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突然の異世界
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ここ……どこ?
私はバイト帰り、暗い夜道を歩いていた。はずなのに、欠伸をして目を閉じた一瞬の間に何故か森の中にいた。
ほんのり青い月明かりしかない闇に包まれた景色を目を凝らして見る。地面は硬いコンクリートではなく柔らかな土で、周りには木や草花が生い茂り人が通るような道もない。
そうだ、スマホ!
誰かに連絡をと慌ててバッグから取り出して見てみると圏外になっていた。
「どうしよう……」
急すぎて何も分からずその場に立ち尽くしていると、背後からガサゴソと何か音が聞こえてきた。スマホのライトで照らしながら振り返ってみると、私と同じくらい、いや私より大きな狼がこちらを睨んでいた。
野生の狼?!なんで……?
驚きでバッグとスマホを落としてしまう。その音で余計に刺激してしまったのか、鋭い牙を剥き出してこちらにゆっくり近づいてきた。
私は本能で逃げなければと感じ、すぐさま後ろを向き暗闇の中走り出す。道なんてないから草木をかき分けひたすら進む。
全力で走って、少し開けた所に出ると膝から崩れるように地面に座り込んだ。結構遠くまで来ただろう。
「っ……はぁ、はぁ」
枝に引っかかったのかカーディガンは一部破れ、スニーカーは土でベタベタになっている。
もう何がなんだか分からなくてただ呆然としているとまた草木を揺らす音が近づいてきた。もう走る気力もなく絶望する。
私、ここで死んじゃうのかな……。
「あれ?あそこに誰かいる!」
突然聞こえてきた人の声にバッと顔を上げる。眩しい光でこちらを照らしながら見慣れない格好の男性が三人駆け寄ってきた。
「女の子!?なんでこんなところに」
「君!大丈夫か!?」
こんな時になんだけど……その三人はすごい美形だった。暗闇の中、月明かりでも分かるくらいに。
正面にいるのが赤髪にタレ目で優しそう。その隣は長めの金髪を後ろで緩く結んでいてちょっと軟派な雰囲気。後ろにいる人は黒っぽい短髪でキレ目のクール系。
二次元でしか見ないような見た目に少し驚いた。
「とりあえず外に出よう。立てるかい?」
差し出された手を取って立ち上がり三人と共に歩き出す。私に手を貸しながら歩く赤髪さんが話す。
「私たちは……見ればわかると思うが黒騎士団の者だ。私は団長のハインツ。金髪がリュークでそっちがミスカだ」
騎士団って漫画でしか聞かないけどどういうこと?名前も外国人みたいだし…。
「君の名前を聞いても?」
「宮田沙紀です」
「ミヤタサキ……が名前?姓は無い?」
「え、ええと……サキが名前です」
そう話していると大きな石に躓いてよろけてしまいハインツさんが支えてくれた。
「す、すみません」
「いや、疲れているだろうに歩かせてすまない。嫌でなければおぶろうか」
さっきの全力疾走で体力も無いし、歩き始めてから三人とも私のスピードに合わせてくれているのに気づいていたのでお言葉に甘えることにした。
「じゃあミスカ……頼めるか」
「……わかりました」
二人の会話に謎の間を感じながらも、ミスカさんが屈んでくれたのでその背に体を預けた。
「お願いします」
「……ああ」
ゆっくりと立ち上がり目線が一気に高くなる。彼はとても身長が高く2m近くありそうだ。
歩き始めるミスカさんの身体は全くブレることなくものすごい安定感だった。
筋肉すごいな……。
ちょっとドキドキしながらも大きな背中から人の温もりを感じ、この意味不明な場所に来ての緊張感や恐怖が一気に溶けた気がした。
「あの、大丈夫?」
隣を歩いていたリュークさんが心配そうにこちらを見る。
何かと思ったら、私は泣いていた。気づいたら溢れるように涙が流れて止まらない。
「あ……ごめんなさ……っ……」
みっともなくグズグズ泣く私の背中をリュークさんがずっと優しくさすってくれていた。
私が泣き止む頃には森を抜けて大きな建物に着いていた。随分歴史のありそうな中世の洋館のようで、その立派な門の前で降ろしてもらう。
「ありがとうございます。重かったですよね」
泣き腫らした目で微笑むと目を逸らされてしまった。
「いや……全然……気にしなくていい」
二人に仕事を終えるように言い、ハインツさんは私を部屋まで案内してくれた。
「サキ、今日はもう遅いから明日話を聞いてもいいかな?」
「はい、助けていただきありがとうございました」
「そんな畏まらなくていいよ。ちょっと古いけどこの部屋の物は自由に使っていいから。シャワーもついてる。一応服も用意したんだが……男物しかないんだ。ちゃんと新品だから、良かったら」
「すみません、色々と」
「じゃあゆっくり休んで。おやすみ」
「……おやすみなさい」
扉が閉まり一人になるとこの短時間で起こった出来事がボーッと頭の中に流れ込んでくる。
信じられないけど……これは現実なのだろうか?
