隣にキミを添えて

おおいししおり

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 時より、今の状態に不安へ陥ることがある。

「よっ、ユージ。会って早々でわりぃが今日提出のノート、写させてくれね?」

「ケイト……はぁ。キミって奴は、またか」
「あははーっ。大丈夫、その範囲が次の小テストで出てくるとこってわかってるし、適当に授業を聞いてれば赤点は絶対に取らねぇから」

「……」

 正々堂々の手抜き宣言。
 確かに、このケイトという男は器用で何でもそつなくこなす。そこに異論はない。
 勉学だって、本気を出せば僕の成績だって簡単にきっと抜けるだろう。だが、彼は何故かそうしない。

「…………今回で終わりだからな」
「お、サンキュー。さすがは我が自慢の彼氏様。話が早くて助かるぅ!」

「はぁ……」

 また、やってしまった。
 早速、ケイトは貸したノートを自身の机で書き写しをしている。相変わらず現金だとは思うが、何というか彼らしい。

 こう、ケイトのことを同級生のクラスメイトとして不満に思うことはあるが恋人として尊敬することもある。はっきりと物事を相手に伝えることが出来るのは見習うべき美点であり、感情を表に出すことが苦手な僕にとっては一生真似出来ないことだから。


 だからこそ、不安に陥る。
 唐突な告白も彼からであり、一緒に時間を共有を重ねる度に惹かれるこの想いを愛と告げられず別れが来てしまうのを。

「――ジ。ユージ。おい、ユージってば!」
「っ! すまない……もう写し終えたのか?」

 彼の片手には先程貸したばかりのノートがひらひらと目先で踊っていた。

「まあね。オレに掛かればちょちょいのちょいって奴よ。んで、そんなことより。あんたがボーッとしてる方が一大事だから。何、どしたん?」

「えっ、いや……たいしたことでは」
「ふぅん。……あ、キミ。ちょっとお願いしたいことが――」

 突然、ケイトは近場の女子生徒に話し掛けてはニコニコとした笑顔を振り撒く。
 ……いつもと何も変わらない、僕と接する時と対してほぼ同じの対応。正直、心の奥底がモヤモヤして仕方なくて見ていられなかった。


 やはりケイトは、女性の方が内心良いと思っていたんだ、と。

「よいっしょっ、と」
「……え、は?」

 刹那、ユージの掛け声と共に僕の身体が宙を浮いた。比喩ではなく、物理的な意味合いで。

「うーん。ケイト、身長ある方なのに軽くね? ちゃんと飯食ってるのかー?」
「あ……え、ええ!?」

 ケイトの顔が目先にあり、僕は見事に抱えられていた。所謂、横抱き――お姫様抱っこという、恥ずかしい形で。

「よしっ、保健室に行くぞ!」
「ちょ、ユージ! 重いだろ、おろせって」
「いや、めっちゃ軽いし。まあまあ、素直にオレの背におぶられてなよ、彼氏様」

 廊下を掛けてゆく。
 まだ休憩中の為か、生徒らにちらほら見られて羞恥心が嫌でも湧いてくる。

「はい、保健室に到着、と。先生は……おっし、居ないな、ラッキー!」

 保健室へと無断で入室をし、ケイトは僕の身体をベッドへと寝かせた。

「……ユージ。さっきのは一体……何のつもりだ」
「ありゃりゃ? もしかして彼氏様、怒っていらっしゃる? オレ、超格好良かったはずなのにぃ?」

「怒るも、何も……別に僕は、体調が悪いわけじゃなくて」
「悪いわけじゃなくて?」

 疑問符のオウム返しに何と返答するべきかと詰まる。

 跳ねたオレンジ色の髪を手で弄り始めたケイトは、僕の代わりに言葉を紡いだ。

「ユージはさ、ちょっと真面目過ぎなんだよ」

「…………いや。ケイトが不真面目なのでは」
「あはは、そうとも言えるけど。ま、とりあえず一緒に寝ようぜ」
「え、ちょ、おい……」

 太陽のように笑む表情で彼はベッドへと侵入してくる。仮に僕を気遣って保健室に連れて来てくれたならわかる。だが、ケイト自身は何処も悪いわけではなさそうなに……本当に、まったく何を考えているのか。
 付き合って数ヵ月は経つがわからない。

「たまにはこうやって一緒にサボるのもアリだろ? あー、魔法薬学なんて意味不明過ぎてやってられねーっての」


「………………ケイト?」

 不満を溢した矢先、彼の方からは一定のリズミカルに刻まれた寝息が僕の耳を擽る。

 ――もしかして、寝たのか? 今の数秒間で?

「……恐ろしいな、キミは」

 返答はないが顔立ちは穏やか。

 突飛で常に忙しない、キミ。
 僕とは違って器用のくせに本気を出さない、キミ。
 まだ不安定な心を完全には埋めてくれない、キミ。


 ……それでも、隣に居たいと思う僕。

 キミが僕のことを好きだと言ってくれる時か、僕がキミにこの感情を表に出す時。
 果たして、どちらが近い未来なのだろうか。
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