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第二話

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 南の大陸最北端にして最大の港街、マンカラに転移した。
 東の大陸にも転移ポイントを設定しているが、東の大陸に向かう事が今回の目的ではない。道中の情報収集および精査を行いつつ、魔翼の森に存在しているとされるグリフォンに会いに行くのが目的だ。
 長い時を生き、高い知能を持つとされるグリフォンなら何かしらの情報を持っているかもしれない。
 誇り高いグリフォンが簡単に情報を渡してくれるかどうかは不明だが、やるだけやってみるしかない。


 マンカラは各大陸への定期船を就航している事で非常に有名だ。大海には数多くの恐ろしい魔物が棲みついており、安易に大陸間の移動は出来ない。僕が使う転移や飛行手段はこの世界には無く、地上の生き物は有翼類を除いて船以外での大陸間移動は不可能となっている。
 北西大陸間を就航する船なども同様にあるが、マンカラ発の定期船に比べると安全面での信用度は圧倒的に劣る。生きるか死ぬか、までは言わないがかなりの危険度とされており、頻繁に難破している。
 その点、マンカラの街・商人組合・港湾組合が合同運営するマンカラ汽船は世界で最も安全な交通として認識されている。防備は勿論、水夫一人ひとりも十分な鍛錬と実戦を積んだ者だけが選ばれており、マンカラ汽船の乗組員は『アルトス』でも随一の花形職として有名だ。
 それだけに集まる情報も多い。僕はいつも調査の前に必ずマンカラを訪れるようにしており、最新の情報を得つつ各大陸への移動をしている。東の大陸の最新情報を現地よりもマンカラで先に知る、などといった事が実際にあるのだ。

◆◇◆◇

 時刻は夕刻、酒場の扉を押し開けた。カランカラン、と来店客を知らせるベルが鳴る。
 そのまま店内に足を踏み入れると、いつものムワッとした熱気と共に酒飲み達の馬鹿笑いが聞こえてきた。この店にやって来るのは二カ月ぶりだろうか?
 こいつらには用は無い。時折、眉唾物の情報を声高に叫ぶ者がいたりするが、裏取りが取れた試しは無い。僕は数回の失敗と共に馬鹿どもの話を聞くことはとっくに止めていた。

「西の大陸にある、とあるダンジョンでミスリル鉱が見つかったらしいぜ!誰かこの情報が欲しい奴はいねぇかぁ!」
「いやいや!北の大陸さらに最北端付近で魔女の棲家があるとも聞いたぞ!今はも伝わっていない技術で造られた魔道具やらが眠っていると言っていた!」
「んなチンケなもんよりも俺の方がもっと凄いもんを知ってるぞ!」
「俺なんか前に討伐したメタルリザードの巣のさらに奥でダンジョンを見つけた!」

 万事がこんな状況だ。最後の奴が言っている事は事実かもしれないが、それ以外は与太話だろう。最初の二人は確実にガセネタだな。そこまで知っているなら誰にも教えず自分で行けばいい。やはり二流ですらない三流以下のクソ共だ。
 僕は馬鹿どもを無視してカウンターへ腰を下ろした。

「エール」
 席に着いた僕をちらっとだけ見た店主だったが、僕の注文に返答する前に冷えたエールを出してくる。
 ほんの少し一口だけ飲む。エール独特の臭みを冷却で誤魔化してなんとか飲めている状況だ。この世界で初めてエールを飲んだ時は不味すぎてすぐに吐き出したものだ。

「久しぶりだな。いつぶりだ?」
「さぁ、二カ月くらいかな」
 厳つい店主がニヤニヤしながら僕に聞いてきた。馬鹿どもが集まる肥溜めによく似合いそうな、スキンヘッドと首筋にある大きな裂傷痕が特徴のクソ店主だ。

