美醜逆転の異世界で騎士様たちに愛される

志季彩夜

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黒騎士団の本気

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「サキさんが攫われた!?」
「裏庭の方に向かったら男三人がサキさんを攫っていったんだ。今馬車を追跡しているが……。すぐに団長に連絡を!」
「わかった、皆急げ!全員に知らせろ!」

 黒騎士団内が大混乱になる中、ヴェルストリアもそれを知り愕然とした。サキはつい先程まで自分と一緒に居て別れた後だった。

「さ、サキさんを攫った奴は…服は分かりますか!?馬車は!?どんな……」
「ヴェルストリア、落ち着け」
「でも……!」
「一人はダメだ。団長の指示を待て」
「っ……」

 自分が付いていればこんなことにはならなかったかもしれないのに……。恋人なのに守れなかった。悔しさを噛み締めながらヴェルストリアはただ待つことしか出来なかった。

「今戻った!状況は」

 ハインツはようやく帰ろうというところでサキが攫われたという知らせを受けた。信じ難い事実に後悔と怒りが込み上げる。
 誰よりも速く馬を飛ばし黒騎士団へ戻る。リュークもその後に続いた。

「サキさんを攫ったのは三人の男。ただの雇われです。一人は捕らえましたが二人は馬車で逃走しました。現在追跡中です」
「どこぞのクズの貴族の仕業だろう。赤騎士団からサキの存在は漏れていたんだろうが、それが誰か……か」

 ハインツが強く拳を握る。一刻も早く助けなければという焦りが募っていく。

「雇われは吐いてないの?」
「素性を明かされずに金だけ渡されて受けたそうで、顔も何もわからないと」
「そっか、そいつらも出すとこ出すから。まだ殺すなよ」
「了解です」

 リュークも静かにだがとてつもなくキレていた。今、彼の気に触れたら一瞬で斬り捨てられるであろう鋭さを隊員たちは感じ取る。
 第三番隊も知らせを受けすぐに戻ってきた。ミスカとラグトは息を切らしている。

「サキちゃんのこと……マジなの……?」
「……ああ」
「ヴェルストリア、大丈夫だ。お前のせいじゃない」
「ミスカさん……」
「今考えるべきは助け出すことだ、いいな?」
「……はい」

 ラグトが頭を抱えてしゃがみこむ。

「こんな誰も居ない時狙うとか……卑怯すぎんだろ…」
「確かに最近は異常な程に仕事が来てましたね」

 ヴェルストリアの気づきにミスカも神妙な顔で頷く。

「今日の予定……仕組まれていたな」

 黒騎士団の中でも特に強いハインツ、ミスカ、リュークが不在の時。三番隊が遠征に行き敷地内の人数が三分の一と大幅に減る時、仕事が増え団員たちの体力が落ちている時、こんなに都合のいいタイミングが作れるだろうか。

「それが可能なのは、それなりに地位の高い貴族だ」

 位の高い貴族は政治にも関与していて大きな権力を持っている。敵に回すと随分厄介な相手だ。

「相手を絞れはしたけど」
「そのまま乗り込むのは黒騎士団としてのリスクが大きい」

 ミスカの言うことはもっともだった。しかし彼らに諦めると言う選択肢は毛頭ない。「殺る」なら徹底的に。元凶から全てを叩きのめしてしまえば良いだけのこと。
 ハインツが全員に告げる。

「サキを攫ったのは侯爵以上の貴族だ。第一番隊はそいつらの罪を全て洗い出せ。第二番隊は隠密で馬車とその後の痕跡を追跡。第三番隊は突入の準備だ。俺たちが動いていることを相手に悟られてはいけない。気を引き締めろ」

 女性の数が少なく大切に扱われる世の中ではあるが、その裏で子を成すために平民や身寄りのない女性が攫われて無理やりものにされるということもある。
 まだ周囲に知られておらず、しかもあの美貌を持つサキは格好の獲物となる。私たち以外にはバレず自分だけのものに出来るのだ。
 今まで黒騎士団の活躍は影に隠れていたため、その強さや情報網はあまり知られていない。圧力をかければこのまま泣き寝入りすると思っているのだろう。
 しかし今回のことが起きた以上、黒騎士団を敵に回すとどうなるか、彼女に手を出すとどうなるか世の中に知らしめる必要がある。

「総員、全力で取り掛かれ」
「「「はい!!」」」
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