異世界転移したら主夫していた。何を言っているかわからないと思うが俺にもわからない

頑張るマン

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10話 異世界転移したから幼女と談笑した

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 食事終わり、二人は早々に割り振られた部屋に籠ってしまった。何の話をしているんだろう?片づけを全て終えてもまだ二人は出てこない。エキナちゃんお風呂に入れないといけないんだけど……。
 30分ほど何をするでもなくパソコンをポチポチしていたが、意を決して二人がいる部屋に向かった。
 そっと扉に耳を当てる。
「…こ…に……しょ」
「ちが……わた…!」

 なんて言ってるかわからねぇ。一般的なマンションの造りなので防音性はそこまで高くない。とすれば二人の声が小さいが為に聞こえてこないのだろう。恐らく俺に聞こえないようにと声の大きさを意識的に下げている?ちなみにアミスの方が少し声が大きいみたいだ。

 とっ、とっ、とっ。
 段々と音が近づいてくる。おっ?こっちに歩いてきてるのか?あ、これ離れないとやべ。
「へぶしっ」
 と思ったら先に扉を開けられたでござる。ちょうど耳を離して正面を向いた状態だったからモロ顔面をぶつけた。なんでうちの扉は外開きなんだ!普通内開きだろうが!

「……そこで何をしている」
 声の方向を見ると、エキナちゃんが底冷えた目でもんどり打つ俺を見上げていた。
 あぁ……さっきまではあんなに可愛い顔でデレたくれたのに。今は温かみを全く感じない目をしていらっしゃる。これはなかなかにクルものがあるわ。

「お風呂はどうするのかなーって、あはは」
 たぶん赤くなっているだろう鼻頭を擦りながら言う。今もめっちゃじんじんしているし。

「風呂など入らなくても清浄を使え「使えないわよ」ばいいだ……なに?」
 エキナちゃんの言葉に被せるようにアミスが言った。
「ここでは使えないって言ってるの」
「どういう意味だ。……『清浄』…これは……」
「使えない?アミスは何のこと言ってんの?」
 ちょっと意味がわからないですね。なに?魔法的なやつ?え、そんなのあるって俺知らないんですけど。アミス教えてくれなかったじゃん。

「どういうわけか分からないけどここでは使えない。恐らく全ての魔法が使えないはず」
「マジで魔法!?え、俺も教えて『タツうるさい』欲しいんですけd……はい」
 今日のアミスめちゃくちゃ被せてくるやん。マナー的によくないゾ!怖いから絶対に言わんけどさ。

「間違いなく『清浄』は使えないわ。でももうそんなのが必要じゃなくなるくらいに感じるほどこの家のお風呂は最高よ?」
 ニヤリ、と笑ったアミスの目がキラーンと光ったように見えた。でも女の人の美容に対する飽くなき探求心は凄いからな。下手に茶々いれんとこ。

「では、私も風呂に入る必要があるという事か……」
 むぅ……どうしたものか……と顎に手を当てて考える人のポーズをしているが、見た目との違和感ありすぎてワロタ。これはもしや「今日は二つのうちのどちらかしかお菓子を食べちゃいけません」って母親から言われて悩んでいるポーズかな?微笑ましすぎる。

「……ん?貴様何か言いたそうな顔をしているな」
 エキナちゃんが俺の生暖かい表情に気付いたようだ。貴様呼びも一周回って可愛く見えてきたわ。
「いやぁ、悩んでいるエキナちゃんも微笑ましいなぁって」
 うんうん、子供は一杯悩んで一杯食べて大きくなるんだよ。その為には俺も微力ながら協力しよう。アミスも最初は口が悪かったんだ。幼女の貴様呼びくらいは年長者として受け入れてあげよう。

 おや、ぷるぷる震えてる。やっぱり子供として接したから怒ってるのかな?うーん、でもさすがにまだ大人として接するには早いと思うんだけど……。あ、そうかエキナちゃんが微妙な顔をしている理由がわかったぞ。
「もしかしてエキナちゃんお風呂一人で入れないってことだね?あーでも確かにその髪の長さだしちょっと一人だとしんどいもんねぇ。どうするかな、俺が一緒に入って洗ってあげようか?子供用の水着は無いからバスタオルをお互い巻いてって事になるけど、そうする?」
 にこにこ顔で言った俺の言葉に、少しの間ぽかんとしてたが、やがてワナワナと震え出した。

