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夜の差し入れ
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今日も食堂は賑わっている。
最初はヴェルストリアくんと二人で先に食べていたのだが、今は団員の皆と時間を合わせて一緒に食べるようにした。
大人数での食事が一番楽しいよね。
ミスカさんやリューク、ラグトさんもよく食べに来てくれていてとても嬉しい。でも……。
「やっぱり忙しいよね……」
「ん?急にどうしたの」
リュークに問いかけられて、知らずに声に出ていたことに気づく。
「あのね……ハインツさんは食堂に来ることないから、忙しくて時間合わないんじゃないかと思って」
「あーそうだね、団長は桁違いに仕事が多いんだ……。三つの部隊があってそれぞれの管理は隊長が行うけど、最終的にまたそれを確認するのは全部団長だし」
「リュークさんは団長の補佐もされているんですよね?」
ヴェルストリアくんの質問に「まぁ一応ね」と答えるリュークに少し驚く。
確か第二番隊の副隊長だって聞いたけど補佐もだなんて、すごいなぁ。
「団長、朝は早くから鍛錬してるし夜はその日の書類仕事に追われてるからちょうど食事の時間と被ってるんだと思う。俺も手伝えたら良いんだけど……」
「そうなんだ……。でも私からしたらリュークもすごい頑張ってるよ。忙しい中、私のこと気にかけて様子見に来てくれてるんでしょう?」
「え、なん……いや、俺がサキに会いたいだけだよ!」
「ふふ、それも嬉しいなぁ」
リュークはいつもご飯を食べ終わった後、急ぎ気味で出ていくから何となく分かる。「無理しないでね」と言うと頬をかいて照れていた。
「………」
「ヴェルストリア、そんな目するなよ……」
私が想像していたよりハインツさんはだいぶ忙しいみたいだった。どうしても心配になってしまう。
何か私に出来ることないかな……?
一晩中考えて、仕事の合間でも食べれるような差し入れを作ることにした。
それなら邪魔にはならないはず……。
次の日の午後、早速キッチンに立って準備は万全。小麦粉、卵など基本的なクッキーの材料と人参、ほうれん草などの野菜。
焼き菓子なら日持ちするし野菜も混ぜれば少しは栄養を摂取出来る。疲れた時には甘い物…と言うけれど、甘い物が苦手かもしれないので砂糖は控えめにしておく。
好み聞いておけば良かったな。
「わぁ!いい匂い!」
オーブンから出したクッキーは彩り綺麗でいい感じの焼き具合だ
粗熱が取れるまで待って一つ食べてみる。
うん、大丈夫!美味しい~!
ついつまみ食いが過ぎて五つほど無くなってしまったが問題ない、作った人の特権だから。
そうして夕食後、どうやって渡そうかと悩みソワソワしていたらすっかり遅くなってしまった。結局クッキーは簡易的な袋に入れて、飲み物と一緒に持っていくことにする。
執務室へ行くと扉の隙間から明かりが漏れていた。軽くノックをして声をかけてみる。
「夜分遅くにすみません、サキです」
「サキ!?あ、ああ入ってきてくれ」
執務室に入ると書類が机に積み上がっていて、ハインツさんは少し疲れた様子だった。
「何かあったか?」
「えっと、差し入れをと思いまして」
「……私に、か?」
「はい、いつもお忙しいと聞いたので。余計なお世話かもしれませんが少し心配になってしまって」
「っ……いや、嬉しいよ!わざわざありがとう」
ハインツさんが明るく笑ってくれたお陰でホッと安心した。
二人でソファに座り私はトレーを差し出す。
「紅茶とクッキーです。クッキーは日持ちするので仕事の合間にでも食べてもらえれば」
「色鮮やかだね。何味かな」
「これが人参で、緑のがほうれん草です」
「にんじ……っん、か」
急につかえたように言葉が途切れ、戸惑ったような表情になった
