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サキとの出会い(ハインツ)

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 初めて会ったのは森の中だった。

「あそこに誰かいる!」

 リュークの声が聞こえて、耳を疑った。
 こんな夜中に人?最近は狼の噂もあり余計に誰も近づかないというのに。
 急いで向かうとそこに居たのはなんと…黒髪と黒目の女の子だった。
 初めて見る美しさに一瞬息が止まる。
 ライトに照らされた可愛らしい顔が驚きと安心で歪むのに気づいて、慌てて思考を取り戻し彼女に声をかけた。

 サキと名乗った彼女は色々変だった。
 黒髪黒目だけじゃなく服装も見た事の無いものだし、私たちを見ても嫌がったりしない。助けられた義理で文句が言えないだけだろうが。
 しかし、少しの嫌悪感も見せないサキは純粋にいい人なのだろうと思う。話していても受け答えがきちんとしていて聡明な人なのだろうとも。
 異世界から来たというのは流石に疑ってしまったが、彼女は嘘をつかないだろうと何故かそう思い信じることにした。


「まさかここに住むことになるとは…」

 ここに居たいと言った時のサキの上目遣いとキュッと唇を噛んだ仕草が可愛すぎて頭から離れない。

「俺たちの容姿に何も言わないのも異世界から来たからなのかな」
「それにしたってここは黒騎士団だぞ?大丈夫なのか…」

 リュークとミスカが心配するのも当たり前だろう。ここは騎士団ではあるがはぐれ者の集まりだとも呼ばれている。
 容姿が醜いものはどれだけ実力があっても赤騎士団には入れない。まぁそこはただの金持ちの集まりなのだが。
 ここは容姿関係なく実力のある者が上にいく。そのおかげで皆切磋琢磨し力を付け、戦や討伐で成果をあげているのだが、容姿での差別が大きい世の中ではなかなか受け入れて貰えない。
 しかしサキがここに居たいと言ってくれたからには最善の環境にしなければ。

「サキの存在は公にはしない。上には信頼出来る人のみに伝えておく」

 サキの世界とは違うようだが、ここでは二十歳までに結婚しなければならないと決まっている。急に知らない世界に来て結婚をしなくてはならないというのはあまりに酷すぎるだろう。

「結婚については何も話すな。それから、サキが不快な思いをしないよう配慮する旨を皆に伝えろ」
「了解です」

 リュークとミスカにこの後の案内も頼み、二人は執務室を出ていった。
 これから彼女をどうするのか。色々と問題があると分かっていながら、私はどうしても嬉しい気持ちが勝っていた。
 よし、団長として出来ることは全てやろう。彼女の不安が少しでも拭えるのなら。

 サキが黒騎士団に住み始めて数日、彼女は嫌な顔一つせず団員達にも接してくれてすっかり慕われているようだった。仕事もどうしてもやりたいと言うのでお願いしたのだが、驚くほど完璧にこなし今では頼りっぱなしになってしまっている。
 サキが来てから皆見違えるほどに明るくなった。本当に異世界から神が遣わした天使なのではないか。
 そんな事を考えていた時、ちょうどサキが執務室にやって来た。
 どうやら森で狼に遭遇した時に持ち物を落としてしまったらしい。
 やはり自分の世界のものが無いというのは不安だろう。なるべく早く見つけてあげたい。しかし私が行こうと言ったものの森は広く今日中には無理かもしれない。

「助けていただいた場所まで行けば分かるかもしれません!」

 そう言ったサキにはまだ戸惑いが感じられた。私たちの前で泣くほどだったのだから、まだ恐怖が残っていて当たり前だ。
 しかし彼女は頭を下げてついて行きたいという。そこまでして行きたいというのに驚いたがサキらしいとも思った。

 サキと森を歩き数十分、ようやくバッグを見つけた彼女は嬉しそうに駆け寄る。
 見つかって良かった。これで彼女が帰る時も…帰る、か。そうだよな、良かったよな。
 ふと胸が苦しくなり、それに気を取られて彼女の前に現れたものに反応が遅れる。
 慌ててサキを庇うように出るが、その狼の子供を見て納得する。
 狼は一定の場所に留まることはあまり無い。それなのに何度も目撃したというのは子供が居たため長距離移動出来なかったからだろう。サキを見て威嚇したのも警戒心が高まっていたから。
 狼の母親の姿を見て思わず剣を取るが、あっさり引き下がっていった。無闇に刺激しなければ今後も人を襲うことはないだろう。
 問題が解決し一安心していると、サキの身体がふらつきすぐに腕で支える。

「すみません…緊張が解けて…」

「大丈夫だよ」と言ってはみたが、段々意識してしまって全然大丈夫では無くなってしまった。サキの柔らかい身体が自分の腕の中に収まっていることが信じられなくてつい声をかけてしまう。
 サキは慌てて謝り離れようとしたが私はその肩を引き止める。言い訳かもしれないが、離れた時に彼女がまだほんの少し不安そうな顔をしていたから。

「いや!怖かっただろう!その…嫌じゃなければまだ…いてくれて構わないよ」

 こんな言い方があるか、押し付けがましい。恥ずかしさと彼女に嫌な顔をされていたらという怖さで横を向いていた。

「ハインツさんこそ嫌じゃないですか?私、助けてもらった時から頼りっぱなしで、面倒だと思うんですけど…」

 ふとサキがそう言った。驚いて顔を見やると彼女は目を伏せ俯いていた。
 まさか、ずっと気にしていたのか。
 サキからの要望と言えば黒騎士団に居たい、仕事がしたいということしか私は聞いたことがない。嫌でも面倒でもない、むしろこちらとしてはご褒美のようなことだ。
 サキは謙虚すぎる。自身がどれだけ見目も心も美しいのか気づいていない。
 もっと頼って欲しい、欲張って欲しい、望むことなら何でもしてあげたい。
 口に出してようやく気づく。

 あぁ、私はサキを好いている。

 認めてしまえば当たり前のように胸に馴染んで、思わず顔が緩んだ。
 触れるとドキドキするのも、帰ってしまうと思うと胸が苦しくなるのも。「女性だから」なんかではない、サキだから。
 私の言葉に照れて真っ赤になり頑張って返事をしようとしているのが可愛いすぎて抱きしめたくなる。
 駄目だ、彼女を困らせてはいけない。異世界から来た一回りも年下の女の子。どう考えても想いを伝えることさえ叶わない。
 しかしさりげなく繋いだ手を彼女がキュッと握り返してくれて、どうしようもなく浮かれてしまったことは許して欲しい。
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