28 / 184
君から貰ったもの(ラグト)
しおりを挟む
ヴェルストリアの代わりにサキちゃんの料理の手伝いに入ってから二日目。彼女はずっと浮かない様子だった。
毎日朝夕会えるとワクワクしていたのが気に触ったのか、ヴェルストリアのほうが手際が良かったのか、色々考えたが多分違う。
他の団員たちもその様子に気づいているようで心配する声をよく聞いた。
いつも明るい表情のサキちゃんがこれ程思い悩む事があったのだろうか。
気にしながらもどこまで踏み込んでいいのか分からず、なかなか聞けずにいた。
しかし夕食の準備を終えようというその時、彼女の身体がふらついたのが見えた。
「っサキちゃん!」
机に手を付いて倒れずには済んだ。慌てて駆け寄る。
「大丈夫!?」
「はい……ごめんなさい。ちょっと寝不足なだけで、何ともないですよ」
そう言ってサキちゃんは無理して笑う。昔の俺を思い出して胸が痛くなった。
このままじゃ駄目だ。
彼女を椅子に座らせ、自分は隣に座る。
他の団員たちが来るまでまだだいぶ時間がある。
「寝不足なのも何か考え込んじゃってるんだよね」
「……!……ごめんなさい。集中出来てなくて」
「ううん、悩むことは誰にだってある。でも悩みがあんまり大きくなると、考えてて分かんなくならない?こう、わー!って」
「……うん、分からなくなっちゃって」
サキちゃんは大きく首を横に振って、何かを紛らわすように自分を否定する。
「私が駄目なんです……答えを出せなくて……私は……」
好きな人が辛そうだと自分も辛くなるのか。
こんなにも胸が痛い。虐められていた時より何倍も苦しい。
少しでも、ほんの欠片でも力になりたい。
サキちゃんに自分を責めて欲しくない。
俺の気持ちが伝われば……。
「俺、サキちゃんに笑顔を貰ったんだ」
「笑顔……?」
俺は彼女の手を取り両手で優しく包んだ。
「今まで容姿で馬鹿にされても辛くても無理やり笑顔作ってた。そうすれば自分を守れたから。黒騎士団に入って、ここでの暮らしは楽しいけどやっぱり取り繕っている俺がいて」
「ラグトさん……」
「でもサキちゃんが来てから毎日すごい楽しくて、ドキドキして幸せで心の底から笑顔になる。君が大好きだって言ってくれた俺の笑顔は君から貰ったものなんだ」
一つ、深呼吸をして覚悟を決める。胸の鼓動が鮮明に聴こえた。
「俺はサキちゃんのことが好きだよ」
「!」
「誰よりも素敵な俺の好きな人を駄目だなんて言わないで。君自身で否定しないで」
彼女の手が小さく震えている。
「今は辛くてもその後笑えるように、俺は何か出来る?」
直接何かが出来なくても、俺が誰かに頼ることは出来る。
カッコつかなくても情けなくてもどうでもいい。サキちゃんを助けるのは誰でもいいんだ。君が幸せになれるなら。
俺を真っ直ぐ見ていた瞳が揺れ潤んだ。
「私……どうしても分からなくて」
「うん」
「断らなきゃいけないのに」
「……何を?」
「ヴェルストリアくん……私のこと、好きって言ってくれたんです……」
「!」
彼女は目を逸らしそっと俯いた。
それで悩んでいたのか。
ヴェルストリアがサキちゃんのことを好きなのは知っていたが、告白をするとは思っていなかった。彼なりにけじめをつけて頑張ったのだろう。
でも今、俺も告白しちゃったなぁ……まさかサキちゃんがそのことで悩んでるとは……どうしよう。
でも断るって言ってたし、勝手なことだけど言えてスッキリした気持ちもある。
その時、食堂の扉が開いてちょうどミスカ先輩とリュークさんが入ってきた。
こちらに気づいた二人に小さく手招きすると、サキちゃんの様子を見て慌てて向かってくる。
「凄く嬉しかった。ラグトさんもそう……思ってくれていたのも嬉しいです。本当に……」
先輩とリュークさんが来て、彼女は俯いていた顔を上げた。
毎日朝夕会えるとワクワクしていたのが気に触ったのか、ヴェルストリアのほうが手際が良かったのか、色々考えたが多分違う。
他の団員たちもその様子に気づいているようで心配する声をよく聞いた。
いつも明るい表情のサキちゃんがこれ程思い悩む事があったのだろうか。
気にしながらもどこまで踏み込んでいいのか分からず、なかなか聞けずにいた。
しかし夕食の準備を終えようというその時、彼女の身体がふらついたのが見えた。
「っサキちゃん!」
机に手を付いて倒れずには済んだ。慌てて駆け寄る。
「大丈夫!?」
「はい……ごめんなさい。ちょっと寝不足なだけで、何ともないですよ」
そう言ってサキちゃんは無理して笑う。昔の俺を思い出して胸が痛くなった。
このままじゃ駄目だ。
彼女を椅子に座らせ、自分は隣に座る。
他の団員たちが来るまでまだだいぶ時間がある。
「寝不足なのも何か考え込んじゃってるんだよね」
「……!……ごめんなさい。集中出来てなくて」
「ううん、悩むことは誰にだってある。でも悩みがあんまり大きくなると、考えてて分かんなくならない?こう、わー!って」
「……うん、分からなくなっちゃって」
サキちゃんは大きく首を横に振って、何かを紛らわすように自分を否定する。
「私が駄目なんです……答えを出せなくて……私は……」
好きな人が辛そうだと自分も辛くなるのか。
こんなにも胸が痛い。虐められていた時より何倍も苦しい。
少しでも、ほんの欠片でも力になりたい。
サキちゃんに自分を責めて欲しくない。
俺の気持ちが伝われば……。
「俺、サキちゃんに笑顔を貰ったんだ」
「笑顔……?」
俺は彼女の手を取り両手で優しく包んだ。
「今まで容姿で馬鹿にされても辛くても無理やり笑顔作ってた。そうすれば自分を守れたから。黒騎士団に入って、ここでの暮らしは楽しいけどやっぱり取り繕っている俺がいて」
「ラグトさん……」
「でもサキちゃんが来てから毎日すごい楽しくて、ドキドキして幸せで心の底から笑顔になる。君が大好きだって言ってくれた俺の笑顔は君から貰ったものなんだ」
一つ、深呼吸をして覚悟を決める。胸の鼓動が鮮明に聴こえた。
「俺はサキちゃんのことが好きだよ」
「!」
「誰よりも素敵な俺の好きな人を駄目だなんて言わないで。君自身で否定しないで」
彼女の手が小さく震えている。
「今は辛くてもその後笑えるように、俺は何か出来る?」
直接何かが出来なくても、俺が誰かに頼ることは出来る。
カッコつかなくても情けなくてもどうでもいい。サキちゃんを助けるのは誰でもいいんだ。君が幸せになれるなら。
俺を真っ直ぐ見ていた瞳が揺れ潤んだ。
「私……どうしても分からなくて」
「うん」
「断らなきゃいけないのに」
「……何を?」
「ヴェルストリアくん……私のこと、好きって言ってくれたんです……」
「!」
彼女は目を逸らしそっと俯いた。
それで悩んでいたのか。
ヴェルストリアがサキちゃんのことを好きなのは知っていたが、告白をするとは思っていなかった。彼なりにけじめをつけて頑張ったのだろう。
でも今、俺も告白しちゃったなぁ……まさかサキちゃんがそのことで悩んでるとは……どうしよう。
でも断るって言ってたし、勝手なことだけど言えてスッキリした気持ちもある。
その時、食堂の扉が開いてちょうどミスカ先輩とリュークさんが入ってきた。
こちらに気づいた二人に小さく手招きすると、サキちゃんの様子を見て慌てて向かってくる。
「凄く嬉しかった。ラグトさんもそう……思ってくれていたのも嬉しいです。本当に……」
先輩とリュークさんが来て、彼女は俯いていた顔を上げた。
312
お気に入りに追加
1,121
あなたにおすすめの小説

転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~
月
恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん)
は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。
しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!?
(もしかして、私、転生してる!!?)
そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!!
そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?
異世界の美醜と私の認識について
佐藤 ちな
恋愛
ある日気づくと、美玲は異世界に落ちた。
そこまでならラノベなら良くある話だが、更にその世界は女性が少ない上に、美醜感覚が美玲とは激しく異なるという不思議な世界だった。
そんな世界で稀人として特別扱いされる醜女(この世界では超美人)の美玲と、咎人として忌み嫌われる醜男(美玲がいた世界では超美青年)のルークが出会う。
不遇の扱いを受けるルークを、幸せにしてあげたい!そして出来ることなら、私も幸せに!
美醜逆転・一妻多夫の異世界で、美玲の迷走が始まる。
* 話の展開に伴い、あらすじを変更させて頂きました。
旦那様が多すぎて困っています!? 〜逆ハー異世界ラブコメ〜
ことりとりとん
恋愛
男女比8:1の逆ハーレム異世界に転移してしまった女子大生・大森泉
転移早々旦那さんが6人もできて、しかも魔力無限チートがあると教えられて!?
のんびりまったり暮らしたいのにいつの間にか国を救うハメになりました……
イケメン山盛りの逆ハーです
前半はラブラブまったりの予定。後半で主人公が頑張ります
小説家になろう、カクヨムに転載しています

美醜逆転異世界で、非モテなのに前向きな騎士様が素敵です
花野はる
恋愛
先祖返りで醜い容貌に生まれてしまったセドリック・ローランド、18歳は非モテの騎士副団長。
けれども曽祖父が同じ醜さでありながら、愛する人と幸せな一生を送ったと祖父から聞いて育ったセドリックは、顔を隠すことなく前向きに希望を持って生きている。けれどやはりこの世界の女性からは忌み嫌われ、中身を見ようとしてくれる人はいない。
そんな中、セドリックの元に異世界の稀人がやって来た!外見はこんなでも、中身で勝負し、専属護衛になりたいと頑張るセドリックだが……。
醜いイケメン騎士とぽっちゃり喪女のラブストーリーです。
多分短い話になると思われます。
サクサク読めるように、一話ずつを短めにしてみました。
訳ありな家庭教師と公爵の執着
ゆきむらさり
恋愛
〔あらすじ〕📝名門ブライアン公爵家の美貌の当主ギルバートに雇われることになった一人の家庭教師(ガヴァネス)リディア。きっちりと衣装を着こなし、隙のない身形の家庭教師リディアは素顔を隠し、秘密にしたい過去をも隠す。おまけに美貌の公爵ギルバートには目もくれず、五歳になる公爵令嬢エヴリンの家庭教師としての態度を崩さない。過去に悲惨なめに遭った今の家庭教師リディアは、愛など求めない。そんなリディアに公爵ギルバートの方が興味を抱き……。
※設定などは独自の世界観でご都合主義。ハピエン🩷 さらりと読んで下さい。
※稚拙ながらも投稿初日(2025.1.26)から、HOTランキングに入れて頂き、ありがとうございます🙂 最高で26位(2025.2.4)。

転生したら美醜逆転世界だったので、人生イージーモードです
狼蝶
恋愛
転生したらそこは、美醜が逆転していて顔が良ければ待遇最高の世界だった!?侯爵令嬢と婚約し人生イージーモードじゃんと思っていたら、人生はそれほど甘くはない・・・・?
学校に入ったら、ここはまさかの美醜逆転世界の乙女ゲームの中だということがわかり、さらに自分の婚約者はなんとそのゲームの悪役令嬢で!!!?

女性の少ない異世界に生まれ変わったら
Azuki
恋愛
高校に登校している途中、道路に飛び出した子供を助ける形でトラックに轢かれてそのまま意識を失った私。
目を覚ますと、私はベッドに寝ていて、目の前にも周りにもイケメン、イケメン、イケメンだらけーーー!?
なんと私は幼女に生まれ変わっており、しかもお嬢様だった!!
ーーやった〜!勝ち組人生来た〜〜〜!!!
そう、心の中で思いっきり歓喜していた私だけど、この世界はとんでもない世界で・・・!?
これは、女性が圧倒的に少ない異世界に転生した私が、家族や周りから溺愛されながら様々な問題を解決して、更に溺愛されていく物語。

異世界から来た娘が、たまらなく可愛いのだが(同感)〜こっちにきてから何故かイケメンに囲まれています〜
京
恋愛
普通の女子高生、朱璃はいつのまにか異世界に迷い込んでいた。
右も左もわからない状態で偶然出会った青年にしがみついた結果、なんとかお世話になることになる。一宿一飯の恩義を返そうと懸命に生きているうちに、国の一大事に巻き込まれたり巻き込んだり。気付くと個性豊かなイケメンたちに大切に大切にされていた。
そんな乙女ゲームのようなお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる