美醜逆転の異世界で騎士様たちに愛される

志季彩夜

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二人きりの森の中

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 それから仕事も順調にこなし団員の皆から声をかけてもらうことも増え、だいぶここでの生活に慣れてきた。
 しかし一つ気がかりな事があって、その日ハインツさんのところへ相談に来ていた。

「バッグ?」
「はい、あの森で落としてきてしまったんです」
  
 忘れていた訳ではないがここで過ごすのに必要では無いし、あの時の森での恐怖がまだ残っていた為後回しにしてしまっていた。

「わかった、今からなら大丈夫だから私が行こう。場所はわかるかな?」
「いえ……暗かったのでよくわからないんです」
「そうか、しかしあの森は広いから闇雲に探すのもな……」

 ハインツさんは難しい表情をして腕を組んでいる。
 私も考え、あの時の様子を思い出す。
 ほぼまっすぐ走ってたから……逆に辿っていけば……。

「あの!助けていただいた場所まで行けばわかると思います」
「しかし……そうすると君も一緒に行くことになるが……」

 ハインツさんもあの日のことがトラウマになっているのではと心配してくれているのだ。
 正直あまり行きたくはないけど……いつまでも頼ってばかりじゃ駄目だよね。

「私からお願いした事なので、連れて行ってください」

 私が頭を下げると、しばらくして上から優しい声が聞こえた。

「いいよ、君が大丈夫ならいいんだ。早速準備して行こうか」
「はい!」


 騎士団の建物から森は近いので二人で歩いて行くことになった。
 門の傍にある訓練場の前を通った時、ランニングしていたヴェルストリアくんがこちらに気づいたので手を振ってみたら控えめに振り返してくれた。
 門を過ぎたところで隣を歩いていたハインツさんがこちらを向く。

「近いと言っても歩くとそれなりにあるから、辛くなったら教えて」
「わかりました」

 隣にいると背の高さがよく分かるなぁ。
 ミスカさんが一番大きいけれど、ハインツさんも見上げると充分首が痛くなるくらいに高い。
 ラグトさんはもう少し下くらいかな。
 少し会話を交わしながら歩いていく。
 森に入り、私が三人に助けてもらった場所まで来た。
 あの時とは違い明るく周りが見えるから怖さはないが、木々が鬱蒼としていて閉鎖的だし、足場も悪いのであまり長居はしたくない。

「今こっちから来たから……あっちだと思います」
「私が先に行くから、気をつけて着いてきてくれ」

 ハインツさんの後を進んでいく。
 目の前にある大きな背中は怖いことから必ず私を守ってくれるような気がした。
 歩きにくい土のせいもあり足に疲労を感じてきた頃、ハインツさんが立ち止まりこちらを振り返る。

「サキ、あれじゃないか?」

 そう言われて前方を見ると、私のバッグと携帯がそこに落ちていた。

「そうです……!あれです!」

 急いで駆け寄り中身を確認する。
 幸い何も盗られたりせず、携帯も充電はほとんどないが壊れていなかった。

「良かった……」

 軽く土を払い、もう落とさないようにと抱えて立ち上がった時に茂みから小さな何かが出てきた。

「……犬?」

 グレーの毛並みはボサボサで木の葉が付いているが、小さめの目はくりくりしていて可愛らしい。
 キョトンとこちらを見つめてくるのでつい私も見つめ返しているとハインツさんが慌てた様子でこちらに来て私を後ろに下がらせる。

「これは犬じゃない、狼の子供だ」

 狼!?
 可愛さに釣られて手を出さなくて良かった……あ、野犬でも危ないから結局駄目だけど。

「子供がいたのか……だから警戒心が強くなっているのかもしれない」

 狼は愛情深いって聞いた事あるかも。
 人を襲うのも理由があるのかもしれない。

「狼についてはまた調査しよう、対策を練れば無闇に殺さずに済む」

 そう言うハインツさんは真剣な表情をしていて、きっと仕事の時の顔なんだろう。
 これまで私と会った時には見せないようなまた違ったカッコよさのハインツさんにドキドキしてしまう。

「きゃん!」

 急に、何かに気づいたように子供狼ちゃんがてくてくと茂みに戻っていく。
 その方向を見ると……大きなグレーの毛並みの体が見えた。素早くハインツさんが剣を抜き警戒する。
 私は思わずハインツさんの腕にしがみついてしまったが、剣を持っている彼の邪魔になると気づいてすぐ離した。
 その母親であろう狼はこちらをちらりと見たが、吠えることもなく子供を連れて去っていった。
 狼の姿が見えなくなった瞬間、少し視界が傾いた。

「っ……大丈夫か?」
「すみません……ちょっと緊張が解けて……」

 ハインツさんが素早く支えてくれた。
 あの狼もこの森に住んでいるんだ、意味もなく殺すのは間違っている。そのためにハインツさんたち黒騎士団がこれから対処してくれるのだろう。きっともう、私が心配する事は無い。
 頼もしいハインツさんの腕の中でホッと息を吐くと頭上から戸惑う声が聞こえた。

「サキ……あの……」

 はっ!ハインツさんの安心感が凄すぎてつい甘えてしまった。

「す、すみません……」

 身を引こうと思った時、肩に置かれた手に力が入った。

「いや!怖かっただろう、その……嫌じゃなければまだ……いてくれて構わないよ」

 珍しくたどたどしい口調だ。
 見上げてみると彼はそっぽを向いて手で顔を隠していた。

「……ハインツさんこそ嫌じゃないですか?私、助けてもらった時から頼りっぱなしで、面倒だと思うんですけど……」

 ずっと気になっていたことがつい口から零れる。言質をとるような言い方をしてしまって少し後悔していると、ハインツさんはこちらを向き私の手を取った。
 マメやタコの出来たごつごつとした硬く、しかし暖かい手に包まれる。
 そんなに近くで真っ直ぐ見られると恥ずかしい……美しいお顔が近すぎて目を背けたくなってしまう。

「君と出会ってから面倒だなんて思ったことは一度もないよ。いきなり一人で知らない所へ来てしまったなんてもっと騒ぎ立ててもいいくらいだ。サキは状況をよく理解して最善の道を自分で見つけている。強くて美しい人だと私は思う」
「え、あ……ぅ……」

 急にすごい褒められた!?
 嬉しいけど……結構美化してません?

「きっと君はどこに行っても、黒騎士団じゃなくても上手くやっていけるんだろうけど、君が黒騎士団が良いと言ってくれたからには力になりたいんだ。他の皆もそう思ってる。もっと頼ってくれていいんだよ」

 「むしろ頼ってくれ」と彼は言い少し赤い顔ではにかんだ。優しさは変わらず、でも今までの大人な感じではない少年のようなあどけない笑顔はとても眩しかった。

「ありがとう……ございます。ええと、そんなふうに言ってもらえるなん……て思ってなくて。私は……ハインツさんが思っているような強い人じゃないですけど、だから、もっと頼らせてもらいます!」

 なんて拙い語彙力……!顔熱いし……ちょっと逃げ出したいっ!

「ああ、是非そうしてくれ」

 頭撫でられた……余計恥ずかしいよ……。

「か、帰りましょう!もうすぐお昼の鐘もなりますね!」
「……そうだね、帰ろうか」

 歩き出した時、先程から手を握られたままなのに気づいたけどなんとなく離したくなくてそっと握り返す。
 お互い何も言わず、手を繋いで寮に帰ったのだった。
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