美醜逆転の異世界で騎士様たちに愛される

志季彩夜

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君から貰ったもの(ラグト)

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 ヴェルストリアの代わりにサキちゃんの料理の手伝いに入ってから二日目。彼女はずっと浮かない様子だった。
 毎日朝夕会えるとワクワクしていたのが気に触ったのか、ヴェルストリアのほうが手際が良かったのか、色々考えたが多分違う。
 他の団員たちもその様子に気づいているようで心配する声をよく聞いた。
 いつも明るい表情のサキちゃんがこれ程思い悩む事があったのだろうか。
 気にしながらもどこまで踏み込んでいいのか分からず、なかなか聞けずにいた。
 しかし夕食の準備を終えようというその時、彼女の身体がふらついたのが見えた。

「っサキちゃん!」

 机に手を付いて倒れずには済んだ。慌てて駆け寄る。

「大丈夫!?」
「はい……ごめんなさい。ちょっと寝不足なだけで、何ともないですよ」

 そう言ってサキちゃんは無理して笑う。昔の俺を思い出して胸が痛くなった。
 このままじゃ駄目だ。
 彼女を椅子に座らせ、自分は隣に座る。
 他の団員たちが来るまでまだだいぶ時間がある。

「寝不足なのも何か考え込んじゃってるんだよね」
「……!……ごめんなさい。集中出来てなくて」
「ううん、悩むことは誰にだってある。でも悩みがあんまり大きくなると、考えてて分かんなくならない?こう、わー!って」
「……うん、分からなくなっちゃって」

 サキちゃんは大きく首を横に振って、何かを紛らわすように自分を否定する。

「私が駄目なんです……答えを出せなくて……私は……」

 好きな人が辛そうだと自分も辛くなるのか。
 こんなにも胸が痛い。虐められていた時より何倍も苦しい。
 少しでも、ほんの欠片でも力になりたい。
 サキちゃんに自分を責めて欲しくない。
 俺の気持ちが伝われば……。

「俺、サキちゃんに笑顔を貰ったんだ」
「笑顔……?」

 俺は彼女の手を取り両手で優しく包んだ。

「今まで容姿で馬鹿にされても辛くても無理やり笑顔作ってた。そうすれば自分を守れたから。黒騎士団に入って、ここでの暮らしは楽しいけどやっぱり取り繕っている俺がいて」
「ラグトさん……」
「でもサキちゃんが来てから毎日すごい楽しくて、ドキドキして幸せで心の底から笑顔になる。君が大好きだって言ってくれた俺の笑顔は君から貰ったものなんだ」

 一つ、深呼吸をして覚悟を決める。胸の鼓動が鮮明に聴こえた。

「俺はサキちゃんのことが好きだよ」
「!」
「誰よりも素敵な俺の好きな人を駄目だなんて言わないで。君自身で否定しないで」

 彼女の手が小さく震えている。

「今は辛くてもその後笑えるように、俺は何か出来る?」

 直接何かが出来なくても、俺が誰かに頼ることは出来る。
 カッコつかなくても情けなくてもどうでもいい。サキちゃんを助けるのは誰でもいいんだ。君が幸せになれるなら。
 俺を真っ直ぐ見ていた瞳が揺れ潤んだ。

「私……どうしても分からなくて」
「うん」
「断らなきゃいけないのに」
「……何を?」
「ヴェルストリアくん……私のこと、好きって言ってくれたんです……」
「!」

 彼女は目を逸らしそっと俯いた。
 それで悩んでいたのか。
 ヴェルストリアがサキちゃんのことを好きなのは知っていたが、告白をするとは思っていなかった。彼なりにけじめをつけて頑張ったのだろう。
 でも今、俺も告白しちゃったなぁ……まさかサキちゃんがそのことで悩んでるとは……どうしよう。
 でも断るって言ってたし、勝手なことだけど言えてスッキリした気持ちもある。
 その時、食堂の扉が開いてちょうどミスカ先輩とリュークさんが入ってきた。
 こちらに気づいた二人に小さく手招きすると、サキちゃんの様子を見て慌てて向かってくる。

「凄く嬉しかった。ラグトさんもそう……思ってくれていたのも嬉しいです。本当に……」

 先輩とリュークさんが来て、彼女は俯いていた顔を上げた。
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