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9話
その日から
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09
その翌日から私は施設の指示に従いながら記憶を取り戻していった。大人になってからいう言葉ではないけれど、従順な存在だったのではないかと思う。
15年分全部を知りたいなんて人がいるなら私に会いにきて欲しい。語って聞かせよう。なんてそれは私の人生が一冊の小説ならばというたとえだ。
けれどすべてが上手くいくわけはなかった。
私は記憶を辿りながら何度も泣いていた。思い返して笑った年もあったけれど、泣いていた方が多かったように思う。話をした翌日、12歳前後の記憶の話をしよう。
__11歳 続き 病院__
それからの私は治療に専念していた。身体はどこにも外傷はなかったけれど、精神的に壊れかけていた、らしい。これは私が退院する時に担当してくれた医療関係者から聞いたこと。あんな風に決意しておきながら毎日両親の存在を探しては泣いていた。亡くなっていることを忘れるような日々だった。夏生くんはどこ、と、そんな風に周りを困らせていた。そして、季節が巡り12歳の誕生日がやってきた。心配と不安を綯(な)い交ぜにしたような先生と看護師さんが、(誕生日おめでとう。)と書かれたチョコプレートの乗ったケーキを持ってきてくれて、ようやく気付いた。カレンダーなんて見てもいなかった。失ったものばかりに気を取られていた。それでも私はまだ現実を受け入れられてはいなかったように思う。ただ比較的落ち着いていたその日は
『ありがとうございます』
と淡白に返していた。ケーキもずっと読みたかった本も嬉しくなんてなかった。お礼を言わなければいけない、と反射だったのだろう。
両親はずっと私にこう教えていた。
(礼儀や礼節を重んじる人間でありなさい。感謝と謝罪をいつでも先に、罪悪感を覚えたのならその罪悪感を優しさで上塗りし相手に返しなさい。心が後から来る時もあります。言葉には力があるから、言葉にすることで心が込もります。優しさにはありがとう、誰かの立場をいつでも考えられる余裕を持って。時には見栄を張ってもいい、時には傷つけ合うことも必要。けれど決して自分に嘘のない人生を送りなさい。自分を1番に信じてあげて。それはいつかの人生できっと望未を助けてくれるから。)
そんな言葉をまだ子どもの私に説くような人たちだった。私にはよくわからないことばかりで、それでも両親に憧れていた私は、いつかふたりのようになろうと、ふたりが誇りに思えるような娘であろう、と。そう決めていたから、きっと12歳になった日もまずは感謝をと、口にしたのだった。泣きそうになりながら。両親のそんな言葉を思い出しながら。
そうし私はその日を超え、それからを過ごしていった。
__現在、研究施設__
ああ、そんなことがあった。ずっと大切にしていたその言葉たちを私は忘れていた。
嘘のない人間であれているか、今はわからないけれど、あの人たちが愛してくれた私が残っていればいいと、26歳の私はそう思う。
その翌日から私は施設の指示に従いながら記憶を取り戻していった。大人になってからいう言葉ではないけれど、従順な存在だったのではないかと思う。
15年分全部を知りたいなんて人がいるなら私に会いにきて欲しい。語って聞かせよう。なんてそれは私の人生が一冊の小説ならばというたとえだ。
けれどすべてが上手くいくわけはなかった。
私は記憶を辿りながら何度も泣いていた。思い返して笑った年もあったけれど、泣いていた方が多かったように思う。話をした翌日、12歳前後の記憶の話をしよう。
__11歳 続き 病院__
それからの私は治療に専念していた。身体はどこにも外傷はなかったけれど、精神的に壊れかけていた、らしい。これは私が退院する時に担当してくれた医療関係者から聞いたこと。あんな風に決意しておきながら毎日両親の存在を探しては泣いていた。亡くなっていることを忘れるような日々だった。夏生くんはどこ、と、そんな風に周りを困らせていた。そして、季節が巡り12歳の誕生日がやってきた。心配と不安を綯(な)い交ぜにしたような先生と看護師さんが、(誕生日おめでとう。)と書かれたチョコプレートの乗ったケーキを持ってきてくれて、ようやく気付いた。カレンダーなんて見てもいなかった。失ったものばかりに気を取られていた。それでも私はまだ現実を受け入れられてはいなかったように思う。ただ比較的落ち着いていたその日は
『ありがとうございます』
と淡白に返していた。ケーキもずっと読みたかった本も嬉しくなんてなかった。お礼を言わなければいけない、と反射だったのだろう。
両親はずっと私にこう教えていた。
(礼儀や礼節を重んじる人間でありなさい。感謝と謝罪をいつでも先に、罪悪感を覚えたのならその罪悪感を優しさで上塗りし相手に返しなさい。心が後から来る時もあります。言葉には力があるから、言葉にすることで心が込もります。優しさにはありがとう、誰かの立場をいつでも考えられる余裕を持って。時には見栄を張ってもいい、時には傷つけ合うことも必要。けれど決して自分に嘘のない人生を送りなさい。自分を1番に信じてあげて。それはいつかの人生できっと望未を助けてくれるから。)
そんな言葉をまだ子どもの私に説くような人たちだった。私にはよくわからないことばかりで、それでも両親に憧れていた私は、いつかふたりのようになろうと、ふたりが誇りに思えるような娘であろう、と。そう決めていたから、きっと12歳になった日もまずは感謝をと、口にしたのだった。泣きそうになりながら。両親のそんな言葉を思い出しながら。
そうし私はその日を超え、それからを過ごしていった。
__現在、研究施設__
ああ、そんなことがあった。ずっと大切にしていたその言葉たちを私は忘れていた。
嘘のない人間であれているか、今はわからないけれど、あの人たちが愛してくれた私が残っていればいいと、26歳の私はそう思う。
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