美醜逆転の異世界で騎士様たちに愛される

志季彩夜

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迷惑な訪問者

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 その日も花の水やりのため花壇に向かっていると何やら門のほうが騒がしい。こっそり近づいて見てみると、門番の一人がここに訪れたのであろう人たちと口論になっているようだ。
 赤い服を着た人が三人……。
 サンタクロース!……嘘だけど。きっと赤騎士団の人だろう。
 真っ赤な服もそうだけど、その……この世界でのイケメンでいらっしゃる。顔も体もまるまるとして三段腹が服の上からでも分かってしまう。
 いや、その体型も相まって冗談抜きでサンタに見えるの、私だけ?
 とりあえず……誰か呼んできたほうがいいかな、私の姿を見られるのは良くないよね。
 そう思い踵を返そうとした時うっかり赤騎士団の一人と目が合ってしまった。
 そのサンタさんはドスドスと音をたてながらこちらに走ってきたが、余程焦ったのか私の目の前で持っていた紙をばらまいてしまった。
 あわてんぼうの……やっぱりやめよう。

「なんと美しい人だ……!君、大丈夫か!?捕らえられているのか!?」
「いえ、あの……ここに居させてもらっていて」

 床に落ちた紙を拾いまとめ渡すと、紙ごと手を握られた。

「美しく、そして優しい……!僕と結婚してくれ!!」
「へ」

 唐突過ぎるプロポーズに間抜けな声が出た。

「心配することはない。もちろん容姿は完璧だが僕は貴族だからな、 権力も資産も充分ある!こんな危険な場所に居たなんて可哀想に……僕がいればもう大丈夫だ!」

 うわぁ……この人がイケメンだとしてもナルシストはちょっと……。
 急なプロポーズでも断られると微塵も思っておらず、彼の頭の中では勝手に話が進んでいるようだ。
 握られた手をやんわり外し一歩下がる。

「ごめんなさい、私ここに居たいので。結婚も無理です」

 結構ハッキリ言ったつもりなんだけど引いてくれなくて逆に詰め寄ってきた。

「何故だ!?もしかして脅されているのか!?」

 ちょっと飛躍し過ぎじゃない?黒騎士団の人たちをなんだと思ってるの……。

「ちがいま……」
「そうか、結婚も出来ないようにされているのか!こんな天使のような美少女を閉じ込めておくなんて黒騎士団の奴等め」

 否定しようとするが私の話を全く聞いておらず、監禁や拉致だとか物騒なことを言っている。

「サキ!!」

 この騒ぎで気づいたのだろう、リュークと何人かが走って来てくれて門の所にいた赤騎士団の二人と門番の人もこちらに集まる。
 リュークが赤騎士団から引き離してくれて、私は思わずその背中に隠れる。

「おいお前ら、女性に相手にされないからって攫ってきたのか?いや、こんなに美しい人がいるなら知られていないわけがない。どういうことなんだ」

「彼女は事情があって……ここで匿っているんだ。君たちが口を出すことじゃない」
「匿う?嘘言うな、あんなに怖がっているじゃないか!」

 怖がっているのは貴方たちのせいですけど…。

「どうせ上にも報告していないんだろう、僕は少しも聞いたことがないぞ、違法だ!」
「ただの平騎士が重要なこと教えてもらえるわけないだろう」
「なんだと!?僕は貴族だぞ!」

 黒騎士と赤騎士の口論は止まらず、喧嘩に発展しそうになったところでリュークが黒騎士団員たちを一旦宥める。

「それで、赤騎士団さんは何をしに来たの?用事も無く来た訳じゃないでしょ?」
「こいつら団長と話をすると言って無理やり入ろうとしてきたんです」

 門番がそう説明する。

「団長と?そんな予定は聞いてないけど」
「そっちの予定など知るものか。僕たちがわざわざこんな辺境に来てやっているのだから話くらい良いだろう」

 つまりアポ無しということだ。それを聞いたリュークは一瞬ピクリと反応し、静かに一歩前へ出た。
 なんか……周りの気温が下がった気がする……。

「勝手に来て騒ぎ立ててサキに言い寄った挙句、団長の時間を蔑ろにしようとしたってことね……。いいよ、せっかく来てくれたし俺と対戦しようか」
「はぁ?何言って……」
「俺に勝ったら団長と話させてあげるし、彼女を一緒に連れて帰ってもいいよ」

 え……?

