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私の帰る場所
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笑いながら近づいてくる男。湧いてくる嫌悪感。無理やり触れられた部分が黒く染まっていく。
「やだ……」
息が苦しい……くるし……
「……サ…さん……サキさん……」
「サキさん!」
「っ…は……!!」
驚いて目を開けるとヴェルストリアくんに肩を軽く揺さぶられているのに気づく。
「大丈夫ですか?起こしてしまってすみません。だいぶうなされていたので」
「ん……ありがとう」
詰まっていた息をゆっくり吐き、少し汗ばんだ体を起こした。
「もう……朝?」
「今は五時くらいです。まだ少し早いですけど、もう一度寝ますか?」
「ううん、シャワー浴びたいから起きようかな。……ヴェルストリアくん、ずっと居てくれたの?」
昨日の夜、彼が部屋に来てご飯を食べさせてくれたりしたのを覚えている。そこからいつの間にか寝てしまっていたけど……。
「ええ……勝手にすみません。僕も少し寝てしまって、さっき起きたところなんですけど」
ヴェルストリアくんは立ち上がり私がシャワールームへ向かうのに手を貸してくれた。
「腕はあまり触れない方が良いです。……手伝いましょうか?」
「そ、そのくらいは出来るよ。ヴェルストリアくんも眠いでしょ、もう戻って休んでて?」
「じゃあ……また後で迎えに来ますね。十一時に集まるそうなのでそれまではゆっくりしていてください」
「うん、ありがとう」
私が一人でいる時間も必要だと思ってくれたのだろう彼は少し微笑んで部屋を出ていった。
昨日は体を大体拭き、服を着替えただけだったので髪が結構ボサボサになっている。
みっともないところを見られるのはちょっと恥ずかしいな……。
昨日の今日で今更かもしれないが、好きな人の前ではいつでも綺麗な姿でいたいものだ。
シャワーを浴び終え、髪もしっかり整えた私はソファに腰掛け一息つく。
昨日あった事が夢のような、夢じゃないような。ちゃんとここに帰って来れたのだと今改めて実感する。
一度皆と離れて気づいた。私はやっぱり皆と一緒に居たい。もうその想いは揺るがないことを心に決めた。
「皆集まったか?」
「はい!」
皆…私の恋人たちと会議室に集合する。
初めて入ったその部屋は大きい長テーブルが中央に、その両側に椅子ずらりと並び、奥の壁全面に設置された棚には書類や本が綺麗に収納されていた。
私の正面に座ったハインツさんが話し出す。
「まずはサキ、体調は大丈夫か?」
「はい、お陰様で。傷の痛みも少し無くなりました」
「そうか!良かった。それでこれからの事なんだが……」
ハインツさんが真剣な表情で部下たちを見る。
「今回サキが攫われるという事が起きた以上ここの警備もより強化しなければいけない。今までは守るものと言えば機密情報や資金くらいで建物内のセキュリティばかりだったからな」
「そうですね、人が危害を加えられるということを想定していませんでした」
「ああ、それは後日詳細を決めて少しずつ設備を整えていこうと思う」
そう言うとハインツさんは私のほうを向く。
「首謀者となったあの男には我々が出来る最大限の鉄槌を下す。同じようになりたい馬鹿はいないだろう」
その瞳にはだいぶ本気の怒りの炎が見えた。ハインツさんを怒らせたらだいぶ危険かも…。
黒騎士団が強いのは分かっていたつもりだったけど、きっと私の想像では追いつかない程なのだろう。
「サキ」
「は、はい!」
「絶対に守るから、これからもここに居て欲しい」
「!」
周りの皆も真剣な眼差しで頷いた。
「サキが俺たちと別れるって言うとは思っていないけど……」
「怖い思いをして……ここに、この世界に居るのが嫌になったらって」
リュークの言葉にラグトさんが続く。
私がトラウマを抱えてしまうのは辛いけど、それでも一緒に居たいと思ってる。そんな皆の気持ちをようやく理解した。
勿論日本に居たらこんな事件に巻き込まれることは無かっただろう。この世界は日本より危険なことも多いのだと思う。でも、私の一番安心出来る場所はこの黒騎士団なのだ。
「私、ずっとここに居たいです!」
「!」
「皆と過ごすこの場所が大好きなんです。絶対守ってくれるって信じてる」
「サキ……」
「それで…私決めたんです。もう元の世界には帰らない」
彼らの驚いた表情を受け止めながらも私は考えていたことをきちんと言葉にしようと前を向く。
「離れ離れになって、ここに戻ってきて分かったんです。私の帰る場所は黒騎士団の皆のところなんだって。あのね、まだ出会って1年も経ってないし、お互いの知らないことまだいっぱいあるし、急にこんなこと言われても困るかもだけど……っ」
感情が溢れて思わず立ち上がる。
「この世界で皆と生きていきたいの!」
ハッとしてあまりに大声で気持ちを押し付けてしまったことに焦る。
ど、どうしよ……わっ!?
隣に座っていたリュークが私を抱きしめた。
「ありがとうぅ……サキ……」
ミスカさんは堪らない表情で手を伸ばして私の頭を撫で、ラグトさんは真っ赤になり固まっていて、ヴェルストリアくんは机に顔を押し付けて泣いている。
「まさかサキのほうから言ってもらえるとは思っていなかった」
ハインツさんも心の底からの幸せそうな笑みを浮かべ私の手を取る。
「サキ、私たちと結婚してくれ」
けっ……こん……?
「結婚!?」
「やだ……」
息が苦しい……くるし……
「……サ…さん……サキさん……」
「サキさん!」
「っ…は……!!」
驚いて目を開けるとヴェルストリアくんに肩を軽く揺さぶられているのに気づく。
「大丈夫ですか?起こしてしまってすみません。だいぶうなされていたので」
「ん……ありがとう」
詰まっていた息をゆっくり吐き、少し汗ばんだ体を起こした。
「もう……朝?」
「今は五時くらいです。まだ少し早いですけど、もう一度寝ますか?」
「ううん、シャワー浴びたいから起きようかな。……ヴェルストリアくん、ずっと居てくれたの?」
昨日の夜、彼が部屋に来てご飯を食べさせてくれたりしたのを覚えている。そこからいつの間にか寝てしまっていたけど……。
「ええ……勝手にすみません。僕も少し寝てしまって、さっき起きたところなんですけど」
ヴェルストリアくんは立ち上がり私がシャワールームへ向かうのに手を貸してくれた。
「腕はあまり触れない方が良いです。……手伝いましょうか?」
「そ、そのくらいは出来るよ。ヴェルストリアくんも眠いでしょ、もう戻って休んでて?」
「じゃあ……また後で迎えに来ますね。十一時に集まるそうなのでそれまではゆっくりしていてください」
「うん、ありがとう」
私が一人でいる時間も必要だと思ってくれたのだろう彼は少し微笑んで部屋を出ていった。
昨日は体を大体拭き、服を着替えただけだったので髪が結構ボサボサになっている。
みっともないところを見られるのはちょっと恥ずかしいな……。
昨日の今日で今更かもしれないが、好きな人の前ではいつでも綺麗な姿でいたいものだ。
シャワーを浴び終え、髪もしっかり整えた私はソファに腰掛け一息つく。
昨日あった事が夢のような、夢じゃないような。ちゃんとここに帰って来れたのだと今改めて実感する。
一度皆と離れて気づいた。私はやっぱり皆と一緒に居たい。もうその想いは揺るがないことを心に決めた。
「皆集まったか?」
「はい!」
皆…私の恋人たちと会議室に集合する。
初めて入ったその部屋は大きい長テーブルが中央に、その両側に椅子ずらりと並び、奥の壁全面に設置された棚には書類や本が綺麗に収納されていた。
私の正面に座ったハインツさんが話し出す。
「まずはサキ、体調は大丈夫か?」
「はい、お陰様で。傷の痛みも少し無くなりました」
「そうか!良かった。それでこれからの事なんだが……」
ハインツさんが真剣な表情で部下たちを見る。
「今回サキが攫われるという事が起きた以上ここの警備もより強化しなければいけない。今までは守るものと言えば機密情報や資金くらいで建物内のセキュリティばかりだったからな」
「そうですね、人が危害を加えられるということを想定していませんでした」
「ああ、それは後日詳細を決めて少しずつ設備を整えていこうと思う」
そう言うとハインツさんは私のほうを向く。
「首謀者となったあの男には我々が出来る最大限の鉄槌を下す。同じようになりたい馬鹿はいないだろう」
その瞳にはだいぶ本気の怒りの炎が見えた。ハインツさんを怒らせたらだいぶ危険かも…。
黒騎士団が強いのは分かっていたつもりだったけど、きっと私の想像では追いつかない程なのだろう。
「サキ」
「は、はい!」
「絶対に守るから、これからもここに居て欲しい」
「!」
周りの皆も真剣な眼差しで頷いた。
「サキが俺たちと別れるって言うとは思っていないけど……」
「怖い思いをして……ここに、この世界に居るのが嫌になったらって」
リュークの言葉にラグトさんが続く。
私がトラウマを抱えてしまうのは辛いけど、それでも一緒に居たいと思ってる。そんな皆の気持ちをようやく理解した。
勿論日本に居たらこんな事件に巻き込まれることは無かっただろう。この世界は日本より危険なことも多いのだと思う。でも、私の一番安心出来る場所はこの黒騎士団なのだ。
「私、ずっとここに居たいです!」
「!」
「皆と過ごすこの場所が大好きなんです。絶対守ってくれるって信じてる」
「サキ……」
「それで…私決めたんです。もう元の世界には帰らない」
彼らの驚いた表情を受け止めながらも私は考えていたことをきちんと言葉にしようと前を向く。
「離れ離れになって、ここに戻ってきて分かったんです。私の帰る場所は黒騎士団の皆のところなんだって。あのね、まだ出会って1年も経ってないし、お互いの知らないことまだいっぱいあるし、急にこんなこと言われても困るかもだけど……っ」
感情が溢れて思わず立ち上がる。
「この世界で皆と生きていきたいの!」
ハッとしてあまりに大声で気持ちを押し付けてしまったことに焦る。
ど、どうしよ……わっ!?
隣に座っていたリュークが私を抱きしめた。
「ありがとうぅ……サキ……」
ミスカさんは堪らない表情で手を伸ばして私の頭を撫で、ラグトさんは真っ赤になり固まっていて、ヴェルストリアくんは机に顔を押し付けて泣いている。
「まさかサキのほうから言ってもらえるとは思っていなかった」
ハインツさんも心の底からの幸せそうな笑みを浮かべ私の手を取る。
「サキ、私たちと結婚してくれ」
けっ……こん……?
「結婚!?」
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