「今回はどこへ行くんだ?」
「東。人族と獣人族の国に行ってから魔翼の森へ行く」
「マジか!」

 僕の言葉に驚いて思わず手に持っていたジョッキを落としそうになっている。

「で、最近のネタは?」
「いや、碌なもんがねぇな」
「何のために情報屋やってんだよ。使えねぇわ」
「しゃーねぇだろ!カス共がカスな情報しか持ってこねーんだよ!」
 店主は僕への返事ではなく、客席にいた馬鹿どもに視線を向けながらそう叫んだ。
 先ほどまでの馬鹿騒ぎが途端に静かとなり、視線が一斉にこちらに向く。が、すぐに視線は外れた。

「おい、あのカウンターのガキ誰だよ…」
「なんか前にも見た事がある気がするが…」
「マスターと対等に話せる立場だって事か…?」
「お、おい、アイツだけはやめておけ。関わるなって…」
「…あん?だから誰なんだよ?」

 そこここで小声で呟いている。一人僕の事を知っている奴がいるな。誰だあいつ。殺すか?

「あぁん?なんだお「おいお前。そのまま何も言わずに座れ」めぇは…え?」
 席を立ちあがってこちらに歩いてくる馬鹿を店主が止めた。
 まさか店主に止められると思っていなかったのか、馬鹿はそのまま困惑した表情で突っ立っている。

「お前、このまま人生を終わらせたくないならコイツに絡むな」
 店主の言葉にますます困惑する表情の馬鹿。僕は一流ではないが二流でも無い。彼我の実力差さえわからない馬鹿だ。
「お前が死ぬのは俺にとっては何ら意味がないが、ここで殺しをされたら掃除が面倒だ。なのでそのまま動くな」
 そう言った店主の軽い殺気に中てられたのか馬鹿はそのまま立ち尽くしてしまった。
馬鹿の膝がガクガクと笑ってしまっている。ああなると席に戻りたくても足は言う事を聞かない。


「何も無いなら帰るわ」

 そう言って金貨を五枚店主へ放り投げた。エールの定価は銅貨5枚だが、これは情報料として渡している。元A級戦士である『怪腕』が経営しているこの酒場には、土地柄と店主の培った情報網で、面白い情報が集まる事が多い。与太話しか話さないカス共だが、時折真実が含まれている事があり、店主はカウンターで酒場を切り盛りしながらそれらに常に耳を傾けている。
 そして独自の情報網を使って裏取りをし、事実だった場合は情報提供料として銀貨五枚を渡すのだそうだ。カス共はその銀貨五枚の為にああして声高らかに情報を叫びあっているのである。ただし価値があるかどうかを決めるのは店主だ。その辺りの差配は誰にも口を出させないそうだが。
 僕は来店時に毎回金貨五枚を支払う。そしてそこから調査料などの経費を差っ引いても金貨二枚は確実に残るだろう。そこから情報提供者へ銀貨五枚を渡せば残りは店主の総取りだ。それに店主からすれば僕が情報を買わなくても他にも買う奴はいるだろうから取りっぱぐれる心配も無い。
 基本的に信用できる情報は全て僕が買うので今のところ他の誰かに情報が行き渡る事は無いが、それでもリスクヘッジをしっかりと取っている。
 そもそも今回のように情報が無い時だって僕は金貨五枚を支払うから店主からすればいいカモだろうな。

「何も無くてすまんかったな。もし何か活きのいい情報が入ったら特別に東まで情報飛ばしてやるよ」
 金貨五枚を大事そうに懐に入れつつ、僅かばかりの申し訳なさを出した表情をした。

「アンタの情報には元々期待してないから、期待せずに待ってるわ」
「おう!そうかぁ!?そう言ってもらえると俺も助かるわ!」
 僕の言葉に気を悪くするでも無く、店主は豪快に笑いながらカウンター越しに僕を見送る。

「次に来るのは数カ月後だ。何かあれば取っておいてくれ」
「任せとけ!大事な大事なお得意様だからな!気を付けていけよ『レヴァナント』!」
「その名で呼ぶな、殺すぞ」

 僕はそう言って店を出た。クソみたいな名称で僕を呼ぶな。カスが。
 それでも笑い続ける店主に苛立ちを覚えながら店を出た。
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