「き、き、きさまぁ!謀るでないわぁ!なぜ私が貴様と風呂に入らねばならないのだ!」
 あら、見るとエキナちゃんが顔を真っ赤にして怒ってる。よく考えたらこれくらいの年の子と接した事無いからどの程度歩み寄ればいいのかわかんねーわ。女の子の方が精神成長早いって言うしな。子供として接したらそら怒るか。
 アミスをちらっと見ると絵文字にでもなりそうな表情で額を手を当てながらアチャーって顔してる。

「まぁまぁそんなに怒らないで。ほら、よく言うでしょ?子供のうちは甘えるのも仕事だって。俺子供と接した事ほとんど無いけどたぶん大丈夫だよ!」
 根拠は全く無いけどね!思わず親指を上に向けてビシィッ!とグッジョブポーズまでしちゃったわ。一つだけ断言出来るのは、エキナちゃんみたいな妹がいたら絶対に猫可愛がりしただろうなぁという事だ。顔から火が出そうな勢いで怒ってるけど、それすらも可愛いって中々ないぜ。

「あんまりエキナを揶揄わないの。お風呂は私が一緒に入るからタツは後で入ってくれるかしら?」
 アミスが苦笑しながらエキナちゃんの両肩に手を置いた。
「フゥー!フゥー!」
 ……エキナちゃんが肩で息をしながらめっちゃ威嚇してくる。子犬かな?


◆◇◆◇
 洗面所からブォーっと髪を乾かすドライヤーの音が聞こえる。たぶんアミスがエキナちゃんの長い髪を乾かしてくれているんだろう。あの長さだと結構時間かかりそうだな。
 『漢の一人メシ』を見ながら時間を潰す。アミスの事は置いといて、エキナちゃんの今日の食べっぷりを見るに、やはり子供受けする料理がいいのか…?
 小さな口でモグモグするのは見てて癒されたね。是非とも庇護せねば…!!

「スープ系は恐らく好きだろうから、他にはハンバーグとかか?あ、オムライスとかいいかも!」
 そうだ、子供向け料理の定番と言えばオムライスだ!どうせ時間もあるんだ。国旗とか立てるのもいいかもしれんな!夢が広がる!
 まだ見せてくれないが、きっとニッコニコ笑顔でオムライスをハムハムする姿を見た日にはもぅ……!!!

「夢が広がるなぁ!!!」

「……コイツは何を言っているんだ?」
「……タツは、ちょっと変わったところあるから」
 ん?と思って声がする方を向く。白い目でこちらを見るエキナちゃんと苦笑いするアミスがいた。

「お、いつの間にかドライヤー終わってたんだな。ってかエキナちゃん髪の毛めっちゃ綺麗になったね!!」
 エキナちゃんが少し動くだけで髪の毛がサラッサラに揺れ動く。元の素材がいいから余計に可愛く見えるわぁ……。

「癪だが、あのしゃんぷーとりんすは非常に良い物だった。癪だがな」
 ブスッとした顔をして言うエキナちゃん。いちいち仕草がかわいい。
 後でシャンプーリンスボディソープの備蓄確認しとくか。どれくらいあったかな。


◆◇◆◇

 二人はお風呂から上がったらそのまま寝室に入ってしまった。
 お風呂上がりのエキナちゃんはわずかばかり顔を赤らめていたが、やはりというかアミス同様にシャンプーとリンスを大層気に入ったようだった。
 さらっさらヘアーがとても似合っていて、俺の問いかけにも雰囲気が軟らかくなっていて可愛かったです。まる。


 すでに二人が寝静まったリビング。
 俺は一人でぼちぼちと明日の食事の用意をしていた。
 それらも一頻り終わり、ちょっと休憩したら風呂に入って寝ようかなと思っていると、カチャ、と音がした。
 音の方を見るとエキナちゃんがどこか醒めたような目で俺を見ている。
「あれ、エキナちゃんまだ起きていたの?」
 見る限り寝起きの目ではない。恐らく寝付けずに起きていたのだろう。

「…貴様は、何者だ」
 俺をじっと見つめたまま呟くエキナちゃん。眼光は鋭く、虚言は許さないといった感じ。
「何者……何者なんだろうね?」
「は?」

 俺の言葉にエキナちゃんが苛ついた表情をしたが、俺も正しい答えが見出せない。
 そんな事言われても、ね。


「ズズズ……」

 うっすいコーヒーを作った。エキナちゃんにはレモンティーだ。パックの物で申し訳ないが。
 出した最初は警戒してくんくんと匂っていたが、一口啜るとそこからは特に問題なく飲めたみたいだ。

