美醜逆転の異世界で騎士様たちに愛される

志季彩夜

文字の大きさ
上 下
7 / 185

ラグトとの出会い

しおりを挟む
 次の日、掃除をしているとゴーンという鐘の音が遠くから聞こえた。
 この世界も時間は同じで二十四時間、時計もある。朝の七時、昼の十二時、夕方五時の決まった時刻に鐘が鳴るそうで今のは昼の鐘だ。

「サキ、ちょっといいか」
「ミスカさん!こんにちは」
「今荷物が届いたところなんだ。行商人への紹介も兼ねて、君の分を一緒に受け取ってほしい」

 やった!
 この服装だとちょっと動きづらかったのですぐに用意してくれたのは有難い。

「今行きます!」

 急いで手を洗いミスカさんについていく。
 ……やっぱり喋らないよね、寡黙そうな人だし。
 二人で黙って歩いているとタイミング悪く私のお腹がキューと鳴ってしまった。
 恥ずかしい!なんか変な音だったし!

「ご、ごめんなさい!ちょっとお腹空いちゃって……」

 ミスカさんのほうを見上げると……そっぽを向いて肩を少し揺らしている。

「……ミスカさん、笑ってます?」
「……いやすまない、笑っているわけではない」

 また前を向いて歩くミスカさんの横顔はいつも通りクールだったが、私はそのまま黙っているのもなんだか恥ずかしくて言い訳ぶってしまう。

「あの、今のは調子が悪かったんです。いつもはもっと普通に鳴りますよ」
「普通に……鳴るのか」
「鳴らないほうが良いんですけど」

 我慢するのは身体に悪い、と私が言うとミスカさんの口角がほんの少し上がったような気がした。
 昼ごはんは基本皆食べないから作らなくていいと言われたけど、やっぱり私は三食に慣れているのでお腹が空いてしまう。今度手軽に食べれるものを作っておこう、出来ればお腹が鳴る前に。

 門に着くと大きな木箱が大量に積まれていた。服や食料品の他にも武器や家具など何でも持ってきてくれるそう。
 私は行商人のログさんという気の良さそうなおじさんから自分の分の荷物を受け取る。

「とりあえず必要なもんは用意したで、足りんかったらまた言っとくれ」
「ありがとうございます!」
「それにしても……こんな可愛い子は初めて見たなぁ、髪も瞳も黒なんておとぎ話かと思ってたよ」

 おとぎ話……?至って普通の日本人ですけど。そんなに珍しいのかな。

「彼女のことは秘密にしておいてくれ」
「ああ、わかってるよ。お嬢さん、またよろしくな!」

 ログさんが帰って行った後、ミスカさんに聞いてみる。

「黒髪とか黒目って少ないんですか?」
「少ないというか俺は君以外に見たことない」

 いないの!?そんな幻の存在みたいな感じなんだ……。

「私……変ですか?」
「あ、いや……サキの世界とは違うかもしれないが、黒い髪や瞳は美しいものだとされている。だから……そうじゃなくても君は……可愛い。初めて見た時……天使かと思った」

 ボッと顔が熱くなった、見えなくても自分が真っ赤になっているのがわかる。ミスカさんも顔を赤らめながら私を真っ直ぐ見つめていて嘘を言っている訳ではなさそう。
 か、可愛い……?天使……?寡黙だと思ってたのにミスカさんってこんなこと言うキャラなの!?
 イケメンからのド直球をくらい私がアワアワして何も言えなくなっていると、横から駆け足の音とともに明るい声が聞こえた。

「先輩!荷物確認終わりました?訓練場で皆待ってます……よ……!?」

 茶髪のふわふわとした髪のイケメンが「ヤバっ」と言って顔を隠し、指の隙間からこちらをチラッと見てくる。

「え、サキちゃん聞いてたよりめっちゃ美人なんだけど!」

 ミスカさんはスンッと一気に冷めた顔になってため息をつく。

「こいつはラグト、俺と同じ隊のやつだ。うるさいから無視してくれて構わない」
「先輩酷いっすよ!顔見せたら終わりそうなんで、紹介だけでも良くしてください!!」

 やっぱり顔見せたくないのかな……。

「はじめましてラグトさん、ここでお世話になっているサキです。あの……私は大丈夫なのでお顔は隠さないでください」

 さっき一瞬しかカッコいい顔が見えなかったので気になる気持ちも少しある。

「いや、うん……嫌だったら言ってくださいね、慣れてるんで」

 そっと手を外したラグトさんはこげ茶色の瞳と奥二重のツリ目で困ったように微笑み、口元から八重歯がチラリと見える。
 また違うタイプのイケメンだ……!

