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すれ違い
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執務室へ向かう途中でため息が出る。嫌とかでは無くて、緊張しすぎてしまっているのだ。
どうしよう、告白…まだ勇気が出ないな…。
そもそも今とても忙しい中で、告白なんて場合でも無いのかも知れない。
それでも彼に会いたくて来てしまっているのだが、会っても意識してしまって上手く接することが出来るのかという心配もある。
色々考えながらも勇気を出して扉をノックする。
「ハインツさん…?」
いつもはすぐに扉の前まで来てくれるのに、今日は返事がない。
そっと扉を開けるとハインツさんが作業台の上で突っ伏しているのが見えた。
慌てて駆け寄り様子を見ると、小さな寝息が聞こえる。倒れている訳ではなくて良かった。
仮眠もあまりしないと言っていた彼が寝てしまうなんて、余程疲れていたのだろうか。
肩に薄手のブランケットを掛け、ふと傍に置かれた物に気づく。
「これ…私の作ったお菓子…」
食べながらお仕事してくれてたんだ…。
忙しい時に少しでも役に立てているのかもと思うと凄く嬉しい。
もっと何かしてあげたい、喜んで欲しい、傍に居たい。
「起きて…くれないかな」
目を見て、お話したい。
でも、彼の邪魔は出来ない。今日もお菓子を渡してすぐに戻るつもりだった。
ソファの前の机に持ってきたお菓子と飲み物を置き、私は静かに執務室を後にした。
アイスティーの氷、溶けちゃうかも。
私はずっとハインツさんに気持ちを伝えることが出来なかった。
「はぁ…結構眠ってしまっていたな…」
ここ最近は特に忙しい。
もともと動物たちが活発に動くこともあってその対応で忙しい時期ではあるが、ここまででは無かった。
しかも、この黒騎士団の管轄では無い地域の暴動や戦闘などにも呼ばれている。それがあまりにも緊急性のあるものばかりだから私たちが動かないと被害が格段に大きくなってしまい、結局仕事が増えているのだ。
団員たちにも負荷をかけてしまって申し訳ないが、彼らのお陰でなんとかこなすことが出来ている。
目頭を抑えまた仕事に戻ろうと思ったが、肩に掛けられたものに気づく。
机の上にもお菓子と飲み物がある。
「来てくれていたのか…」
全く気付かなかった。
基本眠りは浅く、殺気などを感じたらすぐに起きるようにしている。誰かが近くに来た時も思わず目が覚めてしまうことが多い。
しかし、ブランケットまで掛けられて気付かないとは…むしろ途中から何故か安心して眠っていた気がする。
サキが持ってきてくれたお菓子を見ると、人参のクッキー。
私が気に入ったと言ったら彼女はよく作ってきてくれた。相変わらず生の人参は食べれないが、サキの作るお菓子であればいくらでも食べれてしまう。
ありがとうとお礼を言いたかった。しかし、サキは寝ている私に気を使って起こさずにいてくれたのだろう。
「ああ…本当に…好きだな…」
私は何度もサキのことが好きなのだと自覚する。
そして、サキが彼らと付き合っていることも知っている。
どうやら私には隠したい様子だが、まあ何となく分かる。リュークもサキの話になると挙動不審だしな。
ここに居る皆は少なからず心に傷を抱えている。でも、彼女が来てくれてから彼らは救われた。サキもあの四人の良いところを知って、受け入れたのだろう。
嬉しいんだ。大切な部下たちが幸せになってくれるのはとても喜ばしいこと。
だからこそ申し訳ない。サキはわざわざ私の為に時間を割いてくれている。きっと恋人と一緒に居たいだろうに。
私は彼女の好意に甘え過ぎていたんだ。
「諦める時が来たんだな…」
私はこれからもずっとサキしか好きにならない。それならば彼女の幸せを願って潔く…。