「で、さっきの話だけど」
 俺の言葉にエキナちゃんが小さく頷く。まぁ言える事なんてそれほど多くないんだけどな。
「俺はこことは全然違う世界からやってきた異世界人だよ。気が付いたらこの家ごと転移していた」
「……なに?異世界人だと?」
「そう、異世界人。なのでアミスから教えられるまでここがどこかもわからなかったし、どういう世界でどういう文化なのかも全然知らない。多少は教えてもらったけどね」
「……」

 俺の言葉に黙り込んでしまったエキナちゃん。その視線は俺に真っすぐ向けられている。ウソかどうかを見極めているのかもしれない。胸中はわからないが、ここは俺も視線を外す事はやめたほうがいいだろうな。

 数分ほどそのまま黙りこくっていたエキナちゃんだったが、「はぁぁ……」と大きくため息を吐いて視線を俺から外した。え、なにどしたのよ。

「そんなに大きなため息を吐かれたら悲しいんだけど……」
「いや、すまぬ。今のはお主に対してでは無いから気にしないでくれ」
 手を小さく顔の前で振りながらエキナちゃんが詫びてきた。地味に貴様呼びからお主に変わっているのを俺は見逃さなかったけどね!
「それならいいけど。ま、俺自体は何の力も無い一般人だから、アミスに養ってもらってるというのが現状の正しい認識かな?」
 俺の言葉に頷きながらまた黙ってしまうエキナちゃん。だが、先程までの厳しい視線ではなくなっている。
「勇者は……アミスはここにはよく来るのか?」
 両手でマグカップを大事そうに持ちながらレモンティーを飲む姿が可愛い。レモンティーは口味に合ったみたいで良かった。
「そうだね。数日開ける事もあるけどよく来るかな。主に俺への食糧供給がメインだけど。それにアミスの好きなDVD鑑賞も出来るし」
「そのDVDとやらは一体なんなのだ?」
 お、エキナちゃんはちゃんと発音出来るのね。
「物語の映像を画面で見るって感じ?説明しろって言われたら難しいな」
「ふむ。また今度見せてもらおう」
「え?また来てくれるの?」

 何となくだけどアミスとは違って、エキナちゃんはもう来ないと思っていたから少し驚いた。エキナちゃんは俺に向かって頷き、言葉を続けた。
「うむ、私も毎日とはいかんが時折来させてもらう。食事も大層美味しかったし、それにしゃんぷーとりんすが特に良かった」
「それは良かった!やっぱり女の子だから髪がサラサラになったら嬉しいよな」
 俺の言葉に小さく笑う。今日初めて笑った顔を見たな。やっぱり笑ってくれていた方が俺も嬉しい。

「ここは不思議な空間だな。それにお主がなぜ転移したのか、どうやってこの空間が保たれているのかも気になる。その辺りは私が調査しよう。脳筋には荷が重いだろう」
 脳筋が誰を指しているのかが分かってしまうのが悲しいな。
「ありがとう。でもあんまり無茶はしないでね?俺自身もぼちぼち調べる予定だから、無理のない範囲で大丈夫、なんくるないさー」
「なんく、る?……なに?」
 いかんいかん、ついつい冗談交じりに言ってしまった。
「なんくるないさー。俺が住んでいた国の方言で、なんとかなるさ、って意味だよ」
 これ説明してて思ったけど、冗談を真顔で説明するのってめちゃ恥ずかしいな。
「なんくるないさー……、ふふっ、なんくるないさー、か。なるほどな」
 何が面白かったのかツボに入ったみたいですが、ついて行けません。恥ずかしさゲージ上昇中です。
「ふむ、なんくるないさー…いい言葉だな。気に入ったので私も使ってもいいか?」
「いや、俺に許可取らなくていいから…」
 うわ、許可まで取り始めたよ。マジでやめてくださいしんでしまいます。


