8 / 22
7話
そして思い出す、あの日のことを
しおりを挟む
07
それからしばらく入院をすることになって、私の11歳は病院色に染まることになった。
病院食は特筆することもないのだけれど、ひとつだけ好きな食べ物があった。南瓜の煮物。病院食には珍しい濃いめの食べ物。私は南瓜が好きだった。秋生まれ、だからかな。秋の食べ物は大抵好きだ。
本を読むのが好きで、病院内にある図書室みたいなところに通って毎日本を読むのが好きだった。たくさんの言葉を覚えられる。読書は病院での唯一の救いだった。
お見舞いに来る人はいなかった。当たり前だ。家族が死んだのだから。親戚筋なんて知らない。調べてもらえるのかもしれないが今は頼もうとは思わなかった。
夏生くんだけが気がかりだった。退院したら家を訪ねてみようか。退院の目処なんて立ちはしないけれど。
私はこれからどうなるのだろう。どこに行くのだろう。いつまで此処にいるのだろう。そんなことが不安になって看護師さんや先生に何度も泣きついた。こんなことを思ってはいても、私はまだ子供なのだ。まだ、家族が必要なのだ。お父さんにもお母さんにも会いたい。だけどもう2度と会えない。きっといつか忘れていくのだろう。顔も声も、いつかは。だから今だけはこう願った私を大切にしたいなとそう思う。
今の私には誰もいない、この世界に信じられる人間なんて夏生くん以外にはいない。夏生くんに会いたい。ねえ、今どこにいるの。付き合ってたわけじゃない。きっと私の一方的な片想いだった。告白なんて考えたこともなかった。私が、生きてるって知っているかな。知っていたら喜んでくれるかな。恋も愛もわからない私だけれど、もう一度でいいから。いつか会いたい。そんな願いが私に生まれた。
自分のことを何も知らなかった私でも、会いたい人がいる、というのは、原動力になるのだろうかと何となく思った。
_____
コンコン、とカプセルを叩く音がした。今回はここまでらしい。一気に戻すわけではないのだと聞いていた。けれど正確にこの期間を戻すと言われたわけではない。ただ思い出した。藍沢夏生くん、という幼馴染がいたこと。その子を好きだったこと。頭がぼんやりする。
真瀬さんに手伝ってもらい身体を起こす。
「大丈夫ですか?初めて記憶を戻すという、段階で、脳波を見ながら貴女様の様子を見させて頂きました。身体は大丈夫ですか。どこか違和感はありますか。」
私を不安そうに見る真瀬さん。ようやく焦点が合ってきたので息を吸って吐く。それだけのことがとても久しぶりに感じた。そして真瀬さんの方を向いて言う。
『大丈夫です。今のところ違和感はありません。不思議な感じはありますが。違和感、というほどでは。てっきり薬を飲んで眠っている間に脳内に記憶が戻るのかと思っていました。追体験、というんでしょうか。自分の記憶を追うというのもおかしな感じですが。確かに私の記憶なんだという感じがします。上手く言えないのですが。』
それを聞いた真瀬さんはほっと胸を撫で下ろして(私より大きい。別に気にしてはいないが。)、一度頷いてそれから私の目を見る。
「そうですね、異常がないなら、よかったです。ただ疲労感はあると思います。ひとまず今日はゆっくり心身を休めてください。食欲があるようでしたら食堂を覗いてみてください。明日以降、今日のことやこれからのこと、またお話していきましょう。」
そう言われ今日は終わりになった。聞きたいことがいくつかあったが整理もしたいしまた聞いてみよう。
そして部屋に着いてばたんとベッドに倒れ込む。疲れていたのは確かなようで、すぐに眠りに落ちていった。
それからしばらく入院をすることになって、私の11歳は病院色に染まることになった。
病院食は特筆することもないのだけれど、ひとつだけ好きな食べ物があった。南瓜の煮物。病院食には珍しい濃いめの食べ物。私は南瓜が好きだった。秋生まれ、だからかな。秋の食べ物は大抵好きだ。
本を読むのが好きで、病院内にある図書室みたいなところに通って毎日本を読むのが好きだった。たくさんの言葉を覚えられる。読書は病院での唯一の救いだった。
お見舞いに来る人はいなかった。当たり前だ。家族が死んだのだから。親戚筋なんて知らない。調べてもらえるのかもしれないが今は頼もうとは思わなかった。
夏生くんだけが気がかりだった。退院したら家を訪ねてみようか。退院の目処なんて立ちはしないけれど。
私はこれからどうなるのだろう。どこに行くのだろう。いつまで此処にいるのだろう。そんなことが不安になって看護師さんや先生に何度も泣きついた。こんなことを思ってはいても、私はまだ子供なのだ。まだ、家族が必要なのだ。お父さんにもお母さんにも会いたい。だけどもう2度と会えない。きっといつか忘れていくのだろう。顔も声も、いつかは。だから今だけはこう願った私を大切にしたいなとそう思う。
