26 / 184
溢れる思い(ヴェルストリア)
しおりを挟む
「サキさん、今日の夜少しお時間頂いてもいいですか?」
彼女に「勿論!」と快諾してもらい、時間と場所を伝えて別れる。
はぁ……どうしよう……。
まだだいぶ時間はあるというのに既に緊張でどうにかなりそうだ。
雨に濡れたあの日、サキさんは僕の全てを救ってくれた。
僕の一生解けない呪いのようだと苦しんできたこの白い髪を、彼女は個性で魅力だと言ってくれた。
その優しさに甘えて話してしまったつまらない身の上話も、真剣にまるで自分の事のように辛い表情をして聞いて僕を慰めてくれた。僕の欲しかった言葉を全部くれた。
そしてこの白は祝福の色。
この容姿だったから黒騎士団に出会い入団して、彼女と出会えた。この出会いは僕の人生で何よりも祝福すべきことだろう。
僕はようやく自分の容姿を受け入れて前に進もうと思えた。もっと強くなろうと思った。
幸せだ。サキさんのことが好きだ、大好きだ。こんなにも強くて優しくて素敵な人。
彼女への気持ちが溢れて止まらない。受け入れて貰えなくてもどうしても伝えたい。
だから……。
「ヴェルストリアくん!」
夜も更けて周りに人の気配はない。夜風が吹く中建物の壁にもたれ待っていると、サキさんが手を振りながら小走りでこちらに駆け寄ってきた。その姿を見ただけでも胸がキュンとなってしまう。
「夜遅くに呼び出してしまってすみません」
「ううん、大丈夫。今日は風もあるしそんなに暑くないね」
「そうですね、いつもよりは」
髪をなびかせる彼女の姿につい見惚れる。
「何か話でもあった?」
「ええと、先日はありがとうございました」
「あ、うん!お互い風邪ひかなくて良かった」
言わなきゃと思うほど口からなかなか言葉が出ない。あんなに練習したのに、目の前にいる彼女が可愛すぎて思考が働かなくなってきた。
難しい顔をして黙り込んだ僕に、サキさんは少し近づく。
「ゆっくりで大丈夫だよ」
そう言い彼女は僕の頭をそっと撫でた。
まさか頭を撫でられるとは思っていなかった驚きと戸惑い。彼女の目つきは優しくまるで「弟」を見ているようだった。
この前の僕を見て子供のように弱い存在だと思われてしまったのだろうか。
男のして意識されていない。僕の中の汚い欲望を彼女は知らない。気遣われて頭を撫でられて、嬉しいはずなのにもどかしい気持ちになりつい口走ってしまう。
「ありがとうございます……でも違うんです。前はみっともないところ見せてしまいましたけど……あまり弟扱いしないでください」
「え、どういう……」
僕の頭を撫でていた彼女の手首を掴み一歩近づく。
もう一歩進むとサキさんの背中が壁に当たり、僕は彼女の手首を握ったままその壁に押し付けた。
あぁ、驚いている顔も可愛い。この小さな愛らしい存在を自分だけのものにしたい。
「最初は話せるだけで嬉しかったんです。他の人より多く貴女と居られるのが幸せだった」
美しい黒い髪をそっと掬い彼女の耳にかける。
「でも僕はどんどん欲深くなってしまって、もっと貴女の傍に居たい、近づきたい……触れたい。だから僕は……っ」
胸が苦しい。気持ちが抑えられそうにない。このまま攫って閉じ込めて……。
その時だった。
「ヴェルストリアくん……辛そうな顔しないで」
僕の服を端をキュッと小さい手で掴み、心配そうな顔で見上げるサキさんの姿。
「っ……!!」
全身がぶわぁっと熱くなる。
可愛すぎる。本当になんなんだ、この人は。
襲われてるような状況でも人の心配をするのか。もう仕草も声も全てが可愛い。
一気に力が抜け捕らえていた彼女の手首を離す。
「サキさんごめんなさい…貴女のことが好きです」
「!」
「初めて会った時からずっと好きでした。どうしても……伝えたくて」
「あ……」
「先程は本当にすみませんでした。……おやすみなさい」
そのまま振り返ることなく部屋に向かった。勢いよく扉を閉めてその場にしゃがみこむ。
「……どうして…っ……」
ただ気持ちを伝えて笑って諦めようと考えていたのに、いつの間にか暴走してしまっていた。
彼女の前では少しでもカッコつけて居たいのに、いつも甘えて慰めて貰ってばかりで今日はただ言いたいことをぶつけて、みっともなさ過ぎる。
きっと幻滅されただろう。やっぱりやめておけば良かった。今まで通り一緒に料理をして、話して、その距離で満足していれば…。
後悔ばかりが渦巻く中、先程のサキさんの可愛さを反芻して昂りまた後悔する。
どうしようもなく情けない自分を恨むことしか出来なかった。
彼女に「勿論!」と快諾してもらい、時間と場所を伝えて別れる。
はぁ……どうしよう……。
まだだいぶ時間はあるというのに既に緊張でどうにかなりそうだ。
雨に濡れたあの日、サキさんは僕の全てを救ってくれた。
僕の一生解けない呪いのようだと苦しんできたこの白い髪を、彼女は個性で魅力だと言ってくれた。
その優しさに甘えて話してしまったつまらない身の上話も、真剣にまるで自分の事のように辛い表情をして聞いて僕を慰めてくれた。僕の欲しかった言葉を全部くれた。
そしてこの白は祝福の色。
この容姿だったから黒騎士団に出会い入団して、彼女と出会えた。この出会いは僕の人生で何よりも祝福すべきことだろう。
僕はようやく自分の容姿を受け入れて前に進もうと思えた。もっと強くなろうと思った。
幸せだ。サキさんのことが好きだ、大好きだ。こんなにも強くて優しくて素敵な人。
彼女への気持ちが溢れて止まらない。受け入れて貰えなくてもどうしても伝えたい。
だから……。
「ヴェルストリアくん!」
夜も更けて周りに人の気配はない。夜風が吹く中建物の壁にもたれ待っていると、サキさんが手を振りながら小走りでこちらに駆け寄ってきた。その姿を見ただけでも胸がキュンとなってしまう。
「夜遅くに呼び出してしまってすみません」
「ううん、大丈夫。今日は風もあるしそんなに暑くないね」
「そうですね、いつもよりは」
髪をなびかせる彼女の姿につい見惚れる。
「何か話でもあった?」
「ええと、先日はありがとうございました」
「あ、うん!お互い風邪ひかなくて良かった」
言わなきゃと思うほど口からなかなか言葉が出ない。あんなに練習したのに、目の前にいる彼女が可愛すぎて思考が働かなくなってきた。
難しい顔をして黙り込んだ僕に、サキさんは少し近づく。
「ゆっくりで大丈夫だよ」
そう言い彼女は僕の頭をそっと撫でた。
まさか頭を撫でられるとは思っていなかった驚きと戸惑い。彼女の目つきは優しくまるで「弟」を見ているようだった。
この前の僕を見て子供のように弱い存在だと思われてしまったのだろうか。
男のして意識されていない。僕の中の汚い欲望を彼女は知らない。気遣われて頭を撫でられて、嬉しいはずなのにもどかしい気持ちになりつい口走ってしまう。
「ありがとうございます……でも違うんです。前はみっともないところ見せてしまいましたけど……あまり弟扱いしないでください」
「え、どういう……」
僕の頭を撫でていた彼女の手首を掴み一歩近づく。
もう一歩進むとサキさんの背中が壁に当たり、僕は彼女の手首を握ったままその壁に押し付けた。
あぁ、驚いている顔も可愛い。この小さな愛らしい存在を自分だけのものにしたい。
「最初は話せるだけで嬉しかったんです。他の人より多く貴女と居られるのが幸せだった」
美しい黒い髪をそっと掬い彼女の耳にかける。
「でも僕はどんどん欲深くなってしまって、もっと貴女の傍に居たい、近づきたい……触れたい。だから僕は……っ」
胸が苦しい。気持ちが抑えられそうにない。このまま攫って閉じ込めて……。
その時だった。
「ヴェルストリアくん……辛そうな顔しないで」
僕の服を端をキュッと小さい手で掴み、心配そうな顔で見上げるサキさんの姿。
「っ……!!」
全身がぶわぁっと熱くなる。
可愛すぎる。本当になんなんだ、この人は。
襲われてるような状況でも人の心配をするのか。もう仕草も声も全てが可愛い。
一気に力が抜け捕らえていた彼女の手首を離す。
「サキさんごめんなさい…貴女のことが好きです」
「!」
「初めて会った時からずっと好きでした。どうしても……伝えたくて」
「あ……」
「先程は本当にすみませんでした。……おやすみなさい」
そのまま振り返ることなく部屋に向かった。勢いよく扉を閉めてその場にしゃがみこむ。
「……どうして…っ……」
ただ気持ちを伝えて笑って諦めようと考えていたのに、いつの間にか暴走してしまっていた。
彼女の前では少しでもカッコつけて居たいのに、いつも甘えて慰めて貰ってばかりで今日はただ言いたいことをぶつけて、みっともなさ過ぎる。
きっと幻滅されただろう。やっぱりやめておけば良かった。今まで通り一緒に料理をして、話して、その距離で満足していれば…。
後悔ばかりが渦巻く中、先程のサキさんの可愛さを反芻して昂りまた後悔する。
どうしようもなく情けない自分を恨むことしか出来なかった。
417
お気に入りに追加
1,121
あなたにおすすめの小説

