美醜逆転の異世界で騎士様たちに愛される

志季彩夜

文字の大きさ
上 下
35 / 184

恋人の普通

しおりを挟む
 今日も水やりをしていると一匹の鳥が飛んできた。地面に降りこちらを見つめている。
 あ、この鳥、ここに来てすぐの時も見かけたな。
 日本では見ないような綺麗な青緑色の羽毛で思わず目で追ってしまったのを覚えている。
 ふふ、ヴェルストリアくんの瞳の色に似てるかな?
 その鳥はまた羽を広げ空に飛び立って行った。
 裏庭の花は種類も増えてそれぞれ元気に育ち疎らにだが花壇が色づいてきている。
 嬉しくなってつい鼻歌を歌っていると……。

「サキおはよ!」
「わっ」

 ピョコっと横からリュークが現れて大袈裟に驚いてしまった。

「わー!ごめん!水かかってない?」
「大丈夫だよ。でもちょっとびっくりした」
「俺そんなに影薄いかな……」
「なんかね、気配を感じないっていうか」
「あー無意識に……気をつけるよ」

 無意識に気配を消すとは、気をつけて気配を出すとはどういうことか。
 私には全く分からなかったのでとりあえず頷いておいた。

「今日は朝ごはん食べれたよ、美味しかった!」
「それなら良かった!ありがとう」

 前もなかなか忙しく走り回っていたリュークだが、最近はもっと忙しいみたいで顔にも若干疲れが出ている。
 そんな中でも合間を縫って私に会いに来てくれているのは凄く嬉しいけど……ちょっと申し訳ない気持ちもある。
 騎士団の仕事のことは私は分からなくて、聞いてみたりしたけど皆あまり教えたくないそうでなかなか踏み込めない。
 私に出来ることの少なさを実感してもどかしくなる。

「私に出来ることがあったら何でも言ってね?」
「!……サキは充分俺たちの為にやってくれてるよ。美味しいご飯作ってくれて、綺麗に掃除してくれて。こんないい環境だから俺たちは仕事に打ち込めるんだ。前だったらもう荒れる時は荒れてたから……」

 遠い目で過去を思い出すリュークを見て、余程酷い状態だったのだとなんとなく理解した。

「俺なんかサキに会えないと仕事頑張れないから、サキが居てくれないと困る」
「ふふ、前はちゃんとお仕事してたんでしょ?」
「今はもう駄目……」

 しゅんとするリュークが可愛いが、正直に言うと私も会えないと寂しい。
 またすぐに会えるかは分からないし……。

「リューク……」
「ん?どうしたの?」
「……もう一回抱きしめたら、また鼻血出ちゃう?」
「え!?」

 こんなこと言っちゃ駄目だったかな……?でも恋人だし……え、恋人ってどこまで許されるの!?

「もう鼻血出そう……」
「ご、ごめん!やっぱり今の無し……というか告白してくれた時は大丈夫だったよね?」
「サキのほうからしてくれるというのがめちゃくちゃくる」

 リュークはガバッと手を広げて私を迎えるポーズを取った。

「凄い嬉しいからして欲しい。もう鼻血出さないから!いつでもして!」
「いいの?いつでもギュってして…」
「かわっ……いいんだよ!恋人なんだから!」

 そっか……!恋人はそういうのもいちいち聞かなくていいんだ!
 改めて自分から抱きしめるというのは恥ずかしい気持ちもあったが世間では一般的なものらしい。
 彼女として一つレベルアップした気がする。
 早速近くに寄って背中に手を回す。リュークも両腕で私を包む。

「……暑くない?」
「うん、あったかい……幸せ」
「忙しいのはリュークなのにごめんね。私も……会えないと寂しい」
「!」

 私を抱きしめる腕に力が入る。

「サキ」
「ん?」

 顔を上げるとリュークの熱い視線。

「俺、抱きしめるだけじゃ足りない」
「っ……!」

 唇をそっと指でなぞられ、体がビクッと反応する。

「していい……?」

 金色の瞳に射止められた私は頷くことも出来ず、彼の背中に回した手で服をギュッと掴んで答えた。

「……んっ」

 唇が奪われた。
 頭の後ろを手で支えられ、身長の高いリュークに上から抑え込まれるように。

「ふ……ぅ…っ」

 待って…どうやって息するの……!?
 ピッタリと口を塞がれて酸素が入ってこない。
 ようやく解放された時には顔も真っ赤で呼吸を乱していた。

「っ…はぁ……」
「ごめんね、欲張っちゃった」
「っもう!苦しかった!」

 膨れた私を愛おしそうに見つめ、リュークはまた私をギュッと抱きしめた。

「あー可愛い!めっちゃ可愛い!仕事行きたくない!」
「会ったらお仕事頑張れるって言ったじゃない」
「う……そうなんだけどぉ……」

 いつまでも離れようとしないリュークを励まし、なんとか送り出した。

「……」

 あ、あんな長いキス……私耐えれないよ!
 どうしても息が続かないし、あれ以上長かったら私は息絶えてしまうと思う。
 でも、普通なのかな……。
 どうしよう、ついていけなくて皆に呆れられちゃうかも……!
 恋愛経験ゼロの私はもう何が正解か全く分からない。友達の恋バナをちゃんと聞いておくべきだったと今更後悔することしか出来なかった。


 あぁー可愛すぎた……。
 あんな風に甘えられて我慢出来るわけない。
 唇を重ねた時、彼女は息を止めてしまっていて辛そうだったのだが、小さな手が背中に縋り付いてくるのが嬉しくて余計にキスを止めれなかった。
 上気した顔で涙目のサキを見て正直グッときた。もっと乱れたサキを見たい……もっと乱したい…。
 昂る気持ちはなんとか隠したが、それでも離れがたかった。
 サキに「頑張って」と言われたからには頑張らなければいけないのだが、彼女の柔らかい唇を思い出して何度か手が止まる。

「リューク、口元が痛いのか?」
「あっ、いや!なんでもないです!」

 団長に言われて無意識に触っていた事に気づく。
 ヤバ…団長にはバレないようにしないと……。
 そこからはなんとか雑念を振り払い、仕事に集中することが出来たのだった。
しおりを挟む
感想 56

あなたにおすすめの小説

転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~

恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん) は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。 しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!? (もしかして、私、転生してる!!?) そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!! そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?