今の私には誰もいない、この世界に信じられる人間なんて夏生くん以外にはいない。夏生くんに会いたい。ねえ、今どこにいるの。付き合ってたわけじゃない。きっと私の一方的な片想いだった。告白なんて考えたこともなかった。私が、生きてるって知っているかな。知っていたら喜んでくれるかな。恋も愛もわからない私だけれど、もう一度でいいから。いつか会いたい。そんな願いが私に生まれた。
自分のことを何も知らなかった私でも、会いたい人がいる、というのは、原動力になるのだろうかと何となく思った。
_____
コンコン、とカプセルを叩く音がした。今回はここまでらしい。一気に戻すわけではないのだと聞いていた。けれど正確にこの期間を戻すと言われたわけではない。ただ思い出した。藍沢夏生くん、という幼馴染がいたこと。その子を好きだったこと。頭がぼんやりする。
真瀬さんに手伝ってもらい身体を起こす。
「大丈夫ですか?初めて記憶を戻すという、段階で、脳波を見ながら貴女様の様子を見させて頂きました。身体は大丈夫ですか。どこか違和感はありますか。」
私を不安そうに見る真瀬さん。ようやく焦点が合ってきたので息を吸って吐く。それだけのことがとても久しぶりに感じた。そして真瀬さんの方を向いて言う。
『大丈夫です。今のところ違和感はありません。不思議な感じはありますが。違和感、というほどでは。てっきり薬を飲んで眠っている間に脳内に記憶が戻るのかと思っていました。追体験、というんでしょうか。自分の記憶を追うというのもおかしな感じですが。確かに私の記憶なんだという感じがします。上手く言えないのですが。』
それを聞いた真瀬さんはほっと胸を撫で下ろして(私より大きい。別に気にしてはいないが。)、一度頷いてそれから私の目を見る。
「そうですね、異常がないなら、よかったです。ただ疲労感はあると思います。ひとまず今日はゆっくり心身を休めてください。食欲があるようでしたら食堂を覗いてみてください。明日以降、今日のことやこれからのこと、またお話していきましょう。」
そう言われ今日は終わりになった。聞きたいことがいくつかあったが整理もしたいしまた聞いてみよう。
そして部屋に着いてばたんとベッドに倒れ込む。疲れていたのは確かなようで、すぐに眠りに落ちていった。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
七月、君は
棗
ミステリー
気怠げな日々を送る青年、桐乃 悠真。
バイト先で教育係になった彼は、彼女...泡瀬 雪と関わっていく内に自分さえ閉じ込めていた過去と向き合っていく。
彼と彼女と、彼女の未来は重なっていくのか。
二転三転する純愛ミステリー(仮)
icon、挿絵は友人作です。転載禁止。表紙は考えていなかった為お気に入りの画像。本編に猫は冒頭しか出てきません。
初めて書いた小説なので拙い部分多いと思いますが楽しんで頂けたらと思います。感想大歓迎です。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
有栖と奉日本『ミライになれなかったあの夜に』
ぴえ
ミステリー
有栖と奉日本シリーズ第八話。
『過去』は消せない
だから、忘れるのか
だから、見て見ぬ振りをするのか
いや、だからこそ――
受け止めて『現在』へ
そして、進め『未来』へ
表紙・キャラクター制作:studio‐lid様(twitter:@studio_lid)
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
アルファポリスとカクヨムってどっちが稼げるの?
無責任
エッセイ・ノンフィクション
基本的にはアルファポリスとカクヨムで執筆活動をしています。
どっちが稼げるのだろう?
いろんな方の想いがあるのかと・・・。
2021年4月からカクヨムで、2021年5月からアルファポリスで執筆を開始しました。
あくまで、僕の場合ですが、実データを元に・・・。
僕は警官。武器はコネ。【イラストつき】
本庄照
ミステリー
とある県警、情報課。庁舎の奥にひっそりと佇むその課の仕事は、他と一味違う。
その課に属する男たちの最大の武器は「コネ」。
大企業の御曹司、政治家の息子、元オリンピック選手、元子役、そして天才スリ……、
様々な武器を手に、彼らは特殊な事件を次々と片付けていく。
*各章の最初のページにイメージイラストを入れています!
*カクヨムでは公開してるんですけど、こっちでも公開するかちょっと迷ってます……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる