美醜逆転の異世界で騎士様たちに愛される

志季彩夜

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恋人の普通

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 今日も水やりをしていると一匹の鳥が飛んできた。地面に降りこちらを見つめている。
 あ、この鳥、ここに来てすぐの時も見かけたな。
 日本では見ないような綺麗な青緑色の羽毛で思わず目で追ってしまったのを覚えている。
 ふふ、ヴェルストリアくんの瞳の色に似てるかな?
 その鳥はまた羽を広げ空に飛び立って行った。
 裏庭の花は種類も増えてそれぞれ元気に育ち疎らにだが花壇が色づいてきている。
 嬉しくなってつい鼻歌を歌っていると……。

「サキおはよ!」
「わっ」

 ピョコっと横からリュークが現れて大袈裟に驚いてしまった。

「わー!ごめん!水かかってない?」
「大丈夫だよ。でもちょっとびっくりした」
「俺そんなに影薄いかな……」
「なんかね、気配を感じないっていうか」
「あー無意識に……気をつけるよ」

 無意識に気配を消すとは、気をつけて気配を出すとはどういうことか。
 私には全く分からなかったのでとりあえず頷いておいた。

「今日は朝ごはん食べれたよ、美味しかった!」
「それなら良かった!ありがとう」

 前もなかなか忙しく走り回っていたリュークだが、最近はもっと忙しいみたいで顔にも若干疲れが出ている。
 そんな中でも合間を縫って私に会いに来てくれているのは凄く嬉しいけど……ちょっと申し訳ない気持ちもある。
 騎士団の仕事のことは私は分からなくて、聞いてみたりしたけど皆あまり教えたくないそうでなかなか踏み込めない。
 私に出来ることの少なさを実感してもどかしくなる。

「私に出来ることがあったら何でも言ってね?」
「!……サキは充分俺たちの為にやってくれてるよ。美味しいご飯作ってくれて、綺麗に掃除してくれて。こんないい環境だから俺たちは仕事に打ち込めるんだ。前だったらもう荒れる時は荒れてたから……」

 遠い目で過去を思い出すリュークを見て、余程酷い状態だったのだとなんとなく理解した。

「俺なんかサキに会えないと仕事頑張れないから、サキが居てくれないと困る」
「ふふ、前はちゃんとお仕事してたんでしょ?」
「今はもう駄目……」

 しゅんとするリュークが可愛いが、正直に言うと私も会えないと寂しい。
 またすぐに会えるかは分からないし……。

「リューク……」
「ん?どうしたの?」
「……もう一回抱きしめたら、また鼻血出ちゃう?」
「え!?」

 こんなこと言っちゃ駄目だったかな……?でも恋人だし……え、恋人ってどこまで許されるの!?

「もう鼻血出そう……」
「ご、ごめん!やっぱり今の無し……というか告白してくれた時は大丈夫だったよね?」
「サキのほうからしてくれるというのがめちゃくちゃくる」

 リュークはガバッと手を広げて私を迎えるポーズを取った。

「凄い嬉しいからして欲しい。もう鼻血出さないから!いつでもして!」
「いいの?いつでもギュってして…」
「かわっ……いいんだよ!恋人なんだから!」

 そっか……!恋人はそういうのもいちいち聞かなくていいんだ!
 改めて自分から抱きしめるというのは恥ずかしい気持ちもあったが世間では一般的なものらしい。
 彼女として一つレベルアップした気がする。
 早速近くに寄って背中に手を回す。リュークも両腕で私を包む。

「……暑くない?」
「うん、あったかい……幸せ」
「忙しいのはリュークなのにごめんね。私も……会えないと寂しい」
「!」

 私を抱きしめる腕に力が入る。

「サキ」
「ん?」

 顔を上げるとリュークの熱い視線。

「俺、抱きしめるだけじゃ足りない」
「っ……!」

 唇をそっと指でなぞられ、体がビクッと反応する。

「していい……?」

 金色の瞳に射止められた私は頷くことも出来ず、彼の背中に回した手で服をギュッと掴んで答えた。

「……んっ」

 唇が奪われた。
 頭の後ろを手で支えられ、身長の高いリュークに上から抑え込まれるように。

「ふ……ぅ…っ」

 待って…どうやって息するの……!?
 ピッタリと口を塞がれて酸素が入ってこない。
 ようやく解放された時には顔も真っ赤で呼吸を乱していた。

「っ…はぁ……」
「ごめんね、欲張っちゃった」
「っもう!苦しかった!」

 膨れた私を愛おしそうに見つめ、リュークはまた私をギュッと抱きしめた。

「あー可愛い!めっちゃ可愛い!仕事行きたくない!」
「会ったらお仕事頑張れるって言ったじゃない」
「う……そうなんだけどぉ……」

 いつまでも離れようとしないリュークを励まし、なんとか送り出した。

「……」

 あ、あんな長いキス……私耐えれないよ!
 どうしても息が続かないし、あれ以上長かったら私は息絶えてしまうと思う。
 でも、普通なのかな……。
 どうしよう、ついていけなくて皆に呆れられちゃうかも……!
 恋愛経験ゼロの私はもう何が正解か全く分からない。友達の恋バナをちゃんと聞いておくべきだったと今更後悔することしか出来なかった。


 あぁー可愛すぎた……。
 あんな風に甘えられて我慢出来るわけない。
 唇を重ねた時、彼女は息を止めてしまっていて辛そうだったのだが、小さな手が背中に縋り付いてくるのが嬉しくて余計にキスを止めれなかった。
 上気した顔で涙目のサキを見て正直グッときた。もっと乱れたサキを見たい……もっと乱したい…。
 昂る気持ちはなんとか隠したが、それでも離れがたかった。
 サキに「頑張って」と言われたからには頑張らなければいけないのだが、彼女の柔らかい唇を思い出して何度か手が止まる。

「リューク、口元が痛いのか?」
「あっ、いや!なんでもないです!」

 団長に言われて無意識に触っていた事に気づく。
 ヤバ…団長にはバレないようにしないと……。
 そこからはなんとか雑念を振り払い、仕事に集中することが出来たのだった。
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