美醜逆転の異世界で騎士様たちに愛される

志季彩夜

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裏庭の笑顔

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「お嬢さん、久しぶりだね」
「ログさん!ご無沙汰してます」

 ログさんとは初めて会った時ぶりだ。今日は私の新しい服を持ってきてくれたので受け取りに来ていた。
 今までは軽い生地の長袖を着ていたが、最近ジワジワと暑くなってきていていたので半袖の服を買ってくれたそう。
 もう春から夏。一ヶ月以上ここで過ごしているのだと改めて実感した。

「ありがとうございます」
「いやーこちらこそ。お嬢さんが来てから食料品の納品数が一気に増えたからね!儲かって助かるよ」
「皆さんいっぱいご飯食べてくれるので!ご迷惑になっていないのなら良かったです」

 ログさんはふと思い出したように、荷物の中から何かを取り出した。

「お花……ですか?」

 可愛らしい小さな花がポットに植えられている。

「そうそう。少し多めに注文しちまって余ってるんだけど、お嬢さんいらないかい?」
「いいんですか……!是非頂きます!」

 赤、ピンク、白の三色の花を一つずつ貰った。
 ログさんに聞くと、もう少し広いところに植え替えればまだ大きく成長できるそう。
 荷物を置いた後、早速どこか植えれそうな場所は無いかと探しているとちょうどヴェルストリアくんと会った。

「それどうしたんですか?」
「ログさんに貰ったの。どこか広いところに植え替えたいんだけど、いい場所ないかな?」
「それだったら、裏庭がいいんじゃないでしょうか」

 ヴェルストリアくんに付いていくと、西館の横手にレンガの積まれた花壇がいくつか並んでいるこじんまりとした庭が現れた。
 こんな裏庭があるなんて全く知らなかったので驚きだ。騎士団の設備としては必要なさそうな物がなぜあるのか気になって聞いてみると、ここは元々とある貴族の屋敷だったそう。

「その貴族というのが黒騎士団の設立者、先々代の団長で、彼が別荘として所有していたこの建物を改装して寮になったそうです」

 そっか、だから建物は中世ヨーロッパ風のお洒落な感じなんだ。
 裏庭は形は残っているものの今は全く使われていない為だいぶ荒れている。

「まずは綺麗にしてからだよね、草抜きからかな」

 腕まくりをするとヴェルストリアくんが慌てて私を止める。

「女性が畑仕事だなんて!男がやるべき事ですから僕がやります」
「私が勝手にやりたいって思ってるだけだから気にしないで」
「気にします!サキさんがどうしてもやりたいと言うなら……他の人にも頼みましょう。そうすればすぐに終わりますから」
「え、あの」
「明日改めてでも良いですよね!僕が皆に声をかけておきますから」

 絶対私にはさせられないというヴェルストリアくんの強い意志に押し負け、私は頷くことしか出来なかった。

 こじんまりとした裏庭、そこに集まったのは十人以上。沢山来てくれたのは嬉しいけど流石に狭くないかとツッコミたくなる。

「お忙しいのにすみません」
「いえいえ!サキさんの為ならいくらでも草ぶち抜きますよ!」
「ちゃんと根から取らないと意味ないからな?」

 騎士たちはわいわい楽しそうに畑を耕したり、草抜きをしている。
 ラグトさんとミスカさんも来てくれていた。

「お二人もありがとうございます」
「うん!なかなかこういうのやることないから新鮮で楽しいな」
「今日は暑いから、サキも無理しないでくれ」
「はい!」

 私はヴェルストリアくんのところへ戻る。

「いっぱい呼んでくれたんだね!ありがとう」
「いえ、ミスカさんに言ったら三番隊の皆さんと来てくれて。僕一人じゃ流石にあんなに早くは出来ないので助かります」

 遠くに視線を向けると物凄いスピードで抜かれた雑草が溜まっていく。特にラグトさんの勢いが凄かった。
 二人で並んで畑に肥料を撒いていると、ふとヴェルストリアくんが私のほうを見る。

「偉そうな事を言って申し訳ないんですけど…サキさんはなんでも一人でやろうとしてしまうので、少し心配です。もっと少し人に頼ってもいいと思います」
「そうかな……」

 そう言われて考える。
 私がもともと積極的に言えない質なのもあるけれど、ここでお世話になってる身としては出来るだけ迷惑をかけたくないと思ってしまうのだ。

「頼られるって嬉しいんです」
「?」
「僕も黒騎士団に入った時、仕事を与えられて必要とされて嬉しかった。僕がちゃんと出来るって信頼されていると感じたから。だから、サキさんもそうして欲しいです」
「……!」

 頼るって、信頼があるから出来ることなんだ。
 周りを見渡すと皆笑顔で。一人でやるよりずっと速くてずっと楽しい、良いことばかりだ。

「ありがとう。凄く納得した!」

 なんだかとても前向きになれた気がした。

「私、もっとヴェルストリアくんに頼っていい?」
「っ……はい!サキさんに頼られるのは何よりも嬉しいです!」

 初めてこんな満面の笑みのヴェルストリアくんを見て、胸がキューっと締め付けられるような嬉しさを感じた。

 皆の頑張りのお陰で二時間程で作業は終わり、裏庭はすっかり美しい景観を取り戻した。食堂で冷やしていたジュースを配る。

「皆さん本当にありがとうございます!これどうぞ」
「サキさんの役に立てたなら本望だよな!」
「天使の笑顔が今日も天使……」
「この飲み物うまっ!甘くてサッパリしてる」
「ほんとだ……いくらでも飲めそう!」

 スポーツドリンク代わりに作ってみたのだがとても好評で、鍛錬の後にも飲みたいとのことでこれからも作ることにした。

「ラグトさんもおかわりどうですか?」
「欲しい欲しい!ありがとう!最近どんどん暑いね、サキちゃん疲れてない?大丈夫?」
「私は大丈夫です!あ、ラグトさん汗かいてますよね。えっとタオルは……」
「はは、ごめんね。こんな男ばっかで汗かいてたらむさ苦しいよなー」

 ラグトさんはいつも私に謝る時、眉が困ったように下がる。ちょっと寂しそうなこの表情を見ると私に何かできるかなって、笑って欲しいなって思う。
 私は取り出したタオルでラグトさんの額を拭う。

「いいえ、頑張ってくれた証ですから。凄く嬉しいです」
「……!」

「汗かいた後のシャワーってすごいスッキリしますよね」と言うと「ほんと、そうだよね」と笑ってくれた。

 裏庭には小さな花が三つ。
 これからもっと素敵な場所になると良いな。
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