美醜逆転の異世界で騎士様たちに愛される

志季彩夜

文字の大きさ
上 下
2 / 184

突然の異世界

しおりを挟む
 ここ……どこ?

 私はバイト帰り、暗い夜道を歩いていた。はずなのに、欠伸をして目を閉じた一瞬の間に何故か森の中にいた。
 ほんのり青い月明かりしかない闇に包まれた景色を目を凝らして見る。地面は硬いコンクリートではなく柔らかな土で、周りには木や草花が生い茂り人が通るような道もない。
 そうだ、スマホ!
 誰かに連絡をと慌ててバッグから取り出して見てみると圏外になっていた。

「どうしよう……」

 急すぎて何も分からずその場に立ち尽くしていると、背後からガサゴソと何か音が聞こえてきた。スマホのライトで照らしながら振り返ってみると、私と同じくらい、いや私より大きな狼がこちらを睨んでいた。
 野生の狼?!なんで……?
 驚きでバッグとスマホを落としてしまう。その音で余計に刺激してしまったのか、鋭い牙を剥き出してこちらにゆっくり近づいてきた。
 私は本能で逃げなければと感じ、すぐさま後ろを向き暗闇の中走り出す。道なんてないから草木をかき分けひたすら進む。
 全力で走って、少し開けた所に出ると膝から崩れるように地面に座り込んだ。結構遠くまで来ただろう。

「っ……はぁ、はぁ」

 枝に引っかかったのかカーディガンは一部破れ、スニーカーは土でベタベタになっている。
 もう何がなんだか分からなくてただ呆然としているとまた草木を揺らす音が近づいてきた。もう走る気力もなく絶望する。
 私、ここで死んじゃうのかな……。


「あれ?あそこに誰かいる!」

 突然聞こえてきた人の声にバッと顔を上げる。眩しい光でこちらを照らしながら見慣れない格好の男性が三人駆け寄ってきた。

「女の子!?なんでこんなところに」
「君!大丈夫か!?」

 こんな時になんだけど……その三人はすごい美形だった。暗闇の中、月明かりでも分かるくらいに。
 正面にいるのが赤髪にタレ目で優しそう。その隣は長めの金髪を後ろで緩く結んでいてちょっと軟派な雰囲気。後ろにいる人は黒っぽい短髪でキレ目のクール系。
 二次元でしか見ないような見た目に少し驚いた。

「とりあえず外に出よう。立てるかい?」

 差し出された手を取って立ち上がり三人と共に歩き出す。私に手を貸しながら歩く赤髪さんが話す。

「私たちは……見ればわかると思うが黒騎士団の者だ。私は団長のハインツ。金髪がリュークでそっちがミスカだ」

 騎士団って漫画でしか聞かないけどどういうこと?名前も外国人みたいだし…。

「君の名前を聞いても?」
「宮田沙紀です」
「ミヤタサキ……が名前?姓は無い?」
「え、ええと……サキが名前です」

 そう話していると大きな石に躓いてよろけてしまいハインツさんが支えてくれた。

「す、すみません」
「いや、疲れているだろうに歩かせてすまない。嫌でなければおぶろうか」

 さっきの全力疾走で体力も無いし、歩き始めてから三人とも私のスピードに合わせてくれているのに気づいていたのでお言葉に甘えることにした。

「じゃあミスカ……頼めるか」
「……わかりました」

 二人の会話に謎の間を感じながらも、ミスカさんが屈んでくれたのでその背に体を預けた。

「お願いします」
「……ああ」

 ゆっくりと立ち上がり目線が一気に高くなる。彼はとても身長が高く2m近くありそうだ。
 歩き始めるミスカさんの身体は全くブレることなくものすごい安定感だった。
 筋肉すごいな……。
 ちょっとドキドキしながらも大きな背中から人の温もりを感じ、この意味不明な場所に来ての緊張感や恐怖が一気に溶けた気がした。

「あの、大丈夫?」

 隣を歩いていたリュークさんが心配そうにこちらを見る。
 何かと思ったら、私は泣いていた。気づいたら溢れるように涙が流れて止まらない。

「あ……ごめんなさ……っ……」

 みっともなくグズグズ泣く私の背中をリュークさんがずっと優しくさすってくれていた。

 私が泣き止む頃には森を抜けて大きな建物に着いていた。随分歴史のありそうな中世の洋館のようで、その立派な門の前で降ろしてもらう。

「ありがとうございます。重かったですよね」

 泣き腫らした目で微笑むと目を逸らされてしまった。

「いや……全然……気にしなくていい」

 二人に仕事を終えるように言い、ハインツさんは私を部屋まで案内してくれた。

「サキ、今日はもう遅いから明日話を聞いてもいいかな?」
「はい、助けていただきありがとうございました」
「そんな畏まらなくていいよ。ちょっと古いけどこの部屋の物は自由に使っていいから。シャワーもついてる。一応服も用意したんだが……男物しかないんだ。ちゃんと新品だから、良かったら」