グルグル考えてみるが頭がパンクしそうになりとりあえず諦めてさっとシャワーを浴びる。
借りた服を着てみるとブカブカでシャツが短めのワンピースになってしまった。まあいいかと思いそのままベッドに潜る。
ここは…もしかしたら異世界というものなのだろうか、転生とか召喚?最近そんな漫画をよく読んでいた。
そうじゃなかったら今の状況を説明できないよね……。
色々あった疲れで、考えているうちにいつの間にか眠りについていた。
私はバイト帰り、暗い夜道を歩いていた。はずなのに、欠伸をして目を閉じた一瞬の間に何故か森の中にいた。
ほんのり青い月明かりしかない闇に包まれた景色を目を凝らして見る。地面は硬いコンクリートではなく柔らかな土で、周りには木や草花が生い茂り人が通るような道もない。
そうだ、スマホ!
誰かに連絡をと慌ててバッグから取り出して見てみると圏外になっていた。
「どうしよう……」
急すぎて何も分からずその場に立ち尽くしていると、背後からガサゴソと何か音が聞こえてきた。スマホのライトで照らしながら振り返ってみると、私と同じくらい、いや私より大きな狼がこちらを睨んでいた。
野生の狼?!なんで……?
驚きでバッグとスマホを落としてしまう。その音で余計に刺激してしまったのか、鋭い牙を剥き出してこちらにゆっくり近づいてきた。
私は本能で逃げなければと感じ、すぐさま後ろを向き暗闇の中走り出す。道なんてないから草木をかき分けひたすら進む。
全力で走って、少し開けた所に出ると膝から崩れるように地面に座り込んだ。結構遠くまで来ただろう。
「っ……はぁ、はぁ」
枝に引っかかったのかカーディガンは一部破れ、スニーカーは土でベタベタになっている。
もう何がなんだか分からなくてただ呆然としているとまた草木を揺らす音が近づいてきた。もう走る気力もなく絶望する。
私、ここで死んじゃうのかな……。
「あれ?あそこに誰かいる!」
突然聞こえてきた人の声にバッと顔を上げる。眩しい光でこちらを照らしながら見慣れない格好の男性が三人駆け寄ってきた。
「女の子!?なんでこんなところに」
「君!大丈夫か!?」
こんな時になんだけど……その三人はすごい美形だった。暗闇の中、月明かりでも分かるくらいに。
正面にいるのが赤髪にタレ目で優しそう。その隣は長めの金髪を後ろで緩く結んでいてちょっと軟派な雰囲気。後ろにいる人は黒っぽい短髪でキレ目のクール系。
二次元でしか見ないような見た目に少し驚いた。
「とりあえず外に出よう。立てるかい?」
差し出された手を取って立ち上がり三人と共に歩き出す。私に手を貸しながら歩く赤髪さんが話す。
「私たちは……見ればわかると思うが黒騎士団の者だ。私は団長のハインツ。金髪がリュークでそっちがミスカだ」
騎士団って漫画でしか聞かないけどどういうこと?名前も外国人みたいだし…。
「君の名前を聞いても?」
「宮田沙紀です」
「ミヤタサキ……が名前?姓は無い?」
「え、ええと……サキが名前です」
そう話していると大きな石に躓いてよろけてしまいハインツさんが支えてくれた。
「す、すみません」
「いや、疲れているだろうに歩かせてすまない。嫌でなければおぶろうか」
さっきの全力疾走で体力も無いし、歩き始めてから三人とも私のスピードに合わせてくれているのに気づいていたのでお言葉に甘えることにした。
「じゃあミスカ……頼めるか」
「……わかりました」
二人の会話に謎の間を感じながらも、ミスカさんが屈んでくれたのでその背に体を預けた。
「お願いします」
「……ああ」
ゆっくりと立ち上がり目線が一気に高くなる。彼はとても身長が高く2m近くありそうだ。
歩き始めるミスカさんの身体は全くブレることなくものすごい安定感だった。
筋肉すごいな……。
ちょっとドキドキしながらも大きな背中から人の温もりを感じ、この意味不明な場所に来ての緊張感や恐怖が一気に溶けた気がした。
「あの、大丈夫?」
隣を歩いていたリュークさんが心配そうにこちらを見る。
何かと思ったら、私は泣いていた。気づいたら溢れるように涙が流れて止まらない。
「あ……ごめんなさ……っ……」
みっともなくグズグズ泣く私の背中をリュークさんがずっと優しくさすってくれていた。
私が泣き止む頃には森を抜けて大きな建物に着いていた。随分歴史のありそうな中世の洋館のようで、その立派な門の前で降ろしてもらう。
「ありがとうございます。重かったですよね」
泣き腫らした目で微笑むと目を逸らされてしまった。
「いや……全然……気にしなくていい」
二人に仕事を終えるように言い、ハインツさんは私を部屋まで案内してくれた。
「サキ、今日はもう遅いから明日話を聞いてもいいかな?」
「はい、助けていただきありがとうございました」
「そんな畏まらなくていいよ。ちょっと古いけどこの部屋の物は自由に使っていいから。シャワーもついてる。一応服も用意したんだが……男物しかないんだ。ちゃんと新品だから、良かったら」
「すみません、色々と」
「じゃあゆっくり休んで。おやすみ」
「……おやすみなさい」
扉が閉まり一人になるとこの短時間で起こった出来事がボーッと頭の中に流れ込んでくる。
信じられないけど……これは現実なのだろうか?
グルグル考えてみるが頭がパンクしそうになりとりあえず諦めてさっとシャワーを浴びる。
借りた服を着てみるとブカブカでシャツが短めのワンピースになってしまった。まあいいかと思いそのままベッドに潜る。
ここは…もしかしたら異世界というものなのだろうか、転生とか召喚?最近そんな漫画をよく読んでいた。
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