美醜逆転の異世界で騎士様たちに愛される

志季彩夜

文字の大きさ
上 下
32 / 184

彼の目線

しおりを挟む
「あれ、いつもより人が少ない……」

 いつも満席だった食堂は今日はまばらに空いている。

「あ、サキさん。今日は二番隊の奴ら結構外に出ちまってて、他も色々忙しいらしくてさ。暫くはこの状態かもしれないっすね」

 傍に座っていた騎士さんが教えてくれる。

「そうなんですね……」
「余った飯は俺たちが食べるんで!」
「ええ!気にせず今まで通り作ってください!」

 皆明るく声をかけてくれる。

「ふふ、ありがとうございます。いっぱい食べてくださいね」
「「!!」」
「俺おかわりしてくる!」
「ふっ、僕の出番のようだ……」
「天使に言われちゃ食うしかないぜ」
「いやもう無くなってるじゃん!?」

 相変わらず賑やかではあるが、やはり人が少ないと寂しく感じる。
 なにか……あったのかな?
 片付けを終えてもなんとなく気になってしまう。

「サキさん、何かありましたか?」
「ううん!皆が忙しいみたいだから心配で……。ヴェルストリアくん何か知ってる?」
「そうですね……僕も入団してからこんなに忙しいのは初めてで、上司からも何も聞かされていませんので……」
「そっか……ヴェルストリアくんも無理しないでね」
「はい……!ありがとうございます」


 お昼頃、訓練場の前を通りがかると三番隊の皆が居た。

「サキさん!こんにちは」
「こんにちは、今は休憩中ですか?」
「そうです!流石に暑いからミスカ隊長がこまめに休憩入れてくれて」

 強い日差しを浴びて激しい運動をしているから、皆も汗をかいてクタクタになっている。

「良かったら飲み物要りませんか?この前のジュースまた作ってあるので」
「え!マジすか!今めっちゃ飲みたい」
「じゃあ皆さんの分持ってきますね」

 急いで食堂へ行き十人分を分けてバッグに入れる。
 皆頑張ってるなぁ、またいっぱい作っておこう!
 流石に量が多く重たくなってしまってよいしょと持ち上げて運んでいると、いきなり肩が軽くなる。見るとミスカさんがバッグを持ってくれていた。

「ありがとうございます!」
「こんなに重いものを持ってどうしたんだ?」
「三番隊の皆さんに飲み物をと思って」
「そうか、ありがとう」

 ミスカさんに運んでもらって一緒に訓練場に戻る。

「わ、隊長!す、すみません……俺がサキさんに頼んだのに気が利かなくて……」
「いや、いい」
「え」
「俺がやるから」
「……なぁ、隊長なんで怒らないんだ?」
「お前分かってないな、隊長はサキさんの役に立てて嬉しいんだろ」
「そっかぁ……ありがとうございますサキさん…」

 拝むように手を合わせている二人には気付かず、私は皆にジュースを配る。

「ミスカさんもどうぞ」
「ああ、これは本当に美味しい。俺も好きだ」
「!……わ、私もす……気に入ってるんです」

 好きという単語に反応してしまった自分が恥ずかしい。そんな私を見てミスカさんは少し屈んで顔を近づける。

「あと二時間で終わる。その後少しだけ会えないか?」
「っ……はい!待ってます!」

 その後ワクワクしながら長く感じる時間を過ごし、裏庭でミスカさんと待ち合わせする。

「ミスカさん、お疲れ様です!」
「サキ」

 小さく口角を上げたミスカさんは私の頭を優しく撫でた。私は彼のもう片方の手を両手で繋ぐ。

「会うと触れたくなってしまうな」
「はい……自分で決めたことなのに……どうしてももどかしいです」
「まあ少し我慢するくらいがいいのかもしれないが」
「ふふ、そうかもですね」

 二人で花壇の花を眺め、育て方を教えてもらったりしていた。ふと立ち上がったミスカさんを見て思う。

「ミスカさんやっぱり背が高いですね」
「まあここまで高い奴は珍しい。……怖いか?」
「いえ!そうじゃなくて、目線が高いから見える景色が違いますよね。前に馬に乗せてもらった時に凄く感動しちゃって!なんか……こう、太陽が近い?感じです!」
「ふっ……はは!サキは本当に可愛い……」
「っ!」

 口を開けて笑うミスカさんを初めて見て、思わず息を止めてしまうくらい胸がキュンと鳴った。
 嬉しい……笑ってくれた……。

「また一緒に馬に乗るか」
「はい!」
「それまではこれで我慢してくれ」
「……?」

 どういう意味だろうと思っていると、ミスカさんは私の足と腰を抱え持ち上げた。

「わっ」

 抱っこされて彼と同じ目線になる。

「すごい!ミスカさんの見る景色……綺麗!」
「そうか?サキが言うとそう見えてくるな」

 私が「地面が遠い!」とか「木の上に手が届く!」とか一人ではしゃいでてもミスカさんはずっと安定して私を抱えててくれた。
 流石にそろそろ迷惑かと思いミスカさんの方を向くと、思っていたより顔が近かった。

「!」
「……サキ」

 いつもは見上げていたから……不思議な感じ。
 私を真っ直ぐ見つめる水色の瞳。
 ミスカさんの顔が近づいて、私は目を閉じた。
 ちゅっ、と小さな音が聞こえて唇に触れていた温もりが離れていく。
 目をそっと開けると、嬉しそうな彼の姿。

「やっと出来た」
「っ…はい……」

 照れてしまってミスカさんの肩に顔を埋める。

「サキの初めてはヴェルストリアに取られてしまったからな。代わりにもっとしないと気が済まない」
「……ミスカさんは……初めて?」
「ああ、俺が今まで出来るわけが無い」
「初めて、嬉しいです」
「!」