転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~
月
恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん)
は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。
しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!?
(もしかして、私、転生してる!!?)
そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!!
そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?
異世界の美醜と私の認識について
佐藤 ちな
恋愛
ある日気づくと、美玲は異世界に落ちた。
そこまでならラノベなら良くある話だが、更にその世界は女性が少ない上に、美醜感覚が美玲とは激しく異なるという不思議な世界だった。
そんな世界で稀人として特別扱いされる醜女(この世界では超美人)の美玲と、咎人として忌み嫌われる醜男(美玲がいた世界では超美青年)のルークが出会う。
不遇の扱いを受けるルークを、幸せにしてあげたい!そして出来ることなら、私も幸せに!
美醜逆転・一妻多夫の異世界で、美玲の迷走が始まる。
* 話の展開に伴い、あらすじを変更させて頂きました。
旦那様が多すぎて困っています!? 〜逆ハー異世界ラブコメ〜
ことりとりとん
恋愛
男女比8:1の逆ハーレム異世界に転移してしまった女子大生・大森泉
転移早々旦那さんが6人もできて、しかも魔力無限チートがあると教えられて!?
のんびりまったり暮らしたいのにいつの間にか国を救うハメになりました……
イケメン山盛りの逆ハーです
前半はラブラブまったりの予定。後半で主人公が頑張ります
小説家になろう、カクヨムに転載しています

美醜逆転異世界で、非モテなのに前向きな騎士様が素敵です
花野はる
恋愛
先祖返りで醜い容貌に生まれてしまったセドリック・ローランド、18歳は非モテの騎士副団長。
けれども曽祖父が同じ醜さでありながら、愛する人と幸せな一生を送ったと祖父から聞いて育ったセドリックは、顔を隠すことなく前向きに希望を持って生きている。けれどやはりこの世界の女性からは忌み嫌われ、中身を見ようとしてくれる人はいない。
そんな中、セドリックの元に異世界の稀人がやって来た!外見はこんなでも、中身で勝負し、専属護衛になりたいと頑張るセドリックだが……。
醜いイケメン騎士とぽっちゃり喪女のラブストーリーです。
多分短い話になると思われます。
サクサク読めるように、一話ずつを短めにしてみました。

転生したら美醜逆転世界だったので、人生イージーモードです
狼蝶
恋愛
転生したらそこは、美醜が逆転していて顔が良ければ待遇最高の世界だった!?侯爵令嬢と婚約し人生イージーモードじゃんと思っていたら、人生はそれほど甘くはない・・・・?
学校に入ったら、ここはまさかの美醜逆転世界の乙女ゲームの中だということがわかり、さらに自分の婚約者はなんとそのゲームの悪役令嬢で!!!?
訳ありな家庭教師と公爵の執着
ゆきむらさり
恋愛
〔あらすじ〕📝名門ブライアン公爵家の美貌の当主ギルバートに雇われることになった一人の家庭教師(ガヴァネス)リディア。きっちりと衣装を着こなし、隙のない身形の家庭教師リディアは素顔を隠し、秘密にしたい過去をも隠す。おまけに美貌の公爵ギルバートには目もくれず、五歳になる公爵令嬢エヴリンの家庭教師としての態度を崩さない。過去に悲惨なめに遭った今の家庭教師リディアは、愛など求めない。そんなリディアに公爵ギルバートの方が興味を抱き……。
※設定などは独自の世界観でご都合主義。ハピエン🩷 さらりと読んで下さい。
※稚拙ながらも投稿初日(2025.1.26)から、HOTランキングに入れて頂き、ありがとうございます🙂 最高で26位(2025.2.4)。

女性の少ない異世界に生まれ変わったら
Azuki
恋愛
高校に登校している途中、道路に飛び出した子供を助ける形でトラックに轢かれてそのまま意識を失った私。
目を覚ますと、私はベッドに寝ていて、目の前にも周りにもイケメン、イケメン、イケメンだらけーーー!?
なんと私は幼女に生まれ変わっており、しかもお嬢様だった!!
ーーやった〜!勝ち組人生来た〜〜〜!!!
そう、心の中で思いっきり歓喜していた私だけど、この世界はとんでもない世界で・・・!?
これは、女性が圧倒的に少ない異世界に転生した私が、家族や周りから溺愛されながら様々な問題を解決して、更に溺愛されていく物語。

異世界から来た娘が、たまらなく可愛いのだが(同感)〜こっちにきてから何故かイケメンに囲まれています〜
京
恋愛
普通の女子高生、朱璃はいつのまにか異世界に迷い込んでいた。
右も左もわからない状態で偶然出会った青年にしがみついた結果、なんとかお世話になることになる。一宿一飯の恩義を返そうと懸命に生きているうちに、国の一大事に巻き込まれたり巻き込んだり。気付くと個性豊かなイケメンたちに大切に大切にされていた。
そんな乙女ゲームのようなお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる