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19話
向き合うということ
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19(望未と夏生の話が順にあるので少し読みにくいかもしれません...)
side望未
コンコンと控えめなノックの音がした。真瀬さんではない。真瀬さんのノックはもう覚えている。
『...どうぞ』
そう返事をして喉を鳴らしてしまう。
そして扉から顔を出したのは、藍沢さんだった。
[こんにちは、雨ノさん。今日は僕から雨ノさんにお話があって参りました。長い話になりますが聞いて頂けますか?]
緊張の面持ちで私を見る藍沢さんに、私は一瞬固まって、それからゆっくり頷いた。
そして藍沢さんは語り始める。
「記憶は整理出来る段階まで戻ったと思います。今から話すのは、僕の過去と雨ノさんの記憶に繋がる物語です。きっと雨ノさんにはある程度の予測はついているでしょう。僕が誰であるのかも。雨ノさん。
僕は...]
そして彼から聞いた話。それはあの日私が火事が原因で病院や施設にいた頃の、藍沢さんの側面だった。学校でのこと、家族のこと、そして。星羅くんを信頼していた私にとって絶望的なものだった。倫理観も何もあったものじゃない。私に拠り所になって欲しいという、ただそれだけの理由で、私の家と家族を奪ったのか。けれど、復讐心なんてなかった。ただ虚しかった。施設での星羅くんの言動も行動も、全部目的があってのことだったなんて。一通りの話をしてから、藍沢さんは、ううん、夏生くんは。
[辛い話をしてしまったね。ごめん。けれど、続きがあるんだ。この話をする為に、僕は君に会いに来た。]
『どうして、私の記憶を、奪おうと思ったの?』
気になったことはたくさんあるけれど。私が聞きたかったのはそれだった。気付いたらお互い敬語は抜けていた。
[ここからは僕がこうなった理由にも繋がってくる。雨ノさんと同じ歳なのに身体が成長を止めてしまった理由。どんな質問でもちゃんと答える。向き合うためにここに来たから。記憶を奪おうとした理由、それはね。]
side夏生
僕を真っ直ぐに見る彼女の問いに一つずつ答えていく。
記憶を奪おうとした理由。
[僕は、もう雨ノさんに辛い想いを積み重ねて欲しくなかった。両親を失って、大切なものを見つけても虚しさばかり感じて、やっと信頼出来る人に出逢えたと思ったらその人は自分を誰よりも苦しめた要因で。手に入れては繰り返す。記憶は積み重なるもので誰かが勝手に奪っていいものではない、そんなことわかっていたのに。雨ノさんが僕のことを海里さんに探して欲しいと願ったのと同じに、僕も海里さんから接触を受けた際、雨ノさんのことを教えて欲しいとお願いしたんだ。そこで聞かされた話はどうしても苦しいものだった。だから僕は。記憶を奪ってしまえたらと思った。記憶が積み重ならなかったのは10歳以降だと思っているよね。僕が実際に研究を始めて、記憶を奪い始めたのは18歳の頃。その時に火事の日からの記憶も、僕のことも、忘れられるなら忘れて欲しいと願ってしまったんだ。君の記憶を奪い続ける内に、僕の身体は成長を止めてしまった。だから僕の見た目は18歳前後の筈だ。
謝って許されることではない。散々語ってしまったけれど、これで最後にする。ねえ、僕はどう罪を償えばいいかな]
情けない姿を見せてしまう。僕はなんて弱いんだろう。こんな言い訳で失望される以外なんてないのに。そして意を決して彼女の顔を見る。彼女は、
side望未
夏生くん、と吐息より先に零れ落ちそうになった名前を飲み込んで息をする。今聞いた話を理解しようと何度も反芻する。
彼がしたことはよくないことだ、それでも彼を恨む気持ちは出てこない。記憶が積み重ならないことは寂しかった。けれどきっと私はこれでよかった。誰も許さなくていい。理解されないかもしれない。関わってくれた人皆が呆れ果てるかもしれない。それでも私は口にしていた。
『お互いにとって苦しい道を苦しいだけじゃなく、私を救おうとしてくれたこと、凄く嬉しい。感謝しているなんて言ったらおかしいかもしれないけど、夏生くんを全部許せるかとか理解出来るかは分からないけれど。夏生くん、お願いがあるの』
[なんだい?]
柔らかく彼が笑う。
『名前を呼んで、?』
夏生くんは不意を突かれたみたいに固まって、それから目を逸らして、私を見る。
[望未]
考えなければいけないことはたくさんあるけれど。今はただそれだけが泣きそうなくらいに嬉しかった。
side望未
コンコンと控えめなノックの音がした。真瀬さんではない。真瀬さんのノックはもう覚えている。
『...どうぞ』
そう返事をして喉を鳴らしてしまう。
そして扉から顔を出したのは、藍沢さんだった。
[こんにちは、雨ノさん。今日は僕から雨ノさんにお話があって参りました。長い話になりますが聞いて頂けますか?]
緊張の面持ちで私を見る藍沢さんに、私は一瞬固まって、それからゆっくり頷いた。
そして藍沢さんは語り始める。
「記憶は整理出来る段階まで戻ったと思います。今から話すのは、僕の過去と雨ノさんの記憶に繋がる物語です。きっと雨ノさんにはある程度の予測はついているでしょう。僕が誰であるのかも。雨ノさん。
僕は...]
そして彼から聞いた話。それはあの日私が火事が原因で病院や施設にいた頃の、藍沢さんの側面だった。学校でのこと、家族のこと、そして。星羅くんを信頼していた私にとって絶望的なものだった。倫理観も何もあったものじゃない。私に拠り所になって欲しいという、ただそれだけの理由で、私の家と家族を奪ったのか。けれど、復讐心なんてなかった。ただ虚しかった。施設での星羅くんの言動も行動も、全部目的があってのことだったなんて。一通りの話をしてから、藍沢さんは、ううん、夏生くんは。
[辛い話をしてしまったね。ごめん。けれど、続きがあるんだ。この話をする為に、僕は君に会いに来た。]
『どうして、私の記憶を、奪おうと思ったの?』
気になったことはたくさんあるけれど。私が聞きたかったのはそれだった。気付いたらお互い敬語は抜けていた。
[ここからは僕がこうなった理由にも繋がってくる。雨ノさんと同じ歳なのに身体が成長を止めてしまった理由。どんな質問でもちゃんと答える。向き合うためにここに来たから。記憶を奪おうとした理由、それはね。]
side夏生
僕を真っ直ぐに見る彼女の問いに一つずつ答えていく。
記憶を奪おうとした理由。
[僕は、もう雨ノさんに辛い想いを積み重ねて欲しくなかった。両親を失って、大切なものを見つけても虚しさばかり感じて、やっと信頼出来る人に出逢えたと思ったらその人は自分を誰よりも苦しめた要因で。手に入れては繰り返す。記憶は積み重なるもので誰かが勝手に奪っていいものではない、そんなことわかっていたのに。雨ノさんが僕のことを海里さんに探して欲しいと願ったのと同じに、僕も海里さんから接触を受けた際、雨ノさんのことを教えて欲しいとお願いしたんだ。そこで聞かされた話はどうしても苦しいものだった。だから僕は。記憶を奪ってしまえたらと思った。記憶が積み重ならなかったのは10歳以降だと思っているよね。僕が実際に研究を始めて、記憶を奪い始めたのは18歳の頃。その時に火事の日からの記憶も、僕のことも、忘れられるなら忘れて欲しいと願ってしまったんだ。君の記憶を奪い続ける内に、僕の身体は成長を止めてしまった。だから僕の見た目は18歳前後の筈だ。
謝って許されることではない。散々語ってしまったけれど、これで最後にする。ねえ、僕はどう罪を償えばいいかな]
情けない姿を見せてしまう。僕はなんて弱いんだろう。こんな言い訳で失望される以外なんてないのに。そして意を決して彼女の顔を見る。彼女は、
side望未
夏生くん、と吐息より先に零れ落ちそうになった名前を飲み込んで息をする。今聞いた話を理解しようと何度も反芻する。
彼がしたことはよくないことだ、それでも彼を恨む気持ちは出てこない。記憶が積み重ならないことは寂しかった。けれどきっと私はこれでよかった。誰も許さなくていい。理解されないかもしれない。関わってくれた人皆が呆れ果てるかもしれない。それでも私は口にしていた。
『お互いにとって苦しい道を苦しいだけじゃなく、私を救おうとしてくれたこと、凄く嬉しい。感謝しているなんて言ったらおかしいかもしれないけど、夏生くんを全部許せるかとか理解出来るかは分からないけれど。夏生くん、お願いがあるの』
[なんだい?]
柔らかく彼が笑う。
『名前を呼んで、?』
夏生くんは不意を突かれたみたいに固まって、それから目を逸らして、私を見る。
[望未]
考えなければいけないことはたくさんあるけれど。今はただそれだけが泣きそうなくらいに嬉しかった。
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