私のもの、と呼べるものは?

棗 希菜

文字の大きさ
上 下
16 / 22
14話

孤児院にて③

しおりを挟む
14


孤児院でのこと。続き。
私が15歳になろうかという時だった。ひとつの小さなトラブルみたいなことがあった。部屋は2人部屋が基本で、けれど私は周囲に馴染めるか不安だったのもあり、院長先生の計らいで1人部屋で過ごしていた。
私は孤児院の中では誰かといたりひとりで読書をしたりと充実した日々を送っていた、と思っていた。仲のいい子も出来た。けれど、私がそう思っていたのとは裏腹、子供たちの間では不満があったらしい。これは後で星羅くんに聞いた話なので確かなことは良く分からない。
ただ、星羅くん曰く
〈たくさんの子供たちがいる間で、ただひとり個室でいる私のことを嫌に思う子たちが何人かいた〉
とのこと。今の私なら(無論これは記憶を思い出した私がと言う話で、当時の私の心象とは異なる)、ただそれだけが、その子たちにとってはそれだけじゃなかったんだと、色んな想いが押し寄せる。
気付いたら私を慕ってくれていた子たちは、私を避けるようになっていた。いじめ、ではなかったと思う。直接的な被害がなかったからだ。私が私なりに考えた原因は、星羅くんと特別に仲良くしていたことだったと思った。歳が近く話しやすい、という理由は周りの子たちから見たら(大好きなお兄ちゃんを取られた)みたいな可愛らしいやきもちだろうと。そして私はそれを苦痛に思うことが嫌だった。苦痛だと思うことで誰かを責めるのが嫌だった。どんな時でも、誰かを悪く思いたくない、そんな性格だった。そんな私に話しかけてくれたのは、案の定というかなんというか、星羅くんだった。そして止まらない負のループ。星羅くんに何かを言われるのだと思った。その前に私からお願いをした。
『私が避けられているのはどうしようもないかもしれない。年下の子たちの反感を要らぬ所で買ったのかもしれない。だけど雰囲気が悪くなって、星羅くんまで巻き込むのは嫌。私は大丈夫だから、』と続けようとした言葉は遮られた。
「望未、それは問題を先延ばしにしているだけで解決にはならない。先生たちや院長先生も全員に話してはいるみたいだ。ねえ、望未。さっき大丈夫だからと言ったけれど、望未はどうしたい?本当はどうなるのを望んでいる?ボクはそれに出来る限りの力を貸すよ。」
そう言ってくれた言葉が温かくて、泣きそうになるところだった。私の本音、私が望むもの。
『皆と、ちゃんと仲良くなりたい、避けられるのは寂しい。誰も悪くない、誰のせいにもしたくない、ねえ、星羅くん。私はどうしたらいいかな、何が出来るかな。』
そう呟いた。星羅くんはそれを聞いて少し微笑んで頷いた。
「よく言えました。ボクの妹は素直じゃないなぁ。
それじゃ、誰に、そうだな、全員が全員、望未を嫌がっているわけじゃない。それにもうすぐ院長先生の誕生日だろう?誰でもいい。望未が話したいと思った子に、院長先生にサプライズをしないか、って提案するのはどうかな?」
そんな素敵な提案をしてくれる。それなら出来ると思った。それなら、私にも。
『わかった。そうしてみる。ありがとう。勇気を出してみるね。』
そうお礼を伝えた。
それから、1番歳が近い子、その子と仲がいい子、順に院長先生の誕生日にサプライズをしないかと提案していった。最初は戸惑っていた子たちも、段々乗り気になって一緒に考えてくれた。なんとかなった、みたいだ。よかった。
星羅くんに感謝だなぁ。ありがとう。諍いや絆を学んだ日々だった。

__私は気付かなかった。私が1番信頼していた子が誰よりも私を厭うていたことに。それに私が気付くのはずっと後の話になる。誰よりも甘えていたのは私だった。

少し疲れたので今日はもう休もう。大丈夫だよね。ちゃんと出来たよね。

それからあっという間に時は経つ。星羅くんが孤児院を出る日を迎える。私が孤児院で過ごして2年が経とうとしていた時。孤児院の最後の話、次はそれを。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

夜の動物園の異変 ~見えない来園者~

メイナ
ミステリー
夜の動物園で起こる不可解な事件。 飼育員・えまは「動物の声を聞く力」を持っていた。 ある夜、動物たちが一斉に怯え、こう囁いた—— 「そこに、"何か"がいる……。」 科学者・水原透子と共に、"見えざる来園者"の正体を探る。 これは幽霊なのか、それとも——?

強制憑依アプリを使ってみた。

本田 壱好
ミステリー
十八年間モテた試しが無かった俺こと童定春はある日、幼馴染の藍良舞に告白される。 校内一の人気を誇る藍良が俺に告白⁈ これは何かのドッキリか?突然のことに俺は返事が出来なかった。 不幸は続くと言うが、その日は不幸の始まりとなるキッカケが多くあったのだと今となっては思う。 その日の夜、小学生の頃の友人、鴨居常叶から当然連絡が掛かってきたのも、そのキッカケの一つだ。 話の内容は、強制憑依アプリという怪しげなアプリの話であり、それをインストールして欲しいと言われる。 頼まれたら断れない性格の俺は、送られてきたサイトに飛んで、その強制憑依アプリをインストールした。 まさかそれが、運命を大きく変える出来事に発展するなんて‥。当時の俺は、まだ知る由もなかった。

ランネイケッド

パープルエッグ
ミステリー
ある朝、バス停で高校生の翆がいつものように音楽を聴きながらバスを待っていると下着姿の若い女性が走ってきて翠にしがみついてきた。 突然の出来事に唖然とする翆だが下着姿の女性は翠の腰元にしがみついたまま地面にひざをつき今にも倒れそうになっていた。 女性の悲壮な顔がなんとも悩めかしくまるで自分を求めているような錯覚さえ覚える。 一体なにがあったというのだろうか?

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

さんざめく左手 ― よろず屋・月翔 散冴 ―

流々(るる)
ミステリー
【この男の冷たい左手が胸騒ぎを呼び寄せる。アウトローなヒーロー、登場】 どんな依頼でもお受けします。それがあなたにとっての正義なら 企業が表向きには処理できない事案を引き受けるという「よろず屋」月翔 散冴(つきかけ さんざ)。ある依頼をきっかけに大きな渦へと巻き込まれていく。彼にとっての正義とは。 サスペンスあり、ハードボイルドあり、ミステリーありの痛快エンターテイメント! ※さんざめく:さざめく=胸騒ぎがする(精選版 日本国語大辞典より)、の音変化。 ※この作品はフィクションです。実在の人物・団体とは関係ありません。

初恋

三谷朱花
ミステリー
間島蒼佑は、結婚を前に引っ越しの荷物をまとめていた時、一冊の本を見付ける。それは本棚の奥深くに隠していた初恋の相手から送られてきた本だった。 彼女はそれから間もなく亡くなった。 親友の巧の言葉をきっかけに、蒼佑はその死の真実に近づいていく。 ※なろうとラストが違います。

私とお父さんと育たない芽の謎

有箱
ミステリー
私は昔、帰ってこなくなったお母さんの為、植物を育てていた時期がある。その時のことを思い出すと、必ず遭遇する謎があった。 それこそが"成長しない植物"の謎だ。 その植物は、芽を出してからなぜか一年弱も成長しなかった。 あれは一体、何の植物だったんだろう…… ※ミステリー要素はうっすいです(笑)

ファクト ~真実~

華ノ月
ミステリー
 特別編からはお昼の12時10分に更新します。  主人公、水無月 奏(みなづき かなで)はひょんな事件から警察の特殊捜査官に任命される。  そして、同じ特殊捜査班である、透(とおる)、紅蓮(ぐれん)、槙(しん)、そして、室長の冴子(さえこ)と共に、事件の「真実」を暴き出す。  その事件がなぜ起こったのか?  本当の「悪」は誰なのか?  そして、その事件と別で最終章に繋がるある真実……。  こちらは全部で第七章で構成されています。第七章が最終章となりますので、どうぞ、最後までお読みいただけると嬉しいです!  よろしくお願いいたしますm(__)m

処理中です...