「……もしかして人参お嫌いですか?」
「いや……嫌いと言うほどではない、あまり、食べないだけで」
それは食わず嫌いというものではないだろうか。まさかハインツさんに苦手な物があるだなんて。知らずに作ってしまって申し訳ないが、子供っぽい一面が見れて嬉しくもある。
「私知らなくて、ごめんなさい。無理して食べなくて大丈夫ですよ」
「無理なんかしていないよ!君が作ってくれた物なんだ。食べたいに決まってる」
ハインツさんはオレンジ色のクッキーを一つ手に取り、ぱくっと口に入れた。
「!」
「ど、どうですか?」
「ちゃんと人参の味がするのに美味しい……」
そう言いもう一個ながら頬張る。
「本当に美味しいよ!サキ!」
さっきの躊躇いが嘘のように目を輝かせて言うものだから、つい笑ってしまった。
「あはは!そんなに喜んでもらえたなら良かったです……!っふふ……ハインツさん可愛い……」
「っ……!?」
「人参はしっかり加熱すれば甘く食べやすくなりますよ。今度違うものを作ってきますね」
笑いがやっと落ち着いて深く息を吐く。
ハインツさんがじっと私の顔を見ているのに気がついて、ふと視線を交わす。少しの沈黙の後、私は口を開いた。
「「あの」」
あ、被っちゃった!
「ご、ごめんなさい。ハインツさんどうぞ」
「あ、ああ。その……時間がまだあるようなら、もう少しここに居てくれないか……?」
戸惑いながらそう言ってくれたハインツさんに私は嬉しくて大きく頷く。
「はい!私も、もう少しここに居たいです。それを言おうと思って」
「!そうか、ありがとう」
ハインツさんは仕事は後で良いと言って、二人でソファに座ったまま少し話す。
「ほうれん草のクッキーもほんのり甘くて美味しいな」
「甘いの大丈夫でしたか?」
「ああ、むしろ……甘い物は結構好きなほうだ」
照れながらそう教えてくれる。
そうなんだ!好みが分かるともっと色々作りたくなっちゃうな。
「……サキと会うのはなんだか久しぶりな気がするな」
「そうですね」
実は一緒に森へ行った日から一度も会うことが無かったのだ。彼は基本的に執務室に居る為、廊下ですれ違うことも無い。リュークがよく様子を見に来てくれるのは時間の取れないハインツさんの代わりでもあるのだろう。
「今日やっぱりご迷惑かと思ったんですけど会えないと寂しくて、ハインツさんに会える口実ができ……」
口から零れた本音がだいぶ恥ずかしいことに気づいてどんどん声が小さくなってしまった。
私……そんなふうに思ってたんだ……会いたいって。
確かに忙しいと聞いて心配したのは事実だが、あんなに張り切ってクッキーを作っていたのはハインツさんに会える楽しみだったのかもしれない。
「……サキ」
「じ、自分勝手でごめんなさい!我儘言える立場じゃないのに……忘れてください……」
笑って誤魔化そうとすると手をそっと取られる。
「私も我儘を言っていいかい?」
「え……?」
「また空いてる夜があればここに来て欲しい」
「!」
微笑んでそう言ってくれたハインツさんに私は何度も首を縦に振る。
「空いてます……!毎日空いてます!」
「っはは!そうか、サキが来たいと思ってくれたならいつでも良いよ」
また少しだけお喋りして、私は部屋に戻ることにした。
「お仕事無理しないでくださいね。お邪魔している私が言えることではないですけど……」
「いや、サキが来てくれると思うと一層頑張れるよ」
「それなら……良かったです?」
「うん、良いことだ」
二人で笑い合う。
「じゃあおやすみなさい」
「おやすみ、サキ」
サキが出て行った後、ハインツは頭を抱えて悶絶していた。
「可愛すぎる……あんなの」
勘違いしてしまう。そんなことあるはずないのに。
「会えないと寂しい……なんて、はぁ……夢みたいだ……」