 私は顔を上げ彼の頬に軽くキスをした。

「今日はこれで我慢してください……」
「っ……ああ、ありがとう」

 ミスカさんは私を降ろすと、おでこに小さくキスを返してくれた。

「すまない。もう行かなくては」
「いいえ、少しでも会えて嬉しいです。ありがとうございます」

 名残惜しそうに私の髪に少し触れ、ミスカさんは戻って行った。
 ……ミスカさんの……初めてのキス……。
 少し乾燥した唇が私の口を塞いで……たった三秒程。何度も思い出して反芻してしまう。
 彼の初めてを私にくれたのだと思うと堪らなく嬉しい。

「どうしよう、もう会いたくなっちゃった……」
しおりを挟む
感想 56

あなたにおすすめの小説

転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~

恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん) は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。 しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!? (もしかして、私、転生してる!!?) そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!! そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?

異世界の美醜と私の認識について

佐藤 ちな
恋愛
 ある日気づくと、美玲は異世界に落ちた。  そこまでならラノベなら良くある話だが、更にその世界は女性が少ない上に、美醜感覚が美玲とは激しく異なるという不思議な世界だった。  そんな世界で稀人として特別扱いされる醜女(この世界では超美人)の美玲と、咎人として忌み嫌われる醜男(美玲がいた世界では超美青年)のルークが出会う。  不遇の扱いを受けるルークを、幸せにしてあげたい!そして出来ることなら、私も幸せに!  美醜逆転・一妻多夫の異世界で、美玲の迷走が始まる。 * 話の展開に伴い、あらすじを変更させて頂きました。

旦那様が多すぎて困っています!? 〜逆ハー異世界ラブコメ〜

ことりとりとん
恋愛
男女比8:1の逆ハーレム異世界に転移してしまった女子大生・大森泉 転移早々旦那さんが6人もできて、しかも魔力無限チートがあると教えられて!? のんびりまったり暮らしたいのにいつの間にか国を救うハメになりました…… イケメン山盛りの逆ハーです 前半はラブラブまったりの予定。後半で主人公が頑張ります 小説家になろう、カクヨムに転載しています

美醜逆転異世界で、非モテなのに前向きな騎士様が素敵です

花野はる
恋愛
先祖返りで醜い容貌に生まれてしまったセドリック・ローランド、18歳は非モテの騎士副団長。 けれども曽祖父が同じ醜さでありながら、愛する人と幸せな一生を送ったと祖父から聞いて育ったセドリックは、顔を隠すことなく前向きに希望を持って生きている。けれどやはりこの世界の女性からは忌み嫌われ、中身を見ようとしてくれる人はいない。 そんな中、セドリックの元に異世界の稀人がやって来た!外見はこんなでも、中身で勝負し、専属護衛になりたいと頑張るセドリックだが……。 醜いイケメン騎士とぽっちゃり喪女のラブストーリーです。 多分短い話になると思われます。 サクサク読めるように、一話ずつを短めにしてみました。

訳ありな家庭教師と公爵の執着

ゆきむらさり
恋愛
〔あらすじ〕📝名門ブライアン公爵家の美貌の当主ギルバートに雇われることになった一人の家庭教師(ガヴァネス)リディア。きっちりと衣装を着こなし、隙のない身形の家庭教師リディアは素顔を隠し、秘密にしたい過去をも隠す。おまけに美貌の公爵ギルバートには目もくれず、五歳になる公爵令嬢エヴリンの家庭教師としての態度を崩さない。過去に悲惨なめに遭った今の家庭教師リディアは、愛など求めない。そんなリディアに公爵ギルバートの方が興味を抱き……。 ※設定などは独自の世界観でご都合主義。ハピエン🩷 さらりと読んで下さい。 ※稚拙ながらも投稿初日(2025.1.26)から、HOTランキングに入れて頂き、ありがとうございます🙂 最高で26位(2025.2.4)。

女性の少ない異世界に生まれ変わったら

Azuki
恋愛
高校に登校している途中、道路に飛び出した子供を助ける形でトラックに轢かれてそのまま意識を失った私。 目を覚ますと、私はベッドに寝ていて、目の前にも周りにもイケメン、イケメン、イケメンだらけーーー!? なんと私は幼女に生まれ変わっており、しかもお嬢様だった!! ーーやった〜!勝ち組人生来た〜〜〜!!! そう、心の中で思いっきり歓喜していた私だけど、この世界はとんでもない世界で・・・!? これは、女性が圧倒的に少ない異世界に転生した私が、家族や周りから溺愛されながら様々な問題を解決して、更に溺愛されていく物語。

転生したら美醜逆転世界だったので、人生イージーモードです

狼蝶
恋愛
 転生したらそこは、美醜が逆転していて顔が良ければ待遇最高の世界だった!?侯爵令嬢と婚約し人生イージーモードじゃんと思っていたら、人生はそれほど甘くはない・・・・?  学校に入ったら、ここはまさかの美醜逆転世界の乙女ゲームの中だということがわかり、さらに自分の婚約者はなんとそのゲームの悪役令嬢で!!!?

異世界から来た娘が、たまらなく可愛いのだが(同感)〜こっちにきてから何故かイケメンに囲まれています〜

恋愛
普通の女子高生、朱璃はいつのまにか異世界に迷い込んでいた。 右も左もわからない状態で偶然出会った青年にしがみついた結果、なんとかお世話になることになる。一宿一飯の恩義を返そうと懸命に生きているうちに、国の一大事に巻き込まれたり巻き込んだり。気付くと個性豊かなイケメンたちに大切に大切にされていた。 そんな乙女ゲームのようなお話。

処理中です...