38 / 184
黒騎士団の本気
しおりを挟む
「サキさんが攫われた!?」
「裏庭の方に向かったら男三人がサキさんを攫っていったんだ。今馬車を追跡しているが……。すぐに団長に連絡を!」
「わかった、皆急げ!全員に知らせろ!」
黒騎士団内が大混乱になる中、ヴェルストリアもそれを知り愕然とした。サキはつい先程まで自分と一緒に居て別れた後だった。
「さ、サキさんを攫った奴は…服は分かりますか!?馬車は!?どんな……」
「ヴェルストリア、落ち着け」
「でも……!」
「一人はダメだ。団長の指示を待て」
「っ……」
自分が付いていればこんなことにはならなかったかもしれないのに……。恋人なのに守れなかった。悔しさを噛み締めながらヴェルストリアはただ待つことしか出来なかった。
「今戻った!状況は」
ハインツはようやく帰ろうというところでサキが攫われたという知らせを受けた。信じ難い事実に後悔と怒りが込み上げる。
誰よりも速く馬を飛ばし黒騎士団へ戻る。リュークもその後に続いた。
「サキさんを攫ったのは三人の男。ただの雇われです。一人は捕らえましたが二人は馬車で逃走しました。現在追跡中です」
「どこぞのクズの貴族の仕業だろう。赤騎士団からサキの存在は漏れていたんだろうが、それが誰か……か」
ハインツが強く拳を握る。一刻も早く助けなければという焦りが募っていく。
「雇われは吐いてないの?」
「素性を明かされずに金だけ渡されて受けたそうで、顔も何もわからないと」
「そっか、そいつらも出すとこ出すから。まだ殺すなよ」
「了解です」
リュークも静かにだがとてつもなくキレていた。今、彼の気に触れたら一瞬で斬り捨てられるであろう鋭さを隊員たちは感じ取る。
第三番隊も知らせを受けすぐに戻ってきた。ミスカとラグトは息を切らしている。
「サキちゃんのこと……マジなの……?」
「……ああ」
「ヴェルストリア、大丈夫だ。お前のせいじゃない」
「ミスカさん……」
「今考えるべきは助け出すことだ、いいな?」
「……はい」
ラグトが頭を抱えてしゃがみこむ。
「こんな誰も居ない時狙うとか……卑怯すぎんだろ…」
「確かに最近は異常な程に仕事が来てましたね」
ヴェルストリアの気づきにミスカも神妙な顔で頷く。
「今日の予定……仕組まれていたな」
黒騎士団の中でも特に強いハインツ、ミスカ、リュークが不在の時。三番隊が遠征に行き敷地内の人数が三分の一と大幅に減る時、仕事が増え団員たちの体力が落ちている時、こんなに都合のいいタイミングが作れるだろうか。
「それが可能なのは、それなりに地位の高い貴族だ」
位の高い貴族は政治にも関与していて大きな権力を持っている。敵に回すと随分厄介な相手だ。
「相手を絞れはしたけど」
「そのまま乗り込むのは黒騎士団としてのリスクが大きい」
ミスカの言うことはもっともだった。しかし彼らに諦めると言う選択肢は毛頭ない。「殺る」なら徹底的に。元凶から全てを叩きのめしてしまえば良いだけのこと。
ハインツが全員に告げる。
「サキを攫ったのは侯爵以上の貴族だ。第一番隊はそいつらの罪を全て洗い出せ。第二番隊は隠密で馬車とその後の痕跡を追跡。第三番隊は突入の準備だ。俺たちが動いていることを相手に悟られてはいけない。気を引き締めろ」
女性の数が少なく大切に扱われる世の中ではあるが、その裏で子を成すために平民や身寄りのない女性が攫われて無理やりものにされるということもある。
まだ周囲に知られておらず、しかもあの美貌を持つサキは格好の獲物となる。私たち以外にはバレず自分だけのものに出来るのだ。
今まで黒騎士団の活躍は影に隠れていたため、その強さや情報網はあまり知られていない。圧力をかければこのまま泣き寝入りすると思っているのだろう。
しかし今回のことが起きた以上、黒騎士団を敵に回すとどうなるか、彼女に手を出すとどうなるか世の中に知らしめる必要がある。
「総員、全力で取り掛かれ」
「「「はい!!」」」
「裏庭の方に向かったら男三人がサキさんを攫っていったんだ。今馬車を追跡しているが……。すぐに団長に連絡を!」
「わかった、皆急げ!全員に知らせろ!」
黒騎士団内が大混乱になる中、ヴェルストリアもそれを知り愕然とした。サキはつい先程まで自分と一緒に居て別れた後だった。
