美醜逆転の異世界で騎士様たちに愛される

志季彩夜

文字の大きさ
上 下
22 / 184

香りの記憶

しおりを挟む
「ふふ、喜んでくれるかなー」

 今日もお菓子を持って執務室へ向かう。

「サキ、来てくれてありがとう」
「お邪魔します!」

 今ではお菓子と飲み物を自分の分もちゃっかり持ってきている。長居する気満々なのがバレてしまうけど……。
 週に二回程だが私が来る度にハインツさんの作業を止めてしまっているのだけど、私のお菓子のお陰(?)で本当に速くなっているから大丈夫らしい。
 確かに机の書類の量は減っているんだよね……。

「今日はキャロットケーキです!どうぞ」
「ああ!……ん!やっぱり美味いな、甘さを足してくれたのか?」
「そうです!わかりました?」

 ハインツさんは人参のお菓子を随分気に入ってくれたみたいだ。

「そういえば、人参どうして嫌いになっちゃったんですか?」
「……子供の頃、丸ごとかじったら苦くて…」
「丸かじり……生のままが嫌いな人は結構いますからね」

 昔はだいぶやんちゃだったみたい。
 クスクス笑っていると、ハインツさんの目の下にうっすら隈があるのに気づく。

「ハインツさん、昨日ちゃんと寝れましたか?」
「昨日は夜中に急に呼ばれてしまってね。少し睡眠時間が短くなっただけだよ」

 そうは言っても、もともと少ないであろうハインツさんの睡眠時間をもっと短くしたらダメージが大きいと思う。
 ここで私は帰ってハインツさんの仕事を邪魔しないようにするべきなんだろうけど……。まだ帰りたくないとつい欲張ってしまう。

「ちょっとだけ今から仮眠するのはどうですか?」
「仮眠か……でもサキが来てくれているのに」
「私はここに居させてもらうので、時間になったら起こしますよ。そうだ!あれ用意してきますね」
「用意?」
「少し待っててください」

 私は走って部屋に行き色々持って、また執務室へ戻ってくる。

「お待たせしました!」
「これは?」
「蒸しタオルです。目にあてると気持ちいいんですよ」

 ハインツさんに早速ソファに横になってもらい、目元にかける。

「温かい……目の疲れが取れるな」
「はい!あとこれはアロマです。いい匂いがするとよく眠れると思うので」

 これは町へ行った時に雑貨屋で見つけた。自分用にと買ったものが役に立って良かった。
 アロマを数滴布に垂らし机に置く。

「はは、すぐに眠ってしまいそうだ」
「その為のですから」

 私はハインツさんの手を取って手のひらを指で押してマッサージをする。
 ハインツさんは一瞬ビクッとしたが段々力が抜けてきて、そのうち穏やかな寝息が聞こえてきた。
 やっぱり疲れてたよね。
 仕事が速くなったと言っていたが量は変わらないわけで、ハインツさん自身も気づかず無理していたかもしれない。
 触れている手はマメやタコが出来ている。団員たち皆の手も見て分かるくらいゴツゴツしていて、偉そうなことは言えないけど普段からの鍛錬の頑張りが感じられる。
 町の、国の平和を守る為に毎日強くなれるよう努力している姿はカッコいい。容姿じゃなくてその努力と結果を見てくれたら、きっと周りの人たちは黒騎士団のことを好きになってくれる。
 皆を守るカッコいい手。
 そして、大きくて分厚い男の人の手……。意識するとなんだかドキドキして手汗をかいてしまいそうだったので、ハインツさんのお腹の上にそっと戻した。
 蒸しタオルもだいぶ冷めてしまったので目元から外す。
 瞼を閉じたハインツさんはまるで彫刻のよう。
 初めて会った時も本当に美形だと思ったが、今は何故かその時よりも輝いて見える。いや、最近は周りが全部輝いて明るく見えている気がする。
 私、何か変なのかな。
 不思議に思いながら立ち上がると、ふと作業台の上の書類が目に入る。そこに書かれた文字は日本語ではなかった。
 近づいてよく見てみると英語のような、でも英語としては読めない文で何が書いてあるか全く分からない。

「どういうこと……?」

 聞こえるのは日本語なのに文字は違うの……?自動翻訳のような設定で耳からの情報は勝手に変換されているとか?
 ご都合主義な世界なのか……私がこの世界に馴染めるように「配慮」されているみたいで何か引っかかる。
 ボーッとして考えているとだいぶ時間が経ってしまい慌てて時計を見るとちょうど起こす時間だった。