自分から言ったことだが、これからサキが来る度にこの湧き上がる激情を抑えなければならないと思うと、やっぱり頭を抱えるしかないのであった。
最初はヴェルストリアくんと二人で先に食べていたのだが、今は団員の皆と時間を合わせて一緒に食べるようにした。
大人数での食事が一番楽しいよね。
ミスカさんやリューク、ラグトさんもよく食べに来てくれていてとても嬉しい。でも……。
「やっぱり忙しいよね……」
「ん?急にどうしたの」
リュークに問いかけられて、知らずに声に出ていたことに気づく。
「あのね……ハインツさんは食堂に来ることないから、忙しくて時間合わないんじゃないかと思って」
「あーそうだね、団長は桁違いに仕事が多いんだ……。三つの部隊があってそれぞれの管理は隊長が行うけど、最終的にまたそれを確認するのは全部団長だし」
「リュークさんは団長の補佐もされているんですよね?」
ヴェルストリアくんの質問に「まぁ一応ね」と答えるリュークに少し驚く。
確か第二番隊の副隊長だって聞いたけど補佐もだなんて、すごいなぁ。
「団長、朝は早くから鍛錬してるし夜はその日の書類仕事に追われてるからちょうど食事の時間と被ってるんだと思う。俺も手伝えたら良いんだけど……」
「そうなんだ……。でも私からしたらリュークもすごい頑張ってるよ。忙しい中、私のこと気にかけて様子見に来てくれてるんでしょう?」
「え、なん……いや、俺がサキに会いたいだけだよ!」
「ふふ、それも嬉しいなぁ」
リュークはいつもご飯を食べ終わった後、急ぎ気味で出ていくから何となく分かる。「無理しないでね」と言うと頬をかいて照れていた。
「………」
「ヴェルストリア、そんな目するなよ……」
私が想像していたよりハインツさんはだいぶ忙しいみたいだった。どうしても心配になってしまう。
何か私に出来ることないかな……?
一晩中考えて、仕事の合間でも食べれるような差し入れを作ることにした。
それなら邪魔にはならないはず……。
次の日の午後、早速キッチンに立って準備は万全。小麦粉、卵など基本的なクッキーの材料と人参、ほうれん草などの野菜。
焼き菓子なら日持ちするし野菜も混ぜれば少しは栄養を摂取出来る。疲れた時には甘い物…と言うけれど、甘い物が苦手かもしれないので砂糖は控えめにしておく。
好み聞いておけば良かったな。
「わぁ!いい匂い!」
オーブンから出したクッキーは彩り綺麗でいい感じの焼き具合だ
粗熱が取れるまで待って一つ食べてみる。
うん、大丈夫!美味しい~!
ついつまみ食いが過ぎて五つほど無くなってしまったが問題ない、作った人の特権だから。
そうして夕食後、どうやって渡そうかと悩みソワソワしていたらすっかり遅くなってしまった。結局クッキーは簡易的な袋に入れて、飲み物と一緒に持っていくことにする。
執務室へ行くと扉の隙間から明かりが漏れていた。軽くノックをして声をかけてみる。
「夜分遅くにすみません、サキです」
「サキ!?あ、ああ入ってきてくれ」
執務室に入ると書類が机に積み上がっていて、ハインツさんは少し疲れた様子だった。
「何かあったか?」
「えっと、差し入れをと思いまして」
「……私に、か?」
「はい、いつもお忙しいと聞いたので。余計なお世話かもしれませんが少し心配になってしまって」
「っ……いや、嬉しいよ!わざわざありがとう」
ハインツさんが明るく笑ってくれたお陰でホッと安心した。
二人でソファに座り私はトレーを差し出す。
「紅茶とクッキーです。クッキーは日持ちするので仕事の合間にでも食べてもらえれば」
「色鮮やかだね。何味かな」
「これが人参で、緑のがほうれん草です」
「にんじ……っん、か」
急につかえたように言葉が途切れ、戸惑ったような表情になった
「……もしかして人参お嫌いですか?」
「いや……嫌いと言うほどではない、あまり、食べないだけで」