「ありがとうございます!皆さんの顔と名前ちゃんと覚えておきたくて」

 言い訳じゃないよ、半分くらいは思ってた。

「サキちゃんめっちゃいい子……」

 そ、そう言われると罪悪感が……。

「あ!もう大遅刻っすよ!先輩がいなくちゃ始まらないんだから早く行ってください!」
「いや、サキの付き添……」
「俺が代わりにしますから!」

 ミスカさんは嫌そうな顔をしながら私に「すまん」と言い残し走って行った。

「あーすみません、俺が代わりで」
「いえ!私がミスカさん引き留めちゃったので。ラグトさんも忙しかったら無理しないで下さい」
「ぜんっぜん暇なんで!荷物も運ばないとだし、ついてって良いですか?」
「ふふっ、じゃあお願いします」

 私が荷物を持とうとする前に、ラグトさんは軽々と全部を持ち上げる。

「私も持ちます!自分の物ですし……」
「え……っと……それは……」

 ラグトさんは少し考えて、一度荷物を置くと一番上の小さな箱を私に渡した。

「これよろしく!」

 これだけ……?
 もう少し……とは言えないまま、私は大人しく両手のひらに収まる小さな箱を運んだ。

「タメ口でもいい……すか?堅苦しいの苦手で」

 私が頷くと人懐っこそうな笑顔を見せてくれる。八重歯がチラっと見えるの可愛いな……。

「ありがと!たまに先輩にもタメで話しちゃって叩かれんの」

 ミスカさんとラグトさん、先輩後輩なのにすごく仲が良いみたい。

「運んだ後はなんか予定ある?」
「お腹空いちゃったので何か作りに行こうかと」
「いいね!そういえば朝飯、めっちゃ美味しかったよ!俺、昨日は寮にいなかったから食べれてないんだけど、もう団員全員べた褒めでさ!四六時中ご飯の話しかしてないんだ」
「嬉しいです……!今日の夕食はトマト煮込みなんです。良かったら食べに来てくださいね」
「勿論!一番乗り目指そっかな!」

 部屋に荷物を置き食堂に向かうまでずっと話をしていた。ラグトさんは話上手で騎士団について色んな事を教えてくれた。
 黒騎士団は三つの部隊があり団長以外の団員たちはそこにそれぞれ分かれて所属している。ミスカさんは第三番隊の隊長でラグトさんもそこの一人らしい。
 ラグトさんは今二十三歳でミスカさんが二十五歳だから二つ下。二十歳の時に入団しミスカさんに先輩として指導してもらって仲良くなったそうだ。
 ミスカさんとの思い出を語るラグトさんはとても嬉しそうで、本当に尊敬しているのが伝わってきた。
しおりを挟む
感想 56

あなたにおすすめの小説

転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~

恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん) は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。 しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!? (もしかして、私、転生してる!!?) そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!! そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?

女性の少ない異世界に生まれ変わったら

Azuki
恋愛
高校に登校している途中、道路に飛び出した子供を助ける形でトラックに轢かれてそのまま意識を失った私。 目を覚ますと、私はベッドに寝ていて、目の前にも周りにもイケメン、イケメン、イケメンだらけーーー!? なんと私は幼女に生まれ変わっており、しかもお嬢様だった!! ーーやった〜!勝ち組人生来た〜〜〜!!! そう、心の中で思いっきり歓喜していた私だけど、この世界はとんでもない世界で・・・!? これは、女性が圧倒的に少ない異世界に転生した私が、家族や周りから溺愛されながら様々な問題を解決して、更に溺愛されていく物語。

私は女神じゃありません!!〜この世界の美的感覚はおかしい〜

朝比奈
恋愛
年齢=彼氏いない歴な平凡かつ地味顔な私はある日突然美的感覚がおかしい異世界にトリップしてしまったようでして・・・。 (この世界で私はめっちゃ美人ってどゆこと??) これは主人公が美的感覚が違う世界で醜い男(私にとってイケメン)に恋に落ちる物語。 所々、意味が違うのに使っちゃってる言葉とかあれば教えて下さると幸いです。 暇つぶしにでも呼んでくれると嬉しいです。 ※休載中 (4月5日前後から投稿再開予定です)

旦那様が多すぎて困っています!? 〜逆ハー異世界ラブコメ〜

ことりとりとん
恋愛
男女比8:1の逆ハーレム異世界に転移してしまった女子大生・大森泉 転移早々旦那さんが6人もできて、しかも魔力無限チートがあると教えられて!? のんびりまったり暮らしたいのにいつの間にか国を救うハメになりました…… イケメン山盛りの逆ハーです 前半はラブラブまったりの予定。後半で主人公が頑張ります 小説家になろう、カクヨムに転載しています

異世界の美醜と私の認識について

佐藤 ちな
恋愛
 ある日気づくと、美玲は異世界に落ちた。  そこまでならラノベなら良くある話だが、更にその世界は女性が少ない上に、美醜感覚が美玲とは激しく異なるという不思議な世界だった。  そんな世界で稀人として特別扱いされる醜女(この世界では超美人)の美玲と、咎人として忌み嫌われる醜男(美玲がいた世界では超美青年)のルークが出会う。  不遇の扱いを受けるルークを、幸せにしてあげたい!そして出来ることなら、私も幸せに!  美醜逆転・一妻多夫の異世界で、美玲の迷走が始まる。 * 話の展開に伴い、あらすじを変更させて頂きました。

最愛の番~300年後の未来は一妻多夫の逆ハーレム!!? イケメン旦那様たちに溺愛されまくる~

ちえり
恋愛
幼い頃から可愛い幼馴染と比較されてきて、自分に自信がない高坂 栞(コウサカシオリ)17歳。 ある日、学校帰りに事故に巻き込まれ目が覚めると300年後の時が経ち、女性だけ死に至る病の流行や、年々女子の出生率の低下で女は2割ほどしか存在しない世界になっていた。 一妻多夫が認められ、女性はフェロモンだして男性を虜にするのだが、栞のフェロモンは世の男性を虜にできるほどの力を持つ『α+』(アルファプラス)に認定されてイケメン達が栞に番を結んでもらおうと近寄ってくる。 目が覚めたばかりなのに、旦那候補が5人もいて初めて会うのに溺愛されまくる。さらに、自分と番になりたい男性がまだまだいっぱいいるの!!? 「恋愛経験0の私にはイケメンに愛されるなんてハードすぎるよ~」

美醜逆転の世界に間違って召喚されてしまいました!

エトカ
恋愛
続きを書くことを断念した供養ネタ作品です。 間違えて召喚されてしまった倉見舞は、美醜逆転の世界で最強の醜男(イケメン)を救うことができるのか……。よろしくお願いします。

美醜逆転異世界で、非モテなのに前向きな騎士様が素敵です

花野はる
恋愛
先祖返りで醜い容貌に生まれてしまったセドリック・ローランド、18歳は非モテの騎士副団長。 けれども曽祖父が同じ醜さでありながら、愛する人と幸せな一生を送ったと祖父から聞いて育ったセドリックは、顔を隠すことなく前向きに希望を持って生きている。けれどやはりこの世界の女性からは忌み嫌われ、中身を見ようとしてくれる人はいない。 そんな中、セドリックの元に異世界の稀人がやって来た!外見はこんなでも、中身で勝負し、専属護衛になりたいと頑張るセドリックだが……。 醜いイケメン騎士とぽっちゃり喪女のラブストーリーです。 多分短い話になると思われます。 サクサク読めるように、一話ずつを短めにしてみました。

処理中です...