美醜逆転の異世界で騎士様たちに愛される

志季彩夜

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初めて町へ 1

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 花を裏庭に植えてから、朝食を終えて花の水やりをするのが私の日課だ。団員たちも空いた時間に来てくれていて、黒騎士団の憩いの場の一つになっている。
 お花、どのくらいで大きくなるのかなぁ。
 この庭はまだ殺風景だ。もっと花が増えたら綺麗だろうなと考えていると私の名前を呼ぶ声がした。

「ミスカさん!おはようございます」
「おはよう。花の水やりか?」

 こちらに向かってきたミスカさんはちょうど朝日に照らされていて、見惚れてしまうくらい綺麗だった。

「はい。お花を育てるのは初めてなので勝手が分からないんですけど、お水はしっかりあげないとと思って」
「ああ、今の時期ならそろそろ朝と夕方二回やったほうがいい」
「そうなんですね!ミスカさん植物とか詳しいんですか?」
「昔教えてもらったことがあってな」

 騎士団に入る前かな?

「ここも、色んなお花があったらもっと綺麗だろうなってさっき思ってたんです。今まで使われていなかったのが勿体ないですよね」

 私がそう言うとミスカさんは何やら考え込んでしまった。
 変なこと言ってたかな私……。

「花とか、見に行きたいか?」
「え?」
「町に花屋がある。実際に見たいならと思って」

 それって……。

「町に行けるんですか…!」

 思わず大声を出してしまったがそれくらい嬉しい。町があるのは知っていたけど、機会も無いため行くことはないと思っていた。けれどちょっぴり、いや結構気になっていたのだ。

「団長に確認して、条件付きにはなるが大丈夫だろう」
「本当ですか!あの、お花屋さんの他にもお店ありますか?どんな感じですか?」

 ミスカさんはつい前のめりになってしまった私の頭をぽんぽんと撫でてなだめる。彼を見上げると、とても優しい顔をしていた。

「可愛いな、サキは」
「ふぇ!?」
「そんなに焦らなくても大丈夫だ、見れば分かる。団長のところへ行こう」
「は、はぃ」

 真っ赤になってしまった私はしばらく顔を隠して移動した。


「ということで、サキを町に連れて行っても良いですか」
「そうだね、ずっとここに居るのも息が詰まるだろう。危ないから外へはなかなか行かせてあげられないけど半日くらいなら大丈夫だ」
「ありがとうございます!」

 ハインツさんの許しをもらい早速用意する。
 まず条件として出されたのは容姿を変えること。この髪色だと目立って色々大変なんだそう。髪色を変えられるスプレーがあるそうなのでそれを使う。
 しかしそのスプレーは赤、青、黄の三色しか無い。もちろんこの世界では普通の髪色なのだと分かっている。
 でも……自分がこの髪色になるっていう想像がつかない……!
 今までの人生で黒か茶色しか経験の無い私にとってどれを選んでも似合う自信がなかった。

「これで……いいかな……?」

 結局青色を選びなんとか染めることができた。だいぶムラがあるがフードも被るので気にしなくて良いだろう。
 それにしてもやっぱり色が浮いてる気がする……落ち着かないなぁ。
 納得いかないまま部屋を出てミスカさんに見せる。

「どうですか……?」
「ああ、この色なら周りに馴染めるな」
「それなら良かったです!……ミスカさん?」
「サキはどんな髪色でも似合うな」
「あ、ありがとうございます……」

 ミスカさんにそう言ってもらえて、照れくさかったけど安心した。
 フード付きのローブを羽織り、顔を薄いレースのような布でマスクのように覆ったら見た目はだいぶ誤魔化すことが出来たと思う。
 そしてもう一つ、三人護衛を連れて行くこと。
 ミスカさんと、あともう二人はミスカさんの部下の人が来てくれることになった。

