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11話
孤児院にて①
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11
孤児院に着いてから院長先生にお目通りをした。
「こんにちは。私は紅葉と雪の院長をしております。此処にいる間は院長とお呼びください。ルールは暮らしながら覚えていきましょう。玄関ルームに地図がありますので宜しければご覧ください。私はいつでも院長室におりますのでお声かけください。それから、部屋には呼び鈴がございます。何かありましたら鳴らしてください。」
院長先生は、それを一息に告げて去っていった。
コピペみたいに喋る人だなぁと嘆息していた。院長先生はきっと院長室に戻ったのだろう。
私はどうしようかなと玄関ホールを見渡した。大きな振り子時計があった。実物を見るのは初めてで、なんというのだろう、上手く言葉に出来ないのだけれど、ただただ感動して、綺麗だなと見惚れてしまった。しばらくぼーっと眺めていたら私より少し歳上くらいの少年が、振り子時計の陰からひょこんと私を見ていた。少し日に焼けた髪色であどけなさが残る少年だった。
その子が頭を下げる。
「こんにちは、院長先生から新しい方の案内を、と。ボクはここで1番年長の星羅(せいら)、16歳だよー。よろしくね、院の子どもたちからは、星兄(せいにい)と呼ばれているんだけど、基本的に此処では下の名前を呼び捨てで呼ぶものなんだ。ボクは1番上だから皆のお兄さんになるのかな。今日は後は夕食と就寝だけだから、食堂に案内するね!
えっと、名前って、」
今なら分かる。初めて来た私が緊張し過ぎないように、あえてくだけた話し方を最初からしてくれた星羅くんは、あの孤児院で私が唯一信じられた人なのだと。
名前を聞かれたのだと理解して私は慌てて
『雨ノ望未です。えっと、あだ名、はつけてもらったことがないので、何でも大丈夫、です。14歳です。よろしくお願いします。』
そう言って頭を下げる。星羅くんは首を傾げて
「それじゃあ、望未、と呼んでもいいかな。
振り子時計が好き?」
ふわりと笑いながら問いかけてくる星羅くんに、私は言葉を失って、けれど、つっかえながらも答えた。
『好き、なんですかね、なんだか懐かしい気がします。大きな振り子時計なんて家にも病院にもなかったのに。』
そう聞くと星羅くんはまた笑って
「そんなに畏まらなくてもいいよ、これからは家族だと思ってくれたら嬉しい。今は難しいだろうから、此処で過ごす中でボクを含めた誰でもいい、勿論全員でもいい、キミにとってかけがえのない誰かが、家族と呼べる誰かが出来たならいい。どうぞ、いつまでも孤独と優しさの真ん中へ。歓迎するよ、望未。」
そう言われて差し出された手を思わず掴んだ。
孤児院での生活はそうして始まった。
孤児院に着いてから院長先生にお目通りをした。
「こんにちは。私は紅葉と雪の院長をしております。此処にいる間は院長とお呼びください。ルールは暮らしながら覚えていきましょう。玄関ルームに地図がありますので宜しければご覧ください。私はいつでも院長室におりますのでお声かけください。それから、部屋には呼び鈴がございます。何かありましたら鳴らしてください。」
院長先生は、それを一息に告げて去っていった。
コピペみたいに喋る人だなぁと嘆息していた。院長先生はきっと院長室に戻ったのだろう。
私はどうしようかなと玄関ホールを見渡した。大きな振り子時計があった。実物を見るのは初めてで、なんというのだろう、上手く言葉に出来ないのだけれど、ただただ感動して、綺麗だなと見惚れてしまった。しばらくぼーっと眺めていたら私より少し歳上くらいの少年が、振り子時計の陰からひょこんと私を見ていた。少し日に焼けた髪色であどけなさが残る少年だった。
その子が頭を下げる。
「こんにちは、院長先生から新しい方の案内を、と。ボクはここで1番年長の星羅(せいら)、16歳だよー。よろしくね、院の子どもたちからは、星兄(せいにい)と呼ばれているんだけど、基本的に此処では下の名前を呼び捨てで呼ぶものなんだ。ボクは1番上だから皆のお兄さんになるのかな。今日は後は夕食と就寝だけだから、食堂に案内するね!
えっと、名前って、」
今なら分かる。初めて来た私が緊張し過ぎないように、あえてくだけた話し方を最初からしてくれた星羅くんは、あの孤児院で私が唯一信じられた人なのだと。
名前を聞かれたのだと理解して私は慌てて
『雨ノ望未です。えっと、あだ名、はつけてもらったことがないので、何でも大丈夫、です。14歳です。よろしくお願いします。』
そう言って頭を下げる。星羅くんは首を傾げて
「それじゃあ、望未、と呼んでもいいかな。
振り子時計が好き?」
ふわりと笑いながら問いかけてくる星羅くんに、私は言葉を失って、けれど、つっかえながらも答えた。
『好き、なんですかね、なんだか懐かしい気がします。大きな振り子時計なんて家にも病院にもなかったのに。』
そう聞くと星羅くんはまた笑って
「そんなに畏まらなくてもいいよ、これからは家族だと思ってくれたら嬉しい。今は難しいだろうから、此処で過ごす中でボクを含めた誰でもいい、勿論全員でもいい、キミにとってかけがえのない誰かが、家族と呼べる誰かが出来たならいい。どうぞ、いつまでも孤独と優しさの真ん中へ。歓迎するよ、望未。」
そう言われて差し出された手を思わず掴んだ。
孤児院での生活はそうして始まった。
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