「ハインツさん、時間です」
「ん……あぁ、そうか……」

 のそっと起き上がったハインツさんは軽く伸びをする。

「こんなに……気持ちよく寝れたのは久しぶりだ。ありがとう」
「いえ!お役に立てたなら良かったです」

 コップに注いだ水を渡し、タオルなどを片付ける。

「……サキ、何かあったか?」
「え、いいえ何もないですよ」

 先程の動揺が顔に出てしまっていたのか。
 しかしまだ文字の種類が違うというだけで何か分かった訳ではない。
 まだ言わなくても……と伝えるのを躊躇ってしまった。

「そうか?しかし、これならスッキリして仕事も捗りそうだな」
「……ハインツさん、スッキリしてる内にお仕事に戻りませんか?」
「?だが……」
「ハインツさんがお仕事してるとこ見てみたいです」
「!?」

 何度かここに来て知ってしまったのだ、ハインツさんが仕事中眼鏡をしていることを!
 私が中に入るとすぐ外してしまってじっくりと見れなくて、ちょっと残念だったから……。

「大人しくしてますので……駄目ですか?」
「っ……!いや、良いんだけれど……そんなものを見ても面白くも何ともないだろう?」
「楽しくて面白いですよ!」

 ハインツさんのことを新しく知れるのが嬉しい。

「……じゃあ仕事に戻るよ。作業しながらでも話くらいは出来るから」
「ありがとうございます!」

 作業台の椅子に腰掛けたハインツさんはスっと眼鏡をかける。細いシルバーのフレームが知的な感じだ。
 私は紅茶をすすりながらこっそりハインツさんを眺めていた。

「ハインツさん、目が悪いんですか?」
「少しね。昔から近くが見えづらいんだ」

 先天的なものなんだ。
 必要だからかけているものだけれど、見た目の印象がだいぶ変わるからお洒落で良いななんて思ってしまう。

「そういえば今日お土産渡したくて持ってきたんです」
「お土産?」
「はい!初めて町に行ったので嬉しくて」
「そうか、そんなに喜んでくれてたのか。今まで連れて行ってあげられなくてすまないね」
「いえ、見た目も隠さなきゃですし大変なのはよく分かりましたから。えっと、ハインツさんにはこれを……」

 紙袋に入った箱を一度取り出しハインツさんに見せる。

「チョコレートです!甘いものお好きならどうかなと思って」

 町のスイーツ屋さんに王都から取り寄せているというチョコレートが売っていた。なかなかいいお値段だったので美味しいのではと期待している。

「ああ、チョコレートは好きだ。最近はなかなか食べる機会がなかったから嬉しいよ。ありがとう」

 笑顔で受け取ってくれて安心した。チョコが苦手かもと思って実は別のお菓子も用意していたがそれは自分で頂こう。

「だが……」
「?」
「サキの手作りに慣れてしまったからな。これではもう満足出来ないかもしれない」
「え!?結構有名なお店のだと聞きましたよ?そんな、私の手作りなんて趣味程度ですし」
「いや、サキの作るお菓子がこれまで食べてきたどんなものよりも美味しいよ。いつもありがとう」

 まさかこんなところで褒められるとは思いもよらず、でも美味しいと言って貰えたことがすごく嬉しかった。

「こちらこそありがとうございます……」

 またお菓子を作ってくると約束して、その後部屋に戻ってもにやけが収まらなかった。



「このチョコレートは毎日一粒ずつ食べるか……」

 サキがここに来てくれるようになってから彼女は私に色々としてくれていて、この至福の時間の為に仕事を頑張っているようなものだった。
 さらに最近はサキの私に対して遠慮が少しだが減った気がする。正直嬉しすぎる。
 私の仕事の様子を見たいという意図は分からないが、あんな……甘えてくるような言い方をされたら……もう何でも了承してしまう。
 私はサキの上目遣いに特に弱いんだ……。
 アロマの残り香とともに今日のサキの可愛さがしっかり記憶された。
しおりを挟む
感想 56