「サキさんとお出かけ!?」
「やったー!町でも何処でもお供します!」
「お前たちは後ろから付いてこい」
「「えぇー……」」

 二人は分かりやすくしょんぼりしている。

「あの……お二人も一緒に見て回ってもいいんじゃ…」
「四人だと歩きづらいからな」
「そう……ですか?」

 ミスカさんは改めて私に向き直る。

「言い出しておいて今更だが、俺は背が高いからどうしても目立つし嫌な目で見られる。隣に居たらサキも何か言われるかもしれない。それでも……大丈夫か?」
「全然大丈夫です!ミスカさんと一緒に行けるの凄く嬉しいです」
「……そうか。じゃあ行こう」
  
 黒騎士団の敷地は町からだいぶ離れているそうで普段は馬に乗って行くそうだ。
 馬……こんなに近くで初めて見た……。

「男しかいないから馬車がないんだ、すまない。一緒に馬に乗ってくれるか?」
「はい!乗りたいです!」

 馬に乗るだなんて滅多にない機会だ。私は既にワクワクが止まらなかった。

「サキならそう言ってくれると思っていた」

 ミスカさんは最初から分かっているというように微笑んだが、後ろの二人は相当心配していた。

「馬に乗りたいなんて……サキさん怖くないのかな……?女性は普通近寄りもしないのに」
「ミスカ隊長が居るから絶対落ちはしないけど、乗ってみて泣いちゃったらどうしよう……」

 ミスカさんが飼っているという馬は濃い茶色の毛並みで、とても優しい目付きをしていた。そっと顔を撫でると軽く息を吐きながら顔を擦り寄せてくる。
 可愛い~!

「上に持ち上げるからそこに足を掛けて跨いで乗ってくれ。手を前に置いてそこに体重をかけると安定する」
「分かりました」

 いざ乗るとなると緊張する。ミスカさんの両手が私の腰を掴み軽々と上に持ち上げた。
 すごい…目線が高い……!
 言われた通りに馬の背に跨り体重をかけるが少しふらついてしまう。

「わっ」

 不安定な私の背中をミスカさんが手で支えてくれる。

「大丈夫だ。俺は後ろに乗るからそのままでいてくれ」
「は、はい」

 そう言いミスカさんは颯爽と乗り、私を抱き締めるような形で手綱を握った。

「最初はゆっくり走る。違和感があったら言ってくれ」
「はい!お願いします」

 馬に乗った後ろの二人にも声をかけ私たちは出発した。

 土を蹴る足音に合わせ揺れる体、馬の体温を感じる手足、全てが新鮮だ。

「ミスカさん!私乗ってます!」
「ふっ……そうだな。乗り心地は悪くないか?」
「大丈夫そう……あ、もうちょっと後ろに行っても良いですか?」
「ああ、近づいた方が安定しやすい。嫌じゃなければもたれかかっても良い」
「ありがとうございます」

 体を後ろに寄せようとするが、馬の背に乗りながらだと上手くバランスが取れず難しい。そんな私を見て、ミスカさんは腕をお腹に回してぐっと後ろに引き寄せてくれた。

「ここで良いか」
「は、はい」

 どうしよう、すごいドキドキする……!
 分厚い胸板を背中に感じる。お腹に回された太い腕で体をしっかり固定されてて、先程持ち上げてもらった時にも腰に触れた手は大きくて。
 意識してしまった、男の人なんだと。
 心臓の鼓動が大き過ぎてミスカさんに聞こえてないか心配になる。
 でも一人でこんなこと考えているのが恥ずかしくて、なるべく顔に出さないよう努力していた。

「そろそろスピードを上げるからしっかり掴まっていてくれ」

 そう言うと手綱をひと振りし一気に加速する。
 
「わぁ!気持ちいい……」

 風を正面に受け周りの景色がどんどん過ぎていく。陽の光と柔らかい草の匂い。豊かな自然を感じて、私のドキドキしていた鼓動もゆっくり落ち着いていった。
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