私のもの、と呼べるものは?

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7話

そして思い出す、あの日のことを

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07
それからしばらく入院をすることになって、私の11歳は病院色に染まることになった。
病院食は特筆することもないのだけれど、ひとつだけ好きな食べ物があった。南瓜の煮物。病院食には珍しい濃いめの食べ物。私は南瓜が好きだった。秋生まれ、だからかな。秋の食べ物は大抵好きだ。
本を読むのが好きで、病院内にある図書室みたいなところに通って毎日本を読むのが好きだった。たくさんの言葉を覚えられる。読書は病院での唯一の救いだった。
お見舞いに来る人はいなかった。当たり前だ。家族が死んだのだから。親戚筋なんて知らない。調べてもらえるのかもしれないが今は頼もうとは思わなかった。
夏生くんだけが気がかりだった。退院したら家を訪ねてみようか。退院の目処なんて立ちはしないけれど。
私はこれからどうなるのだろう。どこに行くのだろう。いつまで此処にいるのだろう。そんなことが不安になって看護師さんや先生に何度も泣きついた。こんなことを思ってはいても、私はまだ子供なのだ。まだ、家族が必要なのだ。お父さんにもお母さんにも会いたい。だけどもう2度と会えない。きっといつか忘れていくのだろう。顔も声も、いつかは。だから今だけはこう願った私を大切にしたいなとそう思う。
今の私には誰もいない、この世界に信じられる人間なんて夏生くん以外にはいない。夏生くんに会いたい。ねえ、今どこにいるの。付き合ってたわけじゃない。きっと私の一方的な片想いだった。告白なんて考えたこともなかった。私が、生きてるって知っているかな。知っていたら喜んでくれるかな。恋も愛もわからない私だけれど、もう一度でいいから。いつか会いたい。そんな願いが私に生まれた。
自分のことを何も知らなかった私でも、会いたい人がいる、というのは、原動力になるのだろうかと何となく思った。
_____


コンコン、とカプセルを叩く音がした。今回はここまでらしい。一気に戻すわけではないのだと聞いていた。けれど正確にこの期間を戻すと言われたわけではない。ただ思い出した。藍沢夏生くん、という幼馴染がいたこと。その子を好きだったこと。頭がぼんやりする。
真瀬さんに手伝ってもらい身体を起こす。
「大丈夫ですか?初めて記憶を戻すという、段階で、脳波を見ながら貴女様の様子を見させて頂きました。身体は大丈夫ですか。どこか違和感はありますか。」
私を不安そうに見る真瀬さん。ようやく焦点が合ってきたので息を吸って吐く。それだけのことがとても久しぶりに感じた。そして真瀬さんの方を向いて言う。
『大丈夫です。今のところ違和感はありません。不思議な感じはありますが。違和感、というほどでは。てっきり薬を飲んで眠っている間に脳内に記憶が戻るのかと思っていました。追体験、というんでしょうか。自分の記憶を追うというのもおかしな感じですが。確かに私の記憶なんだという感じがします。上手く言えないのですが。』
それを聞いた真瀬さんはほっと胸を撫で下ろして(私より大きい。別に気にしてはいないが。)、一度頷いてそれから私の目を見る。
「そうですね、異常がないなら、よかったです。ただ疲労感はあると思います。ひとまず今日はゆっくり心身を休めてください。食欲があるようでしたら食堂を覗いてみてください。明日以降、今日のことやこれからのこと、またお話していきましょう。」
そう言われ今日は終わりになった。聞きたいことがいくつかあったが整理もしたいしまた聞いてみよう。
そして部屋に着いてばたんとベッドに倒れ込む。疲れていたのは確かなようで、すぐに眠りに落ちていった。
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