あなたにおすすめの小説

異世界の美醜と私の認識について

佐藤 ちな
恋愛
 ある日気づくと、美玲は異世界に落ちた。  そこまでならラノベなら良くある話だが、更にその世界は女性が少ない上に、美醜感覚が美玲とは激しく異なるという不思議な世界だった。  そんな世界で稀人として特別扱いされる醜女(この世界では超美人)の美玲と、咎人として忌み嫌われる醜男(美玲がいた世界では超美青年)のルークが出会う。  不遇の扱いを受けるルークを、幸せにしてあげたい!そして出来ることなら、私も幸せに!  美醜逆転・一妻多夫の異世界で、美玲の迷走が始まる。 * 話の展開に伴い、あらすじを変更させて頂きました。

美醜逆転異世界で、非モテなのに前向きな騎士様が素敵です

花野はる
恋愛
先祖返りで醜い容貌に生まれてしまったセドリック・ローランド、18歳は非モテの騎士副団長。 けれども曽祖父が同じ醜さでありながら、愛する人と幸せな一生を送ったと祖父から聞いて育ったセドリックは、顔を隠すことなく前向きに希望を持って生きている。けれどやはりこの世界の女性からは忌み嫌われ、中身を見ようとしてくれる人はいない。 そんな中、セドリックの元に異世界の稀人がやって来た!外見はこんなでも、中身で勝負し、専属護衛になりたいと頑張るセドリックだが……。 醜いイケメン騎士とぽっちゃり喪女のラブストーリーです。 多分短い話になると思われます。 サクサク読めるように、一話ずつを短めにしてみました。

転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~

恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん) は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。 しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!? (もしかして、私、転生してる!!?) そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!! そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?

旦那様が多すぎて困っています!? 〜逆ハー異世界ラブコメ〜

ことりとりとん
恋愛
男女比8:1の逆ハーレム異世界に転移してしまった女子大生・大森泉 転移早々旦那さんが6人もできて、しかも魔力無限チートがあると教えられて!? のんびりまったり暮らしたいのにいつの間にか国を救うハメになりました…… イケメン山盛りの逆ハーです 前半はラブラブまったりの予定。後半で主人公が頑張ります 小説家になろう、カクヨムに転載しています

ただ貴方の傍にいたい〜醜いイケメン騎士と異世界の稀人

花野はる
恋愛
日本で暮らす相川花純は、成人の思い出として、振袖姿を残そうと写真館へやって来た。 そこで着飾り、いざ撮影室へ足を踏み入れたら異世界へ転移した。 森の中で困っていると、仮面の騎士が助けてくれた。その騎士は騎士団の団長様で、すごく素敵なのに醜くて仮面を被っていると言う。 孤独な騎士と異世界でひとりぼっちになった花純の一途な恋愛ストーリー。 初投稿です。よろしくお願いします。

異世界転生〜色いろあって世界最強!?〜

野の木
恋愛
気付いたら、見知らぬ場所に。 生まれ変わった?ここって異世界!? しかも家族全員美男美女…なのになんで私だけ黒髪黒眼平凡顔の前世の姿のままなの!? えっ、絶世の美女?黒は美人の証? いやいや、この世界の人って目悪いの? 前世の記憶を持ったまま異世界転生した主人公。 しかもそこは、色により全てが決まる世界だった!?

私は女神じゃありません!!〜この世界の美的感覚はおかしい〜

朝比奈
恋愛
年齢=彼氏いない歴な平凡かつ地味顔な私はある日突然美的感覚がおかしい異世界にトリップしてしまったようでして・・・。 (この世界で私はめっちゃ美人ってどゆこと??) これは主人公が美的感覚が違う世界で醜い男(私にとってイケメン)に恋に落ちる物語。 所々、意味が違うのに使っちゃってる言葉とかあれば教えて下さると幸いです。 暇つぶしにでも呼んでくれると嬉しいです。 ※休載中 (4月5日前後から投稿再開予定です)

公爵様のバッドエンドを回避したいだけだったのに、なぜか溺愛されています

六花心碧
恋愛
お気に入り小説の世界で名前すら出てこないモブキャラに転生してしまった! 『推しのバッドエンドを阻止したい』 そう思っただけなのに、悪女からは脅されるし、小説の展開はどんどん変わっていっちゃうし……。 推しキャラである公爵様の反逆を防いで、見事バッドエンドを回避できるのか……?! ゆるくて、甘くて、ふわっとした溺愛ストーリーです➴⡱ (外部URLで登録していたものを改めて登録しました! ◇他サイト様でも公開中です)

処理中です...