それは食わず嫌いというものではないだろうか。まさかハインツさんに苦手な物があるだなんて。知らずに作ってしまって申し訳ないが、子供っぽい一面が見れて嬉しくもある。
「私知らなくて、ごめんなさい。無理して食べなくて大丈夫ですよ」
「無理なんかしていないよ!君が作ってくれた物なんだ。食べたいに決まってる」
ハインツさんはオレンジ色のクッキーを一つ手に取り、ぱくっと口に入れた。
「!」
「ど、どうですか?」
「ちゃんと人参の味がするのに美味しい……」
そう言いもう一個ながら頬張る。
「本当に美味しいよ!サキ!」
さっきの躊躇いが嘘のように目を輝かせて言うものだから、つい笑ってしまった。
「あはは!そんなに喜んでもらえたなら良かったです……!っふふ……ハインツさん可愛い……」
「っ……!?」
「人参はしっかり加熱すれば甘く食べやすくなりますよ。今度違うものを作ってきますね」
笑いがやっと落ち着いて深く息を吐く。
ハインツさんがじっと私の顔を見ているのに気がついて、ふと視線を交わす。少しの沈黙の後、私は口を開いた。
「「あの」」
あ、被っちゃった!
「ご、ごめんなさい。ハインツさんどうぞ」
「あ、ああ。その……時間がまだあるようなら、もう少しここに居てくれないか……?」
戸惑いながらそう言ってくれたハインツさんに私は嬉しくて大きく頷く。
「はい!私も、もう少しここに居たいです。それを言おうと思って」
「!そうか、ありがとう」
ハインツさんは仕事は後で良いと言って、二人でソファに座ったまま少し話す。
「ほうれん草のクッキーもほんのり甘くて美味しいな」
「甘いの大丈夫でしたか?」
「ああ、むしろ……甘い物は結構好きなほうだ」
照れながらそう教えてくれる。
そうなんだ!好みが分かるともっと色々作りたくなっちゃうな。
「……サキと会うのはなんだか久しぶりな気がするな」
「そうですね」
実は一緒に森へ行った日から一度も会うことが無かったのだ。彼は基本的に執務室に居る為、廊下ですれ違うことも無い。リュークがよく様子を見に来てくれるのは時間の取れないハインツさんの代わりでもあるのだろう。
「今日やっぱりご迷惑かと思ったんですけど会えないと寂しくて、ハインツさんに会える口実ができ……」
口から零れた本音がだいぶ恥ずかしいことに気づいてどんどん声が小さくなってしまった。
私……そんなふうに思ってたんだ……会いたいって。
確かに忙しいと聞いて心配したのは事実だが、あんなに張り切ってクッキーを作っていたのはハインツさんに会える楽しみだったのかもしれない。
「……サキ」
「じ、自分勝手でごめんなさい!我儘言える立場じゃないのに……忘れてください……」
笑って誤魔化そうとすると手をそっと取られる。
「私も我儘を言っていいかい?」
「え……?」
「また空いてる夜があればここに来て欲しい」
「!」
微笑んでそう言ってくれたハインツさんに私は何度も首を縦に振る。
「空いてます……!毎日空いてます!」
「っはは!そうか、サキが来たいと思ってくれたならいつでも良いよ」
また少しだけお喋りして、私は部屋に戻ることにした。
「お仕事無理しないでくださいね。お邪魔している私が言えることではないですけど……」
「いや、サキが来てくれると思うと一層頑張れるよ」
「それなら……良かったです?」
「うん、良いことだ」
二人で笑い合う。
「じゃあおやすみなさい」
「おやすみ、サキ」
サキが出て行った後、ハインツは頭を抱えて悶絶していた。
「可愛すぎる……あんなの」
勘違いしてしまう。そんなことあるはずないのに。
「会えないと寂しい……なんて、はぁ……夢みたいだ……」
自分から言ったことだが、これからサキが来る度にこの湧き上がる激情を抑えなければならないと思うと、やっぱり頭を抱えるしかないのであった。
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