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彼の目線
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「あれ、いつもより人が少ない……」
いつも満席だった食堂は今日はまばらに空いている。
「あ、サキさん。今日は二番隊の奴ら結構外に出ちまってて、他も色々忙しいらしくてさ。暫くはこの状態かもしれないっすね」
傍に座っていた騎士さんが教えてくれる。
「そうなんですね……」
「余った飯は俺たちが食べるんで!」
「ええ!気にせず今まで通り作ってください!」
皆明るく声をかけてくれる。
「ふふ、ありがとうございます。いっぱい食べてくださいね」
「「!!」」
「俺おかわりしてくる!」
「ふっ、僕の出番のようだ……」
「天使に言われちゃ食うしかないぜ」
「いやもう無くなってるじゃん!?」
相変わらず賑やかではあるが、やはり人が少ないと寂しく感じる。
なにか……あったのかな?
片付けを終えてもなんとなく気になってしまう。
「サキさん、何かありましたか?」
「ううん!皆が忙しいみたいだから心配で……。ヴェルストリアくん何か知ってる?」
「そうですね……僕も入団してからこんなに忙しいのは初めてで、上司からも何も聞かされていませんので……」
「そっか……ヴェルストリアくんも無理しないでね」
「はい……!ありがとうございます」
お昼頃、訓練場の前を通りがかると三番隊の皆が居た。
「サキさん!こんにちは」
「こんにちは、今は休憩中ですか?」
「そうです!流石に暑いからミスカ隊長がこまめに休憩入れてくれて」
強い日差しを浴びて激しい運動をしているから、皆も汗をかいてクタクタになっている。
「良かったら飲み物要りませんか?この前のジュースまた作ってあるので」
「え!マジすか!今めっちゃ飲みたい」
「じゃあ皆さんの分持ってきますね」
急いで食堂へ行き十人分を分けてバッグに入れる。
皆頑張ってるなぁ、またいっぱい作っておこう!
流石に量が多く重たくなってしまってよいしょと持ち上げて運んでいると、いきなり肩が軽くなる。見るとミスカさんがバッグを持ってくれていた。
「ありがとうございます!」
「こんなに重いものを持ってどうしたんだ?」
「三番隊の皆さんに飲み物をと思って」
「そうか、ありがとう」
ミスカさんに運んでもらって一緒に訓練場に戻る。
「わ、隊長!す、すみません……俺がサキさんに頼んだのに気が利かなくて……」
「いや、いい」
「え」
「俺がやるから」
「……なぁ、隊長なんで怒らないんだ?」
「お前分かってないな、隊長はサキさんの役に立てて嬉しいんだろ」
「そっかぁ……ありがとうございますサキさん…」
拝むように手を合わせている二人には気付かず、私は皆にジュースを配る。
「ミスカさんもどうぞ」
「ああ、これは本当に美味しい。俺も好きだ」
「!……わ、私もす……気に入ってるんです」
好きという単語に反応してしまった自分が恥ずかしい。そんな私を見てミスカさんは少し屈んで顔を近づける。
「あと二時間で終わる。その後少しだけ会えないか?」
「っ……はい!待ってます!」
その後ワクワクしながら長く感じる時間を過ごし、裏庭でミスカさんと待ち合わせする。
「ミスカさん、お疲れ様です!」
「サキ」
小さく口角を上げたミスカさんは私の頭を優しく撫でた。私は彼のもう片方の手を両手で繋ぐ。
「会うと触れたくなってしまうな」
「はい……自分で決めたことなのに……どうしてももどかしいです」
「まあ少し我慢するくらいがいいのかもしれないが」
「ふふ、そうかもですね」
二人で花壇の花を眺め、育て方を教えてもらったりしていた。ふと立ち上がったミスカさんを見て思う。
「ミスカさんやっぱり背が高いですね」
「まあここまで高い奴は珍しい。……怖いか?」
「いえ!そうじゃなくて、目線が高いから見える景色が違いますよね。前に馬に乗せてもらった時に凄く感動しちゃって!なんか……こう、太陽が近い?感じです!」
「ふっ……はは!サキは本当に可愛い……」
「っ!」
口を開けて笑うミスカさんを初めて見て、思わず息を止めてしまうくらい胸がキュンと鳴った。
嬉しい……笑ってくれた……。
「また一緒に馬に乗るか」
「はい!」
「それまではこれで我慢してくれ」
「……?」
どういう意味だろうと思っていると、ミスカさんは私の足と腰を抱え持ち上げた。
「わっ」
抱っこされて彼と同じ目線になる。
「すごい!ミスカさんの見る景色……綺麗!」
「そうか?サキが言うとそう見えてくるな」
私が「地面が遠い!」とか「木の上に手が届く!」とか一人ではしゃいでてもミスカさんはずっと安定して私を抱えててくれた。
流石にそろそろ迷惑かと思いミスカさんの方を向くと、思っていたより顔が近かった。
「!」
「……サキ」
いつもは見上げていたから……不思議な感じ。
私を真っ直ぐ見つめる水色の瞳。
ミスカさんの顔が近づいて、私は目を閉じた。
ちゅっ、と小さな音が聞こえて唇に触れていた温もりが離れていく。
目をそっと開けると、嬉しそうな彼の姿。
「やっと出来た」
「っ…はい……」
照れてしまってミスカさんの肩に顔を埋める。
「サキの初めてはヴェルストリアに取られてしまったからな。代わりにもっとしないと気が済まない」
「……ミスカさんは……初めて?」
「ああ、俺が今まで出来るわけが無い」
「初めて、嬉しいです」
「!」
私は顔を上げ彼の頬に軽くキスをした。
「今日はこれで我慢してください……」
「っ……ああ、ありがとう」
ミスカさんは私を降ろすと、おでこに小さくキスを返してくれた。
「すまない。もう行かなくては」
「いいえ、少しでも会えて嬉しいです。ありがとうございます」
名残惜しそうに私の髪に少し触れ、ミスカさんは戻って行った。
……ミスカさんの……初めてのキス……。
少し乾燥した唇が私の口を塞いで……たった三秒程。何度も思い出して反芻してしまう。
彼の初めてを私にくれたのだと思うと堪らなく嬉しい。
「どうしよう、もう会いたくなっちゃった……」
いつも満席だった食堂は今日はまばらに空いている。
「あ、サキさん。今日は二番隊の奴ら結構外に出ちまってて、他も色々忙しいらしくてさ。暫くはこの状態かもしれないっすね」
傍に座っていた騎士さんが教えてくれる。
「そうなんですね……」
「余った飯は俺たちが食べるんで!」
「ええ!気にせず今まで通り作ってください!」
皆明るく声をかけてくれる。
「ふふ、ありがとうございます。いっぱい食べてくださいね」
「「!!」」
「俺おかわりしてくる!」
「ふっ、僕の出番のようだ……」
「天使に言われちゃ食うしかないぜ」
「いやもう無くなってるじゃん!?」
相変わらず賑やかではあるが、やはり人が少ないと寂しく感じる。
なにか……あったのかな?
片付けを終えてもなんとなく気になってしまう。
「サキさん、何かありましたか?」
「ううん!皆が忙しいみたいだから心配で……。ヴェルストリアくん何か知ってる?」
「そうですね……僕も入団してからこんなに忙しいのは初めてで、上司からも何も聞かされていませんので……」
「そっか……ヴェルストリアくんも無理しないでね」
「はい……!ありがとうございます」
お昼頃、訓練場の前を通りがかると三番隊の皆が居た。
「サキさん!こんにちは」
「こんにちは、今は休憩中ですか?」
「そうです!流石に暑いからミスカ隊長がこまめに休憩入れてくれて」
強い日差しを浴びて激しい運動をしているから、皆も汗をかいてクタクタになっている。
「良かったら飲み物要りませんか?この前のジュースまた作ってあるので」
「え!マジすか!今めっちゃ飲みたい」
「じゃあ皆さんの分持ってきますね」
急いで食堂へ行き十人分を分けてバッグに入れる。
皆頑張ってるなぁ、またいっぱい作っておこう!
流石に量が多く重たくなってしまってよいしょと持ち上げて運んでいると、いきなり肩が軽くなる。見るとミスカさんがバッグを持ってくれていた。
「ありがとうございます!」
「こんなに重いものを持ってどうしたんだ?」
「三番隊の皆さんに飲み物をと思って」
「そうか、ありがとう」
ミスカさんに運んでもらって一緒に訓練場に戻る。
「わ、隊長!す、すみません……俺がサキさんに頼んだのに気が利かなくて……」
「いや、いい」
「え」
「俺がやるから」
「……なぁ、隊長なんで怒らないんだ?」
「お前分かってないな、隊長はサキさんの役に立てて嬉しいんだろ」
「そっかぁ……ありがとうございますサキさん…」
拝むように手を合わせている二人には気付かず、私は皆にジュースを配る。
「ミスカさんもどうぞ」
「ああ、これは本当に美味しい。俺も好きだ」
「!……わ、私もす……気に入ってるんです」
好きという単語に反応してしまった自分が恥ずかしい。そんな私を見てミスカさんは少し屈んで顔を近づける。
「あと二時間で終わる。その後少しだけ会えないか?」
「っ……はい!待ってます!」
その後ワクワクしながら長く感じる時間を過ごし、裏庭でミスカさんと待ち合わせする。
「ミスカさん、お疲れ様です!」
「サキ」
小さく口角を上げたミスカさんは私の頭を優しく撫でた。私は彼のもう片方の手を両手で繋ぐ。
「会うと触れたくなってしまうな」
「はい……自分で決めたことなのに……どうしてももどかしいです」
「まあ少し我慢するくらいがいいのかもしれないが」
「ふふ、そうかもですね」
二人で花壇の花を眺め、育て方を教えてもらったりしていた。ふと立ち上がったミスカさんを見て思う。
「ミスカさんやっぱり背が高いですね」
「まあここまで高い奴は珍しい。……怖いか?」
「いえ!そうじゃなくて、目線が高いから見える景色が違いますよね。前に馬に乗せてもらった時に凄く感動しちゃって!なんか……こう、太陽が近い?感じです!」
「ふっ……はは!サキは本当に可愛い……」
「っ!」
口を開けて笑うミスカさんを初めて見て、思わず息を止めてしまうくらい胸がキュンと鳴った。
嬉しい……笑ってくれた……。
「また一緒に馬に乗るか」
「はい!」
「それまではこれで我慢してくれ」
「……?」
どういう意味だろうと思っていると、ミスカさんは私の足と腰を抱え持ち上げた。
「わっ」
抱っこされて彼と同じ目線になる。
「すごい!ミスカさんの見る景色……綺麗!」
「そうか?サキが言うとそう見えてくるな」
私が「地面が遠い!」とか「木の上に手が届く!」とか一人ではしゃいでてもミスカさんはずっと安定して私を抱えててくれた。
流石にそろそろ迷惑かと思いミスカさんの方を向くと、思っていたより顔が近かった。
「!」
「……サキ」
いつもは見上げていたから……不思議な感じ。
私を真っ直ぐ見つめる水色の瞳。
ミスカさんの顔が近づいて、私は目を閉じた。
ちゅっ、と小さな音が聞こえて唇に触れていた温もりが離れていく。
目をそっと開けると、嬉しそうな彼の姿。
「やっと出来た」
「っ…はい……」
照れてしまってミスカさんの肩に顔を埋める。
「サキの初めてはヴェルストリアに取られてしまったからな。代わりにもっとしないと気が済まない」
「……ミスカさんは……初めて?」
「ああ、俺が今まで出来るわけが無い」
「初めて、嬉しいです」
「!」
私は顔を上げ彼の頬に軽くキスをした。
「今日はこれで我慢してください……」
「っ……ああ、ありがとう」
ミスカさんは私を降ろすと、おでこに小さくキスを返してくれた。
「すまない。もう行かなくては」
「いいえ、少しでも会えて嬉しいです。ありがとうございます」
名残惜しそうに私の髪に少し触れ、ミスカさんは戻って行った。
……ミスカさんの……初めてのキス……。
少し乾燥した唇が私の口を塞いで……たった三秒程。何度も思い出して反芻してしまう。
彼の初めてを私にくれたのだと思うと堪らなく嬉しい。
「どうしよう、もう会いたくなっちゃった……」
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