異世界の美醜と私の認識について

佐藤 ちな
恋愛
 ある日気づくと、美玲は異世界に落ちた。  そこまでならラノベなら良くある話だが、更にその世界は女性が少ない上に、美醜感覚が美玲とは激しく異なるという不思議な世界だった。  そんな世界で稀人として特別扱いされる醜女(この世界では超美人)の美玲と、咎人として忌み嫌われる醜男(美玲がいた世界では超美青年)のルークが出会う。  不遇の扱いを受けるルークを、幸せにしてあげたい!そして出来ることなら、私も幸せに!  美醜逆転・一妻多夫の異世界で、美玲の迷走が始まる。 * 話の展開に伴い、あらすじを変更させて頂きました。

旦那様が多すぎて困っています!? 〜逆ハー異世界ラブコメ〜

ことりとりとん
恋愛
男女比8:1の逆ハーレム異世界に転移してしまった女子大生・大森泉 転移早々旦那さんが6人もできて、しかも魔力無限チートがあると教えられて!? のんびりまったり暮らしたいのにいつの間にか国を救うハメになりました…… イケメン山盛りの逆ハーです 前半はラブラブまったりの予定。後半で主人公が頑張ります 小説家になろう、カクヨムに転載しています

美醜逆転異世界で、非モテなのに前向きな騎士様が素敵です

花野はる
恋愛
先祖返りで醜い容貌に生まれてしまったセドリック・ローランド、18歳は非モテの騎士副団長。 けれども曽祖父が同じ醜さでありながら、愛する人と幸せな一生を送ったと祖父から聞いて育ったセドリックは、顔を隠すことなく前向きに希望を持って生きている。けれどやはりこの世界の女性からは忌み嫌われ、中身を見ようとしてくれる人はいない。 そんな中、セドリックの元に異世界の稀人がやって来た!外見はこんなでも、中身で勝負し、専属護衛になりたいと頑張るセドリックだが……。 醜いイケメン騎士とぽっちゃり喪女のラブストーリーです。 多分短い話になると思われます。 サクサク読めるように、一話ずつを短めにしてみました。

訳ありな家庭教師と公爵の執着

ゆきむらさり
恋愛
〔あらすじ〕📝名門ブライアン公爵家の美貌の当主ギルバートに雇われることになった一人の家庭教師(ガヴァネス)リディア。きっちりと衣装を着こなし、隙のない身形の家庭教師リディアは素顔を隠し、秘密にしたい過去をも隠す。おまけに美貌の公爵ギルバートには目もくれず、五歳になる公爵令嬢エヴリンの家庭教師としての態度を崩さない。過去に悲惨なめに遭った今の家庭教師リディアは、愛など求めない。そんなリディアに公爵ギルバートの方が興味を抱き……。 ※設定などは独自の世界観でご都合主義。ハピエン🩷 さらりと読んで下さい。 ※稚拙ながらも投稿初日(2025.1.26)から、HOTランキングに入れて頂き、ありがとうございます🙂 最高で26位(2025.2.4)。

転生したら美醜逆転世界だったので、人生イージーモードです

狼蝶
恋愛
 転生したらそこは、美醜が逆転していて顔が良ければ待遇最高の世界だった!?侯爵令嬢と婚約し人生イージーモードじゃんと思っていたら、人生はそれほど甘くはない・・・・?  学校に入ったら、ここはまさかの美醜逆転世界の乙女ゲームの中だということがわかり、さらに自分の婚約者はなんとそのゲームの悪役令嬢で!!!?

女性の少ない異世界に生まれ変わったら

Azuki
恋愛
高校に登校している途中、道路に飛び出した子供を助ける形でトラックに轢かれてそのまま意識を失った私。 目を覚ますと、私はベッドに寝ていて、目の前にも周りにもイケメン、イケメン、イケメンだらけーーー!? なんと私は幼女に生まれ変わっており、しかもお嬢様だった!! ーーやった〜!勝ち組人生来た〜〜〜!!! そう、心の中で思いっきり歓喜していた私だけど、この世界はとんでもない世界で・・・!? これは、女性が圧倒的に少ない異世界に転生した私が、家族や周りから溺愛されながら様々な問題を解決して、更に溺愛されていく物語。

花は風と共に散る【美醜逆転】

待鳥園子
恋愛
美醜逆転の世界。 ガードルートは小さい頃からなんだか違和感を感じていた。 なんか、皆言ってることおかしくない? うっすらとある前世の記憶の外見の美的感覚はこの世界と真逆だった。 綺麗は醜い。醜いは綺麗。 そんな世界で見つけたとっても綺麗な男の子。 愛を信じない彼に、心を許してもらうことは出来るのかな? 表紙絵はこスミレ様  Twitter @hakosmr_novel ちなみに設定上は主人公の容姿はアレのはずですが希望して可愛くしてもらってます。 ※この作品はムーンライトノベルス、エブリスタにも掲載しています。

処理中です...