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溢れる思い(ヴェルストリア)
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「サキさん、今日の夜少しお時間頂いてもいいですか?」
彼女に「勿論!」と快諾してもらい、時間と場所を伝えて別れる。
はぁ……どうしよう……。
まだだいぶ時間はあるというのに既に緊張でどうにかなりそうだ。
雨に濡れたあの日、サキさんは僕の全てを救ってくれた。
僕の一生解けない呪いのようだと苦しんできたこの白い髪を、彼女は個性で魅力だと言ってくれた。
その優しさに甘えて話してしまったつまらない身の上話も、真剣にまるで自分の事のように辛い表情をして聞いて僕を慰めてくれた。僕の欲しかった言葉を全部くれた。
そしてこの白は祝福の色。
この容姿だったから黒騎士団に出会い入団して、彼女と出会えた。この出会いは僕の人生で何よりも祝福すべきことだろう。
僕はようやく自分の容姿を受け入れて前に進もうと思えた。もっと強くなろうと思った。
幸せだ。サキさんのことが好きだ、大好きだ。こんなにも強くて優しくて素敵な人。
彼女への気持ちが溢れて止まらない。受け入れて貰えなくてもどうしても伝えたい。
だから……。
「ヴェルストリアくん!」
夜も更けて周りに人の気配はない。夜風が吹く中建物の壁にもたれ待っていると、サキさんが手を振りながら小走りでこちらに駆け寄ってきた。その姿を見ただけでも胸がキュンとなってしまう。
「夜遅くに呼び出してしまってすみません」
「ううん、大丈夫。今日は風もあるしそんなに暑くないね」
「そうですね、いつもよりは」
髪をなびかせる彼女の姿につい見惚れる。
「何か話でもあった?」
「ええと、先日はありがとうございました」
「あ、うん!お互い風邪ひかなくて良かった」
言わなきゃと思うほど口からなかなか言葉が出ない。あんなに練習したのに、目の前にいる彼女が可愛すぎて思考が働かなくなってきた。
難しい顔をして黙り込んだ僕に、サキさんは少し近づく。
「ゆっくりで大丈夫だよ」
そう言い彼女は僕の頭をそっと撫でた。
まさか頭を撫でられるとは思っていなかった驚きと戸惑い。彼女の目つきは優しくまるで「弟」を見ているようだった。
この前の僕を見て子供のように弱い存在だと思われてしまったのだろうか。
男のして意識されていない。僕の中の汚い欲望を彼女は知らない。気遣われて頭を撫でられて、嬉しいはずなのにもどかしい気持ちになりつい口走ってしまう。
「ありがとうございます……でも違うんです。前はみっともないところ見せてしまいましたけど……あまり弟扱いしないでください」
「え、どういう……」
僕の頭を撫でていた彼女の手首を掴み一歩近づく。
もう一歩進むとサキさんの背中が壁に当たり、僕は彼女の手首を握ったままその壁に押し付けた。
あぁ、驚いている顔も可愛い。この小さな愛らしい存在を自分だけのものにしたい。
「最初は話せるだけで嬉しかったんです。他の人より多く貴女と居られるのが幸せだった」
美しい黒い髪をそっと掬い彼女の耳にかける。
「でも僕はどんどん欲深くなってしまって、もっと貴女の傍に居たい、近づきたい……触れたい。だから僕は……っ」
胸が苦しい。気持ちが抑えられそうにない。このまま攫って閉じ込めて……。
その時だった。
「ヴェルストリアくん……辛そうな顔しないで」
僕の服を端をキュッと小さい手で掴み、心配そうな顔で見上げるサキさんの姿。
「っ……!!」
全身がぶわぁっと熱くなる。
可愛すぎる。本当になんなんだ、この人は。
襲われてるような状況でも人の心配をするのか。もう仕草も声も全てが可愛い。
一気に力が抜け捕らえていた彼女の手首を離す。
「サキさんごめんなさい…貴女のことが好きです」
「!」
「初めて会った時からずっと好きでした。どうしても……伝えたくて」
「あ……」
「先程は本当にすみませんでした。……おやすみなさい」
そのまま振り返ることなく部屋に向かった。勢いよく扉を閉めてその場にしゃがみこむ。
「……どうして…っ……」
ただ気持ちを伝えて笑って諦めようと考えていたのに、いつの間にか暴走してしまっていた。
彼女の前では少しでもカッコつけて居たいのに、いつも甘えて慰めて貰ってばかりで今日はただ言いたいことをぶつけて、みっともなさ過ぎる。
きっと幻滅されただろう。やっぱりやめておけば良かった。今まで通り一緒に料理をして、話して、その距離で満足していれば…。
後悔ばかりが渦巻く中、先程のサキさんの可愛さを反芻して昂りまた後悔する。
どうしようもなく情けない自分を恨むことしか出来なかった。
彼女に「勿論!」と快諾してもらい、時間と場所を伝えて別れる。
はぁ……どうしよう……。
まだだいぶ時間はあるというのに既に緊張でどうにかなりそうだ。
雨に濡れたあの日、サキさんは僕の全てを救ってくれた。
僕の一生解けない呪いのようだと苦しんできたこの白い髪を、彼女は個性で魅力だと言ってくれた。
その優しさに甘えて話してしまったつまらない身の上話も、真剣にまるで自分の事のように辛い表情をして聞いて僕を慰めてくれた。僕の欲しかった言葉を全部くれた。
そしてこの白は祝福の色。
この容姿だったから黒騎士団に出会い入団して、彼女と出会えた。この出会いは僕の人生で何よりも祝福すべきことだろう。
僕はようやく自分の容姿を受け入れて前に進もうと思えた。もっと強くなろうと思った。
幸せだ。サキさんのことが好きだ、大好きだ。こんなにも強くて優しくて素敵な人。
彼女への気持ちが溢れて止まらない。受け入れて貰えなくてもどうしても伝えたい。
だから……。
「ヴェルストリアくん!」
夜も更けて周りに人の気配はない。夜風が吹く中建物の壁にもたれ待っていると、サキさんが手を振りながら小走りでこちらに駆け寄ってきた。その姿を見ただけでも胸がキュンとなってしまう。
「夜遅くに呼び出してしまってすみません」
「ううん、大丈夫。今日は風もあるしそんなに暑くないね」
「そうですね、いつもよりは」
髪をなびかせる彼女の姿につい見惚れる。
「何か話でもあった?」
「ええと、先日はありがとうございました」
「あ、うん!お互い風邪ひかなくて良かった」
言わなきゃと思うほど口からなかなか言葉が出ない。あんなに練習したのに、目の前にいる彼女が可愛すぎて思考が働かなくなってきた。
難しい顔をして黙り込んだ僕に、サキさんは少し近づく。
「ゆっくりで大丈夫だよ」
そう言い彼女は僕の頭をそっと撫でた。
まさか頭を撫でられるとは思っていなかった驚きと戸惑い。彼女の目つきは優しくまるで「弟」を見ているようだった。
この前の僕を見て子供のように弱い存在だと思われてしまったのだろうか。
男のして意識されていない。僕の中の汚い欲望を彼女は知らない。気遣われて頭を撫でられて、嬉しいはずなのにもどかしい気持ちになりつい口走ってしまう。
「ありがとうございます……でも違うんです。前はみっともないところ見せてしまいましたけど……あまり弟扱いしないでください」
「え、どういう……」
僕の頭を撫でていた彼女の手首を掴み一歩近づく。
もう一歩進むとサキさんの背中が壁に当たり、僕は彼女の手首を握ったままその壁に押し付けた。
あぁ、驚いている顔も可愛い。この小さな愛らしい存在を自分だけのものにしたい。
「最初は話せるだけで嬉しかったんです。他の人より多く貴女と居られるのが幸せだった」
美しい黒い髪をそっと掬い彼女の耳にかける。
「でも僕はどんどん欲深くなってしまって、もっと貴女の傍に居たい、近づきたい……触れたい。だから僕は……っ」
胸が苦しい。気持ちが抑えられそうにない。このまま攫って閉じ込めて……。
その時だった。
「ヴェルストリアくん……辛そうな顔しないで」
僕の服を端をキュッと小さい手で掴み、心配そうな顔で見上げるサキさんの姿。
「っ……!!」
全身がぶわぁっと熱くなる。
可愛すぎる。本当になんなんだ、この人は。
襲われてるような状況でも人の心配をするのか。もう仕草も声も全てが可愛い。
一気に力が抜け捕らえていた彼女の手首を離す。
「サキさんごめんなさい…貴女のことが好きです」
「!」
「初めて会った時からずっと好きでした。どうしても……伝えたくて」
「あ……」
「先程は本当にすみませんでした。……おやすみなさい」
そのまま振り返ることなく部屋に向かった。勢いよく扉を閉めてその場にしゃがみこむ。
「……どうして…っ……」
ただ気持ちを伝えて笑って諦めようと考えていたのに、いつの間にか暴走してしまっていた。
彼女の前では少しでもカッコつけて居たいのに、いつも甘えて慰めて貰ってばかりで今日はただ言いたいことをぶつけて、みっともなさ過ぎる。
きっと幻滅されただろう。やっぱりやめておけば良かった。今まで通り一緒に料理をして、話して、その距離で満足していれば…。
後悔ばかりが渦巻く中、先程のサキさんの可愛さを反芻して昂りまた後悔する。
どうしようもなく情けない自分を恨むことしか出来なかった。
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