美醜逆転の異世界で騎士様たちに愛される

志季彩夜

文字の大きさ
上 下
47 / 184

カッコいい対決 1

しおりを挟む
 今日はハインツさんが迎えに来てくれて、お仕事もあるので一緒に執務室で過ごすことになった。

「仕事優先になってしまってすまないね。私もどうしてもサキと過ごしたくて」

 お仕事中でも私を傍に置いてくれることが嬉しくて胸がキュンとする。

「だいぶ暇になってしまうけれど……途中で変わろうか?」
「いいえ、今日はハインツさんと居たいです」
「そうか……!ありがとう。仕事が一段落したら外へ行こうか」
「はい!」

 今までみたいに夜じゃない、昼間にこうして執務室でハインツさんとお喋りしたりして過ごせるのはまた違って凄く楽しい。会話していない時間も穏やかな空気が流れ、眼鏡姿のハインツさんを眺めて幸せだった。
 真剣に書類と向き合っていたハインツさんが一息ついて、ふと私と目が合う。
 優しく笑いかけてくれたので立ち上がり彼の座る作業台の方へ近づく。
 腰を引き寄せられ私もその膝の上に座ると後ろから頬にキスをくれた。

「お仕事進みましたか?」
「ああ、だいぶ終わった。あと少しだからこのまま居てくれないか」
「ふふ、良いんですか?」
「最後のやる気が足りなくてね」

 私を膝に乗せて抱きしめながら、さらさらと片手でペンを走らせ印を押していく。
 その文字はやっぱり見慣れないもので。

「……ハインツさん、この文字なんですけど……」
「ん?どうかしたか」
「私の居た世界とは全然違うものなんです。全く読めなくて」
「そう、なのか……?しかし言葉は通じているが」
「それが不思議で……」

 ハインツさんも驚いた様子で考え込む。

「急に変なこと言ってしまってすみません!文字が読めないと皆に頼りっきりになっちゃうから伝えたほうがいいかなと」
「文字が読めなくても問題ない。女性は書類仕事などをすることも無いから難しい文字は覚えていない人も多い」

「大丈夫」と言って頭を撫でる彼に一応話だけでも出来たので安心する。
 文字が読めなくてもなんとかなるよね。もう帰らないって決めたし、私がどうしてこの世界に来たかなんて気にしなくていいよ。
 その現象が善意でも悪意でも、彼らに出会えたのだから感謝しかない。
 モヤモヤを抱えながらもそう割り切ることにして、仕事をひとまず終えた彼と気分転換に外に出ることになった。
 ゆったりと散歩をしながら話を弾ませていたところで気になっていたことを聞いてみる。

「そういえばなんですけど、副団長さんはいらっしゃるんですか?お見かけしたこと無いんですけど」
「はは、ちゃんといるよ。あそこの紫色の髪の彼だ」

 すぐそこの訓練場では第二番隊が訓練をしており、ハインツさんはその中の一人を見た。

「去年の冬から他国に調査へ行っていたんだ。つい先日ここに戻ってきたばかりでね。サキのことをまだ紹介していなかった」

 私たちが近づくと二番隊の皆はハインツさんの姿を見て慌てて整列する。

「いや、気にしなくていい。君たちは続けてくれ」

 ハインツさんの言葉で戸惑いながらもそれぞれ持ち場に戻り、例の副団長さんがこちらにやって来る。

「団長、何か御用でしたか」

 青みの紫色の長い髪を高いところで纏めている、すっきりとした顔立ちの知的そうなイケメンだ。

「いや、通りがかっただけなんだがちょうどいいから紹介しておこうと思ってな。彼女が恋人のサキだ」

 急にその紹介でいいの……?

「サキ、彼が副団長で第二番隊隊長のアレク。これからしばらくは基本ここに居ることになるから会うこともあるだろう」
「初めまして、アレク・ヒューナーと申します。お話はかねがね伺っています。これからよろしくお願いします」

 あ、先に話はしてあったんだ。あまりに私の説明が無くてちょっと悲しかった。

「はい!こちらこそよろしくお願いします」

 握手して挨拶を終えると彼は颯爽と部下たちの指導へ戻って行った。
 なんだか「仕事が出来る人」って感じだ。

「この前リュークがハインツさんの補佐だと聞いたんですけど、アレクさんの代理だったんですか?」
「リュークは自分から補佐を申し出てくれたから代理というわけでは無いんだ。アレクも手伝ってくれるけれど彼は別で仕事があるから、二人で第二番隊のバランスを取りながらやってくれているよ」

 リュークはハインツさんのことを凄く慕っているのだと思う。よく共に行動しているしハインツさんもリュークのことを信頼しているのがよく分かる。

「サキー!来てくれたの?」

 建物から訓練場に戻ってきたのであろうリュークが私に手を振る。

「あ、団長も!何かありましたか?」
「サキと散歩をしていただけだ。今日は打ち合いか?」
「はい、隊長も戻ってきたしせっかくだから相手してもらおうかと」

 どうやらアレクさんが隊員を一人ずつ相手にしているようだ。
 そういえば今まで彼らがどういう訓練をしているかなどをあまり見ていなかったなと思う。

「少し見学したいんですけど良いですか?」
「ああ、良いよ」
「じゃあ俺もサキと一緒に見るー!」

 ハインツさんがリュークを小突いている横で私はアレクさんの打ち合いを見ていた。
 片手で木刀を操り相手の攻撃を軽く受け流す。最後は木刀を上へ払い、喉元へ剣先を向けた。

「凄い……カッコいいですね……」
「「!?」」

 私の感嘆の声を聞いて二人は大きなショックを受けたように立ち尽くした。

「ん?どうしたの………え?」

 拳を握り何かやる気に満ちた彼らを見てそれ以上声がかけられないまま、二人はアレクさんのところへ向かって行ってしまった。
 取り残された私はどうしたらいいか分からず、大人しくベンチに座った。


「団長、リューク、どうしたのですか。そんなに殺気を出して」
「アレク、手合わせを頼む」
「隊長、サキは渡さないよ!」

 アレクはなんとなく現状を察し彼らの申し出に了承する。しかし今の彼らはやる気…殺る気満々なので手を抜いたら怪我ですまないことも分かっている。

「気を遣うほどの余裕はありませんからね」

 この面倒な男たちに捕まった彼女に同情しながら、アレクは全力を出すべく木刀を強く両手で握った。


 リュークとアレクさんが木刀を構え睨み合う。
 急な展開に心配になるがリュークの戦っているところを見れるのは凄く嬉しい。
 赤騎士団を相手にした時の彼の姿は何度も思い出してドキドキしてしまう。
 笛の音が鳴った。
 すぐには動かずお互い相手を警戒している。先に動いたのはリュークだった。
 あの時のように私の目では見えない速度で振られた木刀は……アレクさんに受け止められた。
 アレクさんはそれを押し返し、その木刀に向けて一発大きく打った。その反動でリュークは後ろに下がるが、体勢を崩すことなくまた踏み込み連続で木刀を振るう。
 そんな攻防を続けていて、素人目だと二人はほぼ互角なのでは無いかと思う。
 リューク……頑張って……!
 心の中で精一杯応援する。周りの隊員たちも息を飲みこの戦いを見守っていた。
 二本がぶつかったその時、リュークの木刀が音を立て折れてしまった。

「あ!」

 これにより勝敗が決まり、リュークは悔しそうにしゃがみ込んだ。

「うわぁぁ、やっちゃった……」

 相当落ち込んだ様子で地面の砂を弄るリュークを脇に置き、深呼吸で息を整えたアレクさんはまた木刀を構えた。
 その前に立ちはだかったのはハインツさん。
 え、ハインツさんもやるの!?
 いつも私が居る時は執務室での書類仕事ばかりしているので、実際に戦う姿を見るのは初めてだ。
 気分転換に体動かしたかったのかな……?
 心做しかアレクさんが先程とは違い、だいぶ緊張しているように見える。

 再び試合開始の音が鳴った。
しおりを挟む
感想 56

あなたにおすすめの小説

異世界の美醜と私の認識について

佐藤 ちな
恋愛
 ある日気づくと、美玲は異世界に落ちた。  そこまでならラノベなら良くある話だが、更にその世界は女性が少ない上に、美醜感覚が美玲とは激しく異なるという不思議な世界だった。  そんな世界で稀人として特別扱いされる醜女(この世界では超美人)の美玲と、咎人として忌み嫌われる醜男(美玲がいた世界では超美青年)のルークが出会う。  不遇の扱いを受けるルークを、幸せにしてあげたい!そして出来ることなら、私も幸せに!  美醜逆転・一妻多夫の異世界で、美玲の迷走が始まる。 * 話の展開に伴い、あらすじを変更させて頂きました。

美醜逆転異世界で、非モテなのに前向きな騎士様が素敵です

花野はる
恋愛
先祖返りで醜い容貌に生まれてしまったセドリック・ローランド、18歳は非モテの騎士副団長。 けれども曽祖父が同じ醜さでありながら、愛する人と幸せな一生を送ったと祖父から聞いて育ったセドリックは、顔を隠すことなく前向きに希望を持って生きている。けれどやはりこの世界の女性からは忌み嫌われ、中身を見ようとしてくれる人はいない。 そんな中、セドリックの元に異世界の稀人がやって来た!外見はこんなでも、中身で勝負し、専属護衛になりたいと頑張るセドリックだが……。 醜いイケメン騎士とぽっちゃり喪女のラブストーリーです。 多分短い話になると思われます。 サクサク読めるように、一話ずつを短めにしてみました。

転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~

恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん) は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。 しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!? (もしかして、私、転生してる!!?) そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!! そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?

旦那様が多すぎて困っています!? 〜逆ハー異世界ラブコメ〜

ことりとりとん
恋愛
男女比8:1の逆ハーレム異世界に転移してしまった女子大生・大森泉 転移早々旦那さんが6人もできて、しかも魔力無限チートがあると教えられて!? のんびりまったり暮らしたいのにいつの間にか国を救うハメになりました…… イケメン山盛りの逆ハーです 前半はラブラブまったりの予定。後半で主人公が頑張ります 小説家になろう、カクヨムに転載しています

ただ貴方の傍にいたい〜醜いイケメン騎士と異世界の稀人

花野はる
恋愛
日本で暮らす相川花純は、成人の思い出として、振袖姿を残そうと写真館へやって来た。 そこで着飾り、いざ撮影室へ足を踏み入れたら異世界へ転移した。 森の中で困っていると、仮面の騎士が助けてくれた。その騎士は騎士団の団長様で、すごく素敵なのに醜くて仮面を被っていると言う。 孤独な騎士と異世界でひとりぼっちになった花純の一途な恋愛ストーリー。 初投稿です。よろしくお願いします。

異世界転生〜色いろあって世界最強!?〜

野の木
恋愛
気付いたら、見知らぬ場所に。 生まれ変わった?ここって異世界!? しかも家族全員美男美女…なのになんで私だけ黒髪黒眼平凡顔の前世の姿のままなの!? えっ、絶世の美女?黒は美人の証? いやいや、この世界の人って目悪いの? 前世の記憶を持ったまま異世界転生した主人公。 しかもそこは、色により全てが決まる世界だった!?

私は女神じゃありません!!〜この世界の美的感覚はおかしい〜

朝比奈
恋愛
年齢=彼氏いない歴な平凡かつ地味顔な私はある日突然美的感覚がおかしい異世界にトリップしてしまったようでして・・・。 (この世界で私はめっちゃ美人ってどゆこと??) これは主人公が美的感覚が違う世界で醜い男(私にとってイケメン)に恋に落ちる物語。 所々、意味が違うのに使っちゃってる言葉とかあれば教えて下さると幸いです。 暇つぶしにでも呼んでくれると嬉しいです。 ※休載中 (4月5日前後から投稿再開予定です)

公爵様のバッドエンドを回避したいだけだったのに、なぜか溺愛されています

六花心碧
恋愛
お気に入り小説の世界で名前すら出てこないモブキャラに転生してしまった! 『推しのバッドエンドを阻止したい』 そう思っただけなのに、悪女からは脅されるし、小説の展開はどんどん変わっていっちゃうし……。 推しキャラである公爵様の反逆を防いで、見事バッドエンドを回避できるのか……?! ゆるくて、甘くて、ふわっとした溺愛ストーリーです➴⡱ (外部URLで登録していたものを改めて登録しました! ◇他サイト様でも公開中です)

処理中です...