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嫌な予感
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ここ数日、恋人たちも時間が取れないようでなかなか会えない日々が続いた。
夏の暑さが少し和らぎ心地良いはずなのに気持ちは晴れない。
食堂に来てくれる人は皆明るく振舞ってくれるけど、やっぱり疲れた顔をしているし、今日は十人程しか来ていなかった。
ミスカさんとラグトさんたち第三番隊は急に遠征に行くことになり昨日慌ただしく出ていってしまったし、ハインツさんはお偉い方に呼ばれてリュークもそのお供として昼から向かっていった。
なんか皆バラバラだな…。
なんとなく感じていた嫌な予感が、まさに今日当たってしまうとは思いもしなかった。
もうすぐハインツさんとリューク帰ってくるかな…?
だいぶ帰りが遅い二人が心配になる。
いつもこの時間は目の前の訓練場もまだ団員たちが居る時間なのに今は誰一人居なくて、なんだか寂しくなった。
オレンジ色の夕日が沈み暗闇に変わろうというその時、突然腕に痛みが走った。
「いった…ぃ!」
見ると細い針の様な物が二の腕に刺さっている。これが何かを考える余裕もなく、もう片方の腕を誰かに掴まれる。
「こいつか」
「ああ、こんな美人だ。間違えようがない」
黒い布で口元を隠した男たち三人がいつのまにか私の周りを囲っていた。
「やめ…はなし…て」
体の力がどんどん抜けていき、叫びたくても声が出ない。目の前がぼやけていく。
全身の力が抜け座り込んだ私を男の一人が抱える。
「よし、連れてくぞ」
誰なの?連れてくってどこに?なんで私を…?
そう考えている間に男たちは急いで塀を登る。そこに二人の団員がちょうどやって来てこちらに気づく。
「サキさん!?」
「お前ら何してっ…!」
剣を抜いて斬りかかるが一歩遅く、私は馬車の荷台に押し込まれた。
「急げ!ずらかるぞ!」
腕の針は抜かれたが身体は動かず、手首と足首を縄で縛られた。馬車の荷台の扉は閉められ、ただ馬車の走る振動に揺れることしか出来なかった。瞼がどんどん閉じていき、私は意識を手放した。
…手足が…痺れて…る。
目が覚めたら、私は大きなベッドの上に寝かせられていた。縛られていた縄は解かれているが先程の毒のようなものの痺れが腕とふくらはぎ辺りにまだ残っている。
力を振り絞って起き上がると足元の違和感とジャランと鳴る音に気づく。片足首が鎖でこの天幕付きベッドの柱に繋がれていた。
「ああ!目が覚めたかい!」
「!」
扉から一人の男が入ってきた。小太りで派手な服を着ている、あからさまに貴族な男。
私はすぐさま警戒したが体は反応できず、天幕の柱をなんとか掴んでじりじりと後ろに下がった。
「瞳も黒いとは本当だったんだね!美しい…こんなに美しい人がいるだなんて、もっと早くに出会いたかった。黒騎士団の奴らなんかよりね」
「っ…貴方は誰ですか!私を黒騎士団の元へ返してください!」
「何故だ?あんな掃き溜めのようなところに居ても辛いだけだろう」
黒騎士団のことを酷く言われて恐怖よりも怒りが湧いてくる。睨みつけると男は私を宥めるように笑った。
「そう警戒しなくていい。私はキルア・ノクダーム。この国の侯爵の中では一番権力があると言っていい。しかしまだ結婚はしていなくてね。君の存在を知って、運命だと思ったんだ」
「は…どういうこと…」
「私なら君を幸せに出来る。私と結婚してくれ!」
「嫌です」
「まぁ、少々無理やり連れてきてしまったからね。驚くのも無理は無いさ。時間をあげるよ。ゆっくり考えてくれ」
「待っ…」
上機嫌でキルアという男は去っていった。
全く話を聞かないところを見るといつしかの誰かを思い出す。貴族というのは皆あんな感じなのか。
早くここから出なきゃ。
そう思い足枷を外そうとしたがどうやら鍵が必要で、もがいても足首が赤く擦れるだけだった。
ベッドから出ようとしても手足が痺れているせいで上手く体勢が取れず腕から床に落ちてしまう。
「う…っ…」
這いつくばって上を向くと窓の外は暗闇。
皆どうしているだろう。きっと凄く心配している。
この世界に来てから皆と離れたことは一度も無くて、急に一人になった不安と孤独に蝕まれる。
でも、絶対助けに来てくれる、そう信じてる。
心にかかった黒いもやをかき消すように頭を振り、手に力を込める。
大好きな彼らのことを思い、泣き出しそうな心を必死に押し殺した。
夏の暑さが少し和らぎ心地良いはずなのに気持ちは晴れない。
食堂に来てくれる人は皆明るく振舞ってくれるけど、やっぱり疲れた顔をしているし、今日は十人程しか来ていなかった。
ミスカさんとラグトさんたち第三番隊は急に遠征に行くことになり昨日慌ただしく出ていってしまったし、ハインツさんはお偉い方に呼ばれてリュークもそのお供として昼から向かっていった。
なんか皆バラバラだな…。
なんとなく感じていた嫌な予感が、まさに今日当たってしまうとは思いもしなかった。
もうすぐハインツさんとリューク帰ってくるかな…?
だいぶ帰りが遅い二人が心配になる。
いつもこの時間は目の前の訓練場もまだ団員たちが居る時間なのに今は誰一人居なくて、なんだか寂しくなった。
オレンジ色の夕日が沈み暗闇に変わろうというその時、突然腕に痛みが走った。
「いった…ぃ!」
見ると細い針の様な物が二の腕に刺さっている。これが何かを考える余裕もなく、もう片方の腕を誰かに掴まれる。
「こいつか」
「ああ、こんな美人だ。間違えようがない」
黒い布で口元を隠した男たち三人がいつのまにか私の周りを囲っていた。
「やめ…はなし…て」
体の力がどんどん抜けていき、叫びたくても声が出ない。目の前がぼやけていく。
全身の力が抜け座り込んだ私を男の一人が抱える。
「よし、連れてくぞ」
誰なの?連れてくってどこに?なんで私を…?
そう考えている間に男たちは急いで塀を登る。そこに二人の団員がちょうどやって来てこちらに気づく。
「サキさん!?」
「お前ら何してっ…!」
剣を抜いて斬りかかるが一歩遅く、私は馬車の荷台に押し込まれた。
「急げ!ずらかるぞ!」
腕の針は抜かれたが身体は動かず、手首と足首を縄で縛られた。馬車の荷台の扉は閉められ、ただ馬車の走る振動に揺れることしか出来なかった。瞼がどんどん閉じていき、私は意識を手放した。
…手足が…痺れて…る。
目が覚めたら、私は大きなベッドの上に寝かせられていた。縛られていた縄は解かれているが先程の毒のようなものの痺れが腕とふくらはぎ辺りにまだ残っている。
力を振り絞って起き上がると足元の違和感とジャランと鳴る音に気づく。片足首が鎖でこの天幕付きベッドの柱に繋がれていた。
「ああ!目が覚めたかい!」
「!」
扉から一人の男が入ってきた。小太りで派手な服を着ている、あからさまに貴族な男。
私はすぐさま警戒したが体は反応できず、天幕の柱をなんとか掴んでじりじりと後ろに下がった。
「瞳も黒いとは本当だったんだね!美しい…こんなに美しい人がいるだなんて、もっと早くに出会いたかった。黒騎士団の奴らなんかよりね」
「っ…貴方は誰ですか!私を黒騎士団の元へ返してください!」
「何故だ?あんな掃き溜めのようなところに居ても辛いだけだろう」
黒騎士団のことを酷く言われて恐怖よりも怒りが湧いてくる。睨みつけると男は私を宥めるように笑った。
「そう警戒しなくていい。私はキルア・ノクダーム。この国の侯爵の中では一番権力があると言っていい。しかしまだ結婚はしていなくてね。君の存在を知って、運命だと思ったんだ」
「は…どういうこと…」
「私なら君を幸せに出来る。私と結婚してくれ!」
「嫌です」
「まぁ、少々無理やり連れてきてしまったからね。驚くのも無理は無いさ。時間をあげるよ。ゆっくり考えてくれ」
「待っ…」
上機嫌でキルアという男は去っていった。
全く話を聞かないところを見るといつしかの誰かを思い出す。貴族というのは皆あんな感じなのか。
早くここから出なきゃ。
そう思い足枷を外そうとしたがどうやら鍵が必要で、もがいても足首が赤く擦れるだけだった。
ベッドから出ようとしても手足が痺れているせいで上手く体勢が取れず腕から床に落ちてしまう。
「う…っ…」
這いつくばって上を向くと窓の外は暗闇。
皆どうしているだろう。きっと凄く心配している。
この世界に来てから皆と離れたことは一度も無くて、急に一人になった不安と孤独に蝕まれる。
でも、絶対助けに来てくれる、そう信じてる。
心にかかった黒いもやをかき消すように頭を振り、手に力を込める。
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