「……随分自信があるようだな。そういうことなら受けて立ってやろう。彼女を救いだすのは僕の使命さ!」

 私に向かって多分ウィンクであろうもの(目が細くてわからなかったが)をして、リュークと訓練場に向かって行った。
 リュークは私のこと……。
 そんなはず無いのに、少しでもそう考えると胸が苦しくて堪らなかった。

 試合はすぐ行われることになったが話は既に広まっていたようで訓練場には多くの人が集まっている。

「ミスカさん、ラグトさん」
「サキちゃん!なんか大変なことに巻き込まれちゃったみたいだね」
「いえ……でもリュークが……」
「あいつは大丈夫だ」

 ミスカさんは断言し頷く。
 リュークと赤騎士団のその一人が向き合う。二人は木刀を構え勝負は始まろうとしていた。

「始め!」

 甲高い笛の音と同時にリュークは前へ踏み込む。
 そして……赤騎士団さんの手から木刀は無くなっていた。一瞬の沈黙の後、上から木刀が降ってきて彼の真後ろに突き刺さる。

「「わー!!」」
「流石リュークさん!」「マジ凄すぎる……!」

 黒騎士団から歓声が上がる。
 全く見えなかった……。
 リュークは下から上に振りかぶって木刀を弾き飛ばし、一撃で試合を終わらせたのだ。
 恐怖で座り込んだ彼を仲間二人が慌てて抱え「覚えていろよ!」と典型的な捨て台詞を吐いて赤騎士団は去っていった。
 リュークはさらさら負ける気なんてなくて赤騎士団を上手く乗せるために言ったのだ。
 それが分かった途端嬉しくなって彼のもとへ駆け寄る。リュークもこちらに向かって階段の近くまで来ていた。
 しかし私がその階段を降りている途中勢い余って躓いてしまった。

「わっ!」

 リュークが下でキャッチしてくれたがお互い抱きつく体勢になってしまう。

「ご、ごめんなさい」
「う、ううん。大丈夫?」

 二人ともそっと離れたが距離は近いまま。

「リューク、勝ってくれてありがとう」
「……えへへ、勝っちゃった。赤騎士団と……一緒に行きたかった?」
「全然行きたくない。あの人たち怖いし、皆のこと悪く言うんだもの」
「っ!……行かせる気無かった。行って欲しくなかった」
「うん、ありがとう。凄くカッコよかった」

 私はもう一度ギュッと抱きしめて離れる。そしてハッと気づいた。
 周りに皆いるんだった……!
 振り返ってみれば瞬きせず棒立ちしている人、大の字になって倒れている人、天を仰いでいる人などカオスな状況になっていた。

「どうしよう……リューク……って、え」

 リュークもいつの間にか鼻血を出して倒れていた。

「わぁぁ!大丈夫!?ご、ごめんね!?」

 その後ハインツさんが来て場を収めるまでしばらく混沌は続いた。


「リューク、鼻血はもう大丈夫か」
「あい、だんぢょう」
「まだ詰めてるじゃないか」

 仕事が終わってからハインツさんに呼ばれリュークと執務室へ来ていた。
 今日起こったことや経緯は既に理解してくれているようだ。

「ごめんなさい……私そこまで考えてなくて」

 私を攫ってきたとか監禁してるだとか、黒騎士団の人たちが悪く言われてしまったのも私がいたからだ。姿を見られただけでこんなことになるなんて思いもしなかった。
 ハインツさんたちは分かっていたのだろう。それでもここに居たいという私の我儘を受け入れてくれた。

「いや、サキのせいじゃない。あれは全面的に赤騎士団が悪いんだ。私たちにも、もともと酷い態度だから全く気にしなくていい。ただあちらに知られてしまったから外には当分出られない。敷地内でいつも通り過ごしてくれ」
「はい……ありがとうございます」

 この件は一旦解決したが、心にはモヤモヤとしたものが残っていた。
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