「さ、サキさんを攫った奴は…服は分かりますか!?馬車は!?どんな……」
「ヴェルストリア、落ち着け」
「でも……!」
「一人はダメだ。団長の指示を待て」
「っ……」
自分が付いていればこんなことにはならなかったかもしれないのに……。恋人なのに守れなかった。悔しさを噛み締めながらヴェルストリアはただ待つことしか出来なかった。
「今戻った!状況は」
ハインツはようやく帰ろうというところでサキが攫われたという知らせを受けた。信じ難い事実に後悔と怒りが込み上げる。
誰よりも速く馬を飛ばし黒騎士団へ戻る。リュークもその後に続いた。
「サキさんを攫ったのは三人の男。ただの雇われです。一人は捕らえましたが二人は馬車で逃走しました。現在追跡中です」
「どこぞのクズの貴族の仕業だろう。赤騎士団からサキの存在は漏れていたんだろうが、それが誰か……か」
ハインツが強く拳を握る。一刻も早く助けなければという焦りが募っていく。
「雇われは吐いてないの?」
「素性を明かされずに金だけ渡されて受けたそうで、顔も何もわからないと」
「そっか、そいつらも出すとこ出すから。まだ殺すなよ」
「了解です」
リュークも静かにだがとてつもなくキレていた。今、彼の気に触れたら一瞬で斬り捨てられるであろう鋭さを隊員たちは感じ取る。
第三番隊も知らせを受けすぐに戻ってきた。ミスカとラグトは息を切らしている。
「サキちゃんのこと……マジなの……?」
「……ああ」
「ヴェルストリア、大丈夫だ。お前のせいじゃない」
「ミスカさん……」
「今考えるべきは助け出すことだ、いいな?」
「……はい」
ラグトが頭を抱えてしゃがみこむ。
「こんな誰も居ない時狙うとか……卑怯すぎんだろ…」
「確かに最近は異常な程に仕事が来てましたね」
ヴェルストリアの気づきにミスカも神妙な顔で頷く。
「今日の予定……仕組まれていたな」
黒騎士団の中でも特に強いハインツ、ミスカ、リュークが不在の時。三番隊が遠征に行き敷地内の人数が三分の一と大幅に減る時、仕事が増え団員たちの体力が落ちている時、こんなに都合のいいタイミングが作れるだろうか。
「それが可能なのは、それなりに地位の高い貴族だ」
位の高い貴族は政治にも関与していて大きな権力を持っている。敵に回すと随分厄介な相手だ。
「相手を絞れはしたけど」
「そのまま乗り込むのは黒騎士団としてのリスクが大きい」
ミスカの言うことはもっともだった。しかし彼らに諦めると言う選択肢は毛頭ない。「殺る」なら徹底的に。元凶から全てを叩きのめしてしまえば良いだけのこと。
ハインツが全員に告げる。
「サキを攫ったのは侯爵以上の貴族だ。第一番隊はそいつらの罪を全て洗い出せ。第二番隊は隠密で馬車とその後の痕跡を追跡。第三番隊は突入の準備だ。俺たちが動いていることを相手に悟られてはいけない。気を引き締めろ」
女性の数が少なく大切に扱われる世の中ではあるが、その裏で子を成すために平民や身寄りのない女性が攫われて無理やりものにされるということもある。
まだ周囲に知られておらず、しかもあの美貌を持つサキは格好の獲物となる。私たち以外にはバレず自分だけのものに出来るのだ。
今まで黒騎士団の活躍は影に隠れていたため、その強さや情報網はあまり知られていない。圧力をかければこのまま泣き寝入りすると思っているのだろう。
しかし今回のことが起きた以上、黒騎士団を敵に回すとどうなるか、彼女に手を出すとどうなるか世の中に知らしめる必要がある。
「総員、全力で取り掛かれ」
「「「はい!!」」」
277
お気に入りに追加
1,120
あなたにおすすめの小説
異世界の美醜と私の認識について
佐藤 ちな
恋愛
ある日気づくと、美玲は異世界に落ちた。
そこまでならラノベなら良くある話だが、更にその世界は女性が少ない上に、美醜感覚が美玲とは激しく異なるという不思議な世界だった。
そんな世界で稀人として特別扱いされる醜女(この世界では超美人)の美玲と、咎人として忌み嫌われる醜男(美玲がいた世界では超美青年)のルークが出会う。
不遇の扱いを受けるルークを、幸せにしてあげたい!そして出来ることなら、私も幸せに!
美醜逆転・一妻多夫の異世界で、美玲の迷走が始まる。
* 話の展開に伴い、あらすじを変更させて頂きました。