「では、私は行くとするか」
 夕食で出したシチューの話や、今度来た時に食べたいものなど色々と話していたが、ちょうどレモンティーを飲み終えたところでエキナちゃんがそう言った。
「え、行く?こんな夜遅くに帰るの?」
 もう外は真っ暗だ。特にここは森の中だから月明りもほとんど入ってこない。一回夜に電気消したら、マジもんの真っ暗闇で怖くてすぐに電気を点けた。それからは寝る時も豆電球だけは点けるようにしている。起きた時も真っ暗闇で怖いのよ。
「うむ。私にも色々とあってな。今日は悪いがこれでお暇させてもらおう」
「でも夜行性のモンスターとかいて危ないんじゃないの?大丈夫?」
 俺の言葉にエキナちゃんが口端を少し上げてニヤッと笑った。
「この辺りのモンスター程度なら何とでもなる。これでもアミスと同等以上の力はあるからな」
「めちゃ強いやん」
 いや、めちゃ強いやん。俺が瞬殺されそうになったペリクモを瞬殺したアミスと同等以上の力とか、人外ですやん。
「どうだ?……恐ろしくなったか?」
 エキナちゃんが腕組みをしながらそう言う。でもそんなにカッコつけても…。
「その見た目でそんな事言われても全然怖くないんだけど(笑)」
 完全に親戚のマセた子供にしか見えないもんな(笑)
 俺の言葉にぽかんとしていたが、自分の両腕を見てスッと腕を下ろすと、俺をギンッ!と睨む。
「オマエ、イツカ、コロス」
「こわっっ」
 完全に目がイっちゃってた。こわっ。


◆◇◆◇

「さて、では私は行くとする。次はそうだな…三日後には来るとしよう」
「あ、はい。是非ともお待ちしております。またのお越しを」
 玄関でエキナちゃんを見送る。やはりどうしても今日は帰るらしい。
 ちなみにあの後、エキナちゃんに腰の入ったローキックをしっかり頂いた。めちゃ痛かったとだけ言っておく。

 ここに来た時の服装にすでに着替えており、こうやって見てみればコスプレ魔女っ娘にも見えてくるな。

「お主はここから出ない方がいいだろう。あまりの弱さにモンスターが寄ってこないとも限らんからな」
「もうちょっと優しく包んで言ってくれませんかねぇ……」
「いや、もしかしたら弱すぎてここだと気が付かれない可能性するあるな」
 ふむ、と真剣な表情で考察するエキナちゃん。凄い真剣に失礼な事考えるねキミ。そうして何か答えが出たらしい。大きく首を縦に振った。
「うむ、やはり出ない方がいい。瞬殺……塵にされるからな」
 わざわざ言い直す辺りが腹立たしいが、ここは大人の対応をする。
「転移早々にペリクモに殺されかけて懲りたよ。アミスからそう言われてるから出る気はさらさら無いから安心してくれ」
 現状、俺が安全に外界に出る手段は無い。アミスかエキナちゃんが護衛してくれるならまだしも、ソロでの行動は絶対に無理だ。
 それに、今のところまだ慌てる段階ではないと思っている。
 追々考えながら進めることでいいだろう。

「それでは私は本当に行くことにする。次に来る時は私も何か食料を持ってくるとするよ」
「ああ、わかった。楽しみにしてるよ。エキナちゃんも食事楽しみにしていてね」

 ではまた、と言ってエキナちゃんが飛んだ瞬間にはもういなくなっていた。
 あれは魔法か?覚えられるなら覚えたいもんだけど、どうせ適用が出来ない~とか何とかで使えないってオチだろうな。

 どうせ俺なんか…とぶつぶつ言いながら玄関の扉を閉め、リビングに戻るとそこにはアミスがいた。どうやら起きてきたらしい。

「あれアミス、寝てたんじゃなかったの?」
「タツのうめき声で起きたのよ。うおおぉぉぉ…って言ってたでしょ」
「あぁ……あれね」
 エキナちゃんのローキックが決まった時のやつだな。
「エキナは?」
「ついさっき帰ったよ。なんか色々とやる事があるんだってさ」

 俺の言葉にアミスは「やる事、ね……」とだけ言ってそこからは何も言わなかった。その声色からはどういう意味で言ったのかは分からなかったが、まぁ勇者だったら色々とあるんだろう。そう思う事にする。

「なぁ、アミスとエキナちゃんはどういった関係なの?」
「私とエキナの関係?」
 アミスの言葉に頷く。エキナちゃんはアミスを探していたみたいだが、二人の関係性はどう見ても好意的なものには見えなかった。敵対、とまではいかないがその一歩手前くらいか?
「それはエキナにも聞いたの?」
「いや、エキナちゃんには効いてないよ」
「なら、私からは言える事は何も無いわね。また来るって言ってたんでしょ?その時にエキナにも同じ質問をしてみて。エキナが答えてくれたら私も言うわ」

 そう言ったきり視線を俺から外し、DVDを鑑賞し始めてしまった。寝ないんですかね…。

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