私のもの、と呼べるものは?

文字の大きさ
上 下
12 / 22
10話

私は何故

しおりを挟む
10
どうして私なのかという疑問はまだ心に残ったままだった。
私は誰よりも孤独だったと真瀬さんは言ったけれど、記憶が積み重ならないから孤独になっただけではないのだろうか。優しさが欲しかった、愛情が欲しかった、ただそれだけだった。あれから何度か記憶を戻す作業をした。私にとって印象深い記憶の話をしよう。私にとって忘れたくなかった出逢いの話を。

__16歳まで

12歳の誕生日から病院にいることの意味が分からなくなっていた。ある日主治医から言われた。
「雨ノさん、もうすぐ退院出来そうですよ。治療、入院生活よく頑張りましたね。大分落ち着いてきて本当によかった。不安なことや心配なことがあれば何でも仰ってくださいね。病院側は出来る限りのサポートをします。手続きやそれらを支援してくれる施設も紹介します。一日ずつゆっくり生きていきましょう。」
そう言われて、退院、と思った。退院したら、孤児院みたいなところに行くのだろうか。金銭的な問題や手続きが私に出来るだろうか。そんな不安を抱えながら迎えた退院当日。私は14歳になっていた。そういえば学校はどうすればいいのだろう。学年で言えば中学生だ。小学生から気付けば中学生になっていた。
退院したら孤児院にそのまま向かうらしい。
私をこれから支援してくれる施設の方、海里(かいり)さんという20代半ばの女性が私の担当だった。
「雨ノ望未さんですね、海里と申します。よろしくお願いします。これから孤児院へ向かいますね。(紅葉と雪)という名前です。あちらの院長先生には話をしてあります。私も精一杯支援させて頂きますね。」
そう紹介を受けて、私も自己紹介をする。名前、年齢、自分の状態、などを伝えた。海里さんは頷き手元のipadを見て、もう一度頷く。病院側から話は聞いているだろう。それでも私が話すまで確信を持たないその姿勢はとても落ち着いていて綺麗だと思った。
それから海里さんの運転で、紅葉と雪へと向かう。孤児院へ行くことの緊張はしていたけれど、海里さんが隣にいると落ち着いた。何だか嬉しかった。病院の皆は私に対して壊れ物を扱うみたいに一線を引いていたから、海里さんの落ち着いた、けれど私に決して緊張感を持たせないようにしてくれる話し方や接し方が嬉しかった。好きな食べ物や好きな本、好きな音楽の話をした。どんな言葉を受けて育ってきたかも。会ったばかりなのに不思議と気負うことなく話が出来た。そんな話をしていたらいつのまにか孤児院が見えてきたらしい。どれだけ海里さんが私の心を安心させてくれようとしていたか、今なら分かる気がする。
次の話は孤児院での話になるかな。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

勝負に勝ったので委員長におっぱいを見せてもらった

矢木羽研
青春
優等生の委員長と「勝ったほうが言うことを聞く」という賭けをしたので、「おっぱい見せて」と頼んでみたら……青春寸止めストーリー。

どんでん返し

あいうら
ミステリー
「1話完結」~最後の1行で衝撃が走る短編集~ ようやく子どもに恵まれた主人公は、家族でキャンプに来ていた。そこで偶然遭遇したのは、彼が閑職に追いやったかつての部下だった。なぜかファミリー用のテントに1人で宿泊する部下に違和感を覚えるが… (「薪」より)

冤罪! 全身拘束刑に処せられた女

ジャン・幸田
ミステリー
 刑務所が廃止された時代。懲役刑は変化していた! 刑の執行は強制的にロボットにされる事であった! 犯罪者は人類に奉仕する機械労働者階級にされることになっていた!  そんなある時、山村愛莉はライバルにはめられ、ガイノイドと呼ばれるロボットにされる全身拘束刑に処せられてしまった! いわば奴隷階級に落とされたのだ! 彼女の罪状は「国家機密漏洩罪」! しかも、首謀者にされた。  機械の身体に融合された彼女は、自称「とある政治家の手下」のチャラ男にしかみえない長崎淳司の手引きによって自分を陥れた者たちの魂胆を探るべく、ガイノイド「エリー」として潜入したのだが、果たして真実に辿りつけるのか? 再会した後輩の真由美とともに危険な冒険が始まる!  サイエンスホラーミステリー! 身体を改造された少女は事件を解決し冤罪を晴らして元の生活に戻れるのだろうか? *追加加筆していく予定です。そのため時期によって内容は違っているかもしれません、よろしくお願いしますね! *他の投稿小説サイトでも公開しておりますが、基本的に内容は同じです。 *現実世界を連想するような国名などが出ますがフィクションです。パラレルワールドの出来事という設定です。

ピエロの嘲笑が消えない

葉羽
ミステリー
天才高校生・神藤葉羽は、幼馴染の望月彩由美から奇妙な相談を受ける。彼女の叔母が入院している精神科診療所「クロウ・ハウス」で、不可解な現象が続いているというのだ。患者たちは一様に「ピエロを見た」と怯え、精神を病んでいく。葉羽は、彩由美と共に診療所を訪れ、調査を開始する。だが、そこは常識では計り知れない恐怖が支配する場所だった。患者たちの証言、院長の怪しい行動、そして診療所に隠された秘密。葉羽は持ち前の推理力で謎に挑むが、見えない敵は彼の想像を遥かに超える狡猾さで迫ってくる。ピエロの正体は何なのか? 診療所で何が行われているのか? そして、葉羽は愛する彩由美を守り抜き、この悪夢を終わらせることができるのか? 深層心理に潜む恐怖を暴き出す、戦慄の本格推理ホラー。

若妻の穴を堪能する夫の話

かめのこたろう
現代文学
内容は題名の通りです。

幽子さんの謎解きレポート~しんいち君と霊感少女幽子さんの実話を元にした本格心霊ミステリー~

しんいち
ミステリー
オカルトに魅了された主人公、しんいち君は、ある日、霊感を持つ少女「幽子」と出会う。彼女は不思議な力を持ち、様々な霊的な現象を感じ取ることができる。しんいち君は、幽子から依頼を受け、彼女の力を借りて数々のミステリアスな事件に挑むことになる。 彼らは、失われた魂の行方を追い、過去の悲劇に隠された真実を解き明かす旅に出る。幽子の霊感としんいち君の好奇心が交錯する中、彼らは次第に深い絆を築いていく。しかし、彼らの前には、恐ろしい霊や謎めいた存在が立ちはだかり、真実を知ることがどれほど危険であるかを思い知らされる。 果たして、しんいち君と幽子は、数々の試練を乗り越え、真実に辿り着くことができるのか?彼らの冒険は、オカルトの世界の奥深さと人間の心の闇を描き出す、ミステリアスな物語である。

処理中です...