしまった。
今日いっぱい切った四角い紙を手に取り眺める。リュークが切ってくれたものは正直、少し歪になっている。
不器用なのかな、なんて。そんな小さな発見が愛おしくて堪らない。
今、凄く会いたい。
「リューク……」
無意識に口から出た彼を呼ぶ声に応えるかのように、食堂の扉が開いた。
「サキ!!」
リュークは私の姿を捉えるとこちらに走ってきて勢いよく抱きついてきた。
「!」
「サキごめん…こんなに遅くなるなんて思ってなくて……ほんとにごめんね」
「ううん、だ……」
「大丈夫だよ」と言おうとしたけど、違う気がして言葉を止めた。
「会いたかった」
「!……サキ……」
彼の背に手を回した私を、また強く抱きしめた。
「もう……帰っちゃったかと思って……」
「リュークのためならいくらでも待つよ」
「っ……俺も……会いたかった」
眉を下げて、嬉しそうな顔でリュークはキスをした。
「ごめんね。待っててくれてありがとう」
「うん、お仕事お疲れさま」
「んー!サキがいい奥さん過ぎる……!」
「まだ早いよ」
二人で笑いながら部屋に戻る。
リュークは「夜は邪魔されずに過ごす!」と言って、一緒に寝てくれることになった。
「サキの手小さくて可愛い……」
私の手を指でふにふに触りながらぼんやり呟くリューク。
「リュークの手は大きくてカッコいいよ」
「ん……サキ……だいすきー」
ベッドで横になってしばらくしたらリュークは眠くなってしまったみたいで半分目が閉じている。
今日は色々あったし疲れちゃったよね。
リュークの頭に手を伸ばしゆっくり撫でる。彼は寝る時も髪は緩めに結ぶそうで、後ろに金色の髪が流れている。
「おやすみ」
寝息を立てたリュークの手を握り直して、私もそっと目を閉じた。
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