美醜逆転の異世界で騎士様たちに愛される

志季彩夜

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騎士たちとの夕食

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 その日の夕食作り、隣でヴェルストリアくんが手際よく肉を捌いているのを見てふと思った。
 一人で三十人分作るってなると相当大変だよね……。
 沢山野菜切ったり大きなお鍋混ぜたり、ヴェルストリアくんに任せっきりなところもあるから私も出来ること増やしたい。
 体力つけたほうがいいかもしれない、筋トレとかしてみようかな。腹筋?いやお腹は使わないか。

「サキさん、焦げてますよ!」
「え、わっ!!」

 慌てて火を止める。
 一部玉ねぎが黒くなっただけで済んだ。

「大丈夫ですか?気分が悪かったり……」
「ち、違うの!ちょっとぼんやりしてて、ごめんね」

 すごい心配してくれるヴェルストリアくんに筋トレのことを考えていましたなんて言いづらい……。


「よし、出来た!」

 夕食はトマト煮込みと一緒に唐揚げを作った。三十人分は流石に数があって揚げるのに時間がかかってしまった。

「これは僕が運びますね」

 大きなお皿をひょいと持って軽々運ぶヴェルストリアくん。見た感じ細そうなので着痩せするタイプかもしれない。

「サキちゃん、さっきぶり~!」
「ラグトさん!ちょうど夕食出来たところなんです!」

 言った通りに一番乗りで来てくれたラグトさんはあっけらんかんと笑う。

「実は鍛錬なかなか終わらなくてさ、抜け出してきた!」
「えぇー、またミスカさんに怒られちゃいますよ!」

 ラグトさんと話してるとヴェルストリアくんが驚いた様子でこちらにやってきた。

「第三番隊の……ラグトさんですよね。初めまして、第一番隊のヴェルストリアです」
「初めまして!俺のこと知ってるの?」
「先日の討伐の時お見かけしたので」

 あれ、二人とも初めて会ったんだ。

「同じ騎士団でも話さない人とかいるんだね」
「違う隊だと一緒行動することがあまりないんです」
「名前わかんない人も結構居るよ」

 なんだか学校を思い出す。
 三年間一回も同じクラスにならなかった子は全然わかんない、みたいな感じ。
 そう考えたら騎士団が男子校に思えてきた。

「とりあえず運び終わったので食べましょうか」
「うん!作ってるとお腹空くよね」
「鶏肉か!美味いよなぁ。ヴェルストリアも作ってるの?」
「僕は手伝ってるだけですよ」

 ラグトさんもヴェルストリアくんも、初対面ですぐ打ち解けれるんだなぁ。私は苦手というか、何か話さなきゃって色々考えちゃうタイプ。
 いいなーと思いながら席に着くと後ろにいた二人が同時に立ち止まった。

「え、どうかしました?」
「「いや、なんでも!」」

 二人は後ろを向くとやっぱり私に聞こえない声で話している。

「隣に行くのはマズイよな」
「二人で反対側座りましょう」
「いや、反対側でも正面と斜めがあるじゃん」
「譲りませんよ」
「なんでだよ」

 またジャンケンしてる……ラグトさんジャンケン好きなんだな……。
 二人が熱いバトルを繰り広げている間にリュークとミスカさんがやって来て私の正面に座る。

「なにをやっているんだ、あいつら」

 あんまり人のこと言えないですよミスカさん。

「サキ、結構慣れてきたみたいだね。良かった!」

 リュークが明るく笑う。

「うん!皆優しく接してくれて凄く有難いな。あ、二人の分も取ってくるね」
「ありがとう!運ぶのは自分でやるよ」

 そうして私の向かいにリューク、ミスカさん、ヴェルストリアくん、ラグトさんと座った。
 私の側空いているのだけど……そっちに四人は狭くないのかな……?

 五人で食事をしていると、ふと扉のほうから声が聞こえた。

「もしかして皆さんもう来てますかね?」
「いやーまだ来てない……かも?」
「時間じゃないから放っておいていい」

 なんだか誤魔化しているような言い方だ。
 やっぱり結構多くの人が集まっているみたいで扉の隙間からも視線を感じる。

「私、声かけてきますね」
「え、ちょっと待っ」

 扉を開けると既に二十人くらい居て驚いた様子でこちらを見ていて、なんだか恥ずかしかったのでとりあえず笑っておいた。

「え、かわいっ……」
「どういうこと?天使?」
「笑顔やばい……」

「私たち先に食べてるんですけど、良ければご一緒に」

「えぇぇ!!?」
「天使と一緒に……ご飯……」
「鍛錬後にこんなご褒美があって良いのか……?」
「てか、たちって……あ!お前らなんで先に来てんだよ!!」
「ホントじゃん!ラグトとかあいつ終わりがけに急に抜けたと思ったら……こーゆーことか!」

「あ、あの……」

 なんだか大騒ぎになってしまった。

「お前らうるさいぞ。まだ時間じゃないだろう」
「隊長はもう食べてるのに……」
「お先にいただいてます!」
「ラグト、お前は許さん」
「なんで!?俺だけ!?」
「ほれほひいひよー」
「リューク、食いながら喋るな羨ましい」

 四人もこちらに来て余計にわちゃわちゃしてる……。でもやり取りを見ているととても仲が良さそうで微笑ましい。
 昨日はひたすら作っていたから直接会えなかったけど、こんなにいっぱいの人がご飯を食べに来てくれたのだと実感できて嬉しかった。

「さ、サキさん……大丈夫ですか?」

 ヴェルストリアくんが不安そうにこちらを見る。その大丈夫がなんのことか、たぶん彼らの見た目のことだろう。この声が聞こえた周りの騎士たちもハッと気づいたようで、皆一斉に顔を隠すように頭を下げた。

「申し訳ありません!」
「こんな大人数で押しかけて、お食事中に不快な思いをさせてしまって……」

 さっきまでの明るい雰囲気は無くなり皆静まりかえってしまった。ヴェルストリアくんは焦ったように私に謝り、リュークやラグトさんが場を和ませようとしてくれたが私は二人をそっと止めた。

「いえ、何一つ不快になんて思っていません。ヴェルストリアくんも心配してくれてありがとう。私は食事を作るお仕事をいただけて、こんなに沢山の人が楽しみにしてくれているのがとても嬉しいです。だから顔を上げてください。私はそんな偉い人間でもなくただの居候なので……」
「……」

 彼らは戸惑いながらそれぞれ顔をあげる。
 この世界は美醜の差別が大きい。これまでの極端な反応や私への接し方でそう感じた。私の育ってきた環境とは根本的に違うのだろう。
 私は……なんと声をかけたら良いのかわからなかった。私がここにいる全員に安易に「カッコいい」「イケメン」と言うのは違う気がする。慰めるでも褒めるでもなく、私はただ普通でいることしか出来ない。

「気軽に接してくれたら嬉しいです。あとメニューのリクエストもしてください!料理には自信がありますので」

 そう言い大袈裟にガッツポーズをすると、皆がクスっと笑ってくれた。

「俺、肉が食べたい!」
「だいぶ範囲が広いですね……」

 ラグトさんの言葉に私が返すとまた笑いが広がって、ようやく明るさを取り戻していった。
 その後食堂の席は満席で多めに作ったご飯もおかわり争奪戦の末、キレイに完食されたのだった。
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