「すみません、色々と」
「じゃあゆっくり休んで。おやすみ」
「……おやすみなさい」

 扉が閉まり一人になるとこの短時間で起こった出来事がボーッと頭の中に流れ込んでくる。
 信じられないけど……これは現実なのだろうか?
 グルグル考えてみるが頭がパンクしそうになりとりあえず諦めてさっとシャワーを浴びる。
 借りた服を着てみるとブカブカでシャツが短めのワンピースになってしまった。まあいいかと思いそのままベッドに潜る。
 ここは…もしかしたら異世界というものなのだろうか、転生とか召喚?最近そんな漫画をよく読んでいた。
 そうじゃなかったら今の状況を説明できないよね……。
 色々あった疲れで、考えているうちにいつの間にか眠りについていた。
しおりを挟む
感想 56

あなたにおすすめの小説

異世界の美醜と私の認識について

佐藤 ちな
恋愛
 ある日気づくと、美玲は異世界に落ちた。  そこまでならラノベなら良くある話だが、更にその世界は女性が少ない上に、美醜感覚が美玲とは激しく異なるという不思議な世界だった。  そんな世界で稀人として特別扱いされる醜女(この世界では超美人)の美玲と、咎人として忌み嫌われる醜男(美玲がいた世界では超美青年)のルークが出会う。  不遇の扱いを受けるルークを、幸せにしてあげたい!そして出来ることなら、私も幸せに!  美醜逆転・一妻多夫の異世界で、美玲の迷走が始まる。 * 話の展開に伴い、あらすじを変更させて頂きました。

美醜逆転異世界で、非モテなのに前向きな騎士様が素敵です

花野はる
恋愛
先祖返りで醜い容貌に生まれてしまったセドリック・ローランド、18歳は非モテの騎士副団長。 けれども曽祖父が同じ醜さでありながら、愛する人と幸せな一生を送ったと祖父から聞いて育ったセドリックは、顔を隠すことなく前向きに希望を持って生きている。けれどやはりこの世界の女性からは忌み嫌われ、中身を見ようとしてくれる人はいない。 そんな中、セドリックの元に異世界の稀人がやって来た!外見はこんなでも、中身で勝負し、専属護衛になりたいと頑張るセドリックだが……。 醜いイケメン騎士とぽっちゃり喪女のラブストーリーです。 多分短い話になると思われます。 サクサク読めるように、一話ずつを短めにしてみました。

4度目の転生、メイドになった貧乏子爵令嬢は『今度こそ恋をする!』と決意したのに次期公爵様の溺愛に気づけない?!

六花心碧
恋愛
恋に落ちたらEND。 そんな人生を3回も繰り返してきたアリシア。 『今度こそ私、恋をします!』 そう心に決めて新たな人生をスタートしたものの、(アリシアが勝手に)恋をするお相手の次期公爵様は極度な女嫌いだった。 恋するときめきを味わいたい。 果たしてアリシアの平凡な願いは叶うのか……?! (外部URLで登録していたものを改めて登録しました! ◇他サイト様でも公開中です)

転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~

恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん) は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。 しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!? (もしかして、私、転生してる!!?) そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!! そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?

旦那様が多すぎて困っています!? 〜逆ハー異世界ラブコメ〜

ことりとりとん
恋愛
男女比8:1の逆ハーレム異世界に転移してしまった女子大生・大森泉 転移早々旦那さんが6人もできて、しかも魔力無限チートがあると教えられて!? のんびりまったり暮らしたいのにいつの間にか国を救うハメになりました…… イケメン山盛りの逆ハーです 前半はラブラブまったりの予定。後半で主人公が頑張ります 小説家になろう、カクヨムに転載しています

ただ貴方の傍にいたい〜醜いイケメン騎士と異世界の稀人

花野はる
恋愛
日本で暮らす相川花純は、成人の思い出として、振袖姿を残そうと写真館へやって来た。 そこで着飾り、いざ撮影室へ足を踏み入れたら異世界へ転移した。 森の中で困っていると、仮面の騎士が助けてくれた。その騎士は騎士団の団長様で、すごく素敵なのに醜くて仮面を被っていると言う。 孤独な騎士と異世界でひとりぼっちになった花純の一途な恋愛ストーリー。 初投稿です。よろしくお願いします。

異世界転生〜色いろあって世界最強!?〜

野の木
恋愛
気付いたら、見知らぬ場所に。 生まれ変わった?ここって異世界!? しかも家族全員美男美女…なのになんで私だけ黒髪黒眼平凡顔の前世の姿のままなの!? えっ、絶世の美女?黒は美人の証? いやいや、この世界の人って目悪いの? 前世の記憶を持ったまま異世界転生した主人公。 しかもそこは、色により全てが決まる世界だった!?

私は女神じゃありません!!〜この世界の美的感覚はおかしい〜

朝比奈
恋愛
年齢=彼氏いない歴な平凡かつ地味顔な私はある日突然美的感覚がおかしい異世界にトリップしてしまったようでして・・・。 (この世界で私はめっちゃ美人ってどゆこと??) これは主人公が美的感覚が違う世界で醜い男(私にとってイケメン)に恋に落ちる物語。 所々、意味が違うのに使っちゃってる言葉とかあれば教えて下さると幸いです。 暇つぶしにでも呼んでくれると嬉しいです。 ※休載中 (4月5日前後から投稿再開予定です)

処理中です...