ぬるく薄まった紅茶をグッと飲み干して作業台へ戻る。
今まで甘かったはずのお菓子は何故か少し苦く感じた。
どうしよう、告白…まだ勇気が出ないな…。
そもそも今とても忙しい中で、告白なんて場合でも無いのかも知れない。
それでも彼に会いたくて来てしまっているのだが、会っても意識してしまって上手く接することが出来るのかという心配もある。
色々考えながらも勇気を出して扉をノックする。
「ハインツさん…?」
いつもはすぐに扉の前まで来てくれるのに、今日は返事がない。
そっと扉を開けるとハインツさんが作業台の上で突っ伏しているのが見えた。
慌てて駆け寄り様子を見ると、小さな寝息が聞こえる。倒れている訳ではなくて良かった。
仮眠もあまりしないと言っていた彼が寝てしまうなんて、余程疲れていたのだろうか。
肩に薄手のブランケットを掛け、ふと傍に置かれた物に気づく。
「これ…私の作ったお菓子…」
食べながらお仕事してくれてたんだ…。
忙しい時に少しでも役に立てているのかもと思うと凄く嬉しい。
もっと何かしてあげたい、喜んで欲しい、傍に居たい。
「起きて…くれないかな」
目を見て、お話したい。
でも、彼の邪魔は出来ない。今日もお菓子を渡してすぐに戻るつもりだった。
ソファの前の机に持ってきたお菓子と飲み物を置き、私は静かに執務室を後にした。
アイスティーの氷、溶けちゃうかも。
私はずっとハインツさんに気持ちを伝えることが出来なかった。
「はぁ…結構眠ってしまっていたな…」
ここ最近は特に忙しい。
もともと動物たちが活発に動くこともあってその対応で忙しい時期ではあるが、ここまででは無かった。
しかも、この黒騎士団の管轄では無い地域の暴動や戦闘などにも呼ばれている。それがあまりにも緊急性のあるものばかりだから私たちが動かないと被害が格段に大きくなってしまい、結局仕事が増えているのだ。
団員たちにも負荷をかけてしまって申し訳ないが、彼らのお陰でなんとかこなすことが出来ている。
目頭を抑えまた仕事に戻ろうと思ったが、肩に掛けられたものに気づく。
机の上にもお菓子と飲み物がある。
「来てくれていたのか…」
全く気付かなかった。
基本眠りは浅く、殺気などを感じたらすぐに起きるようにしている。誰かが近くに来た時も思わず目が覚めてしまうことが多い。
しかし、ブランケットまで掛けられて気付かないとは…むしろ途中から何故か安心して眠っていた気がする。
サキが持ってきてくれたお菓子を見ると、人参のクッキー。
私が気に入ったと言ったら彼女はよく作ってきてくれた。相変わらず生の人参は食べれないが、サキの作るお菓子であればいくらでも食べれてしまう。
ありがとうとお礼を言いたかった。しかし、サキは寝ている私に気を使って起こさずにいてくれたのだろう。
「ああ…本当に…好きだな…」
私は何度もサキのことが好きなのだと自覚する。
そして、サキが彼らと付き合っていることも知っている。
どうやら私には隠したい様子だが、まあ何となく分かる。リュークもサキの話になると挙動不審だしな。
ここに居る皆は少なからず心に傷を抱えている。でも、彼女が来てくれてから彼らは救われた。サキもあの四人の良いところを知って、受け入れたのだろう。
嬉しいんだ。大切な部下たちが幸せになってくれるのはとても喜ばしいこと。
だからこそ申し訳ない。サキはわざわざ私の為に時間を割いてくれている。きっと恋人と一緒に居たいだろうに。
私は彼女の好意に甘え過ぎていたんだ。
「諦める時が来たんだな…」
私はこれからもずっとサキしか好きにならない。それならば彼女の幸せを願って潔く…。
ぬるく薄まった紅茶をグッと飲み干して作業台へ戻る。
今まで甘かったはずのお菓子は何故か少し苦く感じた。
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