美醜逆転異世界で、非モテなのに前向きな騎士様が素敵です
花野はる
恋愛
先祖返りで醜い容貌に生まれてしまったセドリック・ローランド、18歳は非モテの騎士副団長。
けれども曽祖父が同じ醜さでありながら、愛する人と幸せな一生を送ったと祖父から聞いて育ったセドリックは、顔を隠すことなく前向きに希望を持って生きている。けれどやはりこの世界の女性からは忌み嫌われ、中身を見ようとしてくれる人はいない。
そんな中、セドリックの元に異世界の稀人がやって来た!外見はこんなでも、中身で勝負し、専属護衛になりたいと頑張るセドリックだが……。
醜いイケメン騎士とぽっちゃり喪女のラブストーリーです。
多分短い話になると思われます。
サクサク読めるように、一話ずつを短めにしてみました。

4度目の転生、メイドになった貧乏子爵令嬢は『今度こそ恋をする!』と決意したのに次期公爵様の溺愛に気づけない?!
六花心碧
恋愛
恋に落ちたらEND。
そんな人生を3回も繰り返してきたアリシア。
『今度こそ私、恋をします!』
そう心に決めて新たな人生をスタートしたものの、(アリシアが勝手に)恋をするお相手の次期公爵様は極度な女嫌いだった。
恋するときめきを味わいたい。
果たしてアリシアの平凡な願いは叶うのか……?!
(外部URLで登録していたものを改めて登録しました! ◇他サイト様でも公開中です)

転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~
月
恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん)
は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。
しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!?
(もしかして、私、転生してる!!?)
そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!!
そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?
旦那様が多すぎて困っています!? 〜逆ハー異世界ラブコメ〜
ことりとりとん
恋愛
男女比8:1の逆ハーレム異世界に転移してしまった女子大生・大森泉
転移早々旦那さんが6人もできて、しかも魔力無限チートがあると教えられて!?
のんびりまったり暮らしたいのにいつの間にか国を救うハメになりました……
イケメン山盛りの逆ハーです
前半はラブラブまったりの予定。後半で主人公が頑張ります
小説家になろう、カクヨムに転載しています

ただ貴方の傍にいたい〜醜いイケメン騎士と異世界の稀人
花野はる
恋愛
日本で暮らす相川花純は、成人の思い出として、振袖姿を残そうと写真館へやって来た。
そこで着飾り、いざ撮影室へ足を踏み入れたら異世界へ転移した。
森の中で困っていると、仮面の騎士が助けてくれた。その騎士は騎士団の団長様で、すごく素敵なのに醜くて仮面を被っていると言う。
孤独な騎士と異世界でひとりぼっちになった花純の一途な恋愛ストーリー。
初投稿です。よろしくお願いします。

異世界転生〜色いろあって世界最強!?〜
野の木
恋愛
気付いたら、見知らぬ場所に。
生まれ変わった?ここって異世界!?
しかも家族全員美男美女…なのになんで私だけ黒髪黒眼平凡顔の前世の姿のままなの!?
えっ、絶世の美女?黒は美人の証?
いやいや、この世界の人って目悪いの?
前世の記憶を持ったまま異世界転生した主人公。
しかもそこは、色により全てが決まる世界だった!?

私は女神じゃありません!!〜この世界の美的感覚はおかしい〜
朝比奈
恋愛
年齢=彼氏いない歴な平凡かつ地味顔な私はある日突然美的感覚がおかしい異世界にトリップしてしまったようでして・・・。
(この世界で私はめっちゃ美人ってどゆこと??)
これは主人公が美的感覚が違う世界で醜い男(私にとってイケメン)に恋に落ちる物語。
所々、意味が違うのに使っちゃってる言葉とかあれば教えて下さると幸いです。
暇つぶしにでも呼んでくれると嬉しいです。
※休載中
(4月5日前後から投稿再開予定です)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる